退魔世界の一般人   作:てんたくろー

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楓夏視点


楓夏/魔法少女サード・タイフーンⅡ

 今日は朝から、幻魔さんの元気がなかった。

 理由は分かっている。

 契約者という己の素性を目当てにやって来る、超越存在どもを憂いているのだろう。

 千早先輩の言ったとおり、昨日、何やら大きな決断をされたのは間違いないみたいだ。

 

「ふう。二人とも、買い出しに付き合ってくれてありがとね」

「いえいえ」

 

 スーパーから帰ってきた時にはもう、幻魔さんはすっかりいつもどおりだ。

 買ってきたものを片付け、整理し、落ち着いたらコーヒーを飲んで私たちと雑談して笑っている。

 今朝垣間見せた、懊悩など欠片もなかったかのようだ。

 

 だけど、私は思う。

 その垣間見せたもの、孤独への恐怖。

 超越存在との、暴力を介さないやり取りを前にして、周りから人が離れていくことをひどく恐れるような、か細い声。

 それこそが、幻魔さんが抱える過去の傷跡、なんだろう。

 

 先程も過去、千早先輩と共依存のような状態になった時期があると仰っていた。

 千早先輩はあれで結構、繊細というか、色々抱え込みがちな人なので、そういった過去も何となく納得するが。

 私から見ていつも泰然と構えている印象のあるこの人のそんな、何かに縋り付いて生きている姿は、中々想像しにくいものだったりする。

 

「幻魔の兄さん、ゲームしても良い?」

「お好きにどうぞ。家にそういうのないの?」

「古いのなら。家族がゲームしないからねー」

「そっか。まあうち、ゲーマーもそこそこ来るからね」

 

 ゲームをし始める京子と、幻魔さんが話す。

 ゲーマー……千早先輩もだったか。

 私はそもそもゲームに触れたことがほとんどないから、楽しさが分からないが。

 まあ見てる限りとても楽しいものなのだろうな、と微笑む。

 

 平和な空気だ。

 魔法少女として戦う私たちには、いや私たちだけでない、幻魔さんの退魔関係の友人知人にとっても、ここはかけがえのない場所だろう。

 誰も、プライベートでまで戦い香る場に近くありたいとは思わないものだ。

 その点ここは、戦いとは無縁の場所だ。無縁でなければならない場所だ。

 

「楓夏ちゃん、どうかした? 何だかずっと俺の方見てるけど」

「いえ。何となく、幻魔さんを見てると落ち着くんですよ」

「リラックスアイテムだったか俺ー」

「ええ。少なくとも私にとっては」

 

 照れてコーヒーを飲む幻魔さん。

 いつも通りだ。いつ来ても、留守にしていない限りは幻魔さんはこんな感じでここにいる。

 私が魔法少女になった時から今に至るまで、ずっと。

 それがどれだけありがたいことか。

 

 私にも実家はある。

 それなりに裕福な家庭だが、現状はあまり、雰囲気が良くない。

 当然だ。魔法少女なんてものになった娘が一人、しかもその絡みでもう一人、娘が命を落としているのだ。

 おかしくなって無理はない。

 

 両親の、ひどく心配げな、それでいてどこか、化物を見るような目は……もう慣れたことだけど、最初はショックだった。

 他の魔法少女も大なり小なりそんなものだろう。

 突然娘が超常の力を得、日々妖魔と戦うようになったなんて。

 受け入れられる人間の方が少ないのだ。追い出されないだけ愛のある話ですらある。

 

 そんな私たちにとり、ここはホームだ。

 事情を知り、寄り添ってくれて、居場所になろうとしてくれる人がいる。

 力がなくても頼りになろうとしてくれている、人がいる。

 それがどれだけありがたいことか。

 

 ──だからこそ。

 そんなありがたい人が落ち込んでいるなら、私が寄り添ってあげたいと思う。

 

「幻魔さん。こんな時に難ですが……もっと私たちを頼ってくださいね」

「え。結構色々、頼んでるけど」

「持ちつ持たれつ、で言えばもっと頼ってもらって良いんです。特に今、幻魔さんの周りには残念ながら、様々な陰謀や思惑が渦巻いているんですから」

「あ、あー。うん、そうね。残念なことに」

 

 何でこんなことになってるんだろうねえ、なんて笑う幻魔さん。

 やり切れなさを感じさせる乾いた笑みだ。

 無理もない。

 何の役にも立たない、よく分からない己が内なる素質を原因にして、このような望まぬ状況に陥っているのだ。

 超越存在を説得して契約無しで近くに置く、という彼自身の決断をした今でさえ、どうしてこんなことに? という感覚は付き纏うだろう。

 

 だからせめて、言葉にして、態度にして示さないといけない。

 あなたは一人ではないのですよ、と。

 

「私たち魔法少女は、何があっても幻魔さんの側にいます」

「……今朝の、そこまで深刻に捉えなくても良いんだよ」

「深刻なことですよ。私たちの大切な人、大切な居場所がどうにかされてしまう、瀬戸際の話なんですから」

「お、大袈裟だなあ」

 

 呑気に笑う。

 自覚が足りない……けれどそれで良いんです。

 あなたはそれで良い。

 どこまでも日常らしい、あなたでどうか、いてほしいから。

 

 戦いなど、それをできる者、それをやりたい者だけでやっていれば良い。

 戦えない人、戦いたくない人が戦わなければならないなら。

 それはもう、犠牲が生まれてしまっているのだ。

 私たち魔法少女は、犠牲を生まないために戦う。

 

「大丈夫。あなたの側には、魔法少女がいます」

 

 二度と、誰も犠牲にしないために。

 決意と共に、私は幻魔さんに強く告げた。




(^∇^)ノ♪<一見物腰柔らかだけど実はクソ真面目でめちゃくちゃ頑固な女の子すき
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