転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「実験場まであと100キロよ」
「うん、もう大丈夫だ」
「油断するな。奴らはしつこい」
翌朝、最後のルート確認にも余念がない警備隊。
ラリー車の点検もバッチリだ!
「それにしても、なぜ邪魔をするんでしょうね。スパイナーの運搬を……」
「わからん。ただ、奴らが実験を恐れていることは確かだ。ソガ、お前の予感通りになるやもしれん」
「出来れば準備が無駄になって欲しいですがね……」
「出発します!」
「……疲れたろう、フルハシと代われ」
「よし、選手交代だ」
エンジンを整備中のアマギの肩を叩き、キリヤマは彼を労いつつ交代を支持する。
帽子を深くかぶり直し、やる気十分のフルハシ。彼も、後輩の頑張りに触発された一人である。
だが……
「隊長! 任務を遂行させてください!」」
アマギは昨日と打って変わって、決然とした表情で言い切る。
使命に燃える漢の顔が、そこにはあった。
「……うむ!」
部下の成長を確信し、満面の笑みでうなずくキリヤマ隊長。
「さあ、出発しようぜ!」
――――――――――――――――
最期の直線をひた走る偽装ラリー車。そこへ、上空から2機のヘリコプターが近づいてくる……。
ヘリから投下された物体が、車の屋根に磁力の力でへばり付き、その動きを止めた。
マグネチックセブンの残骸を再利用した土台から、ピンク色の気球が膨らみ、ラリー車をフルトン回収するべく空へと誘拐した。
車内でダンは、ウルトラアイのしまってある胸元へ手をやるが、隣へ視線をやると、それを思いとどまる。
(アマギ隊員がいてはウルトラセブンにもなれない……)
……とか、今頃思ってんだろうな。
おいダンよ、オレは知ってるんだぞ、お前が
流石に命の恩人には躊躇われるか。おい、キャラ差別だぞ。この扱いの差に断固抗議するぞ。
オレが呑気に眺めていると、ラリー車のサイドミラーからレーザー砲が発射される。
たちまち一機撃墜。エンジンが爆発して、凄まじい爆発を起こすヘリコプター。アマギがやったのだ。
立ち上る火柱を見る彼の顔には、爆発に対する恐怖など、もはや一片も見受けられない。
ラリー車に反撃手段があるとわかり、そそくさと逃げて行くもう一機。
「ソガ。気球を撃て!」
「はい」
即答した俺は、躊躇なく引き金を引く。
気球が破裂し。そのまま落下するラリー車。
「キャア!! ダン!!」
だが、ホバーが作動してふんわりと地面に着地すると、何事もなかったかのように走り出す。
その様子を見て、後ろの二人が胸を撫でおろしていた。中身がジェネリックポインターだと知ってなけりゃ、そんな反応にもなるわな。
原作だとソガも気球撃つのめっちゃ躊躇ってたし。
さてと、あとの問題は恐竜戦車だ……
――――――――――――――――
「任務、無事完了しました」
「ご苦労」
マナベが二人を労う後ろで、作業員がスパイナーを回収しようと走りよってくる。
心得たとばかりにトランクを開けるダンとアマギだが……
しかし、作業員は二人のラリー車をスルーして、隊長達の乗って来たジープへ向かっていく。
シートをめくると、その下には本物のスパイナー。これはどうした事かと顔を見合わせる、ラリー選手達。
困惑する二人にキリヤマはしたり顔で言い放った。
「敵を欺く前に、まず……」
「それじゃあ隊長、僕の臆病を……?」
キリヤマは、アマギの恐怖症を克服させるために、わざとこんな回りくどい真似をしたのだ。
現代人の感性を有するソガは、後ろでなんとも言えない顔をしていたが、アマギとしては、隊長の厳しくも暖かい優しさに感銘を受けていた。
「ありがとうございました!!」
――――――――――――――――
昭和的な師弟愛にほっこりしつつ、オレがその対象になるのは勘弁したいなと思ったところで、早速スパイナーの実験が行われることになった。
「準備完了しました!」
「これより秒読みに入ります」
皆が固唾を呑んで見守る中、スパイナーのセットされた土塁から、大量の土砂をかき分けて、巨大な爬虫類が姿を現した!
