相変わらず賑やかなもんだなァと、幻魔くん家から出て帰り道、俺はそんなことを考えていた。
外はそこそこ夕映えの、涼しい風が一陣吹く町並みだ。
今頃は幻魔くん、飯の支度でもしてるかな? 今日は京子嬢がするのかね。
魔法少女手ずからの料理とはまた、贅沢な話だ。
「にしてもまあ、日増しに変なのが入り浸るようになってってんな、あの家」
幻魔くんと知り合ってからもう何年になるやら……続々と訳わからん出自の存在が屯するようになったこの安アパートの一室は、さながら小さなパンデモニウムってところか?
そうだとすれば幻魔くんはそこの主、つまりはサタンか。
サタンはルシファーと同一視されがちだし、堕天、追放されたってところを抜き取れば強ち、見当外れにも思えてこない気がするなァ。
「……んで、千早嬢。お前さんは残らなくて良かったのか?」
「良くないけれど、今回ばかりは残念ながらね」
俺と並んで歩く千早嬢に声をかける。
意外なことだが今日は嬢ちゃん、泊りがけどころか夕食すら食べずに幻魔くん家をお暇しやがった。
明日雨でも降るんじゃねえのか?
そんな内心は知る由もなかろうが嬢ちゃんは、ひどく残念そうにしながらも、相変わらず首根っこを捕まえて引きずっている柊家次期当主の天羅を俺に見せてきた。
「こいつをお家まで届けるついで、お偉方に釘を刺しとかないとだし。あんまり舐めたことしてるとまた潰すぞってね」
「無念……門限、厳守」
「嬢ちゃんのおっかなさはいつもとして、門限あるのかよ、次期当主様が」
「父様……当主様、心配性。成人、無視」
「よく分からんがお前さんのパパがお前さんを溺愛してるのは伝わってきたぜ」
「ぱっと見は小さな女の子だからね。危惧自体は真っ当なものだろうさ」
天羅の親父こと、柊家当主の剛三郎殿が猫可愛がりするのも無理からぬ程、天羅のぱっと見は可愛らしい女の子だ。
男とも、ましてや今年成人だなどとも到底、信じられない程に。
そりゃあ男親ならついつい心配しちまうもんだろうさ。
俺だって、そのうち子供ができたとして、その子が危ない奴らの目を引くような可愛らしさだったりした日には……っ!
「嫁になんぞやらねェ……娘はずーっと、俺んとこで暮らすんだァ……!」
「心底気持ち悪いから止めろ。妄想上の娘が彼氏を連れてきた体で話をするな」
「不気味……『ギア・ダイナミック』、変態……?」
「違うっ! 将来起こり得るシュミレーションだっ!!」
なんていうことを言うんだ、まったく!
俺の目から見て俺の嫁さんは史上最高に美しくて可愛らしいし、手前で言うのも難だが俺は相当な男前だ。
だったらその間に生まれた子供は、息子ならイケメンだし娘なら美女に決まってるんだ。
そんな子たちに纏わり付く虫がいるかもしれないと、今から心配して何が悪い?
「悪くはないけど一人でやっておいてくれ。悪いがね、お客さんだ」
「あん? ……誰だ、どこの妖魔だ?」
「気配? 無反応、無感知? ──敵!?」
ふと立ち止まる千早嬢に遅れること数秒、俺もその気配に気付いた。
そんな俺たちの様子に慌てるも、天羅は少しも感知できてないみたいだ。
修行不足──いや、これは比較対象が悪いだろう。
俺にしろ千早嬢にしろ、ごく一般的な退魔師とは辿ってきたルートも違えば、実力も経験値も段違いだからな。
平均値を底上げする意味では一般的なルートの方が値打ちあるんだが、ある一定のラインを超えた力の領域となると、俺らみたいの方が求められる。
そして今、まさにこの近辺はそのラインを超えた領域と化した、それだけのことだ。
「幻魔くんの弟くんよ、ちいとお前さんにゃ荷が勝つ相手だ。悪いことは言わんから、ここは自衛に努めといてくれや」
「……っ。実力不足、認識。謝罪」
「さすがにこれで修行が足りないとかいうつもりはない。相手は恐らく、超越存在だろうからね」
「御名答。よく分かってるじゃねーか」
悔しげな天羅を不憫に思ったか千早嬢が慰めたのと同じくして、その存在は現れた。
普通に、向こうから歩いてだ。
一見してただのおっさん……厳ついガタイにパツパツのスーツ、ズボンもジャケットも紺色で、髭なんざ生やしてみせたオールバックの紳士風。
なのだが、放つ存在感は人間どころの話じゃない。
妖魔怪異にもこれまで散々、お目にかかってきたが、こいつは群を抜いていやがるな。
これが、超越存在──幻魔くんを契約者と呼び、付け狙う超自然的存在か。
なるほど千早嬢がなんでわざわざ、俺たち特退警にまで協力を依頼してきたか分かるぜ。
こいつは、化物だ。
人の皮を被った怪物は、どこか上機嫌に俺たちへと告げた。
「すげぇな……当代契約者は。こんなやべえ連中を従えてるってかい」
「生憎、私も彼も幻さんのペットでも部下でもない。幻さんはかけがえのない友人であり、心から守るべき親友だ」
「だからって侮るなよ超越存在とやら。俺らの他にもあと数十人、似たようなこと言ってお前さんらに殴りかかる手合いがいるんだからな」
「ふっ、ハハハハハハッ!! どのみちすげえんじゃねえか! 楽しみだぜ、会えるのがよう!」
淡々と返す俺と千早嬢。お互い、既にいつでも戦闘モードに入れるように用意はしている。
何が面白いのか気に入ったのか、一頻り大笑いしてから、超越存在の男は高らかに名乗りを上げた。
「超越存在、悪竜ファフニールたぁ俺様のこった! おめえさんらにゃ怨みも何もありゃしねえがせっかくだ、互いに力比べといこうや、アァっ!?」
「やれやれ、青華の方がまだ話し相手にはなったな、これだと……こいよトカゲ。身の程を教えてやる」
「魔法少女と共闘なんていつ以来だ? ま、愛妻料理を腹いっぱい食べる、準備運動くらいにはなってくれよな、ドラゴンさんよ」
一気に高まる殺気、闘志。
漲る戦闘の空気が、和やかな夕暮れを血染めの戦場へと変えていく。
自称ドラゴンの超越存在と、魔法少女『ファースト・キック』、そして俺、特退警『ギア・ダイナミック』はぶつかっていった。
(^∇^)ノ♪<この作品にバトル展開とかないです