退魔世界の一般人   作:てんたくろー

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柊幻魔・6

 繁華街まで出たところで、意外や意外、思わぬ再会と洒落込んでしまった。

 ベンチに座り、コンビニで買ったのだろうフライドフードを頬張って、あまつさえ朝っぱらからビールを呷っている青華ちゃんを見つけたのだ。

 

「へいやふひゃはは!?」

「……別に逃げないし、食べるだけ食べて飲んでから話そうか? あと肉汁溢さないように気を付けてね?」

 

 あの手のフライドチキンって、油断すると肉汁溢しちゃうんだよなあ。

 手に付くだけならまだしも服とかに付いたらもう最悪だ。

 

 さておき、今のは『契約者様』と言ったのかな? ──恐らくは俺のことだろう。 

 まさかこのタイミングで出くわすとは思わなかったのか青華ちゃんがひどく慌てている。

 どちらかというと、こんなところでこんな形でまた会うと思っていなかったのはこちらの方だ。

 あからさまにテンパってしまっている彼女のお陰で、逆に冷静になれたけれども、そのリアクションは本来俺たちのものだと思う。

 

「……なるほど、化物ですね」

「だろ? こんなのが幻さんに良からぬことを吹き込もうとしているんだ。どう思う」

「止めますね。何なら今ここで、二人がかりで虚を突いてでも」

「物騒なのやめない? まして酒まで飲んでる人なんだしさ」

「あ、あぅあぅ……っ」

 

 初見から警戒心も露に、先輩の危惧を心から理解した様子らしい楓夏ちゃん。

 おもむろにコンパクトを──魔法少女として変身するためのキーアイテムだ、しかも普段は彼女らの体内に仕舞われている──取り出そうとするのを、俺はまあまあと宥めた。

 

 何しろ目の前でうろたえる青華ちゃんは、見るからに完全にオフの日だ、これ。

 傍らにはフライドチキンの他に酒と、つまみがたくさん入った袋が見える。

 まさかここで一人、宴会をおっ始めようとし始めた矢先なのだろうか。

 朝っぱらから、しかも駅前ですよここ。

 行き交う通勤通学の方々の、奇異なものを見る目が刺さる。

 もしくは意識して無視して通る、腫れ物に触らないような懸命な空気も。

 

「ええと、とりあえず。何してんのこんなところで。中々しないよ、こんな往来でそんなこと」

 

 超越存在というのはそりゃあ、人とは違うんだから考え方感じ方も違うんだろうが、にしたっていくら何でもこんなところで酒盛りはないだろう。

 見た目うら若き女性が一体、何のつもりなんだ。

 問いかけると一応、咀嚼は終えたのか口の中をビールでさっぱりさせてから、彼女は答えた。

 

「いえあのー、ですね。現世の人間世界というものは中々、便利な店があるものだなとコンビニエンスストアなるものを見て思いまして」

「まあ、そうだね。当たり前に感じちゃってるけどコンビニは便利だ」

「でまあ、その。色々見てたら質の良さげな酒と肴が目白押しでして、つい。昔から酒精の誘惑にはからきし弱くて、うぇへへ」

「自制心の欠片もない……」

「せめて拠点に戻ってからやれば良いものを……」

 

 誤魔化すような曖昧なひきつり笑いを浮かべつつ、釈明になっていない釈明をする青華ちゃん。

 千早ちゃんと楓夏ちゃんがドン引きしている……いやしかし、千早ちゃんも成人以降、酒が絡むと自制心が緩くなるのを俺は知っている。

 まあ彼女の場合は、大人になって解禁されたがゆえの好奇心と、やはりまだまだ、背伸びしたい年頃だからなのだろうが。

 

 一方で青華ちゃんはそういうのとは違う匂いがする。

 年季が入ってそうなアルコールマニアの気配を感じるのだ。

 ビール缶をもういくつか空にしてだらしなく笑う彼女は、取り繕うように続けた。

 

「いやあ当世の酒は絶品ですね! かつて1000年程前には、ここまで良質の酒にはついぞお目にかかれませんでした! 肴も旨いしもう、進む進む」

「進んでんじゃないよ止まりなさいよ。お家でやりなさいよそういうのは。遠いの? 家」

「歩いてすぐそこのところですね」

「近いのかよ」

 

 思わずといった感じで千早ちゃんがツッコミをいれた。見れば楓夏ちゃんも呆れと困惑が色濃い。

 うん。これで青華ちゃんが悪い子ではないのは伝わったと思う。

 社会良識的には悪い子に足先くらいは浸ってる気がするけど、まあ人外のやること。

 これもご愛嬌なのかもしれない。

 

「それはさておき、帰ろう青華ちゃん? 今日のところは見なかったことにするからさ。良いだろ二人とも」

「……まあ、幻さんが言うなら」

「どういうモノかは把握できましたし、今は特に害意もありませんからね。いえ、世間様的には間違いなく迷惑ですが」

「お、恐れ入りますぅ」

「恐縮するなら帰ろう。お家へ帰ろう青華ちゃん」

 

 微妙な反応の魔法少女たちに、ぷしゅりとまた缶を空けながら恐れ入る青華ちゃん。

 言ってることとやってることが正反対なその姿勢に、こちらの方が恐れ入るよ。

 

 さておいて荷物を片付けて彼女を立たせる。

 さすがに目を付けている俺の言うことは無下にできないようで、彼女はやはりビールを飲みながら、こちらに一つ頭を下げて、近場らしい家へと帰っていくのだった。




(^q^)<ポンコツ酒カス超自然的お姉さんすき
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