退魔世界の一般人   作:てんたくろー

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二章 柊幻魔とかつての家族たち
柊幻魔・7


 本屋に寄って待ち遠しく思っていた、漫画の新刊を買って。

 昼にはちょっとおしゃれ目なレストランで三人、ランチを楽しんで。

 そのあと軽く、スーパーで食料を買い込んで。

 

 そうして腹ごなしもかねて歩いて自宅まで戻ってきた俺と千早ちゃんと楓夏ちゃん。

 時刻としてはまだ15時にもならないところだ。

 夕食までは数時間、のんびり昼寝なり、読書なりはたまたゲームなりテレビなり、何なりとやれるな。

 

「ただいまー。おかえりー」

「ふふ、ただいまおかえり」

「ただいま帰りました。お帰りなさい、皆さん」

 

 互いに互いを労いつつ帰宅を果たす。

 何でもないやり取りだが、帰った時にこういうのがあると妙に嬉しい。

 これでもそれなりに孤独の寂しさは経験しているつもりなので、余計に身に沁みるのかもしれなかった。

 

 居間に戻ってひとまず、買い込んだ品を次々冷蔵庫に突っ込んでいく。

 アパートに備え付けの、年季の入った古くさい冷蔵庫だが案外俺は気に入っている。

 同じくエアコンも、コンロも、風呂場だってそうだ。

 もしかしたらレトロ趣味の傾向があるのかもしれないな、俺って。

 

 千早ちゃんと楓夏ちゃんも手伝ってくれてすぐに片付けも終わり、改めて居間に落ち着く。

 ソファの真ん中に俺、左右に魔法少女の二人が座る。

 そこまで大きくないソファだから密着状態だ。汗くさいとか言われそうで気になるな。

 

「さて、じゃあ後はのんびり過ごそうかな。楓夏は?」

「私も今日は暇ですから。あ、それなら夕飯は作りますね」

「本当? 助かるよ楓夏ちゃん」

 

 リラックスして一息ついて、すっかり千早ちゃんはだらけている。

 普段は結構、口調の堅さもあって凛々しい印象なんだが、うちに来ると大概こうなる。

 気儘な猫が心開いているような感じで、どこか愛らしく思えてくるから不思議だ。

 

 一方で会話の流れで今日の夕食まで担当してくれることになった楓夏ちゃんは、こちらも落ち着いた様子で穏やかに笑っている。

 朝は千早ちゃんに作ってもらって、晩は楓夏ちゃんに作ってもらう。なんとも贅沢な話だ。

 

「楓夏のご飯もひさびさな気がするね。ま、ともあれ今日の残りはのんびり過ごそうよ。ゲームして良い? 幻さん」

「良いよ。また格闘ゲーム?」

「まあねー。魔法少女ってのはこういう時だけは役に立つね、ふふふ」

 

 言いながらテレビの下、土台となっているラックから据え置きのゲーム機を取り出す。

 千早ちゃんは結構なゲーマーで、特に格闘ゲームとかFPS──一人称視点シューティングゲームをこよなく愛する。

 それというのも、魔法少女として強化された反射神経や処理能力がこの手のゲームに打ってつけらしく、元々好きだったのも相まって大層ハマってしまったとのことだ。

 

 最近だと動画サイトで配信なんかして、それで収入を得たりもしているらしい。

 すごい世界ですごい時代だ。

 彼女くらいの頃、雑草食って泥水啜って空き缶拾って、橋の下のダンボールで暮らしてた身からするとまるで別世界の話に思える。

 いやまあ、俺が極端なケースなだけなんだけどね。

 

 俺の事情はさておいても、彼女のそうした活動と成果は夢がある話だ。

 何より人々に娯楽を提供できる立場に、魔法少女である千早ちゃんが着いてくれたことが、かつて戦いに明け暮れていた哀しい姿を見ていた俺にはすごく嬉しい。

 

 千早ちゃんだけじゃなく、美琴ちゃんも、楓夏ちゃんも皆。

 魔法少女だとしても、普通に生きていけるはずなのだから。

 

「何さ幻さん、ニッコリしちゃって。やる? 一緒に」

「ボロ負けするからパス。いやいや、幸せだなぁって」

「……ふふっ。私もだよ」

「幻魔さんのくれた幸せですね」

 

 和やかな午後の風景。

 俺がいて、千早ちゃんがいて、そして楓夏ちゃんもいる。

 そんな光景。

 

 ああ、やっぱり青華ちゃんの言うような強さとか、成り上がりは別にいいかな。

 こんな風に噛みしめられるような幸せがある今が、俺のすべてであってほしい。

 この先も、時代が変わっても皆と楽しくやっていけるのが一番だ。

 

 そんなことを強く願う俺の心とは裏腹に。

 非日常とはいつだって不意に訪れる。

 ──チャイムが今、鳴ったみたいに。

 

「はいはーい。何だろう、郵便?」

「何か心当たりでも?」

「いやあ、ないなあ」

 

 特に何か、受け取る予定もないのだがと玄関に向かう。

 一応警戒してくれるのか、楓夏ちゃんも一緒だ。

 首をかしげつつ戸を開けると、そこには。

 

「……幻魔。ひさしぶりです」

「え」

 

 銀髪の輝かしい、俺と同い年くらいに見える、とんでもない美女がそこにいた。

 久しぶり? ──たしかに久しぶりだな。見覚えがある。

 

「幻魔さん? お知り合いですか?」

「……あー、うん。古い、もう切れてたはずの縁なんだけど」

 

 かつて、俺が追放される前。

 一族にいた頃、一応ながら長男坊ゆえに取り決められていた存在。

 

「六門道沙羅。まあその、昔の許嫁とか言うやつだね、うん」

「……いいなづけ?」

 

 ──許嫁だった女がそこにいた。




(^q^)<修羅場すき
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