転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
構内に、チャイムが鳴り響く
「……ここにいたのか」
大学の屋上で、飛び立つ鳩の群れを見送る青年の背中。
ソガは、イチノミヤの座るベンチに歩み寄った。
「いやぁ、教授の事をふと……」
「……死んだとは限らんだろ? 実際、どうなんだ?」
「装置が過負荷でショートしてしまった以上は……教授の意識を乗せた電波が、どこへ飛んでいったかも分からない。もっとも、どこか遠くの磁気嵐か、はたまた人類には想像もつかない事象に巻き込まれて、何かの拍子に再生される可能性も無くはないが……それはもはや、元の教授かどうかも保証できないし、それが起きるのが僕たちのいる空間や時間軸と同じとも限らない」
「あの装置を直したら、逆探知とか出来ないのか?」
「駄目だな。最も重要な部品が全て焼き切れている。……外側なんか、ただの置物みたいなもんさ。あれを直せるのは、教授だけだ」
「……じゃあ、どっかで電送機を作って、またひょこり出て来るかもしれんぞ?」
「でも僕たちが……お互いに、どうしようもなく裏切り合ってしまった事は変わらんさ」
イチノミヤの声が、もの悲しげに沈んでいく。
いくら侵略者の仮面であろうと、彼にとってはやはり、恩師だったのだ。
「……今回は、お前の機転に助けられた。間違いなく恩人だよ、イチノミヤ。ありがとう」
「いや……」
今までずっと、空を虚ろに見上げていたイチノミヤが、首を回してソガの方を向く。
「僕のほうこそ、君に礼を言わねばならないだろう……君が、僕の為にいろいろ動いていたのは、分かっているとも」
「渡した手紙……結局読んだのか?」
「……読んだ」
ソガは、もしも自分が失敗した時に備えて、直前にイチノミヤに手紙を渡していたのだった。何か迷う事があれば、これを読めと。
「あれさぁ、一応……三枚綴りだったろ? どこまで読んだ……?」
「最初の一行だけ読んで……あとは破いて捨てた」
「ええっ! 一行だけ!? ……マジで?」
「『二人で機械に入るのは、頼むからやめてくれ』……僕にはそれで充分さ。充分だったんだよ……君を信じるのにはね」
「そ、そう……」
ソガは、長い間触れ合ったこの友が、原作通りの死に方をするのがどうしても見過ごせなかった。
だから、そんな事になるくらいならと、殆ど全てを書き記して、彼に渡していたのだ。
かなり荒唐無稽な話の自覚はあったので、彼が信じられるように、証拠となる事実を3段階に分けてはいたが。……その中には当然、自身がどういう存在なのか、という部分も含まれている。
てっきりそれを熟読した上で、イチノミヤは教授への試験を用意したのだと思っていたが……まさか一行目だけでそれを決意したとは……
「そんなに不服か? それとも全部読んで欲しかったのか?」
「い、いや、読まなかったならいいんだ、それに越した事は無い。うん」
ソガは信じられないといった面持ちで親友を見返すが、イチノミヤにしてみれば、なんという事もない。ソガは結論だけ最初に書いたつもりらしいが、その一文だけでかなりの情報が読み取れるのだ。
そもそも、電送機が一人用で、そこに複数の生命体が入り込むとエラーとなるなんて、製作者以外に知っているはずがない。そして、装置には不慮の事故を防ぐ為に薄いフィールドが張られている。
まさしく装置を誤作動させようと思ったら、人間大の生き物が飛び乗るか、使用者が故意に持ち込むかの二択しかないのである。もしもイチノミヤが教授を止めようとするなら、手紙に書いてある通りの方法を選んだだろう。
それをズバリ言い当てているという時点で、彼が何らかの方法で未来を予知しているという事が、イチノミヤからは分かるのだ。
未来予知の超能力を持っているのか? はたまた未来からやって来たのか? 実は彼もまた宇宙人と知り合いで、そちらから何かの情報を得る機会があったのか?
もしくは、あの真っ赤な巨人の正体が……?
なんにせよだ。
「ソガ、君は……」
……最初から全て知っていたんじゃないか?
