転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
爆発音にかけつけたダンとアマギの7号車。
先程強引に先行した3号車が大破炎上しているではないか。
「敵の狙いは僕たちだったんですよ。そこで僕たちを追い抜いたばっかりに……」
「身代わりになったのか……」
そう、身代わりになったのだ。
ただし、それも覚悟の上で露払いに名乗り出たエージェント達の事を、彼ら二人はまだ知らない。
そこへ襲いかかるキル星人のマシンガン!
降り注ぐ銃弾をかいくぐり、二人は素早く岩陰に逃げ込むと、ヘルメットで現在位置を偽装するという機転で、敵の背後に回り込む。
ダンに撃たれると、赤い光に包まれて消える星人の死体。
生命反応が消失した事で、電送機の子機ごと回収されていったのだ。
ダンが岩場に戻ると、アマギが大量の脂汗を流しながら、小鹿のようにブルブルと震えているではないか。
「アマギ隊員っ!」
「恐いんだ……、恐いんだよぉ!! ……小学校のころな、近くの花火工場が爆発して、家も人間もバラバラだったんだ。それ以降ダメさ、足がすくむんだ」
アマギの脳裏で、あの時の光景がフラッシュバックする。最近は少しだけマシになったかと思ったが、やはり駄目だ。火薬や爆発物への恐怖心だけは……どうしても……
「隊長はそれを知ってる。それなのにわざと俺を選んだんだ!」
「そんなことはありません。爆発物を運ぶんです。僕だって恐い……しかし、これは任務なんです。ウルトラ警備隊の任務なんですよ! アマギ隊員」
心情を吐露するアマギに対し、ダンは穏やかな微笑を浮かべながら優しく諭す。
その瞳には、とても20歳そこそこの若造とは思えない程に深い慈愛と、信念の光が込められていた。
このモロボシ・ダンという男は、時々こんな顔をする。
明らかに自分より年下のハズなのに、時として、あの隊長よりも年長者なのではないかとすら錯覚してしまう程に、思慮と包容力に富んだ眼差しで、こちらの心を真正面から見つめてくるのだ。
それがアマギには一層辛く、もどかしくって羨ましくて……そして、どうしようもない程に眩しかった。
この大樹のような後輩に、気を抜けばすぐ寄りかかってしまいそうになる心を律するのが、どれほど大変で……そして、その隠者の如き瞳で見守ってくれるのが、どれほど頼もしいか……純真な彼は気付いていないのだろう。
「さあ、行きましょう!」
まだ、ラリーは始まったばかりだった。
――――――――――――――――
うーん、参ったなぁ……
本当に困ったぞ。
「おいソガ、どうした黙り込んじまって」
なんというか、すっかり忘れてたんだよなぁ……
そりゃもう、この世界に来てからどれくらいだ?
元々、記憶力にはあまり自信が無かったが、流石にそろそろ、細かい部分を忘れて来る頃合いだ。だいたい、この話は恐竜戦車のインパクトが強過ぎるんだよ。
だからさ、忘れてても仕方ないよ。
楽器の練習なんてさ。
「どうしたの? 弾かないの?」
「……いまね……悩んでるの、曲を。……ちょい待って」
もうすっかり日も落ちて、俺達は四人で焚火を囲んでキャンプの構え。
そこで先程、隊長にホイと渡された弦楽器が問題なのよ。ぶっちゃけると楽器に偽装したマシンガンだ。仕込み杖ならぬ、仕込み銃。
なんというかカモフラージュに命かけてます感がすごい。別にここまでせんでも……と思わなくもないが、そんな事はいいんだよ。
重要なのはこれが普通に楽器としてちゃんと使える事だ。
そんでもって原作のソガは、このなんだかよく分からない異国情緒溢れる民族楽器(名前だけは知ってるぞ。マンドリンって言うんだぜコレ。柑橘みたいな名前だな)で見事に一曲披露している。なんて多彩な男だろうか。
……の、だ、が!!
オレは生まれてこの方、弦楽器なんぞ弾いた事が無い!!
