転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
高性能火薬、スパイナー。その威力はニトログリセリンの数百倍。だが、地球防衛軍の実験場に運ぶ途中、何者かによって襲撃されてしまった。そこでウルトラ警備隊に、スパイナー運搬の特別命令が下った!
「空は避けた方がいいと思います。ホークとはいえども安全とはいえません」
そう言いつつ、ホーク1号の写真を降ろすダン。
俺達は今、作戦室でスパイナーの移送作戦を話し合っていた。
「私も同感だ。敵に狙われていて、しかも運ぶものが爆発物である以上、より安全度の高い方法を選ぶべきだ」
「……海底なら安全だなぁ」
マナベ参謀の意見を聞き、フルハシがハイドランジャーの写真を手に取る。
「しかし、海路でここまではいいとしても、ここから実験場までの距離をどうする?」
「そうか……」
「いい手はないのかね?」
「……あります!」
バン! と力強く机を叩き、人差し指を高々と掲げたダンが得意げに言い放った。
「グッドアイデアです!」
――――――――――――――――
モロボシダンの言うグッドアイデア……。
それは、ラリーに紛れ込んでスパイナーを運ぶ秘密作戦だった。
トランクには厳重にショック止めされたスパイナーのカプセルが仕込まれている。
まさに走るダイナマイトである。点検も慎重だ。
ラリー服に着替え、スパイナー移送特別作戦用に誂えた擬装ラリー車に乗り込む、ダンとアマギ。
見た目は完全に、いすずのベレットだが、中身はほとんどポインターだ。
そして出場ナンバーはもちろん……7番!!
なのだが……
『グッドアイデアです!』
……じゃねえーよ!?
全然グッドじゃねえから!!
妨害の予想される爆発物を運ぶために、一般ラリーに紛れ込むとか正気か? 頭イカレてんだろ!?
正直この回冒頭のダンは、前回のノガワに頭をどつかれまくった後遺症で、知能指数が幼児並みに低下してしまったんだと言われても納得せざるを得ないくらいヒドイ。
遊園地でコーヒーカップのハンドルを握りながらブンドドしてるのは、まだ辛うじて可愛げがあると擁護もできるが……映画館内で、自分の頭と同じくらいにデカいせんべいを、バリバリ貪りながらラリー映画を見ているシーンはほんとひどい。
地球人がいくら宇宙のマナーを知らない野蛮人とはいえ、映画館でそんなマナー違反はする奴はいないぞ……もしいたらそいつは間違いなく宇宙人だ。ウルトラガンで射殺されても文句は言えまい。
そんでそれに感化されて、そのまま警備隊の作戦にちゃっかり取り入れやがったのは、もはや処置ナシだ。公私混同もいいところ。
アンヌとのデートが楽し過ぎて、頭の中お花畑だったんだろうなきっと……おーい帰って来ーい。
というかアンヌもそれでいいのか? お前の彼氏なんだからしっかり手綱握っといてくれ! ……ああ、こっちも駄目だ。せんべい齧ってる……恋は盲目と言うが、銀河レベルのバカップルここに極まれりか……
だめだ、今回は残りの四人で……いや、アマギは爆弾にブルってるから三人でなんとかするしかない!
と気を引き締めてはいたものの……
「そりゃそうだよなぁ……」
「なにがだ?」
「……いやなに、天下の地球防衛軍が、馬鹿正直にラリーへ参加なんぞするわけないか、と思いまして」
「ソガ、声が大きいぞ」
「これは失礼……しかし、豪勢なもんだ……」
右も左も防衛軍、防衛軍。
あそこでエンストしてる3号車も防衛軍。
目の前でダンとアマギに指示してるチェッカーも防衛軍。
そんで応援客も、私服姿の我々警備隊含めて、みーんな地球防衛軍!!
要は、まるまるラリーを買い上げて、隅から隅まで諜報部員のエージェントで固めてあるのだ、この試合。それを知らぬはダンとアマギ、そして、のこのこ一般参加してきた1号車のキル星人だけという訳さ。
なんちゅう茶番だ。かわいそうに……
ラリーの最後で、敵を欺く前にはまず……と嘯くキリヤマ隊長だが、ここまで壮大なペテンにかけていたとは思わなんだ。まあ普通に考えて、一般人に被害が出るかも知れないような作戦に、この人とマナベ参謀がゴーサイン出すわけないんだよなぁ……!