『グオオオオ!!』
「何だッ!?」
「恐竜です!」
地中から現れた恐竜は、咆哮を上げると、両目から光線を発射した!
実験場近くの崖が爆発し、退避途中の作業員たちが転落していく。
「ホンダ! オザキ! どうした! 応答せよ!」
「よし、やっつけてやる」
「待て! 恐竜はスパイナーを咥えているぞ!」
「ええ、そのスパイナーを撃ち抜いて起爆しましょう」
「駄目だ! 今爆発されたら、二人が危ない!」
「隊長、僕が行きます、援護してください!」
「ダン、待て!!」
あ、そっかぁ……そういやそういう展開だったな……
そうこうしていると、敵が前進を開始し、その全容が明らかとなる。
なんと恐竜の下半身は……巨大な戦車となっていたのだ!!
「恐竜タンクです!」
「どうやら、やつらの動く要塞らしい……」
「スパイナーの実験を恐れるわけだぁ……」
そう、これぞキル星人の最終兵器恐竜戦車だ。
奴らの使う武器は、どれも地球人と大差ないものばかりだが、この恐竜戦車だけはヤバイ。マジでヤバイ。
男の子が好きなものは? 恐竜!!
男の子が好きなものは? 戦車!!
じゃあうまいもんに、うまいもんぶっこんだら、そりゃうまいやろ! みたいなゴリ押しを超えた何かの、ふざけた思考で生み出されたとしか思えない見た目をした、怪獣界のカツカレーとも言うべき恐竜戦車だが……
初見のインパクトもさることながら、実力の方も相応にヤバかったりする。
スパイナーや作業員を人質にされ、全力の発揮できないセブンを、戦車砲で追い立てたり、尻尾で何度も滅多打ちにしたり、挙句の果てには倒れたセブンの左腕を、戦車の重量で思いっきり轢いていったりと、やりたい放題暴れまくるのだ、コイツは!!
俺の今回の目的は、スパイナーの実験を成功させることでは無く、この特盛のロコモコ丼を跡形もなく吹き飛ばす事だ!!
その為にこっそりと準備もしておいたのさ!
飛び出していったダン目掛け、恐竜戦車の両目からビームが飛び、再び地面が爆発する。
「あ、今のは多分ダンを狙ったんです!」
「一人で飛び出すからだ!!」
「くそぉ……行きましょう、フルハシ隊員!」
見兼ねたアマギとフルハシが出て行くが、ふふふ……心配ご無用。
今回はこのソガが、きちんと対策してあるのだ!
そうだ……そのまま前進しろ……もうちょっと……!!
砲塔の代わりに恐竜が乗ってようが、戦車は戦車。
戦車の天敵と言ったら……地雷だ!!
こんな事もあろうかと、戦場の中心に、対戦車地雷をしこたま埋めてあるのだ!!
しかも、バツ印のように敷設した地雷原の中心は、マグマライザーで特大の落とし穴を掘っておいた。
スパイナーの起爆実験だけじゃ勿体ないから、対U-TOM兵器用の戦術試験とか他の新兵器の実験も一緒にやりましょうと隊長に具申しておいたのさ!!
さあ、対獣塹壕に突っ込んで擱座しろ!!
「グオオオ……グオ?」
ん? なんだ? 急に止まったぞ? おいまさか……やめろ……
ソガの内心を他所に、恐竜戦車は直進を止め、両眼をサーチライトのようにビカリと光らせると、その場で90℃旋回し、地雷原を避けるように進撃を再開した。
「ハァアアアアアアアア!!??」
おい!! 両眼がセンサーとか聞いてないぞ! 卑怯だろそんなん!!!
