「いつか見た、柊の次期当主殿がどの面下げてかこの辺、うろついていたからね。まーた幻さんにちょっかい出すつもりかなって、だったら手っ取り早く捕まえてみた」
「決断が早すぎんだろ。しかもやり口が蛮族じゃねえか」
「恐怖……『ファースト・キック』、異常……っ」
「うるさいよ君たち、これが魔法少女流だ」
「えぇ……?」
「こらこら、魔法少女への風評被害は止めなさいよ」
京子ちゃんがドン引きしているじゃないか。
何が魔法少女流だ。
今までそんな流派、聞いたことないぞ。
千早ちゃんは昔からこういう、相手によって恐ろしく雑でいい加減な対応を取るところがある。
今回もご多分に漏れず、色々考えて動くのが面倒になったんだろうけれど……まさか柊の次期当主相手にまでやるとは、ある意味畏れ入るなあ。
にしても。
俺は、千早ちゃんへの恐怖でこちらに擦り寄る、次期当主を見た。
10年前と変わらない、うん、マジで大して変わってないな。今年で二十歳じゃなかったっけ、この子?
小柄で女の子みたいな可愛らしい顔立ちの、黒髪の少年。
身長が、少しだけ伸びたくらいだろうか。
千早ちゃんより小柄じゃないか、ちゃんとご飯食べさせてもらっているのかな? 思わず心配になる。
何しろまあ、縁が切れたとは言え実の弟だからね。
そう、柊家次期当主──柊天羅が今、何の因果か俺の前にいた。
千早ちゃんがよほど怖いのか、震えるその肩を叩く。
「天羅」
「っ……兄様」
「久しぶり、元気してた? 千早ちゃんは怖いけど優しい子だよ。そう怯えなくていい、大丈夫」
「幻さんに怖がらせるような真似をした覚えはないけど? ねえ、こっち向きなよ幻さん」
「君ね、そういうとこよ」
ちょっと面白がってるみたいで、半笑いでからかうような千早ちゃん。反面、天羅へは冷めた目を一貫して投げ掛けている。
千早ちゃん、割とどうでもいい人間からはどう思われようが構わないと思ってる節があるんだよなあ。
だから基本的に躊躇も遠慮もないし、それゆえ大胆かつ柔軟に、今回のようなある種、暴挙に出ることも厭わない。
下手したら柊家、六門道家を敵に回すのにねえ。
初代魔法少女としての強みなのだろうけれど、人間としては少し、寂しい気もする。
孤高、と言えるのだろう。
最初に発生し、そして今なお戦い続ける魔法少女『ファースト・キック』らしい、姿勢ではある。
けれど。
このくらい言うのは、俺でも許されると願いたい。
「千早ちゃん。君を大切に思う人は、たくさんいることを忘れないでね」
「……ありがとう、幻さん」
穏やかに、嬉しそうに微笑む千早ちゃん。
たおやかなその表情に、しばし心を奪われる。
本来の、ただの女の子としての彼女の笑顔が、そこにはあって。
願わくばいつか。
この子がずっと、こんな風に笑顔でいられる世界が来ることを。
俺はそう祈らざるにはいられなかった。
「にしても柊んとこの次期当主が、こんなところでうろちょろしてたか。やっぱ幻魔くん狙いか? 護衛はどうした」
と、勝くんが天羅くんに質問する。
たしかにそうだ、この辺に柊ゆかりの土地はないはず。
となればこないだの沙羅さんよろしく、俺に用事があったんだろう。
それに護衛の一人もいないのはおかしい気がする。
まさか……
「いなかったよ? いたら流石に私だって留まってたし。こいつ、本当にたった一人でいたんだ」
不意に浮かんだ疑念を否定する千早ちゃん。
周囲の視線が集中する中、俺に縋る天羅くんがぽつぽつ、説明し始めた。
「僕、柊最強。護衛、邪魔。兄様、恐怖」
「ええと……自分が柊家で一番強いから護衛は邪魔なだけ。兄、幻魔の兄さんのこと? も怖がらせるって?」
「肯定」
「相変わらず漫画チックな喋り方しやがるな、こいつ……」
「むしろよく翻訳できたね、京子くん」
「あっ、はい。うちの村の長老がよく似た喋り方なので」
長老かよ。
しかも京子ちゃんの村ってかなり山奥の集落じゃなかった?
どうなってるの天羅くん?
十年前からそんな喋り方だったっけ?
「兄様、兄様……! 再会、感動……っ。謝意、謝意……!!」
「ああ、これは俺にもわかる。再会できて俺も嬉しいよ天羅くん。別にそんな、謝らなくていいから」
「謝意……謝罪っ! 罪悪、忸怩、無力……!」
「何を言ってるのか分からんが、何が言いたいのかは伝わってくるな、何となく」
勝くんの困った顔を横目に、ついに俺に抱きついて、泣きながら謝罪を口にする天羅くん。
何だか、俺の方が涙腺を刺激されそうだ。
沙羅さんもそうだったけど、こんな風になっちゃうまで思い詰めちゃいけないだろう……ましてやそれなりに理由のある沙羅さんはともかくとしても、天羅くんは何も悪いことしてないじゃないか。
ひたすら家の事情に振り回されて、いきなり10歳で次期当主とか言われて、兄だった俺からすべてを奪うような形にされてしまって。
傷付かないわけがない、辛くないわけがない。
ましてこの子は俺を心底から慕ってくれていた。俺にとっても可愛らしい、誇らしい弟だった。
その天羅くんがこんな、涙を流して俺に許しを乞うなんて。
俺は力一杯、天羅くんを抱きしめた。
怒りも憎しみもない。
ただ想いが伝わるように、せめて温度だけでもと、心を込めて。
「大丈夫。何も心配ないよ……頑張ったね、辛かったね」
「……う、うう……ひぐ、ぅうぅ……っ!」
「どんなになっても俺は君の兄で、君は俺の、大切で誇らしい弟だよ。また会えて嬉しい」
「兄様……! 兄様っ……!」
いよいよ泣き叫び、天羅くんは俺を抱きしめ返した。
華奢な、小さな体が二度と俺を離すまいと、強く力に強張る。
俺もそれに応えて、力強く抱きしめて。
こうして俺は、弟と和解するに至ったのだった。
(^∇^)ノ♪<醜悪な長老への反発と老醜への恐怖から本能的に成長ホルモンの分泌を著しく抑制しちゃう男の娘すき