どうして気付かなかったんだ、オレ。
だからこそ、ダンとアマギに、試合中の発砲許可も出ている訳だ。近づいてくる奴はみんな敵だからな。
「どうしたのソガ隊員。珍しく神妙な顔して」
「……自分の演技力がどこまで通用するかと思ってね」
「そんなに堅くならなくたっていいのよ! 私たちは、ダン達を最後まで応援すればいいの。簡単じゃない」
「……ご自慢の彼氏が出来レースで優勝するのが確定してるからな。……お気楽でいいね」
「なによもう! 僻んでるの!?」
「彼氏は否定せんのかい」
怒るのか惚気るのかどっちかにしてくれアンヌ……いや、今はバカップルを呪って不機嫌なんだと思って貰った方がいいか。なんせ、心中穏やかでは居られないのは確かなんだし……つまるところ、ダンとアマギの車は、敵を炙りだす為の囮で、本物のスパイナーは、原作通りに俺達のジープにポンと積んである。……そして、それを知ってるのは隊長や参謀達だけ。俺はなまじ原作知識があるせいで、気が気じゃないよ……ケツの下で爆薬暖めるなんて知ったら、アンヌもフルハシもどんな顔するんだろうか。
リア充爆発しろ! なんて、口が裂けても言えやしない。アマギがダンに道連れされるならまだしも、俺達もアンヌの自爆に巻き込まれる恐れがあるのだから。人を呪わば穴二つとは言え……おお、くわばらくわばら。
現実逃避のために、そんな益体もない事を考えていると、向こうの方で大爆発が起こる。別に
それにしてもキル星人……オートバイで自爆特攻とか地雷とか、やってる事が地球のテロリストと大して変わんないってのも、謎なんだよなコイツら。そのくせ出してくるのは恐竜戦車だし……
人間態と怪獣で、戦力に差がありすぎる。どうなっとるんだいったい……
俺が双眼鏡で眺める先で、地雷探知機を取り付けた3号車が、強引に7号車を追い越していった……
――――――――――――――――
「だめだ、地雷原がバレた! しかもターゲットの7号車とは別の車だ!」
「……地球人め、本当にレースで爆薬を仕掛けるのが普通なのか!?」
部下が、地球人の文化を知るために仕入れてきた、レースに関する映像作品……荒唐無稽なジョークの類かと思っていたが……一般車両ですら地雷探知機を装備しているとなると……流石は地球人、銀河系一の野蛮さと噂されるだけはあるな。
「後続車に戦車が紛れていたりしないか?」
「クリームの塊で反撃されるぞ、気をつけろ!」
「……ともかく、その先頭車は見せしめだ。鹵獲した噴進弾で破壊しろ」
「了解!」
工作部隊長が指示すると、岩陰に隠れたキル星人がロケット弾で3号車を吹き飛ばした。
ふむ、なかなか良い威力ではないか。外宇宙への進出もままならぬ種族とは言え、こと火薬に関する技術だけは侮れない。これは、あのスパイナーという爆薬への期待も一層高まろうというものだ。部隊長はサングラスの奥で、真っ黒な目を三日月のように細めた。
彼らキル星人は、ヒューマノイドタイプの宇宙人であり、黒目の割合が非常に多い事を除けば、外見上でも地球人とさしたる違いは無い。そんな彼らの侵略部隊は、他の種族とは一風変わっており……常に現地の武器を使用する事になっている。
これは彼らの気風によるものと、技術的な面の二つ、理由があった。
元々、キル星人は領土の拡大にあまり興味がない。彼らが他星に侵攻するのは、その名の通り、虐殺と、略奪が目的であって……新たな土地を支配し、統治する気がまるでないのだ。彼らにとって、糧とは他者から奪う物であり、決して自らで育み、蓄えるものではなかった。生粋の狩猟民族であるキル星人は……いわば宇宙規模の騎馬民族なのである。
そんなわけで、彼らには固有の『文化』がほとんどなく、行く先々で勝手気ままに消費するだけ消費して、星が痩せたら次へ行く、の繰り返し。満ちる事など決してない。装備や戦法、軍規も収穫も、方面軍で内容はバラバラだ。そんなキル星人が唯一、種族単位で誇れるのは、恐ろしいまでの即応性と、遠距離伝送技術の二つ。
即応性は、そのまま彼らの成り立ちによるもの。着の身着のまま放り出されようが、どんな武器も瞬時に用途を理解し、使いこなすことが出来る天賦の才能を、種族のほぼ全員が持っていた。そうでなくては生き残れなかったとも言えるが……とにかく、有り合わせの武器を作ったり、敵から奪って振り回す事にかけては、宇宙一とも言える能力を持っていたのが、この種族だった。
そして、そんな狂暴な彼らが後天的に獲得してしまったもう一つの長所が……遠距離伝送装置、いわゆる星間テレポート。それがいつだったのか、もはや彼ら自身も覚えてなどいないが、ある時、とある星を襲って入手したのがこの技術。どんなに刹那的な彼らと言えど、この技術がいかに有用で……かつ、自分達にピッタリのモノであるかというのは分かったらしい。
このテレポート装置さえあれば、大きく遅い宇宙船すら必要ない。アレは燃料と、航行中の余分な食料の確保が必要であるから、キル星人にとってあまり良い手段とは言えなかったところへ、コレだ。ますます彼らは勢いづいた。これがあれば、どんなに防御を固めた星にも一瞬で、気付かない内に乗り込むことができるのだから。
地球にキル星人が侵入出来たのも、この方法だったればこそ。現在の地球はプロジェクトブルーによって、過半数を電磁バリアで覆われおり、並大抵の方法では侵入出来ないようになっている。
ついこの間も、ステーションV2の追撃部隊を端から蝋人形に変えて、全滅させてしまう程に恐ろしい暗黒星雲人の群れが、揃ってバリアに突っ込んで一斉に枯れ果てたばかりだ。
このバリアを正面から突破しようとするならば、凄まじい再生能力や防御力で相殺したり、僅かな隙間を通れるような変形能力が必要不可欠である。かといって、バリアの無いV1方面から侵攻しようとすると、アステロイドベルトの隙間を無補給で長期間潜り抜け、太陽風の嵐をかき分けて進む必要がある。
そんな過酷な航海が生身で耐えられるはずもなく、生存能力を高めた身体改造を施したり、特殊な食物で食いつなぐ必要があった。用心棒の怪獣を連れて来る等もっての外。
V2やV3方面が侵略ルートとして最も多く採用されるのは、それなりの訳があるのだ。
だが、キル星人には関係ない。だって丸々ワープで無視できるから。なんて素晴らしいんだろうか長距離ワープ。電送機万歳!
もっとも、この方法にも欠点はあって、あまりに巨大な質量は転送できないといった制約がいくつもあるが……彼らの特性上、それは十分に無視できるものばかりだった。
なにせ究極的には、体一つ送る事さえできれば、あとはどうにでもなるのが、キル星人。
……そして、その点この地球と言う星は、キル星人にとって宝の山だったのである。