退魔世界の一般人   作:てんたくろー/天鐸龍

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千早ちゃん視点


千早/魔法少女ファースト・キックⅠ

 (それにしても、お人好しだなあこの人)

 

 私としても慣れ親しんだ彼の家。

 幻さん──柊幻魔さんがコーヒーを飲んでまったりするのを私はひどく、愛しい気持ちと共に眺めている。

 くたびれた30歳手前の男の人。結構男前だと思うけど、如何せん瞳に力がない。

 決定的に覇気がないのだから、普通の女性にはまあ好かれたりしないんじゃないかなと思う。

 もっとも私含め彼の周りには、普通じゃない女の子が目白押しなのだが。

 

 彼との出会いはそれこそ、私が忌々しい契約を結ばされて魔法少女『ファースト・キック』などに成り果ててからすぐのことになる。

 当時、ようやく衣食住の安定に目処が付き始めていた幻さんと巡り逢えたのは、私にとってはこれ以上ない人生の幸だったのは言うまでもない──反面、幻さん的にはやっと落ち着きだすかと思った矢先の面倒ごとだったろうなと、今さらになって申し訳なさも覚える。

 

 (しかし、契約者ね……超越存在? 何だか知らないが勝手な話だ)

 

 先程、せっかくの二人きりの時間を見事に邪魔してくれたあの、青華とかいう化物の勝手な物言いが胸中に苛立ちを含ませる。

 契約者? 契約? 最強として成り上がる?

 今さら何をと幻さんが呆れた風な物言いをするのも当然だ。

 

 10年遅い。

 彼の生家、語るも忌々しいあの柊家が彼を追放するまでにやって来て、契約者とやらの優越性を示して幻さんを保護すべきだったのだ、本来は。

 

 (ああ、けれどそうなれば私が、私たちが幻さんとこうしていられるわけもなかったわけで)

 

 利己的な思考に我ながら情けないとは思うものの、それでももしも、と考えるだに震えが来る。

 七年前、もしも幻さんに出会えなかったら。

 きっと私は奴らと戦うこともできず、そう遠くない内に死んでいたことだろう。

 あるいは戦うことを選んだとして、ここまで長いことは続かなかった。

 

 ひとえに幻さんが……柊幻魔という一人の人間がいればこそなのだ。

 今ここにいる戦い抜いた私も、そして私に続く六人の後輩たちも。

 元を辿ればたった一人、闇の底にいた私に手を差し伸べてくれた、彼の善性によって成立したと言える。

 

 明言しよう。

 私という魔法少女が守るべき世界とは、その大半が彼のいる場所、彼といる時間のことだ。

 巷では私たちのことを正義の味方のように扱う風潮があるが、悪いがそんなもののために戦った覚えは古今東西そしてこれからもない。

 

 強いて言えば柊幻魔。

 彼が、彼こそが正義と言えるのであれば。

 なるほど正義の味方という物言いも、当てはまるのかもしれないが。

 

 そのくらい慕う彼に対してあの女、今になって、ずいぶんと勝手なことを言ってくれるものだ。

 超越存在とやらがどれ程のものか知らないが、少なくともあの青華なる女には早々、当たり負ける気はしない。

 万が一、幻さんの消極的な姿勢に痺れを切らした彼女が強行手段にでたとして、迎え撃つことは十分に可能だろう。

 

 (まあ、更なる保険はかけておくけれど、ね)

 

 思いながら、スマートフォンを操作して後輩たちにコンタクトを取る。

 世界にたった七人しかいない魔法少女だ、メールなりSNSなりでのグループ形成くらい、とうの昔にやっている。

 

 ちなみに幻さんもスマホは持っていて、しかも魔法少女以外にも知り合いが多いから、結構いろんな集団に顔が利くらしい。

 人徳というやつだね。

 さすがは幻さん、我がことよりも誇らしいよ。

 

『幻さん家なうしてたら何か変な女がやって来た。かくかくしかじか。幻さんの護衛必要あり』

 

 と、かいつまんだ説明文を添えてメッセージを送る。

 既読はすぐに付いた。

 一、二、三、一旦止まりと半数が即座に反応したことになる。暇か。

 

 残り半分もどうせ、魔法少女として蔓延る化生どもと対峙しているのだろう。

 今日は休日だから、学生やっている子たちは通常ならば暇なはずだ。

 それがこうも反応がないとなると必然、そんな感じの成り行きだと経験上、推測できてしまう。

 

 私自身も歩んだ道だけれど、うら若き乙女の休日の過ごし方としては血に濡れている感じがどうしてもする。

 仕方のない話だけれど、辛い話だ。

 

『まるまるうまうま。幻魔さんがその手のことに直接巻き込まれるとは珍しいですね。護衛しますよ』

『相手がどう出るかによりますよ先輩方。いきなり喧嘩腰は良くないです。護衛はしますが』

『柊さん、乱暴なのいやがりますからねえ。すみませんが僕はパスです、残念ながらしばらく出張で依頼がありまして』

 

 反応した三人からすかさずの返事。

 それぞれ三番目、六番目、四番目の魔法少女だ。

 

 当然ながら全員、幻さんとは知り合いだ。

 私がひどく依存してしまったからなのだろう、幻さんは後輩たちにも心を砕いて接してくれた。

 その結果、今では七人の魔法少女全員が彼を慕い、兄のようにあるいは父のように、はたまた──恋人のように感じている。

 

 その幻さんに危害が及ばんとしているのだ。

 可能性だけでも、私たちが動くには十分な話だった。

 

 コーヒーを飲む彼を見る。

 愛しさで胸が暖かくなる。

 彼を苦しめた柊家や、手遅れになってからのこのこやって来た青華への殺意で脳が冷える。

 

 (何があっても護ります。私の光。私の世界)

 

 相反する想いを抱えて、私はそう、誓うのだった。




(^q^)<愛しさと切なさで他人の迷惑にならない程度のヤンデレになる女の子すき

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