転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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マックス号生還せよ!(Ⅱ)

「参謀……あと一分でタンカーが消息を絶った、問題の地点です」

「うむ……おいソガ、何をしている。任務中だぞ」

「ハッ……なんでも船酔いが酷いそうで」

「まったく、そんな事でどうする!」

「ハハハ、噂のウルトラ警備隊も、海の上では大した事がないようですな」

 

俺は今、艦橋にてヘルメットを脱いで座っている。

おまけに耳栓もしてるから、艦長や参謀、アマギ隊員が俺を横目に何か話しているが聞こえない。

……まあ、だいたい何を言っているかは表情で分かるが。

 

艦長達に馬鹿にされながらこんなことをしているのは、何も本当に船酔いしているからではない。

今日の計画の第一段階として、必要な事だからこうして汚名を被ってまで備えているのだ。

 

なんといっても、第一段階で重要なのは『気絶しないこと』これに尽きる。

 

マックス号が宇宙に連れ去られた際、ソガ、アマギ、タケナカ参謀の三人が気絶してる間に、他の乗員はゴドラ星人に抵抗したため、全員が宇宙空間に放り出されて殺されてしまう。

 

つまり、それを救う為には艦長以下乗組員に、無抵抗で降伏するよう説得しなければならないのだが、気絶してしまえばそれも出来ない。

 

じゃあどうやれば気絶しないで済むか考えた末にたどり着いた答えがこれだ。

 

戦闘員ではないタケナカ参謀はともかく、いくら鍛えあげられた海の男達とはいえ、精鋭であるウルトラ警備隊の二人よりも先に、マックス号の乗員が早く復活、もしくは気絶しなかったならば、そこにヒントがある筈。

 

マックス号が赤い霧のようなフィールドに襲われた際、激しく振動する船内で、苦しそうにしながらも艦長と参謀が目を見開いて周囲の様子に驚く余裕があるのに対し、警備隊二人は目を瞑って絶叫していた。

しかも、ソガ隊員は頭を押さえているようにもヘルメットを脱ごうとしているようにも見える。

そして、俺達と彼らの違いは、ヘルメットの有無だったのでは無いか……と考えたのだ。

じゃあ、ヘルメットをしている相手により効きそうな、頭痛を引き起こす攻撃とは……?

 

音波ではないか?

 

普通の音ならむしろ遮断してくれるだろうが、通信機から大音量のノイズを直接流されたり、ヘルメット内で反響させられたりしたら、さしもの精鋭もダウンして仕方あるまい。

 

そして海の男達は日常的に三半規管が鍛えられてるから、ほんの僅かに音波攻撃に対して耐性があったのではないか……?

 

というか、これくらいしか防ぐ手立てが思いつかなかった。

殆ど山勘みたいなもんだが、外れたらもう乗組員は諦めるしかない。

 

うう、周囲の視線が痛い……あんたらを助けるためにやってるんだぞ、こっちは!

 

 

「エンジンストップ!」

 

マックス号の主機が段階的に停止していくのを、足元の振動から感じる。

 

「……なにも起こりそうにないね」

「相手が地球防衛軍と知って、尻尾巻いたんでしょう」

「ハハハハハハ……!」

 

艦内は安堵に包まれ、緊張から解放された反動か、軽口で笑いあう男たち。

しかし、突如感じる浮遊感。

艦船においては決して味わう事の無い、直上方向への慣性に、何事かと周囲を見渡せば、マックス号を真紅の()()が覆っていく。

 

艦の四方八方から耳障りなノイズが放射され、あらゆる計器は異常値と警告音をけたたましく吐き出し、とても立ってはいられない程の衝撃が乗組員を襲う!

 

「おおおっ!?」

「ウワアアア!!」

「ヘッヘアッ?」

「ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ア゙~↑!!!」

 

キツイキツイキツイ!!

音どころじゃなくて、光の明滅も振動も、全てがキツイ!!

こんなん耐えられるわけないやろ!!

ウっ! ヤバ……吐きそう……

耳栓してるのに頭がガンガンする!!

やめてくれ~~~~~~!!!

 

トドメとばかりに、右舷からたたきつけるような衝撃!!

 

「あ……あぅ……」

「み、みん……な……」

 

い、生きて……る?

視界もハッキリしないし、めまいが酷過ぎてまるで起き上がれる気がしないが……

……やった……やったぞ!! 耐えきったぞ!! 見たかゴドラめ!

