退魔世界の一般人   作:てんたくろー

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柊幻魔・18

 今日の献立に必要なものと、それに加えて日用品の補充をいくらか。

 そして楓夏ちゃん、京子ちゃんのおやつとジュースを買い込んで俺たちはスーパーを後にした。

 

 昨今はエコが叫ばれてるから、俺もエコバッグは常備している。

 そこそこ詰め込むことになったので重量はあるが、まあこれしきなら俺でも持てるくらいだ。

 ちょっと……正直、いいとこ見せたい思いもあってバッグを預かる俺を、やはり心優しい二人の少女は気遣ってくれていた。

 

「幻魔の兄さん、あたしたちも持つよー?」

「なーんの、これしき! まだまだ若いもんには負けないってね、ははは!」

「幻魔さんはお若いですよ」

 

 そりゃどうも。10歳も下の子に言われるとなんだろ、複雑なものがあるなあ。

 18歳……か。

 俺の人生がまあ、正しく180度変わったタイミングだったなあ。

 

 まさかあの頃は10年後、アパートに住めて生計も立てられて、しかも家を訪ねてくれる人がたくさんいて一人じゃないぞ、なんて思いも寄らなかったことだ。

 冗談でも何でもなく、大袈裟な話でもなく、この歳になるまでに死ぬだろうなって思ってたし。

 

 一番やさぐれて拗ねてた時は、生まれてきたことが罪で、こうなったのはその罰なんだとかなんとか、変なこと考えてたなあ。

 あれもいわゆる中二病とかなのかね。

 そういう考えから脱せたのは、そう、ちょうど。

 

「千早ちゃんと会った辺りかな」

「千早先輩? どうしたんです?」

「ああいや。昔をちょっと思い出しててね。色々あった俺が落ち着き出したのは、元を糾すと千早ちゃんと知り合ったくらいが起点なのかなーって」

「そうなの? どんなんだったんです?」

「うん? そうだなあ」

 

 当時を思い出す。

 千早ちゃんとの初対面、忘れもしない。

 ようやくホームレスを脱出できた俺がたまたま、豪雨の中、一人でさ迷う女の子を見つけたのだ。

 

 あからさまに何かあった感じだから、ひとまず警察に連れて行こうとしたら、それだけは駄目だと涙ながらに助けを求められて。

 かと言って彼女の自宅を聞いたら黙りで。

 見捨てるなんて論外だったし、長居してたら身体に障るしで、最悪、俺が未成年略取で捕まることを覚悟の上でこの家にあげたのだ。

 

 そうして、彼女……魔法少女『ファースト・キック』、千早ちゃんから事情を聞き。

 俺と彼女、ひいては魔法少女の付き合いは始まったんだった。

 

「お互い、色々荒んでた時期でさ。傷の舐め合いってのが一番、しっくり来るような依存の仕方をしてた自覚はあるよ」

「き、傷の舐め合い」

「な、なんだか響きが大人っぽいですね……」

「変なことはしてないからね、悪しからず。色々、寄りかかり合ってただけだよ」

 

 舐め合いって表現、たしかに年頃の子には誤解されかねないのか?

 ともあれ、本当にそうとしか言いようがないからね。

 千早ちゃんは俺以外に頼れる人も、寄りかかれる人もいなかった。

 俺は千早ちゃん以外に愚痴れる人も、必要とされることで自分の存在価値を満たせる人もいなかった。

 

 頼れて満たされる女の子と、頼られて満たされる男と。

 互いが互いに、ちょうどそこにいた都合のいいお互いだった、ってことなんだろうな、最初は。

 

「でも。今はもちろん違うよ」

「まあ、私が魔法少女になった頃にはもう、共依存という感じはしていませんでしたしね」

「そこはもう、美琴ちゃんのツッコミがあったからねえ」

「美琴先輩の?」

 

 そう。

 俺と千早ちゃんの、そんな感じのダメな方にズブズブだった関係に、意図せずとも喝を入れてくれた子がいた。

 それこそが二代目魔法少女『セカンド・パンチ』、美琴ちゃんだったのだ。

 

「『気持ち悪いっすよあんたら、ナメクジかっての』」

「……そ、それはまた」

「ナメクジって……」

「いやもう、ほんとバッサリ。ある意味で酔い痴れてた俺と千早ちゃんでも、素面に戻らざるを得なかったよ」

「でしょうね。しかしまさか、美琴先輩がそんなことを」

「後から謝られたけど、逆に言えばあの子がそんな発言しちゃうくらい、俺たちは気持ち悪かったってことだね」

 

 いやはや、あの時はもう。

 俺も千早ちゃんもひたすら、恥じ入るばかりだった。

 どう考えても病的な関係だったのを、当時知り合ってばかりの美琴ちゃんに見抜かれてドン引きされたのだ。

 何の恥にも思わないほど、俺は子どもじゃなかったし、千早ちゃんは愚かではなかった。

 

「言葉には出さないけどね。千早ちゃん、美琴ちゃんには深く感謝してるんだよ。裏腹の厳しさはあるけど」

「唯一、美琴先輩にだけはやたら辛辣なのは、直接指導した弟子だからだと思っていましたが……」

「内心で対等だと思っているから、かもね。早く超えて欲しい、師匠心ってやつさ」

 

 歪んでいた心を正してくれた、あの真っ直ぐすぎて問題だらけなくらいに真っ直ぐな美琴ちゃんを、たぶん誰より評価してるのは師匠たる千早ちゃんだ。

 だからこそ、他の後輩たちとは違ってより対等を求めて、あるいは自分以上を求めて厳しくなるんだろう。

 

「なるほど……お二方らしいかも、ですね」

「深い、お話なんだねえ……」

 

 初めて聞いた、偉大なる先輩たちのそういった話に、楓夏ちゃんも京子ちゃんも、感嘆の吐息を漏らしていた。




(^∇^)ノ♪<尊敬する先輩たちの裏話を更に目上のおじさんから聞かされる後輩すき
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