自信を持って得意だと言い張れるのは、カスタネットくらいだ。それも、フラメンコ的な格好いい奴じゃなくて、赤と青のアレ。
そう、お遊戯会で園児が叩いてるアレだよ。ハイ、みなさん、せーの、うんたん、うんたん。
……どうすんのこれ。
あの、隊長? せめてリコーダー型ピストルとか、ピアニカ型バズーカとかになりませんかね? ギターも弾いた事ない楽器音痴にこんなもん渡さないで欲しい。
オレは! ピアノを習っていたのに、五線譜が読めない男だぞ!
コードって何? 巻き取る奴?
和音? タッチすると鳴くカードか?
もういい! こうなったら歌って誤魔化せ! 楽器は適当にじゃかじゃかしてお茶を濁す! こうなりゃヤケだ! もう知らん!
「ワントゥー……スリフォワントゥー……レッツゴーセブーン♪ ててーててー♪」
「「「???」」」
「アターック! ザ・ホークミッソー♪ ファイタァー♪ セブーン♪」
「……すまんソガ、それは……なんだ?」
「……ウルトラ警備隊とセブンの応援歌ですが? 何か?」
あ、でもこの曲、よく考えたら間奏ばっかりじゃないか! 選曲ミスった。
「そ、そうか……」
「なんで英語なんだ?」
「かっこいいからです! でも次は日本語の曲にしますね」
「お、おう……」
「ぼーくはしぃって~る♪ あの~こ、と、を~♪」
頼む!! 早く来てくれダン、アマギ……間が持たねえ!!
――――――――――――――――
ダンとアマギが、夜の暗闇に、一号車の男を追い詰める。
ウルトラガンを手にして藪の中を進んでいくと……どこからか聞こえてくる怪しいメロディー。
「そっちか!?」
逸るアマギは、音のする方向へどんどんと進んでいった。
だんだんと明瞭になる歌声。
いや、この声どこかで……?
「おい、ソガ。ホークはマッハ7なんて出ねぇぞ?」
「だから言っちゃいけないんでしょーが! シィーですよ、シーッ!」
「でもその方が子供ウケはしやすいかもね。他にはないの?」
「え? 他ぁ? えっと……ゼイセーイ♪ ゼアザツリー♪ インザフォーレスト♪」
なんだこれは?
「ソガ……? それにみんな!?」
「……アマギ! ダン!」
やけに嬉しそうなソガを脇に置いて、キリヤマが怪訝な顔で二人に尋ねる。
「いったい、何があったんだ?」
「は、1号車を追い詰めたんです」
「1号車……?」
「この辺に逃げ込んだんです」
二人が状況を説明した途端、キリヤマの表情が怒りへと変わった。
「バカ! なぜ車を離れた!?」
慌ててラリー車へ戻ると……案の定、トランクに時限爆弾をセットされた後。
下手人は俺のマンドリンマシンガン(語呂がいいな)で討ち取ったものの、時限爆弾を解除しない事には進めない。
「隊長! 交代させてください。これ以上の走行は耐えられません!」
真っ青な顔で訴えるアマギに対し、隊長はにべもなく言い放った。
「アマギ……お前がやれ」
「隊長……」
「アマギ隊員は疲れています」
「命令だ!」
ダンが庇おうとするも、隊長はそれすらも切り捨てた。
弱々しく爆弾に向かおうとするアマギ。
「……で、できません!」
パァン!!
アマギの言葉が言い終わるか否かのノータイムで平手打ちを繰り出すと、たった一言だけ言い残して、その場を立ち去るキリヤマ隊長の背中。
「時間がない、早くやれ」
残されたアマギは、仕方なく爆弾解体に取り掛かるしかない。
それでも、半ばまで進めたところで、手が震えて勧められなくなる。
「だ、だめだぁ……」
情けない声で振りかえるアマギ。
後ろでライトを支えるダンはゆっくりと首をふる。
ならばと隣の男へ視線をやるが、そちらもしっかりと組んだ腕を外さない。
「そが……いつかの月面みたいに……」
「……あの時、確かに触っていたのは俺だったが、お前だって最後まで俺に指示を出し続けた。ついこの間だって、俺達がぶっ倒れてる間に、プレート弾を回収しただろうが。出来るよ……お前は」
「僕たちが、ついています」
二人に励まされ、観念したように爆弾へ向き合う名プランナー。
見守る側まで、ぐっと息を止めてしまうような極度の緊張の中で、ついに……ついに漢はとある部品を引き抜いた!
