退魔世界の一般人   作:てんたくろー

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柊幻魔・9

「申し訳ない、幻さん、楓夏。柄にもなく熱くなってしまった」

「本当ですよ、まったく!」

「こちらも、非礼をお詫びします……」

「ま、まあまあ。とりあえず落ち着けたから。この話はこれっきりで、ね?」

 

 まさしく一触即発。

 今にも異能バトルが始まりかねない、危険な状況だったのがこうして落ち着いたのは、正直、楓夏ちゃんの頑張りによるところが大きい。

 沙羅さんを止めるのは俺でもどうにかできたけど、千早ちゃんはそうもいかないからだ。

 

 沙羅さんには悪いけれど、素人目に見ても千早ちゃん相手にまともに勝負できるとは到底、思えない──彼女ら魔法少女はそれこそ、青華ちゃんのような超自然的存在クラスみたいだからな。

 いくら名門で鍛え抜かれたと言え、一般的な退魔師の範疇をでないのであれば、結果は火を見るより明らかだった。

 

 ゆえに楓夏ちゃんは千早ちゃんに相対したのだ。

 あってはならない、魔法少女同士の揉め事に発展させてしまうことも厭わずに先輩を止めたのである。

 

「楓夏、本当にごめん。君にそこまでさせてしまった」

「……気持ちは分かりますから、私も。ですがそれが今の幻魔さんの平穏を壊すのなら、仕舞っておくのが正解だと思うんです」

「まったくだ。これは完全に私のエゴだな」

 

 ひどくしょげかえって、千早ちゃんは自分が暴走しかけていたことを悔やんでいた。

 楓夏ちゃんが同情的であるように、正直な話、俺としても理解はできる。

 もし俺が千早ちゃんの立場だったらたぶん、止まれなかったかもしれない……それを思えば彼女はやはり、強い心と正しさを持つ気高い魔法少女なのだ。

 

 せめて慰めになればと千早ちゃんの頭を撫で、感謝の印に楓夏ちゃんの手を握る。

 それぞれ、こうされるのがお気に入りだと言うのだ。これで少しは気分が良くなってくれると嬉しいんだけど。

 俺たちの様子を、ショックを受けたように沙羅さんが見てくる。

 

「……その。仲、良いんですね」

「まあ、付き合い長いしね。千早ちゃんから始まって日葵ちゃんまで、なんだかんだ毎年一人ずつ魔法少女と知り合いになってるよ」

「『セブンス・ライトニング』までとは……つまり全員と親しいと?」

「幻魔さんは私たち魔法少女の一番の理解者ですから。この人のお陰で、私たちは戦い抜けたんです」

「……なる、ほど」

 

 楓夏ちゃんの説明もあり、沙羅さんは深く頷き、考え込んだ。やはりどこか、陰のある表情だ。

 まあ、そりゃあね。

 無能だってんで追い出した奴が、何の因果か退魔にどっぷり浸かってる子たち全員と親しくなっているのだ。

 何をどうやったってなもんだろう。

 

 この分だと魔法少女以外の知り合いとか、見せたら一日中頭を悩ませるんじゃなかろうか。

 そんな益体もないことを考えつつも、俺はそもそもの用件を窺うことにした。

 

「それで、ええと。沙羅さん、10年ぶりに俺に会いに来たのは、何を目的に?」

「……あ。そ、そうですねそれを話すべきです。とはいえ、今さら、聞いてもらえると思いませんでしたが」

「まあ、それこそ今さらですし」

 

 本音を言えば。

 思うところは、そりゃあ俺だって人間だし少しはある。

 

 でも追放されてからしばらくの間持っていたような、怒りとか悲しみとか、憎しみとか絶望とかはもう、ほとんど全部風化している。

 本当に、誇張なしで生きるのに精一杯だった以上、そういう余裕を持つ暇だってなかったし。

 そうこうしているうちに千早ちゃんたちに出会ったし。

 何より、今の幸せに満足したし。

 

 だからもう、沙羅さんも引きずる必要はないのだ。

 何があったか知らないが今の彼女、やけにあの日の訣別を悔やんでるみたいだ。

 いつからそうなったのかは知らないが、そんな後悔を抱えて生きていくのは──辛いことだろう。

 辛いことを無理にする必要は、誰にもないはずだ。

 

 そんなことをちょろっと述べると、沙羅さんはどこか、傷付いたように涙を目に浮かべた。

 

「……優しすぎるよ、幻魔くん……」

「おっ、あの頃に戻ったね口調。そうそう、そんなんで良いさ。気楽にいこうよ、きらくーに」

「できそうにないけど……ありがとう。その言葉だけで、私、少しは自分を赦せる気がする」

 

 そう言って微笑むのだが、内心ではそう思ってなさそうな感じだ。

 自分を赦せる気がする、か。

 思い詰めすぎなんだよ。

 けれどもう、これ以降は今の俺から何かを言う筋合いではないし、義理でもないだろう。

 俺は黙って、本題を促した。

 

「実は、ね。幻魔くんと契約したいと仰られて、とある神霊様が柊と六門道にコンタクトを取ってきたの」

「……あー。そこでこういう繋がり方するのかあ」

 

 まさか柊家や六門道家の方から超越存在の話を持ってこられるとは、よもや思いもしなかった。

 考えてみれば退魔の名門、であれば神格ある存在とも多少であれ関わりを持っていても不思議ではない。

 何てことだ、今さら界隈に関わらされそうになっている気がしている。嫌だ。

 

「青華、あの女が絡んでいるんでしょうか先輩」

「ふむ……きっかけは奴かもね。初対面の折、やけに幻さんの来歴に詳しかった。最初に柊を訪れたのだと考えれば辻褄は合う」

「青華は幻魔さんの追放を知り、柊家は幻魔さんが契約者であることを知り……ですか」

「さすがね、魔法少女。いかにも発端は、柊家に『四神』の一体、青龍様こと青華様がお降りになられたことよ」

「……青龍だったのか、あの子」

 

 俺でも聞き覚えのあるビッグネームじゃないか、非常識な酔っ払いのくせして。

 人の行き交う往来のベンチで一人、朝っぱらから酒盛りを始めたとんでもない酒飲みの超越存在の正体は中国神話に名高い『四神』が一体、青龍。

 そんな情報に俺はもちろん、千早ちゃんも、楓夏ちゃんも微妙な顔をして、顔を見合わせるばかりだった。




(^q^)<色々あって盛大に曇る幼なじみすき
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