「結論から言うけど、俺はどんな超越存在が来ても契約する気はないよ」
力強く言い切る幻さんに、十名山もトカゲも怪訝な顔つきだが、私は一人、会心の笑みを浮かべて頷く。
別に私の意向を受けての決断ではないだろう。
この人は自分の選択に、他人の意思を絶対に挟ませない人だ。
だけど、長い付き合いでそれが分かっているからこそ。私の願うものと同じ答えを出してくれたことが、とても、とても嬉しいのだ。
「おいおい、契約者よ……さすがにそりゃあ無理だぜ? いくら強情張ろうが、向こうさんらはあの手この手で来るんだからよ」
「超越存在だけじゃない。関東退魔会や近畿陰陽協会、それに……恥ずかしい話だが俺たち特退警。人間の組織だって、もう幻魔くんの情報は掴んでる。動き出してるぞ」
「うへー……予想は何となくしてたけど、そりゃそうなるかあ。何でこう、皆して大騒ぎするんだろうね」
トカゲと十名山の物言いも、癪には触るが分かるものだ。
もう既に幻さんは、これからの退魔世界における中心人物なのだ。
彼を手に入れれば、自然と超越存在をも手に入れられるなどという、戯けた妄言と共に動き出すものは数多いだろうから。
「柊家や六門道家だって動いてる。いくら魔法少女が付いてるからって、数の暴力にはひとたまりも──」
「うん。だからさファフさん。特退警抜けて俺の近くで住みなよ」
「…………、なに?」
「げ、幻さん?」
突拍子もないことを言い出したぞ、この人。
さっき、契約しないと言ったのに、何でトカゲを近くに置こうとするんだ。
魔法少女だけで不安だっていうなら、何としてでもその辺の退魔組織をいくつか傘下に置いて、こっちだって組織化してしまえば良い。
形振り構わない、手段は選ばない。
必ず幻さんは守り抜いてみせる。
そんな私の決意と裏腹に、彼はまた、こんなことを言う。
「契約はしないよ? でも俺の近くで、人間世界を楽しむついでに俺を守ってくれるんなら。それも一つのウィンウィンってやつじゃないかなってさ」
「いや、いやいやいや……」
「それで他の超越存在が来たらその都度、こんな風に説得して、俺の近くにいてても良いから大人しくしてなよって言う。ダメそうなら、申し訳ないけど皆の力をお借りしたいかなー、なんて」
「……ふむ」
「ファフ?」
だいぶ、無茶な理屈だ。
そもそもトカゲの方には、契約もしない幻さん相手にそこまで尽くす義理がないように思える。
それに他の超越存在を説得する、というのもいささか以上に楽観が過ぎる。まさしく眼の前のトカゲみたいなのが、問答無用で襲いかかってきたらどうするんだ。
話を一度聞いた限りでもいくつか浮かぶ、そんな疑問点。
超越存在でない私でも十名山でもそう感じて、困惑を滲ませているのだから、トカゲなど余計にそうなのではないのか?
そうだろう? 何思案してるんだ、おい。
「悪くは、ねぇのか?」
「何……?」
「契約者と超越存在が契約を結ぶってのはな。契約者にとっては最強の獲得と立身出世への確約がなされるっつうメリットがあるんだが。超越存在にももちろん、メリットがあるのさ」
曰く。
超越存在にとって契約者との契約とは、人間世界でも権能を発揮できることと、不安定な自身の存在を安定せしめる効果があるのだという。
というのも、こいつらは元々が高次元からの来訪者だから、受け皿である契約者がいない状態でこの世界に降り立ったところで、権能が発揮できなかったり、契約者の器の外に出ると世界から追い出されたりするのだそうだ。
「契約っつうのはつまり、契約者の持つ器の一部を、超越存在に携帯させるイメージで考えていいぜ。それがあって初めて、俺たちは人間世界のあらゆる場所において十全を発揮できる」
「ってことは、契約がなくても器、つまり幻魔くんの近くにいるなら問題はない、と?」
「権能が発揮できねえのと、それこそ一定範囲外には行けねえってだけだな。範囲問題にしたって、そこな契約者様は化物みてえにでけえ器してらっしゃる。ひとまずは海を渡るとかでない限り、大丈夫なんじゃねえかな」
「良かったー。じゃあ問題ないね、ファフさん」
にこにこと、笑う幻さん。
まさかトカゲ側の理屈を、ある程度でも見抜いていてこんな提案をしたのか?
そんなことが、いやでも、あり得るのか?
「上手く行けばさ。超越存在のみんなは、人間世界に迷惑をかけずに溶け込めるし。人間世界は、大した問題にならずにそのままだし。俺だって、変ないさこざに巻き込まれないで済むしさ。もう三方一両得ってやつじゃない? これは」
朗らかに笑うその顔の、底知れなさをひしひしと感じる。
そうだ……滅多にしかないことだけど、この人は。
たまに、ものすごく大きく見えるんだ。
「かなりのお花畑理論だが……幻魔くん主導で、超越存在が手伝うんなら、あり得る話、なのか?」
「ふ、ふふふ。どうあれ幻さんを嵌めたお前に拒否権ないだろ、十名山。おめでとう、表向き特退警だが実際は立派な『幻魔組』だ。もちろん魔法少女も加わるとも。ふふふっ」
「幻魔組だァ? どこのアウトローだよ」
「そのネーミングは止めてほしいなあ、千早ちゃん……」
そうとなれば面白くなってきた。
幻さんが中核になって、魔法少女と、超越存在どもと、十名山みたいな退魔関係の知り合いたちが一堂に会して。
今ここにある溜り場の平和を護る、ひとかたまりの集団になるんだ。
名付けて『幻魔組』。
良いねえ、早速後輩たちにも連絡しなくっちゃ!
「おい契約者。『ファースト・キック』、どうしたんだよ? えらく盛り上がってんぞ」
「何か、変なスイッチ入ったのかな……あんまり大仰にしてほしくないんだけどな。俺、一般人なんだし」
「どこが一般人なんだよ、退魔世界の中心にどっかり座ってる癖に」
「退魔世界の一般人ってか。その時点で一般人じゃないんだぜ、幻魔くん」
「一般社会の一般人ですけど! 退魔とか関係ないんですけど!?」
幻さんの、楽しげな声を心地よいBGMとして。
私はSNSを駆使して、後輩たちに今日の顛末を伝えるのだった。
(^∇^)ノ♪<タイトル回収すき