すっかり眠り込んだ千早ちゃんはさておいて、俺と勝くん、ファフさんの三人は飯もそこそこに、どちらかと言えばちびちびと酒を飲みながら夜更けを過ごしている。
俺やファフさんはともかく、勝くんは非番だったらもうそろそろ家に帰らないと、奥さんが待ってるんじゃないの? 新婚だったらもう少し、家庭を大事にしても良くないかな。
そんな俺の言葉に、苦笑いしつつも勝くんは答えた。
「元々、夜勤だからなァ今日は。それに一応、今だって勤務中、じゃないにしろ、仕事はしてるんだぜ? 超越存在ファフニールの監督と接待っていう、大事な大事なお勤めだ」
「接待?」
「お偉方、超越存在とは仲良くしときたいみたいでなァ。まあそらそうだわな、俺や千早嬢にも食らいついて来るようなの、どうあれ野放しにはできんしよ」
それは中々、政治的なアレコレの絡む話だった。
今後、契約者であるところの俺を求めて次々、超越存在が人間世界にやって来ることが、ファフさんから示唆されたそうだ。
となれば混乱は必至、できる限り戦力をかき集めておきたいというのが、お国ないし組織の考えるところなのだろう。
つまりはファフさんを懐柔して協力関係を結び、それを皮切りに友好的な超越存在を傘下に置きたいのだという。
「そういう目的もあって今回、正式な任務として、超越存在にも勝てる俺みたいのがしばらくは手綱を握ることになったのさ」
「んなもんなくたって、別に人の世に迷惑かける真似はしねぇんだけどな。まあ、こうして美味い馳走にありつけるし契約者の近くにもいられるし、せっかく世話焼いてくれるってんなら、そうしてもらおうかなってよ。へへへ」
聞いていて、何ともはや、な話だと思う。
俺の存在を目当てに降りてくる途方も無い力の持ち主たちを、各組織で取り合う争奪戦みたいになりはしないかな、それ。
ていうか、もうそこまで行くと俺、なんにも関係なくないか? それで変に巻き込まれそうなら、さすがに理不尽なんだけど。
「無関係って……んな訳ねぇだろ、契約者。どうあれ、あんたが一番の中心なんだよ。どの局面においてもな」
「いやでも、聞いた限りだと俺、ただの目印みたいなもんだし。正直、それならそれで迷惑にならないところで勝手にやっといてほしいんだけど」
「聞いてた通り、欲がねぇのなぁ」
「幻魔くんだからなァ」
呆れるファフさんにしみじみ返す勝くん。
欲も何も、欲しくもない何かしらで下手な巻き込まれ方して、今の日常が壊れることだけは嫌なんだけど。
強いて言うならそれが俺の欲望だよ。
そんな俺に、少しばかり気の毒げな顔をちらつかせてファフさんはなお、続ける。
「俺たち超越存在はな、契約者あってこそ人間世界に降りられるんだ。その時代時代の契約者が持つ適性に合わせた、超越存在のみがな」
「んー? それって、何人いるか分からないけど超越存在の全員が全員、こっちに来られるわけじゃないってこと?」
「通常であればな。だがあんたは違う。あんたの契約者としての適性、素質ってやつは、本気で桁が違う」
曰く、俺の契約者としての器とやらは底抜けに深く果てしなく広いそうで。
高次元に住まうありとあらゆる超越存在たちを、一度に降ろしてなお余りあるほどにキャパシティがあるのだそうだ。
何だそれ、言われても困る。
しかも聞いてたら、つまりは俺のせいで厄介な連中が大挙して押し寄せて来るんじゃないか。
いよいよとなったら世界から死を望まれるような話にならないか、俺?
「そうなるかならないかは、それこそお前さん次第さ契約者。契りを結んで一言、『人の世を害するな』とでも言っとけばそれで収まる」
「最強パワーで成り上がりってやつ? 興味ないんだけどなあ」
「別に成り上がる必要もねえだろ。力を手にしたって、使わなけりゃ良いだけの話だ」
「むーん……」
悩ましい話だ。
今の話から考えると、いずれは俺の存在こそが問題だってなりかねない。
それを避ける意味でも今、ファフさんが言ったように俺が契約者として超越存在を大人しくさせるというのは、まあ理に適っているのだろう。
万が一、俺に危害が及びそうな時にも、護ってもらえたりするとありがたいものな。
しかし、だ。
各退魔組織の思惑的に、俺がそういうことするのってどうなんだろう?
「たとえば俺が、降りてくる超越存在と片っ端から契約していくとしてさ。それって、戦力確保したい考えの組織と対立することになる、のかな」
「かもしれんが、そもそも人間たちは誤解してんだよ。俺たち超越存在が、どうして契約者以外の言うこと聞いてドンパチやるだなんて思ってんだかな」
「……あー、やっぱりあれか。今は幻魔くんと酒につられて大人しくしてやってるってだけの話か?」
渋い顔をして勝くんが割って入る。
一応、接待している最中の身の上で、自分のやっていることが無意味だと言われてはこうもなるだろう。
ファフさんは彼に目を向けて、当たり前だと笑って頷いた。
「勝よ、国に伝えときな。超自然的存在を人の身で制御せんとする、その考えこそが既に破滅的だとな。契約者あっての超越存在を、契約者抜きでどうこうできると夢にも思うなってよ」
「やれやれ、また小言言われちまうな……了解」
「ええと、つまり?」
まったく、と息を吐いてやけ酒めいた飲み方をする勝くんとは裏腹の、不敵にコップを傾けるファフさん。
超越存在が人の手に余る代物だってことは分かったし、勝くんを通して国も知ることになれば、また対応も変わってくるんだろう。
しかし今の言い方、俺を積極的に巻き込む魂胆が見えてちょっと顔が引きつる。
まさかと思いつつも問えば、ファフさん──超越存在ファフニールはにやり、悪魔めいた笑みで答えるのであった。
「柊幻魔、当代の契約者よ。俺と契約を結びな」
(^∇^)ノ♪<各組織から見ると何考えるんだかマジで分からなくて不気味そのものな主人公すき