実験場の対爆トーチカの中であんぐりと口を開けるソガ。彼が絶句している間にも、恐竜タンクが実験場へ迫るが……地面が爆発し、地中から巨大で真っ赤な背中が現れたかと思うと、ド級兵器の姿を覆い隠した。
土砂に埋もれて気絶していたダンが、意識を取り戻してセブンに変身したのだ!
「デュアアア!!」
『グオオオオ!!』
セブンの姿を認めた恐竜戦車は、超信地旋回で彼に背中を向ける。
逃げるつもりかと、踏み込んだセブンだが……それはフェイク。
ぐるりと回転した勢いのまま、極太の尻尾が、セブンの側頭部を捉えた!
こん棒で殴り飛ばされたような衝撃に、地面を転がるセブン。
そこへ追撃をかけようと恐竜戦車が迫る。
セブンは回避しようと後退するが……戦車の足元に、気絶した作業員達が倒れているのを、彼の超人的な視力が捉えた。
こうなっては、セブンに選択肢はない。二人を助ける為に、真っ赤な全身に太陽の力を漲らせ、敵の巨体を押しとどめるべく戦車に突撃する!!
姿勢を下げて、筋肉のバネをフルに活かしたセブンが、必死に敵を押し返す。深紅のパワーファイターが、渾身の力で拮抗状態を作り出した。そんな眼前の戦士に目掛け、身長60m、体重7万トンの巨体で、何もかも全てもろとも轢き潰してしまおうと、エンジン出力を増していく恐竜戦車。その姿はまさしく、ジュラ紀から蘇ったジャガーノート!! 無限軌道が唸りをたてて、濛々と土煙を舞い上げる。
「見ろ! あそこだ!」
そんな常識外の力比べの足元へ、場違いにも躍り出る一両の車。アマギとフルハシの乗ったラリー車だ。
アマギがハンドルを切ると、ウルトラカーは大地を蹴って、巨人たちの戦場へとドリフトで滑り込んだ!
助手席からフルハシが飛び出すと、辺りには凄まじい轟音が響いている。それは巨大戦車が地面を抉る音なのか、それとも赤い巨人の筋肉が軋む音なのかは分からないが、なんと壮絶な戦いだろうか!!
あれほどスマートなセブンが、超重量の敵を徐々に押し返していくのを見て、フルハシは思わず舌を巻く。散々に筋力を自慢している自分でも、流石に戦車を押し返すのはできないな……と。
こりゃあ、ソガが昨晩に歌っていた100万馬力もあながち嘘じゃないらしい。ただ、歌詞の通りにひと捻りと行くには、相手の戦車が大きすぎるようだが。
ともかく、警備隊一の怪力無双は、軽い自信喪失に陥りながらも、倒れていた作業員達の首根っこを引っ掴むと、ラリー車の後部座席に彼らを素早く放り込んだ。人間である彼には、成人男性2人を担ぎ上げて全力疾走するのが限界だったのである。
フルハシが飛び乗ったかの確認もそこそこに、アクセルをベタ踏みするアマギ。ギャリギャリと砂利を跳ね飛ばしながら、巨神達の股下を離脱していくラリー車の背中。
「デュ……デュワッ!!」
仲間たちが離れて行ったのを見たセブンは、恐竜の喉元へ膝蹴りをお見舞いする。
だが、恐竜戦車は上体を大きく仰け反らせながらも、カウンターとして、戦車部分の三連主砲を至近距離から撃ちこんだ。セブンの躰で、特大のロケット弾が爆ぜる。
これにはたまらず、大きく後ろへ吹き飛ぶセブン。凄まじい火力だ!!
今度は倒れ伏したセブンに、両目のダイナソアビームで追撃しようと殺意の視線を向けたところで……
横合いから、飛んできた砲弾が、恐竜の鼻先を強かに殴りつけた!
