退魔世界の一般人   作:てんたくろー

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一章 柊幻魔と魔法少女たち(上)
柊幻魔・1


 現代日本の歴史とはイコール、退魔の歴史であるとも言える。

 古来よりはびこる魑魅魍魎、あるいは報われぬがゆえに悪しきモノと化す霊魂、御霊、神霊精霊その他諸々──

 そうしたものがやたらめったら跋扈する、『特異領域地点』と世界にも称される程に、この国はオカルトにまみれきっている。

 

 ならば、ゆえに。いやさ、だからこそ。

 それら怪異なるモノどもに対抗すべく人間たちが、退魔の道を切り開くのは至極、当たり前のことだった。

 陰陽師、ゴーストハンター、怪異狩り、祓魔師、シャーマン、イタコ、エクソシストなどなど。これら総称するところ『退魔師』たちを次々育成、養成しては人間の脅威に立ち向かわせていくのは、この現代日本の常識となっていた。

 

「まあ、俺にはもう関係ない話なんだけれども」

 

 よく晴れた昼下がり。自室の椅子に座って一人、俺はぼやいた。

 今日はバイトも休みで、こうしてコーヒーなんて飲んでのんびり色々、考えてたりしている。

 

「何かないきなり。どうしたの幻さん」

 

 テーブル挟んで向かいのソファ、ちょこんと座る小柄な女が不思議そうに、思わずぼやいた俺に反応した。

 今年で齢20になるんだがまだまだ少女に見える、黒髪長髪黒目、端正な顔立ちの子だ。

 

 その子曰くの『幻さん』、つまりは俺こと柊幻魔は、独り言を拾われたことにちょっぴり恥ずかしさを覚えつつも応えた。

 

「いやあ、ほら。俺も10年前までは退魔の、良いとこのお坊ちゃんだったなぁ。でももう関係ないんだなぁって何となく」

「あー……柊家ね。今聞いても酷い話じゃないか、高々退魔の才がないからって追放だなんて」

「まあまあ千早ちゃん。良いとこの家の長男坊がそれじゃあ、示しってのがつかんかったんだろうさ。昔はともかく、俺もその辺分かるようになってきたよ」

「まるで私がまだ子供みたいに言うね?  そりゃあ、幻さんとは8歳も離れているし、こないだ成人したばかりだけどさ」

 

 そう言って彼女、千早ちゃんは拗ねたように、いや事実拗ねているのだろう、唇を尖らせた。

 何とも幼い仕草で、そういうところだなあって思う。

 微笑ましく感じて頬を緩ませつつ、続ける。

 

「かく言う俺だってもう28、じきに30にもなろうってのに全然子供だよ。たぶん10年経っても同じこと、言ってるんじゃないかなあ」

「10年経ったらさすがに大人でしょう?  その頃には結婚して、子供だっているかもだし。もちろん相手はこの私かな、ふふふ」

「ははは……出会ってから7年、ずっと同じこと言ってるね。今はともかく、昔は俺、捕まるんじゃないかってひやひやもんだったよ」

 

 もう聞き慣れた、けれど毎回どう答えたものか困るやり取りに、いつもの通り千早ちゃんはにっこり不敵に笑った。

 ──どうにも彼女には好かれている。それこそ7年前、出会った時からずっと。

 

 10年前、退魔の家系としては日本トップクラスの柊家の長男として生まれた俺は、当たり前のように次期当主として期待され、けれど退魔に必要不可欠な才能をまるで何一つ持たないことが判明して、これまた当たり前のように放逐された。

 次期当主の座はもちろん、家族からの愛も、周囲からの優しさも、友情も、一応いた許嫁とか恋心とかその辺のあれやこれやも。全部全部、失ってからのリスタート。

 

 最初は悲しんだ。次に怒った。次第にやさぐれ、時と共に諦めた。

 そうしてやがては生きることに必死になるだけで数年、ようやく衣食住も何もない暮らしから脱却できた矢先出会ったのがこの、千早ちゃんだった。

 

 思えば初対面の瞬間からやけに懐かれていたなと思い返す。まあ、彼女は彼女で色々と抱える身の上なのだから、寄りかかれる大人ってのが欲しかったんだろうが……

 にしても13歳から思春期を経て今に至るまで、ずっとこうして想いを貫くと言うのは中々すごい話だ。

 

 そんなことをつらつら述べると、千早ちゃんはやはり不敵に笑い、嘯いた。

 

「ふふ。幻さんは私の希望、光そのものだからね。こんな世の中でまだ護るべきものがあるんならそれは、きっと幻さんなんだと信じているよ。あの日からずっとね」

「大袈裟だなあ。それに世捨て人みたいだ。こんな世の中なんて言う程、世の中のこと知らんでしょうよ。俺も君も」

「ふふふ。違いないね」

 

 少しばかりの窘めも、可憐に笑って受け止められる。

 何やら年上のお姉さんみたいな感じがして、微妙な気持ちだ……俺の方がよほど、子供だったりしないだろうな?

 

 と、そんな折りにインターホンが鳴らされる。出前を頼んだ覚えはないし、なんだろう。郵便かな?

 

 千早ちゃんに一声かけてから玄関に出向く。安アパートだがそれなりに広くて俺は満足しているこの部屋の、入り口の戸を開けると、そこに。

 

「ああっ……!  ようやっと見付けました、契約者様!  10年もの間、お辛い思いをさせてしまい申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!」

「……んんっ?」

 

 妙齢の、しかも青髪などと奇抜極まる出で立ちの女性が、土下座して俺を待ち構えていたのだった。




(^q^)<クールだけど優しい紳士口調のイケメン女の子すき
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