グツグツと、テーブルの上にて鍋が煮える。
中には鳥、豚、白菜、白滝などなど、定番の具材が目白押しだ。
よく火が通ってクタクタになった、これらをポン酢で美味しくいただき、酒をキュッと嗜む。
たまらない。
季節外れの水炊きだったが、鍋料理というのは大抵、皆で囲むとどうあれ美味しいものである。
「くはーっ、美味え! 良いなこのポン酢っての、白菜に染みて味濃いし!」
「そこかよ。おう千早嬢、肉だけじゃなくて野菜も食えよ」
「食べてるだろ! 十名山こそ食わず嫌いしてないで椎茸食えよ! とと、幻さーん。さあさあ一献、ふふふ」
「あ、こりゃまたどうも。お返しに千早ちゃんもどうぞ」
全員、酒を飲み始めてそこそこ経つ。
食前酒と言うにはかなり瓶やら缶やら開けてから、ようやく気分の良い感じで食卓が始まった。
スーパーにて鍋の具材をてんこ盛り。ビールと日本酒、それにワインををしこたま、本当に十人前は買ってきた勝くんとファフさん。
君たちこれ、いざとなったら二人だけで食い切れる自信があるんだろうね?
と思わずして頭を抱えた俺だったが、お酒に興味津々の千早ちゃんによる執り成しもあって仕方なし、とにかく食べることにした。
下拵えなどの調理は千早ちゃんメインで行われた。
意外かも知れないが、彼女、基本的に何でもできる才女なんです。
そんな彼女はワインをグビグビ飲んで──たぶん正規の嗜み方ではないと思う、酔っぱらいの飲み方だ──俺にもしなだれて、上機嫌に擦り寄ってくる。
「ぷは。ふふ、ふふふ……あー、美味しいなあ。お酒って本当に美味しい。ずるいよ大人は、こんな美味しいものを子どもだからって飲ませないんだもの」
「美味しいしある程度までなら気持ちよくなれるけど、基本的には体に悪いからね。千早ちゃん、程々にね」
「んふふふふふー。幻さん、あーん」
「聞いてないなあ。はいはいあーん」
「んふふふふふー!」
にへにへ笑って俺と食べさせ合いっこ。
千早ちゃん、酔っ払うと絡み酒ってわけじゃないんだが、俺に対してすごく甘えたになる。
魔法少女になってすぐに出会い、そこからずっと親交のある俺だからこその寄りかかりなんだろう。
酒がなければ周囲の人にまともに頼ることさえできなくなった、その姿はあまりに切ないものだ。
酒が解禁されたのは、少なくとも千早ちゃん自身にとっては良いことなのかもしれない……飲みすぎなければの話だが。
「おっふぁあ……はふはふ。おいおいあれ、マジに『ファースト・キック』かよ。こないだ俺をハンバーグ寸前まで蹴り尽くした女とも思えねえ姿なんだけどよ」
「ファフさんよ、そこは保証するぜ? 嬢ちゃん、酒が入ると幻魔くん限定の甘え上戸になるんだわ。思うところは分かるがさすがに堪忍してやってくれや。色々、悲惨な身の上なんだ」
「別に責めちゃいねえけど、ちいと意外だっただけだよ。考えてみりゃ、人間の身で俺を叩きのめせるんだ。ろくな目に遭って来なかったなんて嫌でも想像付くわな。おめえもだろ、勝よ」
「今の俺は世界一の幸せもんだぜ? なにせかわいい嫁さんと最高の家庭を築いていけるんだからなァ」
「へいへい、さよかい。つくね美味え……たまんねえ、あぐあぐ」
一方で勝くんとファフさんは鍋をつついてハフハフ言いながらも、どこか大人の雰囲気を漂わせる渋めの会話を広げている。
方や劇画チックな大男、方やマッチョな中年紳士。鍋を囲う様はかなりミスマッチだが、やり取り自体は何やらカッコいい。
男の世界って感じだ。
「うーん。憧れるものが、ちょっとはあるよなあ」
「むう。幻さん、むさ苦しいのより私だろー? 構えよ、構えー」
「はいはい。まったく大人になったのに、酒が入ると子供になるんだねえ」
「私もう大人だってばー。すぐそうやって子供扱いするー」
「ごめんごめんって」
そういう、いかにも背伸びしたがる姿が子どもみたいなんだよ、千早ちゃん。
とても微笑ましい気持ちになりながらも酔っ払った彼女をあやす。
凝っていると言う割にはズビズバと、作法も何もなくワインを飲む彼女の赤く染まった顔が、ずずいと俺に近付けられた。
「ふひい。ようやく幻さんとお酒飲める歳になったんだね、私」
「だねえ。時間の流れってのは早いもんだ」
「あの時、七年前……幻さんが私を拾ってくれなかったら、どうなってたことか。感謝してる、心の底から」
酔った勢いか、今日はずいぶん素直に口を開く。
千早ちゃんのこういう、酒に酔った姿は彼女の成人以降、ちらほら見はしたけれど。
さすがに心情やら本音をつまびらかに暴露するほど酔いが回っているのは今回が初めてだ。
ちょっとまずいかもしれないな、これは。
「勝くん。ちょっとミネラルウォーターもらえる? 千早ちゃん、飲みすぎてるみたいだ」
「おうおう、ほらよ。にしても、いっちょ前に大人になりやがってなあ千早嬢も! 歳食うわけだぜ俺も」
「私酔ってないよ幻さんー。後輩たちにも、いつも感謝してるんだよぉーっ」
「分かってる分かってる。千早ちゃんの真心は、ちゃんと周りに伝わってるよ。ほら水飲もう、ね?」
「うぃー……」
すっかり酩酊してしなだれかかる。
さすがに俺も男だ、こうまでされるとドキドキしてしまうもんだけど、それより千早ちゃんの体調が心配になる。
水をコップに入れ、飲ませる。
あらかじめ二日酔いの薬もあるし、何かあればすぐ動けるようにはしておこうか。
「ほら、ちょっと横になって。ゆっくりお休み」
「うー……うんー……お休み、幻さん……」
ひとまずは千早ちゃんを、もう眠たげだし俺のベッドに横たわらせる。
男の寝床だし不快だろうが勘弁してほしい。
さすがにこうなることは予想してなかったんだよ。
(^∇^)ノ♪<酔っ払うと甘えたな猫みたいになるクール系愛が重い女の子すき