「いやあ久しぶりだねえ。元気してた?」
「えっ……え、ええ。まあ、それなりには」
「そっかそっか。あ、上がってよ。わざわざ俺の居所を突き止めて来たからには、なにがしか相談なりあるんでしょ?」
若干重い感じの思わぬ再会とでも思ったかい?
んなこたーない。
俺は若干気後れしてる感のある昔馴染みの元許嫁、六道門家の沙羅さんに明るく声をかけた。
いやはや、昔から人間離れした美貌だったが更に磨きがかかっていらっしゃる。
好い人でもいるのだろうか? だったらそいつは幸せ者だ。
「え、と。あの、その」
「ん、もしかして日取り悪い? だったらまた後日でも構わないけど」
「いえ、そんな! ……ですがその、私は、私たちは」
「……幻魔さん、話が見えませんが。その、元許嫁と言いますと」
どうにも言い澱んでいる沙羅さん。
まあ、この子含めある程度の親しい人らには、個人名を伏せて俺の追放されるまでを話してあるからな。
気を使わせて申し訳ない。
沙羅さんがちょっとでも落ち着くのを待つ傍らで、俺は楓夏ちゃんに答えた。
「うん、俺がまだ良いとこの坊っちゃんだった頃ね。政略結婚とかそういうアレで決まってたのよ、お相手が」
「退魔の名門、六門道家の一人娘が、ですか。しかしその……それも10年前に縁が切れたと」
「間違いなくね。だからこれでも驚いてるんだよ、今になって何か用事があるのかなって。だからまあ、好奇心もあるかもね」
「軽いですね……」
俺の来歴ゆえに、恐ろしく言葉を選んでいる楓夏ちゃんが、どうにも俺のノリが思っていたのと違うみたいで頬をひきつらせている。
と言っても、はっきり言って済んだことだし。
これで気にしているようなら、青華ちゃんの言葉に乗っかってそれこそ成り上がりとやらをやり始めてると思うよ、今頃。
「10年一昔、ってね。俺としちゃあもう懐かしい思い出だからさ。アルバムの懐かしい顔が来てくれたんなら、何はさておき茶ぐらいは出したいのよね」
「っ……思い出、ですか。そう、ですよね」
何やら落ち込んだ様子の沙羅さん。
傷付いてる、みたいなのか? 失礼ながらちょっとばかり、意外だ。
何しろこう言うのも難だが、かつては結構な言葉を浴びせかけられてそれきりだったので、てっきり追撃に何か言われるかも知れないとか内心、身構えたりもしてるんだけど。
心境の変化──今しがた自分で言ったように、10年だものな。
誰彼構わずそりゃあ、変わったりするよな……
そこはかとなくしみじみしつつ、いい加減玄関で対応するのもどうかと思い、俺は言った。
「とにかく上がりなよ。お客人が二人いるけど、これがまた良い子たちだから──」
「帰ってもらいなよ、幻さん」
途中、ヒヤリとした声音が俺を遮る。
千早ちゃんだ。振り向くと、居間の方から冷たく沙羅さんを見ていた。
怒っている。
俺のいるところでは中々見せない、かなりガチめのキレ方だ、これ。
俺の近くで楓夏ちゃんが、ごくりと唾を飲む。
こうなった千早ちゃんの怖さは、俺より彼女の方がよく知っているのだろう。
慎重に声をかける。
「せ、先輩。どうか落ち着いてください。幻魔さんに悪いです」
「分かってるけどね。許せないこともあるんだよ、楓夏。おい、六門道のが今さらこの人に何の用だ」
後輩を、いっそ優しげにすら一蹴して千早ちゃんは、沙羅さんには刺だらけの言葉を投げ掛けた。
というか楓夏ちゃんもそうだが、さすがに退魔界隈の家柄には詳しいのな。
俺のかつての家、柊に勝るとも劣らない名門、それが六門道なのだが……俺の許嫁が実はそこの一人娘のことだったなんて、説明した覚え一切ないし。
と、一人感心している間に、おろおろしている楓夏ちゃんを尻目として、千早ちゃんと沙羅さんの静かなバトルが始まっていく。
ああ、こりゃおっかないわ。くわばらくわばら……
「魔法少女『ファースト・キック』、それに『サード・タイフーン』。貴女方こそ、何故幻魔の家にいるのです」
「お前に言う必要があるのか? 彼を痛烈な言葉で捨てたこと、私たち魔法少女は知っているし許す気はないぞ」
「……っ。それは、彼が?」
「まさか。この人は、幻さんは健気にも元許嫁がどこのどなたでいらっしゃったのか、今に至るまで完全に伏せていたよ。と言っても少し調べれば即分かる話だったがね」
さすがは名門六門道、魔法少女の正体までお見通しってか。
あるいは一緒に仕事をしたことさえあったりするのかも知れない。どことなく、沙羅さんと千早ちゃんの間には面識がある者同士の距離を感じる。
とは言え、仲は相当に悪いみたいだが……千早ちゃん、俺の家を調べてたんだな。
話したのが、互いに互いの傷を舐め合っていた時期だったとは言え、これは俺が浅慮だったかもしれない。
小さく悔やむ俺をよそに、千早ちゃんはやはり冷たく、沙羅さんへと言葉の刃を投げ掛けた。
「そら、帰りなよ。何もかも手遅れだということを理解して巣穴に戻るんだね。しっしっ」
「何を……! この、成り行きで力を得ただけの、何も背負わぬ無礼な小娘がっ」
「家柄しか取り柄のない木っ端風情が嫉むな。見苦しい」
「貴様っ!!」
あー、これはいけない。
お互い完全に憤っているようで、普通なら言ってはいけないと判断できるだろう言葉の応酬だ。
そしてそうなると当然、実力行使にもなるわけだ。
俺は咄嗟に楓夏ちゃんと視線を絡める。
彼女も危機感ゆえかすぐに意図を理解し、そして。
「はいストップー! 沙羅さんストップ、ストーップ!!」
「先輩いけません! それ以上やるなら私が相手になります!」
俺は沙羅さんを、楓夏ちゃんは千早ちゃんを。
割と決死な覚悟で横槍を入れ、止めにかかったのだった。
(^q^)<言葉の殴り合いすき