ビームは大きく横へ逸れ、追撃は失敗だ。
「一体なんだ!」
ダイナタンクの車長、キル星人のリーダーが叫ぶと、通信手が素早く状況を把握した。
「戦車です……戦車が数台向かってきます!!」
「なんだとっ!!」
恐竜戦車を爆発が襲う。そう、ソガが用意していたのは、何も地雷だけではなかったのである。
「くらえ!! 敵車両に命中!」
ハッハッハ!! 地雷を回避して油断したな、恐竜戦車め! ……言っただろうが、新兵器の実験の為に、マグマライザーを持って来たって!
どうだ見ろ! これが無線操縦戦車群だ!!
マグマライザーを指揮車両として、数台の無人戦車を操る実験を、そのスパイナー試験にかこつけてやってしまいましょうって持ちこんであるのだ!!
無線操縦で、戦車隊が地雷原を避けられるかどうかの試験だったわけさ。
恐竜戦車はいくらサイズが常識外とはいえ、砲塔の代わりに恐竜を乗っけただけの戦車だ。しかも、主砲は固定式だから、戦車の中でも、駆逐戦車や自走砲に近い!!
攻撃の為に正面を向かないといけないなら、数でぐるっと取り囲んで、攪乱してやるまでよ!!
戦車ゲーで鍛えた、自走砲いじめの手際を見よ!!
「えっと……2号車をこっちで、8号車をあっちに回して、撃て! あ、まだ装填中? オートローダーおっそいな……あ、違う! お前はそっちじゃない! え? 4号車なんでそこいんの? あ、発射ボタン誤爆した……」
……でもさ、今更思い出したけど、オレってこういうマルチタスクが致命的に苦手なのよね。無理無理!!
戦車を移動させて、狙いをつけてを一人で何台も同時にとか……無理に決まってんじゃん!!
ソガが操縦に悪戦苦闘する間に、恐竜戦車によって、無人戦車が破壊されていく。
「なんでそっち向くんだよ、ああ……もう、イライラするなぁ……あ、照準収束まだなのに……待てやめろ……ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ア゙~↑!! も˝う˝!! クソがッ!!」
「ソガ! 何をしている! ……見ておれん、2号車以降のコントロールをこっちへ回せ!」
「え? 隊長?」
「アンヌ、5号車で右側面へ回れ! 君達も手伝ってくれ!」
「「はい!」」
生き残った車両に、実験場の作業員達を割り当てると、キリヤマ隊長は自分の戦車を動かしながら、指揮を飛ばし、あっという間に恐竜戦車を包囲してしまった。
敵に向かって、タイミングをずらした砲撃があらゆる方向から襲いかかり、怒りに燃える恐竜がそちらを向くと、既に戦車は後退しているという有様。……そう、これだよこれ! 俺がやりたかったのは!!
流石は隊長! 俺に出来ない事を平然とやってのけるッ! そこに痺れる憧れるッ!
「おのれ下等民族がッ!!」
キル星人のリーダーは、要塞内部で怒り狂っていた。
元々、限られた物資しか敵地に持ち込めないキル星人にとって、重量比的にとんでもない爆破効率を叩きだすスパイナーは、喉から手が出る程に魅力的な兵器だった。その試作品を破壊、もしくは強奪し、設計図の奪取の際、障害になりそうな警備隊やセブンにほどほどの痛手を与えて撤退するつもりであったが……もう決めた、地球人は皆殺しだぁ!!
「四肢を八つ裂きにして、首は鉄鍋に放り込み、胴は大地に打ち捨て、鳥に腸を食わせてやるわッ!!」
恐竜戦車の装甲に対し、無人戦車の攻撃はほとんど損害を与えられないのだが、攻撃されれば反撃したくなるのが心というもの。機体へのダメージではなく、搭乗員達の敵愾心を巧妙に稼ぐ事で、キリヤマ達は見事に本命から目を逸らす事に成功したのだ。
「ダァー!!」
『グオオオ!?』
そこへ、態勢を立て直したセブンが、死角から恐竜戦車の背中へ飛び乗った!