ソガのぽかんとした顔を見て、言いかけた言葉を飲み込む。
この性格だ。そんなのは、おそらくあの手紙に書いてあっただろう事くらい、想像に難くない。
そして、それを読まないという決断を下したのは他ならぬ自分自身で……一度捨てたチャンスを、自分で聞き返すのは、フェアではないと思い直したのだ。
知っていたなら、教授と親しくなる前に、どうして止めてくれなかったんだ、という憤りが無いと言えば噓になる。
だが、知り合った当時にそんな事を言っても、自分はそれを信じようとしなかっただろうというのも、また確信があり……ソガがそれをしなかった弁明も、きっとあの紙には書いただろうから……そしてなにより、それと同じくらい……
わざわざ自分を助ける為に、この男は随分と長い間奔走してくれたのだという事実だけは、誰が何を言おうと変わりはないのだから。
だからこそ、あの時彼を信じる事にした。
教授は彼の『頭脳』を欲してくれたものの……ソガは『イチノミヤ』を欲してくれた。それだけの違いだ。
そして人間には、その僅かな違いこそが最も重要なのだと言う事が、恩師には分からなかったのだろう。
それがただ……切ない。
「まあ、そんなに落ち込むなよ。お前にピッタリの人を紹介してやるからさぁ! めちゃめちゃカミナリジジイだけど……境遇も殆ど同じようなもんだし、お前なら上手くやれるだろうからさ。あ、でも、俺は一緒に行かないぞ。行くときはアマギと一緒に行けよな」
「ソガ……」
「なんだ?」
「……ありがとう」
告げられた友は、なんとも言えない顔をして、頭を掻く。
その表情を見ていると、やはり最後まで読んでおくべきだったかという気持ちが、すこしずつ沸き上がってくるので、イチノミヤは苦笑した。
なかなか、彼女のようにはいかないか……
――――――――――――――――
あの時、目の前で抜け殻が激しくスパークし、崩壊していくのをみたセブンの行動は早かった。
即座に念力を集中して、ウルトラテレポートを発動する。
ともすればワイドショット以上の消耗を強いられる危険な技だが、友の危機の前では、一瞬の躊躇もない。
彼の肉体がエネルギーへと変換され、まるで深紅の矢のように、凄まじい速度で闇夜へ向けて飛び立っていく。
紅蓮の鳥となったセブンは、ウルトラホーク2号を追い越し、プロテス円盤が持ち去ろうとしていた人工衛星を、両手でガッシリと掴んで奪い返すと、即座に地球へ向けて切り返した。
テレポートでエネルギーを使い果たし、後は飛行しか出来ないセブンに対し、今度は円盤の方が全速力で追い縋る。
だが、この宙域にはもう一機の飛行物体があるのだ。
「宇宙船の野郎……戻ってきやがったなぁ!」
「今だ、撃て!」
ホーク2号の機首から放たれたレーザーが、プロト星人の円盤を貫く。
スパイの回収部隊は爆発四散!
銀と赤の嚆矢が、甲高い音で青い星へと還っていく……
――――――――――――――――
大学に降り立ったセブンは、少しふらつきながらも、抱えていた人工衛星をそっと置いた。
縮小化すると、鋼鉄製のドアを蹴破って、電気椅子に捕らえられていたソガを救出する。
「セブン!!」
『怪我はないか』
「俺はいい! サエコさんは!? イチノミヤは!?」
『大丈夫だ』
赤い宇宙人に肩を支えられながら、人工衛星から這い出て来る男の下へ、女が駆けて来る。
涙を流しながら、力強く抱き合う二人。
「ソガ君! ソガ君!!」
「サエコさん!! 良かった!! 本当に良かった……」
自分の失敗のせいで、彼女に被害が及ぶと思った時、ソガはもはや冷静ではいられなかった。半狂乱で叫んだ喉は枯れ、すっかり声がしわがれている。
「プロテ星人に何かされなかったかい?」
「ええ……イチノミヤさんとセブンが助けてくれたわ」
「良かった……ありがとうセブン!!」
礼を言われた宇宙人は、何か言いたげに逡巡しているようにも見えたが、結局は何も聞く事はなく、無言のままで飛び去って行った。
「……サエコさん、本当にごめん。俺のせいで君を巻き込んでしまった……」
「いいの、いいのよ……あたしたち、またこうやって生きて触れ合える。それでいいじゃない」
「……ああ、そうだね……サエコさん……愛してる」
「あたしも……例えソガ君が誰であろうと……愛しているわ、心から」
「……えっ?」
そっと離れたサエコは涙を拭い、微笑を湛えたまま振り返った。
彼女の口元を、昇ってきた朝日が照らす。
「待ってるわ」
白んでいく空に、たなびく彼女の髪がとても美しくて。
ああ、そうか……今、ようやく分かった気がする。
そしてごめん、サエコさん。今はまだ全部言えないけど……
でも、これだけはハッキリ言える。
心の底から君を……愛しています。
というわけで、第29話「ひとりぼっちの地球人」でした。
難産でした……とても……
いや、教授の台詞は息をするようにスラスラ書けるのに、イチノミヤとサエコさんが口を開くとどうもね……難しい……
成瀬氏演じるプロテ星人、隠れた強豪なんですが、まさかここまで苦戦させられるとは……
今回のプロテの設定ですが、完成したスーツは薄い灰色でつるっとしていたのに、迫力に欠けるからと、現場スタッフ総出でダイヤブロックを張り付けてゴツゴツさせ、色も濃紺に塗り替えた、という逸話を基にしています。
そして、転送機と言えば……この末路でしょう。SFの鉄板ですね。
そんでもって、とある宇宙人と妙に共通点があるという事で……まあ、お察しの通り、そういう事です。
なんでセブンにはお馴染みの彼らが登場しないかと言うと、登場しないんじゃなくて、0代目が登場していたんですねー
いや、0代目はQに出てるから……マイナス1代目?
アレとコレとソレが同じ鳴き声なのは、ここで繋がっていたわけです。
プロテ星人は、彼らのプロトタイプでもあったというオチ。