退魔世界の一般人   作:てんたくろー

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楓夏ちゃん視点


楓夏/魔法少女サード・タイフーンⅠ

「どう見る? 楓夏」

「害意がないのは本当にせよ、油断はするべきでないかと。向こうもこちらを見定めていましたからね」

「そうだね。まったくTPOも弁えず酒盛りするくせ、抜け目がないというか」

「ここで出くわしたのも本当に偶然なのか、疑わしく思えてきますよ私には」

 

 千早先輩と言葉を交わし、私は隣で歩く幻魔さんの横顔を見た。

 くたびれた風貌、疲れきった瞳。

 けれどその奥底には限りない優しさと強さが──ただの暴力なんかではない、真の強さが秘められているのを、私は、私たちは知っている。

 

 かつて、私が三番目の魔法少女『サード・タイフーン』へと成り果てた際。

 共に邪悪に捕まり契約を結ばされた姉は、洗脳を逃れようとする私を庇い、短い生涯を終えた。

 優しい人だった。最期まで私を気遣い、家族を愛し、そして愛のために死んだ悲しい程に気高い人だ。

 

 大好きだった。

 尊敬すべき、素晴らしい姉だった。

 ゆえに千早先輩、美琴先輩に助けられた直後の私が、姉の仇を取る、復讐のために動いたのは……今振り返っても短慮ではあったかもしれないが、間違いでなかったと信じている。

 先輩方のような、犠牲者を減らすためという善なる想いを持つより先に、姉を殺されたという憎しみばかりが私を支配したのも仕方ないと思うのだ。

 

 けれど、燃え上がる憎しみはそのままに。

 ただ敵を殺戮するための戦いから人々を護る戦いへと変えてくれたのが、他ならぬ幻魔さんだ。

 私の想いを肯定するでもなく否定するでもなく、ただ寄り添ってくれた人。

 思えば彼への感謝と思慕こそが、今の私が抱く使命感の根底にあるのかもしれない。

 

 すなわち──戦う必要のない人々に代わり戦うこと。

 戦えないことを悪でなく、善であるとする世界を護るために。

 暴力がいつか、必要とされなくなる真の平和を目指して。

 そんな想いは、幻魔さんとふれ合う中で培われたのだから。

 

「そう言えば今日、漫画の新刊だったな……本屋寄るけど良い?」

「もちろん。好きにしてくれ」

「ええ、私も適当に見て回りますから」

 

 呑気に聞いてくる幻魔さんには、超越存在などという訳の分からない化物に目を付けられているという不安や疑念が欠片も感じられない。

 人の良いこの人のこと、きっともう既に、先程の酔っ払いに心を許しているのだろう。

 らしいな、と思う。

 

 (それにしてもあの化生、やはり只者ではなかったか)

 

 酔っ払いつつもたしかにこちらを、魔法少女『ファースト・キック』と『サード・タイフーン』を見定めていたあの、青華の狡猾なる視線を思う。

 話を総合して考察すれば、ようやく探し当てた契約者の周囲に、己と同格の存在が複数、姿をちらつかせていることに警戒しているのではないかと推測はできる。

 千早先輩も同じように考えているようで、さりげなくも周囲に気を配っている。

 

 ただでさえ魔法少女並の力を持つ上に、得体が知れない。

 親しみやすい姿を見せつつもしっかりとこちらを窺う隙のなさは、まるで蛇のようだ。

 あんなところで一人、宴会など開いていたふざけた非常識さも、もしかすると私たちが訪れることを見越しての動きなのかもしれない。

 そう思わせる程の危険性。

 

「あの姿も力も、果たして真実かどうか。更なる何かを秘めているのなら、なるほど」

 

 あの千早先輩が手に負えないかもしれない、などと最大限に警戒するわけだ。

 底知れない……だが、だからと言って諦めることは絶対にしない。

 諦めればそこで幻魔さんに何があってもおかしくないのだ。

 一歩とて、ただの一ミリとて後退りはしない。

 今度は私が、命を懸けて護ってみせる──

 

「楓夏ちゃん? どうしたの変に力んで」

「……あっ、いえ。何でもありません」

 

 勢い込む私の様子を目敏く訝しんで、幻魔さんが声をかけてくる。

 しまったな。つい危険に晒される彼を想い、あの時、私を庇って倒れた姉を重ねてしまった。

 何となくだが、この人はよくよく、姉と似通うところがあるように思う。

 優しさも強さも、儚さも、その眼差しの暖かさすらも。

 

「気持ちは分かるけど楓夏、気負いすぎだよ」

「先輩」

「今の私たちは仲間が大勢いる。それに魔法少女だけでなく、幻さんに何かあればすっ飛んでくる強者たちがたくさんいるだろうさ」

「……そう、ですね」

 

 千早先輩が優しく肩を叩いて落ち着かせてくれる。

 まったくその通りで、一人で気負う必要などどこにもない。

 今や魔法少女も心強く七人もいるのだし、そもそも幻魔さんは何故か退魔関係に友人が多いのだから。

 

『関東退魔会』のエースをはじめ、『近畿陰陽協会』の古株、はたまた『特別退魔警察機構』の英雄たちから『日本エクソシスト連盟』に巣食う化物まで網羅している節操のなさ。

 当人はまるで界隈と関わりがないのによくもまあ、ここまで人脈豊富なものだと感心させられる程だ。

 

 彼に何かあればそうした面子が揃って動くのだ。

 そう考えれば先走って暴走したところで仕方のない話だと、改めて落ち着くことができる。

 

「何だか分からないけど、行こうか」

 

 幻魔さんが飄々と告げた。

 千早先輩と顔を見合わせて、私は改めて、ひとまずこの散策を楽しむことに決めたのだった。




(^q^)<何の力もないけど人脈と交遊関係がとんでもチートな主人公すきすきすきすきあいしてる
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