散々に暴れ狂い、セブンを振り落とそうとするダイナタンク。
しかし頭部に何度も何度もチョップを叩き込まれ、遂にくわえたスパイナーを取り落とす。
これ幸いとスパイナーへ手を伸ばすセブンだったが……恐竜が大きく身を起し、跳ね飛ばされてしまった!!
そして、超信地旋回で素早く後ろを向くと、よろめくセブンに向けて全力攻撃を敢行する!!
三連主砲と、目からのダイナソアビーム、そして……スパイナーをくわえていた為に、今まで使えなかった、最大武器である口からのタンギラーブラスト!!
「ジュアアアアッ!!!」
大きく吹き飛び、地面に大の字で倒れて動かないセブン。完全にダウン状態だ。
敵が動けないのを確認すると、まるで今にもウィリー走行でもしそうなくらいに勢いよく、突進を開始する恐竜タンク。
まさに大重量をそのまま使って、セブンを轢き殺してしまうつもりなのだ!
「マズイ!」
「火力を奴の足回りに集中して、なんとか進路を妨害するんだ!」
「だめだ! だめだ!」
「砲撃が、弾かれてしまったぞ」
「装甲、非貫通」
無人戦車の攻撃では、とても敵を止められない!
危うしセブン!
「ソガ! アレを狙え!」
「アマギ!?」
この人手が足りない時に、今までどこ行ってたんだ!?
彼が指さす方向では、何かが猛烈なスピードで、恐竜戦車へ向かっていくではないか。
あれは……偽装ラリー車?
「危ない! 誰が乗ってるんだ!」
「フルハシ隊員だ」
「撃てって、まさかアレをか!?」
「そうだ、大丈夫だ。僕たちを信じろ!」
信じろってお前……駄目だ、完全覚醒して、顔つきがもはや別人だ。これが漫画だったら一人だけ劇画調になってやがる……
俺が絶句していると、ラリー車から人影がバッっと飛び出して地面を転がるのが見えた。
おい、あれどう見ても100キロ以上でてるよな? そんな車から飛び降りるなんて、正気の沙汰じゃない。化け物かよあの人……
「ソガ!」
「分かった! 隊長、全車両の砲塔のみ、コントロールを俺へ!」
「任せた!」
バリアを展開し、半自動操縦で恐竜戦車の履帯に突っ走っていくラリー車。気付いた敵が、慌てて目ビームを乱射するが、粒子兵装ではバリアを破れない。あのバリアを破るには砲弾が必要だが……もう固定射角の懐に潜り込んだ後だ。遅かったな!
「今だ! やれ、ソガ!」
「全砲門……撃て!!」
敵をぐるりと取り囲んだ戦車から、一斉に砲弾が飛び出し、寸分の狂いもなく、まさに踏みつぶされる瞬間のラリー車を爆破した。そう、確かにあの車には、スパイナーは積まれていなかった。だが、それは決して爆薬が積まれていなかったのではなく……不安定なスパイナーより安定性と確実性が高く、その代わりに爆発力で大きく劣るスペリウム爆弾が、ダミーとして搭載されていたのだ。
でなければ、単なるハリボテで、メンテナンスを担うアマギの観察眼を騙せる訳が無い。キリヤマは例えハッタリであろうとも、細かい部分でも手を抜く人物では無かった。
そして今や車両に乗っている爆発物はそれだけではなく、もう一つプラスされたものがある。それは……アマギが即席で着発式に回路を挿げ替えた、キル星人の時限爆弾。
これらの爆薬が、恐竜戦車の足元で、一度に爆発すればどうなるか。答えは彼らの目の前にあった。
その全身を吹き飛ばすにはまったく火力不足ではあったが、履帯を構成する金属板を一枚だけ弾き飛ばせばいいとなれば、逆に過剰な威力。
つまるところ、ダイナタンクの足に転用された、アイアンロックスのベース部分は、海中の浮力も込みで設計されていたので、そのサポートが受けられない地上で、サイボーグ恐竜の大重量を支えるのは……少々無理があったという事だ。
陸上戦艦ではなく、海中戦車として使っていれば、このような攻撃に晒される事もなかったろうに……
片方の履帯が千切れ飛び、倒れたセブンの手前で大きくスリップする恐竜戦車。間一髪、セブンの左腕を掠めるように通過していく大重量。地面にくっきりと刻まれた轍の深さが、突撃の威力を物語っていた。こんな攻撃を食らえば、いかなセブンの肉体と言えど、酷い後遺症が残っていたに違いない。
真横をなにか巨大で重たいものが滑っていった衝撃で、目を覚ましたセブンは、ハッとしたように起き上がると、右手で掴んだスパイナーのカプセルを、敵の戦車部分へ滑りこませる。
そして、指先からウルトラショットを車体下部へ目掛けて撃ちこむと、装甲と地面との間で跳弾した光線が、スパイナーに誘爆した!!
