転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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再防御作戦(Ⅱ)

遡る事、数ヵ月前……作戦室にて。

 

「なんだ、もう次の作品が出来たのか?」

「えらく早いな……随分と、はりきってるじゃねえか」

「まあね。……とはいえ、今回のは、かねてより考案していたリバイバル品ですがね」

 

ついこの間、新型爆弾を発表したばかりのアマギが、またしても新兵器をひっさげて説明会を開いていた。

 

「これぞ、800㎜シンクロトロン連装砲です!」

「お前が言ってた、なんちゃらエイトの量産品って奴か?」

「スパークエイト、ね」

「そう、一発一発が、怪獣の体組織を原子崩壊させてしまう程の火力を秘めた、あの兵器を再現するべく、スペシウムから抽出したエネルギーを、粒子加速器によって7テラボルトまで……」

「分かった分かった。とにかくすげえ威力なんだろ?」

「……まあ、そうです」

 

頭痛がしそうなフルハシに、慌てて解説を遮られたアマギは、非常に不服そうだったが、そのまま次の解説へと移る。

 

「前回発表した磁力吸着式MS投下爆弾は、爆破指向面を対象に接着しなくては、充分に発揮できなかったMS爆弾の威力を、磁力吸着式にすることで、投下兵器に転用できました。しかし、磁力を利用しているが為に、キングジョーのようなU-TOM兵器や、停泊中の大型UFOに対しては有効ですが、有機生命体には適しているとは言えません」

「……はぁ」

 

講義を聞いているフルハシとソガが、目を瞬かせたり、頭を振って、なんとか眠気を飛ばそうと努力していたが、それを知ってか知らずか、ますますアマギの口は一層滑りをよくしていく。

 

「それを、この800㎜シンクロトロン連装砲は磁力吸着式MS爆弾の欠点を……」

「なあ……分かった! 名前を付けよう!」

「……はい?」

 

ついに我慢できなくなったフルハシが、唐突に切り込んだ。

いきなりの提案に首を傾げる面々。

 

「俺の頭じゃあ、これ以上はもう覚えられん! もっと分かりやすい名前にしてくれや!」

「そりゃあいい!」

「よぅし……アマギが作った七つ目の新兵器、磁石爆弾という事で……MS爆弾改め、マグネチックセブン! どうだい! セブンにあやかって強そうだろう?」

「先輩……天才ですね! じゃあこっちはエイト連装砲! シンプルイズベスト!」

「勝手にしてくれ……」

 

フルハシとソガのノリについて行けず、呆れたアマギが訂正を放棄したために、彼の怒濤のような解説が一旦止まった。

するとその隙に、アンヌが先ほどから気になっていた疑問をぶつける。

 

「ねぇ、そこに立っているロボットって、あの時の……」

「ん? ああそうさ。地下から持ち帰ったU-TOMだよ」

「やっぱり……それがどうして?」

「ああ、改造したんだ」

「ええっ!?」

 

驚くメンバーを尻目に、次の作品を説明し始めるアマギ。

 

「メイン回路が焼き切れていたから、解析しても碌な情報が得られなかったんで、適当に転がしていたんだが……そこのバカがさ」

「だって、ボディは丸々無事なんだから、勿体ないだろ!」

「とまあ、こんな調子に五月蝿かったんでね。折よくワイルド星との捕虜交換で手に入れた技術に、電子頭脳に関するモノがあったから、試験的に搭載してみたんだ」

「へえ……でもよ、こんなブリキ缶にどんな仕事させるんだ? 荷物持ちか?」

「元々がどうやら警備用みたいでしたから、そのまま基地内の巡回警備でも、と」

 

ふぅん、と興味なさげに頷くフルハシ。彼は目の前のロボットが地下基地で動いているのを見たことが無いために、いまいち想像がつかないらしい。

対して、今度は興味深そうにキリヤマが質問した。

 

「アマギ、これの動力はどうなっている?」

「は、それが相当に単純化されていたようで……バッテリー式になります。基地の変圧器なら、充分に対応可能でした」

「それは僥倖だ。で、稼働時間は?」

「およそ30分、全力稼働時間は10分程でしょうか」

「うむ……10分か……」

 

無念そうに唸るキリヤマ。彼としては、この兵器を前線に投入できれば、隊員の死傷率を少しでも下げられると期待したのだが、なかなかそうもいかないらしい。

 

「定期的な充電が必要になりますから、今のところは、どうしても基地内での運用になりますね」

「なんでい、ロボットのくせに体力のねえやつ……」

「ヨ゜ロ゜シ゜ク゜オ゜ネ゜カ゜イ゜シ゜マ゜ス゜」

「うわっ! なんか喋ったぞコイツ!?」

 

ロボットが突然、電子音と共に発光したため、フルハシが慌てて飛び退く。

 