それと同時に、カチカチと煩いカウントダウンがぱたりと止む。
「……成功、成功したんですよ! アマギ隊員!」
「……う、うん……うん!」
あの日からずっと、凄惨な爆発現場に心を囚われていた少年は、仲間の見守る中で、まさに今この瞬間! 紛れもない自分自身の手で、爆弾を止めたのだ。目の前で静かになったタイマーと対照的に、アマギは自分の中で、何かの時がようやく動き出したのを、確かに感じていた。
――――――――――――――――
「……どうやら時限爆弾は不発らしい」
「地球人にも、肝の据わった奴がいるみたいですね、部隊長」
「そのようだな。まったく手のかかることだ」
こうなれば、明日が最後のチャンス。虎の子のヘリで空襲するしかないか。
できれば移動要塞で殴りこむというのは、最終手段としたいものだ。
なにせ、その移動要塞を破壊し得る兵器だからこそ、こうして手に入れようとしているのだから、
彼らは、地球に潜入した後、情報収集を開始した。
戦闘員の武器に関しては、腐るほど手に入ったので、出来れば巨大な機動戦力となるものを欲したのだ。なにせ、この星には光の巨人が住んでいるようなので、その対抗手段を探したのである。
そして彼らは見つけたのだ。永久凍土の中に眠っていた過去の遺物を。
……それは、サイボーグ化された巨大な生物だった。
かつてこの星の支配を目論んだ何者かが居たのだろう。当時の地球を闊歩していた巨大生物、つまり恐竜を捕獲し、生体兵器に仕立て上げたのだ。
ところが、先に氷河期が来てしまったせいで、その者達は侵略を諦めて帰ってしまったらしい。それでこの作りかけのサイボーグ恐竜はそのまま打ち捨てられ、氷の中で今の今まで眠っていた……というのが、発見したキル星人の見立てである。
そしてこの怪獣は氷漬けだったために、保存状態は良好で、あのウルトラセブンにぶつける事を想定しても、申し分ないパワーと耐久力を持っていた。
だが惜しむらくは……このタンギラザウルスが造りかけの未完成品だと言う点。
装甲の取り付けが間に合わず、内部構造が丸見えだった長い首は、短く切り詰めるとしても、一番大事な後ろ足がまったく手つかずだ。これではせっかくのこの巨体を支えることが出来ない!!
泣く泣く、この怪獣は見なかった事にした。
だが、キル星人達は一つの知見を得た。この地球、今まで何度も何度も侵略されている。という事は……探せばどこかにこんな、他の星人の廃棄品が残っているのではないか? と。
結果、その予想は大当たり。
少し前に自分達と似たような事を試した連中がいたらしいではないか。
彼らは海中で沢山の廃材を集めてリサイクル兵器を何個も作って自爆特攻させていたとのこと。
そして、地球人は海の中をあまり自由に探せない。であるならば……?
本隊から、水中探索装備(もちろんこれも略奪品だ)を取り寄せて探してみれば……あった!!
おそらくこれがそうだろう!!
だが……見つけたそれは、またしても未完成品。
ミミー星人とやらは、この巨大な履帯のついた土台の上に、これまた巨大な砲台群を乗せるつもりだったらしいが……艤装がまったく済んでいないではないか!! もう少し完成してから負けてくれれば良かったものを……
土台だけあっても、上に載せる戦艦がなければ、ただの巨大なキャタピラだ。申し訳程度の3連砲だけでは少しばかり火力が物足りない。
……と、ここで部隊の全員がほぼ同時に同じ結論に至ったのだ。
載せるものなら、すでにあるじゃないか……と。
こうして、キル星人の移動要塞、白亜戦艦ダイナタンクが完成したのだった!!