柊幻魔・19
今日のバイトも終わって帰り道の途中、珍しい人と遭遇した。
いや珍しいってのは語弊があるかな。
うちにはそこそこの頻度で来るんだけれど、こうして外で遭うのは滅多にないことだから、結果的に珍しいって表現がしっくり来るってことだ。
「おー、幻の字! 何ぞ噂になっとるのう、お主!」
「さすがに耳聡いよねえ、清吉爺は」
「カハハハ! そればっかり取り柄の爺じゃからのう!」
声変わりもまだしていないような、幼い声が高らかに響く。
まるで老人のような口調だが見た目、完全に少年だ。
銀に輝く、絹糸を思わせる細い髪を整わせた、魔性の美しさと妖しい雰囲気を醸し出す見た目。
しかしてその実、正体はひどく世俗的な、酒は飲むし博打は打つし女性にはとことん弱い、実年齢80超の老人だというのだから、世の中は不思議だ。
彼、有屋清吉さんは俺に、一見無邪気な童顔を向けて切り出した。
「ちょうど、お主を訪ねようかと思っていてな。明日はバイトも休みじゃろう? 積もる話もある、いっちょ酒盛りでもしようではないか」
「良いけど、うちのルールは守ってね」
「分かっとる分かっとる、未成年に気を遣え、じゃろ? 酒ならほれ、このとおり。つまみもあるぞ。無論、余ったら持ち帰るともよ」
どこからともなく──本当にだ。空間に穴を空けて、そこに腕を突っ込んで引きずり出してきた──酒とつまみが入ったコンビニ袋を見せてくる、清吉爺。
この人、地味にとんでもない人らしいんだよ。
『特異領域地点』たる日本の、首都を含めた関東一円で活動する退魔師たちを一括して率いる大組織『関東退魔会』。
今や世界にも名を轟かす、そんな組織を立ち上げた大物退魔師さんで、今でも運営理事会に強い影響力を持つんだとか。
何より凄まじいのは、見た目の通り年を取らない体質なことだ。
本人曰く、もう半世紀以上も前の大戦争の折。国軍の生体実験の被検体となってからとのことで、不老長寿の他にも超人的な身体能力を手に入れたらしい。
そして以降、数十年。鍛えに鍛えた退魔の技能と合わせて、国内外でも最強クラスの退魔師と謳われているそうだ。
なんだっけ? 超生命『バイオーヴァー』とか、界隈では渾名されているんだとか。
とにかく、聞けば聞くほどすごい人なのだ。あの勝くんすら頭が上がらない存在みたいだしな。
「いやあ、なんでかお主の名前が界隈で囁かれるようになってきてのう。何じゃそらとヒアリングしとったら、ずいぶんややこしい話になっとるみたいではないか」
「あー、うん……正直、困ってるんだよね。割と」
「お主の性格ではそうじゃろうなあ。ゆえ、今回はお主から実際のところを聞いてな、力になれんもんかと来たのじゃよ」
「そうなの? ありがとう。なんかごめんね、界隈を荒らしちゃって」
「アホどもが勝手にはしゃいどるだけじゃ、気にするでないわい。それに儂とて隠居だからの、友に力を貸す時間ならば無限にあるのよ、カハハ」
アルカイックに微笑む清吉爺。
そう。何のかんのすごい彼なんだが、今はもう現役を退いて、気まぐれに各地を遊興しては享楽に浸る隠居爺。とは本人の言だ。
実際、俺と知り合ったのも数年前。
気ままに放浪してたこの爺さんが、たまたま豪遊が過ぎて路銀を切らしていたのを、通りすがった俺が何日か家に泊めたのが切欠だったりする。
普段ならそんな間抜けはしないらしいんだけど、たまたま立ち寄った、女の子と喋りながらお酒が飲めるお店がとてつもなく暴利だったそうで。
半泣きになりながら、世の中が助平爺に厳しすぎるとかなんとか、まるっきり小学生高学年くらいの姿で喚いていたのが今でも印象的だ。
最初、見た目から本当に子供だと思って、警察に保護してもらおうとしたんだよな……すぐに身分証明書見せられて、盛大に目を剥いたのは懐かしい話さ。
ともあれ、割と久しぶりな気がする清吉爺とのやり取り。
契約者云々の話はさておいて、談笑がてら家に向かう。
「そいで幻の字、今日は誰ぞ女子は来んのか?」
「誰か来るって予定はないなあ。そもそも爺さんも含めて、みんなノンアポで来るのがいつもでしょ」
「いやまあ、そうなんじゃがな? 華があると分かってるのと分かってないのとでは、テンションと言うものがだのう」
「千早ちゃんとか美琴ちゃんなら呼べば来てくれると思うけど、どうする?」
「年寄をいじめるつもりか! あやつらは女子でなくて鬼子じゃろ!」
愕然とばかりに叫ぶ。
清吉爺、千早ちゃんと美琴ちゃんには苦手意識があるんだよな……初対面時にちょっかい出して、返り討ちにあってるから。
助平心が痛い目を見たってそんなもの、自業自得だから俺としてはあんたが悪いの一言だし、だから今みたいな暴言はちょっと、聴き逃がせない。
「鬼子は言い過ぎじゃないの、清吉爺。あの子たちは優しい女の子だよ」
「む……すまぬ。言葉遊びっぽくしたくて言葉が過ぎた。立派な若者だとは、儂とて思っとるよ」
「今度、本人たちに言ってやってよ。きっと喜ぶ」
「とてもそうは思えんがのう……ま、たまには良いかの」
渋い顔で呻くところは、精神年齢相応に見えてくるんだよなあ。
と、喋っている間にアパートが見えてきた。
今日は清吉爺の持ち込んだ酒のつまみで、一つ宴会と行きますかね。
(^∇^)ノ♪<合法ショタジジイすきーーーーーー