退魔世界の一般人   作:てんたくろー

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柊幻魔・20

「おう、とりあえず駆けつけ一杯じゃぞ幻の字。ほれかんぱーい」

「駆けつけてもないけどね。乾杯」

 

 夜、俺の家。

 帰宅した俺は同行していた清吉爺を招き入れて、持ち込まれた酒とつまみで二人だけの宴会を始めていた。

 今のところ、他に誰も参加者はいない……とはいえ夜は夜で、来客がないこともないからまあ、ある種の待機状態ではある。

 

 ビールを飲む。

 シュワシュワと、苦み走った爽快な喉越しがたまらない。

 清吉爺も炭酸の心地良さに息を吐いて、端正な顔立ちをアルコール混じりの、陽気さで緩ませる。

 

「ぷはぁ! いやぁいつの世も、一口目の麦酒は最高じゃのう!」

「相変わらず見た目が犯罪だねえ、清吉爺」

「またそれかい。何ぞ文句垂れる奴がおったらほれ、身分証明書なら常備しとるわな」

「なんで出してくるのが運転免許証かな。退魔師免許証とかもっと、らしいのがあるでしょうに」

 

 ぱっと見、子どもがビール飲んで息巻く完全にアウトな光景。

 こればかりは毎度、言わずにはいられないところだ。こんな有様でよくこの爺さん、夜の街で馬鹿騒ぎやるもんだよ、本当に。

 

 そんでもって、反論で見せ付けられた身分証明書がなぜか、運転免許証だし。

 そこは退魔師免許証じゃないの? 爺さん、退魔師界隈でも重鎮さんなんでしょうに。

 呆れたように、本当80歳を超えていることが法的に証明されている運転免許証を眺める俺に、清吉爺はカハハと独特な笑い声をあげる。

 

「退魔師免許なんぞより運転免許証の方がよっぽど、公的身分証明書じゃろうてよ。もしくは健康保険証」

「退魔師免許だって公的なものじゃないの? 特退警が交付してるって聞くけど」

「民間への説得力が違うんじゃよ。運転免許証や健康保険証ならほれ、退魔師なんて限定された界隈より広範囲に行き届いとるじゃろ」

 

 退魔師ったら古今東西、いつだって胡散臭いイメージを持たれるもんだからのう。

 なんてことを言う清吉爺の、やたら実感のこもった声音はどこか重い響きがある。

 退魔師とは名ばかりの、詐欺師が過去から現在にいたるまでまあ絶えないこと。

 

 なまじオカルト方面の専門職だけに、一般の、俺みたいな素人には退魔師の善し悪しなんてわからないもんで。

 そこを好機とばかりに、適当なことをしたり言ったりして人を不安にさせ、法外な金額をせしめる悪辣な輩もいるのだ、この世の中は。

 

「嘆かわしいのう。いつまで経っても儂ら退魔師の、地位というのはどこか浮世離れしとるままとは」

「幽霊や妖怪と戦う人たちなんて、縁遠い俺みたいなのからすればそりゃあ、浮世からは離れてるよ」

「お主どの口で縁遠いなどと言うんじゃ。魔法少女どもやら特退警やらとも懇意なお主が」

 

 ずいぶんと俺に向け、信じ難いものを見る目で来るなあ清吉爺。

 実際、縁は遠いさ。

 生まれこそ退魔界隈にどっぷりだったがそれも一昔。追放された無能の長男だったりするわけだけど。

 知人友人に退魔絡みの人がいたからって、悪いけれどそれがどうしたことか。そんなもん基準に仲良くしてるわけじゃないし。

 

「立場とか関係ないよ。俺は、俺と一緒にいてくれる人と一緒にいたいだけ。清吉爺もその一人だよ。俺と一緒にいたいって思ってくれている限りはね」

「面倒なメンタルしとるのう、お主。放逐されてからの十年は、そんなに辛かったか」

「さあ? 結果として今、そんなに悪くない生活を送らせてもらってる。それで良いんじゃないかな」

「達観しとるのかそうでないのか。お主らしいの」

 

 カハハハッ、と笑う爺さん。

 やっぱり年の功かな。俺自身でも分かってないような俺のことを、どこか見透かされている感じがする。

 

 俺としてはありがたい、人生の先達からのお言葉ではあるんだけれど。

 こういうところがいまいち、千早ちゃんはじめ魔法少女の子たちに好かれないところなんだろうなっていうのは分かる。

 いきなりこちらを見通したようなことを言われるのって、あんまり面白くない話ではあるからね。

 清吉爺に悪気がないのは分かりきってるけど、人の気持ちは正しいだけじゃ寄り添えないもんだから。

 

 酒を酌み交わし、その辺の話にも触れる。

 清吉爺、あんまり女性からの受けは良くないもんで、ちょくちょく相談されるんだよね。

 なんで俺に聞くんだよと言いたいところだけど、少なくとも魔法少女のみんなとはうまいことやってるわけだから。

 藁にもすがる思いはなんとなく、理解できたりする。

 

「とりあえず若者っぽく喋ったらどうかな」

「いや、今さら恥ずかしいわいそんなの……孫どころか玄孫にすらなりかねん年頃の子らと同じ言葉遣いなぞ」

「そんなこと言って、SNSだと普通に使ってるじゃん。同じ要領で良いんじゃない?」

「ネットとリアルでは勝手が違うじゃろ!」

「人と人とのやり取りって点では同じでしょー」

 

 互いにアルコールの入った頭で、あれやこれやと議論する。

 今日はもう、他に誰も来そうにないし。

 結局夜遅くまで俺と清吉爺は、最近の若者ってそもそも、どういう話し方してるんだろうか? って話をしていた。




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