退魔世界の一般人   作:てんたくろー

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柊幻魔・16

 やれやれ、昨日はどうにかひとまず収まって良かった。

 それにしたってまったく、たかだか俺一人にみんなして、はしゃぐもんだよなあ。

 

 ファフさんと、彼にノセられた勝くんおよび特退警が、俺に契約を迫ってきて。

 それに反応して酔い潰れていたはずの千早ちゃんが飛び起きてブチギレ、それをなんとか宥めて抑えて、俺も含めた全員が納得できるような妥協点を見出した日から一夜明け、今。

 

 色々しなきゃならんことが各々、あるらしく三人は帰っていった。

 とはいえもしも俺に何かあるといけないからと、今でも家の周辺を特退警の方々が見張っているとのことだ。

 ありがたい話だと言わなきゃならないのかな。

 一応国家組織なんだし、あんまり個人への肩入れとかどうかと正直、思うんだけどね。

 

「にしても、幻魔組ときたか……」

 

 モーニングコーヒーを飲みながら、千早ちゃんのあまりにあんまりなネーミングに思いを馳せる。

 たしかにまあ、やって来た超越存在を軒並み近くに置いて大人しくさせれば良いんじゃない? って発想は、実現したら一つのグループみたいになるだろう。

 危険な人たちをそんな風に集めたら、傍から見たら、いわゆる強行突破で生計を立てていらっしゃるタイプの方々と思われても仕方ないのかもしれない。

 

 だからといって、組はないだろ組は、と思うわけではあるのだが。

 せめてサークルとかクラスタとかの扱いにしてほしい。あるいはクラブ、同好会。

 名前に組って付けちゃうと、どうしてもイメージが偏りそうな気がして怖い。

 何考えてこんな名前付けたんだ、千早ちゃん。

 

「にしても。どうするかなあ……」

 

 名前の件はさておいて、やはり時間を置くと不安が出てくる。

 俺の、選択は正しかったのか?

 間違っていたとして、ならばどうすれば良かった?

 やって来るらしい超越存在に対して、しっかり説得できるのか?

 できなければ荒事になる、その覚悟が俺には、本当にあるのか?

 ──いずれの問いにせよ答えは出ない。

 当たり前だ、口から出任せを言ったつもりはなくとも、根拠は確たるものがないんだから。

 そんな程度の話で俺はたくさんの人を巻き込んで、自分の命だって賭けかねない話をしてしまった。

 

「……怖い」

 

 俺のせいで色んな人に迷惑がかかる。

 俺のせいで、変な奴らがやって来る。

 その結果、俺の近くに人がいなくなるのが、怖い。

 

「今さら、なんだよな」

 

 それでも俺は、そういう葛藤を全部、飲み込んだ。

 もう、選択を俺はしたんだ。

 10年前、突然すべてを失った時とは違う。

 全部織り込んで、俺はそれでも選んだ。

 

 人に迷惑をかけてでも、変な奴らに目を付けられてでも。

 俺の傍からまた、誰も彼もが一人としていなくなっても。

 今ここにある日常を護る、そう決めたんだ。

 そのためなら何だってする。

 命だって懸けるさ。

 

「だから、みんなにも、そばに、いて欲しいよなあ……」

 

 一人は嫌だ。

 孤独だけは嫌だ。

 雨晒しの下、死にかけのゴミみたいな命を、ひとりぼっちで抱きしめて繋ぐことだけは、もう、いやだ。

 

 やっと手に入れた今を護る。

 そのためなら俺は。

 

「何だってやるさ、必ず……」

「……思い詰めないでください、幻魔さん」

「うおおおおっ!?」

 

 何だ、誰だぁ!?

 急に声をかけられ身体が盛大に跳ねる。

 あわわコーヒーこぼしかけた、危ない!

 

 あんまり考え込んだせいで、勝手知ったる友人たちの訪問に気付かなかったみたいだ。

 振り向くとそこには、いつもやって来てくれる子たちがいた。

 

「す、すみません幻魔さん。そこまで驚かせるつもりは」

「楓夏先輩、やっぱりチャイムは鳴らした方が良かったんじゃ……」

「むう……面目ないな、京子」

「いや! いやいや、ボーッとしてた俺が悪いから! ごめんごめん、よく来てくれたね楓夏ちゃん、京子ちゃん。いらっしゃい二人とも」

「こんにちは、幻魔さん」

「幻魔の兄さん、おはよー!」

 

 魔法少女『サード・タイフーン』楓夏ちゃんと、同じく魔法少女『シクスス・ワイルド』京子ちゃん。

 この間とはまた違った組み合わせでの、魔法少女の先輩後輩の来客だった。

 二人はどこか気遣わしげに俺に近寄ってくる。

 

 しまったな。さっきの独り言、聞かれちゃってたみたいだ。

 深刻な感じ出しちゃったけど、要約すると、もうやっちゃったもんは仕方ないよねってなもんなんだが。

 そんな俺の内心は露知らず、心優しい彼女らは俺に、暖かな言葉をくれる。

 

「事情は千早先輩から既に聞いています。大丈夫です幻魔さん、どんな化物が来ようが必ず、あなたは守り抜いてみせます」

「社会的に認知されてないなら潰せるし、退魔組織でも幻魔の兄さんにちょっかい出すなんて悪事も悪事、大悪事だもの。遠慮なく関係者全員叩くから! 安心してね、兄さん!」

「あ、うん。ま、まあ程々にね、うん」

 

 すごいな、さすがに魔法少女だ。

 昨日の今日で既に事態を把握して、誰が相手であれ戦う気満々じゃないか。

 京子ちゃんはさすがにちょっと、手加減した方が良い気がするけれど……俺なんかよりよほど、覚悟が決まっている。

 

 情けないな、俺。

 自分で決めたことに悩んで、巻き込んだ彼女らの方がよほど、迷いがないなんて。

 けれど、おかげでどこか、吹っ切れた……そうだ、俺は俺と俺の友人たちとの日々を護るんだ。

 当たり前の日常を、一人じゃない暮らしを護るんだ。

 

 迷いが晴れた気がして、少女たちを見る。

 闘志に溢れる魔法少女たちの姿は、眩い程に頼りになるものだった。




(^∇^)ノ♪<千早のネーミングセンスには全会一致で首を傾げる魔法少女たちすき
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