退魔世界の一般人   作:てんたくろー

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京子視点


京子/魔法少女シクスス・ワイルドⅡ

 楓夏先輩の拵えた、茄子のお浸しを頬張る。

 うーん、相変わらずすごく美味しい。プロ級と言っても過言じゃないよ。

 焼魚もいい感じの焼き加減で脂が乗ってて美味しいし、味噌汁も良く出来てる。

 あたしにはまだまだ、このレベルの調理はできそうもないなあって、強く感じる。

 今回は少し手伝っていたから、間近で先輩の手際を見ることができたのでなおのことだね。

 

「んー、おいしい。やっぱり楓夏ちゃん、ご飯上手だねえ」

「恐れ入ります」

 

 幻魔の兄さんも美味しそうにそうした、手作り料理を食べてはしきりに褒めちぎっている。

 その度に頬を染め、微笑んでいる楓夏先輩がすごく美人さんだ。

 うーん、将来は良妻賢母って感じ。

 あたしもこのくらい落ち着いた、大人の色気みたいのを出していきたいな。

 他の魔法少女たちにはない、そういう魅力がこの先輩にはある。

 

「ふう。ごちそうさまでした。美味しかったよ楓夏ちゃん。京子ちゃんも、ありがとうね」

「どういたしまして。喜んでいただけて何よりです」

「へっへへー。よろしゅーおあがり! 楓夏先輩も、勉強になりました!」

「京子も、手伝ってくれて助かったよ。ありがとう」

 

 ご飯も食べ終わって、ふと一息入れる。

 これから訪れる夏の気配を思わせて気温も暖かだ。

 窓から柔らかな日差しが入って、赤く染まる町並みを映す。

 どことなく、感傷的な気分になるから夕方って不思議だなあ。

 

「後片付けは俺がやるから、二人は楽にしといてよ。もう少ししたら帰るでしょ?」

「そうですね。お言葉に甘えます」

「あと一時間くらいしたら帰るねー」

「はいよー」

 

 食器を台所へ片付けていく幻魔の兄さん。

 これもいつものことだ。

 作るのはあたしや楓夏先輩、片付けるのは幻魔の兄さん。

 何となく……家族って感じがして、こういうのとても好きだ。

 あたしは特に、生まれつき両親がいなかったから、余計にかな。

 

 父はあたしが生まれる少し前に、そして母はあたしを産んですぐに。

 それぞれ亡くなってしまって、あたしは孤児になった。

 村の皆が共同で育ててくれたから、あたしはここまで生きてこれたし、幸せだって胸を張って言えるけれど。

 それはそれとして、ごく一般的な家庭って言うのにも憧れはあるから、こういう、擬似的? な感じは好きだな。

 

「そう言えば楓夏先輩は、ご家族とはどうなんです? 前に、あんまり折り合いが合わないって聞いてはいましたけど」

「うん? いつもどおりだけど。相変わらず、微妙な距離感だよ」

「ですか……」

 

 でも、家族がいることがそのまま幸せなことに繋がってるのかって言うと、それは違うと思う。

 楓夏先輩や、他の魔法少女たちの何人かは、あまりご家族とうまくいってないってよく話されるし。

 何より幻魔の兄さんなんて、他ならぬ家族からいらないものとして捨てられた人だ。そこまでいくともう、不幸以外の何物でもない。

 人それぞれに、辛いことや苦しいことの形って違うんだなあって、思い知らされるこの頃。

 

「京子の方は、ええと。村の皆さんとは?」

「相変わらず可愛がってくれてますよ。魔法少女にされたあたしを、それでも村全体の娘だって言ってくれて」

「そうか。素敵な、素晴らしいご家族だな」

「はい!」

 

 楓夏先輩が優しく微笑む。

 まったく言われるとおり、村のみんなは素敵で素晴らしい、あたしの家族だ。

 魔法少女『シクスス・ワイルド』になったばかりのあたしを、みんな総出で受け入れてくれたなんて、今でもすごい話だなって思うもの。

 

 しかも、今でも退魔の活動を続けるあたしを、応援までしてくれているなんて。

 そんな人たちを家族に持てたあたしは、やっぱり幸せ者だ。

 

「私の家は、そうはならなかったな。残念ながら腫れ物扱い、とはこのことだ」

「話し合い、もされてたんですよね、たしか」

「悪い人たちじゃもちろん、ないんだけど。やはり実の娘が怪物の力を手にすると、色々、複雑なんだろうな」

 

 そう言って笑う楓夏先輩に、返す言葉がない。

 寂しげな、けれどどこか諦めたような姿は、楓夏先輩らしくはない。

 ないけど、たまにはそうなりたくなる時だってあるんだろう。

 こんな時、何か気の利いたことの一つでも言えれば良かったんだけど。

 他の魔法少女の先輩なら、そういうこと言えたのかな。

 

「まあ、千早先輩のお言葉もある。関係改善は今後も努力していくけどね」

「千早先輩、どんな風に?」

「『お互い死んでないからチャンスはある。どのみち離れられないなら、どれだけ時間がかかっても向き合うのもありだ』と。あの人らしい物言いだな」

「チャンスはある、ですか……」

 

 千早先輩。

 最初の魔法少女であるあたしの大先輩。

 年齢差や畏れ多さもあって中々、お近づきに慣れない人。

 普段は美琴先輩や、それこそ楓夏先輩と一緒にいるところをお見かけする人だ。

 

 そんな人だからかな、当然のように、楓夏先輩への気遣いをしていたみたい。

 やっぱりすごい人だな……いつかあたしも、あんな風になれたら良いんだけど。

 幻魔の兄さんとも一番、距離が近い感じだし。

 やっぱり、大人って違うのかなあ。

 

 そう考えると、早く大人になりたいかも。

 なんてことを思う、あたしなのでした。




(^∇^)ノ♪<重い生い立ちだけど周囲に愛されて純粋無垢に育った野生児すき
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