「ええ、何らかの言語パターンを発しているようなんですが……時代も星系もまるきり別ですから……その上、どうやら圧縮言語混じりだから、始末が悪い。目下、人工声帯を開発中です」

「言葉も分からないんじゃ、警備の意味があるのか……?」

「確かにちょっとでも人手は欲しいけれど……この子で大丈夫かしら?」

「まあまあ先輩もアンヌも……そのうちアップグレードするんだろ、な?」

「……つまり、コレをさらに改良するんですか?」

 

今まで黙って聞いていたダンが、ようやく発言する。

その顔は苦虫をかみつぶしたようで、R1号の時ほどではないにせよ、彼がこの鉄塊を歓迎していないのは明らかだった。

 

「敵の兵器だったのに……それを基地の中で歩かせるなんて……暴走して反逆でもしたら、どうするんです?」

「その可能性は低い……と言いたいが、より安心させるなら、彼の弱点は俺達全員が既に知っているという事さ。ほら、この頭部の発光器。ここが制御系の中枢と直結したままにしてあるんだ」

「コイツは素早くともなんともないし、遠距離戦では致死性も無い。こんな見え見えの弱点なんか、知ってさえいれば俺でなくとも、防衛軍の一般隊員ならすぐに撃ちぬけるという寸法よ」

 

アマギとソガは、構造的な欠陥をあえて残す事で、万一の際も鎮圧が簡易と主張する。

それを聞かされた面々は、それなら警備員としても頼りない事この上ないとも思ったが……言わないで置いた。

なぜならダンが、それ以上に批判的だったので、わざわざ言う必要が無かったのだ。

 

「それでも……コレは充電の度に、動力室や電気室をウロウロするんでしょう?」

「むしろそこを重点的に見回って欲しいからな」

「僕は……反対です。そんなよく分からないロボットに基地の心臓部を警備させるなんて……」

「そうか……」

 

アマギとソガが肩を落とす。

尤も、ソガはともかくアマギにとっては、あくまでオマケのような物だったので、大してショックでは無かった。この時点では。

 

彼にすれば新兵器エイトこそ、長年にわたり構想を温めていた自信作だったのだから。

そんなわけで、運用コストを疑問視された事と、一部の猛烈な反対により、警備ロボットの導入は見送られる事となった。

 

せっかく作ったのに棄てるなんて勿体ない、というソガの泣き落としに近い主張によって、廃棄処分を辛うじて免れたロボット。彼は変電設備のある周波復調室にて、待機状態で放置される事となった。

 

……そして、今。

 

―――――――――――――――――――

 

 

「キ゜チ゜ナ゜イ゜テ゜ノ゜シ゜ト゜ウ゜ハ゜キ゜ン゜ソ゜ク゜シ゜コ゜ウ゜テ゜ス゜」

「うおおーっ!」

 

電子音で何事かをわめき散らす、得体の知れぬロボットが乱入してきた為に、ノガワは失神したダンよりも、そちらを新たな脅威として襲いかかった!

 

まるで泥の中で藻掻いているかのように緩慢な動きのロボットに対し、ノガワは強化された脚力であっという間に距離を詰めると、大きく常人離れしたパンチ力でロボットを散々に打ち据えた!

 

先ほどとは比べ物にならない轟音が響き渡る。

 

なにせ文字通りの金属塊を、皮下に移植されたボーグメタルをメリケンサック代わりにした上で、ジャケットにカモフラージュした強化外骨格のパワーにより、重機並みの馬力で殴りつけているのだ。

 

鉄工場もかくやと言うべき騒音が発生するが……しかしロボットは小揺るぎもしない!

 

そこで繰り広げられているのは、奇しくも先程と全く同じ光景だった。

 

全力で殴りつける側がダンからノガワへ、それを微動だにせず腹で受け止めるのが、ノガワからロボットへ変わっただけだ。

 

「テ゜イ゜コ゜ウ゜ヲ゜カ゜ク゜ニ゜ン゜」

「ぐっ……」

「チ゜ン゜ア゜ツ゜カ゜イ゜シ゜」

 

煩わしそうなロボットが左手の鉄球を裏拳の如く、まるで蚊を払うかのように軽く振るだけで、ノガワの体が腹を中心に、くの字に折れ曲がり、そのまま横へすっ飛んでいく。

 

肺の空気が押し出され、地面に這い蹲るしかないノガワに対して、今度は至近距離から右手のスタンビームが乱射される。

 

いかに強化されたとは言え、マイクロチップからの電気信号によって全身を制御している、簡易サイボーグ止まりのノガワには、電流で強制的に筋弛緩させられては、為す術はない。

 

あっという間に脱力、失神し、駆けつけた警備隊メンバーによって、ダン共々、メディカルセンターへ運ばれるのであった。


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