退魔世界の一般人   作:てんたくろー

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青華さん視点


青華/四神が一・青龍Ⅰ

 後悔、罪悪感と焦燥、絶望感。

 永遠にも近い時を生きたこの私をして初めての苦しみが、胸中にぐるぐると渦巻いています。

 

 超越存在『四神』が一、青龍。

 人間世界で活動するに当たり青華という女に転化して降りてきたものの、いきなりの挫折に今、私はとぼとぼと午後の町並みを歩いていました。

 

 人の子が多く、行き交っていきます。

 千年程ぶりに見る人間世界は、かつて降りた地と異なるにせよ驚く程に発展していて。

 積み重ねられた人間の歴史と、脆弱ながら強烈な生命の強靭さを、なるほど感じずにはいられません。

 

「ううう……仕方ありませんけど、辛いですね……」

 

 それにしても、です。

 私はしょんぼり、俯きます。

 ようやく逢えた契約者様の、平坦な温度の視線と声音を思い返して落ち込んでいるのです。

 

 そう、平坦。

 御方の姿勢はどこまでも平坦でした。

 今さらという怒りやようやくという喜びでの熱もなく、さりとて反対に冷めておられたわけでもなく。

 どこまでもいつも通り、といった感じで。

 

 まるでそう、道端に蚯蚓の死骸が落ちているのを、何とはなしに眺めている程度の平坦さ。

 

 ゾッとしました。

 ここまで当たり前のように、相手にすらされないなんて。

 過去の契約者とは一線を画す御方であると、もはや今の時点で私は確信しています。

 

 過去数千年に渡り何人も契約者は現出していて、その度に様々な超越存在の中で、その契約者の素質や性質に見合ったモノが契約してきました。

 私とてかつては契約したことがあります……と言っても我ら『四神』は契約者においても限られた素質、才あるものしか見出だすことはありませんので、永き時に渡ってもただ一人きりだけでしたが。

 

 他の『四神』、すなわち白虎、朱雀、玄武、そして麒麟などは未だ、契約を交わしたことがありません。

 それを思えば私は中々、運に恵まれていると言えるのでしょう。うん。

 

 閑話休題、さてはおいても当代の契約者様についてです。

 柊幻魔様。『特異領域地点』日本が誇る退魔の名門、柊家に生まれた長男坊。

 しかして退魔に欠かせない異能の才、力を持たず生まれたために18歳で家を追放。

 以後十年にも渡り、たった一人で身を立て、生き抜いてきた。

 

「怨まれているとくらいは、覚悟していたのですが」

 

 現代の契約者が現出した時はもちろん、超越存在の住まいたる高次の次元にも伝わっていました。

 私たちは本能的に、契約者の誕生を察知できるのです。そしてその器の大小も、素質の有無さえも。

 

 そう、すなわち。

 あらゆる超越存在を率いるだけの器を持った究極の──極致とも言える存在。

 当代の契約者、つまりは幻魔様の類稀なる資質も、御方が生まれて間もなく超越存在中に知れ渡ったのです。

 

 それゆえに『四神』のみならずあらゆる超越存在の勢力が彼に目を付けるのは、必然のことでした。

 天使も悪魔も、神も仏も、霊的存在のことごとくさえも彼に期待を寄せ、誰もが契約を結ぶことを夢にすら見ました。

 かくいう私も『四神』において唯一、かつて契約を結んだことがあるがゆえ、先遣として今日ここにやって来たのですから。

 

 (まあ、結果は暗澹たるものだったのですが……)

 

 この様、としか言いようがありません。

 詫び、説明し、理解を求めてなお袖にされたのです。

 

 理解されなかったわけではないのでしょう。

 完全にこちらの言い分を含めて、その上で契約など必要ない、価値がないと切り捨てられた。

 己の力で掴み取った今がある、そのことだけで十分なのだと。

 当代の契約者様はそう、仰られたのです。

 

 どう考えても追放されてからの10年、人間にとっては長いその年月によって構築されたものなのでしょう。

 借り物の力などいらない。己で掴んだ現実こそ、醜くともたしかなものである、と。

 人間にありがちな強がりでもなく、ごく自然に契約者様は超自然の力を否定されました。

 

「つくづく、10年前の追放に気付けなかったのが悔やまれますね……っ」

 

  いかに超越存在とて、契約者様を逐一監視するなどするわけもありません。

 そもそも超越存在は普段、高次次元に住まうモノたち。次元の隔たりを超えて好き放題に観察するなど理に反するのです。

 ですが……今回ばかりは理を曲げてでも、そうすべきだったと思うのもたしか。

 我々は、致命的に間違いを犯してしまったのです。

 

 まだ、間に合うでしょうか。

 少なくとも契約はできると信じたい──力による成り上がりは叶わずとも、それでも共にあれることはできるはず。

 話の持っていきようで、契りまでは辿り着けるのではないかと思いたいです。

 

 (もっとも、御当人よりもあの女が厄介そうですが、ね)

 

 目下のところ契約者様の意識の他、もう一つ大きな障害となるであろう、御方の傍にいた女を思い起こします。

 傍目には普通の女性に見えるでしょうが、見るモノが見れば分かりましょう。

 あれは、化物です。

 

 およそ人間とも思えない怪物的な力が。

 妖魔怪異とも些か異なる異次元の能力が。

 信じがたい程に、その小さな身に秘められているのです。

 

 (私たちの知らない間に、人間は、何を生み出したのです……)

 

 ヒトの枠組みなど明らかに超えてしまった、我々とは異なる形での超越存在。

 そんなモノがまさか、契約者様の傍に侍っていようとは。

 

 意識や意欲はさておき、さすがは契約者ということでしょうか。

 思いもよらぬ伏兵の存在に、私は密やかにため息を吐くのでした。




(^q^)<有能だけどポンコツお姉さんが空回りしてるのすき
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