瞬間、激しい爆音と共に、紅蓮の炎が吹き上がり、7万トンもの大質量を、跡形もなく木っ端みじんに吹き飛ばしてしまった!! キル星人の追い求めた新型火薬の実験は、恐ろしい標的艦を吹き飛ばす事で、その威力を証明してみせたのだった。
――――――――――――――――
「ダン! おい!! ダン!!」
戦闘後、土に埋まったダンを、駆け寄った警備隊の仲間達が掘り起こす、
真っ先に駆け付けたアマギが、目を覚ましたダンの手を、力強く握って、晴れやかな笑顔を見せた。
アマギへ小さく頷きを返すダンの心は、自身を心配する仲間達の思いを受け取って、じんわりと暖かくなっていく。
担架で運ばれながら、ダンは内心で独り言ちた。
(ウルトラ警備隊の任務は厳しい、大きな勇気とたゆまぬ努力が必要だ。アマギ隊員も立派に任務を遂行した。これからも恐ろしい敵は次々と現れるだろう……だが、われわれがウルトラ警備隊魂を持ちつづける限り、地球の平和は守られるに違いない……)
というわけで、第28話「700キロを突っ走れ!」でした。
サブタイの70000000キロってのは勿論、換算して7万トンですから恐竜戦車の事。
決してヤケクソなソガがゼロの桁を間違えたわけではありません。
キロってのはkmだったり㎏だったり、ややこしいですねぇ……
作中屈指のギャグ回というか、ガバガバ回ですが……恐竜戦車はガチ。
番組の予算不足によって生み出された、馬鹿みたいなインパクト全振り怪獣ですが、作者はコイツが大好きです。
あまりにデカくて重すぎて、本来はランダム売りだった食玩のフィギュアで、コイツの箱だけ一発で見抜けたのは大爆笑しました。いい思い出だぁ……
そして、さらりと強調されるダンとアマギの友情も熱いですね。
ガバガバでもいい回にはなるんだなぁ……
さあ、今後もこの調子でどんどん突っ走っていきますよ!
―――
するつもりだった補足をすっかり忘れていたので追記します。
今回、戦車の上に載せたサイボーグ恐竜ですが、ウルトラマンの未制作シナリオ『サイボーグ恐竜』に登場する予定だったタンギラーを元にしました。
アイアンロックスの前身であるヤマトンと同じく、一峰大二氏の漫画版でだけ活躍を拝めるマイナー怪獣です。
作者は没話等の裏事情を全く知らなかった小学生のころ、親父の入手したこの漫画を読んだ時、ヤマトンの事をアイアンロックスを元にした一峰氏のオリジナル怪獣だと勝手に思いこんでいたので、「じゃあタンギラーは恐竜戦車枠のオリジナル怪獣なんかな」と(氏の描くだいたいの恐竜顔が恐竜戦車とよく似てたのも拍車をかけたこともあり)ぼんやり妄想したものです。
そんで今回、それをそのまま持ってきただけなんですね。
ある意味、数十年越しで温めていたアイデアと言えるでしょう。