 

「さ、参謀……しっかり……」

「その声は……艦長?」

「ソ、ソガ隊員、無事かね……?」

「な、なんとか……」

 

艦橋は死屍累々だが、俺と艦長以外にも操舵主や航海長など数人はまだ意識があるようだ。

コンソールに縋りつくようにして艦長が通信回路を開こうとする。

 

「か、各員、損害状況を……」

「待て! 動くなッ!」

「なにっ!?」

 

いつの間にか、艦橋には異形の者達が倒れ伏す我々を見下ろしていた。

長く伸びた頭頂部に並んで鎮座する眼、白い格子状の体組織と赤いチョッキ、間違いなくゴドラ星人だ。

奴らは両手の爪をこちらに向け、野太くザラザラとした耳障りな声で勝利を宣言する。。

 

「この船は、我々ゴドラ星人が占拠した! 命が惜しかったら降参しろ!」

「誰が降参など……するかッ!!」

「いいのか? 今は大気ごと反重力フィールドで覆っているが、それを解除すれば外の乗り組み員はもちろん、気密区画以外の奴らも忽ち窒息死だ! ……安心しろ、今起きてる奴も一緒に放り出してやるぞ、寂しくないようにな! フハハハハ!」

「そんなこと、全員覚悟の上だ!」

「艦長! 危ない! ……ウッ!!!」

 

降伏勧告に対して、まともに動かぬ体で睨み返す艦長を、ゴドラ星人の爪から出た光線が襲う!

咄嗟に射線上へ右腕を差し込むと、全身に猛烈な痛みが走り、まるで石になったように右手が硬直する。

いってええええええええ!!!!

これは……筋肉が収縮したまま戻らない?

 

「ぐ、うう……」

「ソガ隊員! 大丈夫か!」

「バカめ! そこで伸びてる二人以外は要らん、全員捨ててこい!」

「ま、待て! 降参する! 降参するから殺さないでくれ!」

「な、何を言うんだ!?」

「俺も命が惜しいから教えてやる! お前たちはキリヤマ隊長の恐ろしさを知らないだろう! ……たかだか数人の人質なら、きっと、このマックス号ごとお前たちを吹き飛ばす事を選ぶはずだ! 乗組員が揃ってこそ、このマックス号は初めて価値があるんだ! 頼む! 命だけは!」

「……グフハハハッハッハッ!! こいつは傑作だ! 命欲しさにそんな重要な情報を喋る奴がウルトラ警備隊の隊員とはな!!」

「……見損なったぞ!」

 

ゴドラ星人は用心深い。

こう言っておけば、人質を減らすという判断はしないだろう。

 

……くそ、それにしても艦長以下周りの視線が痛い。

何度も言うが、アンタたちを助けるためにやってるんだぞ! こっちは!

小さい声で地球人の恥さらしとか言うな!

 

「……いいだろう、その生き汚さに免じて、忠告に従ってやろうじゃないか。貴様のせいで地球は我々の手に落ちるのだ! ワッハッハ!」

 

満足げに高笑いしながらゴドラ星人達は姿を消す。

アイツら用意周到で用心深い癖に、妙なところでツメが甘いんだよな。

そんなだからハサミがきちんと閉じないんだぞ。

 

 

「ウルトラ警備隊も地に堕ちたものだ! 勝手にしろ! 我々だけでも……!」

「艦長! 今は雌伏の時です! 悔しいですが耐えてください! マックス号からの連絡が途絶えれば、基地のみんながきっと動いてくれるはずです。その時に内外で呼応してこの船を取り返すんです!」

「な、何!?」

「私の事はいくら蔑んで頂いても構わない。しかし、今の状況で動いては無駄死にです! 貴方は部下を犬死させるおつもりですか!」

「……さっきのは演技だったとでも言いたいのか?」

「信じて頂かなくて結構。しかし、タケナカ参謀は地球防衛に欠かせない人物です。そして、マックス号は海上防衛の要です! 私はこれらの至宝を無事に基地まで送り届けなければならないが……私だけではこの船を動かせません」

「……臥薪嘗胆というわけか……」

 

 

艦長は俺を睨みつけ悔し気に顔を歪めた後、少しの間逡巡するが……意を決したように艦内放送のスイッチを入れる。

 

 

「艦内各員に次ぐ、本艦はゴドラ星人に全面降伏した。総員直ちに武装を解除し、気密区画へ集合せよ。彼らへの反抗は許されない。これは艦長命令である 繰り返す、本艦はゴドラ星人に……」

「艦長……」

 

 

降伏の旨を伝え終えた艦長は俺を振り返ると、眉を吊り上げ厳しい眼差しで俺を真正面から見据える。

 

 

「……海の男は借りを作らんというだけだ。貴様は栄光ある防衛海軍に白旗を上げさせたのだという事を忘れるな、ソガ隊員……覚悟は見せてもらうぞ」

「……ええ、その時までお待ちください」

 

 

ひとまず第一関門発破だな。

……右腕動かんけど。

 


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