退魔世界の一般人   作:てんたくろー

3 / 34
柊幻魔・3

 青華ちゃんが出ていって少し、沈黙が流れた。

 窓を見る。外はよく晴れた天気のまま、車と子供らの声が聞こえてくる。

 

 急に現れて急に奇妙な提案をしてきた彼女が、嘘をついているとも思えない。

 超越存在だったか、そういう超自然的なモノであるのはこれまでの経験上、見ただけでも分かるくらいだったし、何よりあの言動、態度からは嘘の匂いがしなかったからだ。

 

 そう考えると、俺の態度は少しばかり辛辣だったろうか。

 気にする俺に、千早ちゃんはにこやかに笑って答えた。

 

「あれでそんなこと気にするなんて、実に幻さんらしいね。大丈夫。受けてきた苦痛からは考えられないくらい平和的な物言いだったよ。若干、人間味がなかった程にね」

「そう? 人間味ない?」

「普通はあの青華さんの言っていたように、復讐の一つ二つ、どころか十重二十重くらいは乞い願っても許されるだろうに。そのくらいには、私から見てもあなたの歩んできた道程は苦痛と屈辱に満ちていたように思う」

 

 そうかなあ。俺としてはあんまり生きることに必死すぎて、何であれ、こんなもんかで済ませてきたけれど。

 人間味の欠如とまで指摘される程というのは些か心外だ。別に、良いじゃないかと思うんだが。

 

「思うに、世の中の誰もが一律に『やられたらやり返す、倍返しだ』なんて考え方はしてないと思うんだよね」

「それはそうだね。そこは性格それぞれだし、それこそ思想の自由というやつさ」

「でしょう? だからまあ、俺もそういう手合いであっても良いんじゃないかなあと、思うんだけれどね」

「……本当に、憎かったり、悔しかったり、やり返したいとか。思わないのかい?」

 

 じっとこちらを見据え、問いかける千早ちゃんにふむと考える。

 先程も青華ちゃんに言ったが正直、今でもほんのちょびっとはそういう気持ちがなくもない。

 ただ、それがすべてになることはまずないだろう。だからいわゆる復讐が、行われることもない。

 何でかって? そりゃあ、

 

「……今の暮らしが好きだからね。バイトして日銭を稼いで、余暇は好きに暮らして、千早ちゃんや君の後輩さんたち、友だち知り合いたちが何でか頻繁にやって来ては楽しく騒げるこの今が」

「だから守りたい、か」

「曲がりくねって醜くっても、俺が歩んできた人生だから。今さら取って付けた幻想でおざなりにしたくないよ」

 

 色々あったけど、結局は自分の選択でここに落ち着いた。それなりに満足しているし、納得もしている。

 だからこれで良いんだ。これが良い。

 

 千早ちゃんは、優しく微笑んでくれた。

 

「まったく、幻さんは本当に、幻さんだね」

「何さ、それ」

「私の大好きな、大きくて優しい、とても素敵な男の人ってことだよ。ふふふ」

 

 何とも聞いていて照れ臭くなることを、また堂々と言うよねえ、この子。

 鼻を掻いて、こほんと咳払い。きっと顔は赤くなっているだろう。にんまり浮かべる笑顔の千早ちゃんを無視して、俺はそれにしてもと呟いた。

 

「青華ちゃん、どうするつもりだろうね」

「さあ? ま、私としては幻さんの思うままにして良いと思うけれど。契約だっけ? 何とも胡散臭い単語を使ってくれるね」

「千早ちゃん的には思うところあるよね、契約って」

「何しろ『魔法少女』一号なもので。その手の話はお腹一杯だよ、後輩たち含めてね」

 

 肩を竦める。いかにも千早ちゃんらしい飄々たる仕草と物言いだが、そこに込められた想いは並々ならぬものがあるだろう。

 

 ──魔法少女。これも退魔世界に名の知れた話で、半ば都市伝説みたいになっているがしっかり実在する話だ。

 妖魔による世界制覇を企む組織によって契約を結ばされた少女が、しかし洗脳を受ける寸前に脱出。以後、人間世界を守るためにその組織と戦い続けている、という。

 

 今や世に七人もいる魔法少女たちの、実は千早ちゃんこそが初代だったりする。

 7年前、ちょうど俺と初めて会ったあたりで彼女は魔法少女として変身させられ、以降潰しても潰しても出てくる妖魔の犯罪組織と戦っているのだ。

 

 いやまったく頭が下がる。さっき彼女は俺の半生を苦痛と屈辱に満ちたと言うが、彼女にこそそれは言えるだろう。

 当時13歳の少女がたった一人、超常の力を与えられ、洗脳まで受けかけてなお奮い立ち、悪と戦う道を選び戦い抜いたのだから。

 

 知らず、尊敬と少しばかりの同情が視線として千早ちゃん向かってしまったのかもしれない。

 七年経ち、今や立派に成人した彼女は穏やかに微笑み、応えた。

 

「またそういう、優しい目をしてくれる。私はそれに弱いんだから、止めてくれないかな。疼く」

「疼くって……傷が?  そうでなければ男に向けてそういうことは言うものじゃないよ」

「もちろん傷じゃないともさ。いや、あるいは傷かな?  貴方が傷を付けてくれるならね。ふふふっ」

 

 妖艶な笑みさえ浮かべて愛しげに見つめてくる千早ちゃんの、仕草が独り身にはよく効く。

 まったく、と苦笑いしながらも俺は、コーヒーを一口飲むのだった。




(^q^)<でも復讐とかざまぁって超スッキリするよねすきすきだいすき
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。