文月とブラック鎮守府と新米提督   作:トマリ

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6話目ですけど、扱い的には5.5話で、時系列的には0話です。
当初新月の過去というのはさっぱり考えていなかったのですが、書いているとあまりにも新月くんのキャラが薄っぺらい感じになっていたので考えることにしました。
そんな背景で書かれたものなので特に山場もクソもありませんがよろしくお願いいたします。


新月の過去

 

 突然だが、少し僕の話をしよう。

 

 僕こと───吉田新月の両親は、親としてはかなり若い。父はまだ毛もフサフサで腹が出てるわけでもないし、母は童顔なのもあって、制服を着ればギリギリ高校生と言い張れそうな容姿だ。

 そのお陰で、小学生の頃は友達や近所のおばちゃんから「あらつきくんのお母さんすごく綺麗(若い)ねー」なんて言われまくっていたものだ。

 まぁ今にして思えば、そりゃそうだ。両親は、僕と十六ほどしか歳が離れていないのだから。僕がそのことに気付いたのは、ちょうど小学校を卒業したあたり。

 僕は、両親が高三年生の時に、所謂『できちゃった婚』によって産まれた子供だったらしい。 

 妊娠が発覚した当時、当然ながらお互いの両親からは非難轟々。父親側の両親が、母親の自宅まで土下座しにいく事態にまで発展した。

 だがそうした事を引き起こしておいて、当の父親は───後の母親曰く『一番カッコいい顔』で、

 

「俺は、ミチルさん(母親)に産んでほしいと思っています。お腹の子を」

 

 なーんて男らしすぎる宣言をしていたらしい。

 当然ファザーマザーズからは再び非難の嵐。

『どの面下げて言っているんだ』『親になるということをなめているんじゃないのか』。様々な言葉が飛び交った。

 

「やめて!ヨルくん(父親)を悪く言わないで!私も……私も産みたいって思ってるのよ!」

 

 しかしそんな中、まさかの母親までもが産む派へ。驚愕する母側の両親。最愛の人が味方についてくれたことに喜ぶ父親。場はますます混乱した。

 そしてここぞとばかりに父親が畳み掛ける。『お腹の子は、自分がしっかりと責任を取る。これから先の事もちゃんと考えてる。とりあえず高校中退してすぐに働くから、安心してほしい』と。

 一見カッコいい台詞のようだが、両親(二人の親)に言わせれば、その台詞こそ先の事を何も考えていないという証明でもあった。

 現代において、学歴の無い者を雇ってくれる場所などあまり多くはない。真に『先』を見据えているならば、一先ず高校は卒業しておき学歴をつけておくものなのだ(……らしい)。

 

 ……まぁ言ってしまえばなんだが、当時の二人は酔っていたのだ。学生婚するかもという状況に、ベロンベロンに。

 そして、『彼女孕ませといてこんな発言しちゃうオレかっこえー』みたいなヤツに。言わば一種の高揚、興奮状態のようなものだ。

 結局、家族会議は余計に混沌を極めさせただけ。最後までお互いの親からの承諾は得られず、ほとんど駆け落ち同然に二人は家を出ていくことになってしまった。

 

 そうして、僕が生まれた。

 やはりというかなんというか、僕が生まれた直後から生活は悲惨だったらしい。

 二人の覚悟も責任も、所詮は精神的興奮によって一時的にもたらされたもの。その興奮が覚めてしまえば、待っているのは過酷な現実だけだ。

 父親は仕事にありつくどころか、探すことにすら難航していたし、母親は慣れない家事にストレスを溜めてすぐに放棄した。

 そりゃそうだ。大の大人でさえ苦労するものが、高校卒業したての───いや、卒業すらしていない人間に耐えられるわけがない。

 さらに駆け落ちで家を飛び出したから、今さらどんな面しても親の力を借りられないというオマケ付きだ。

 

 そうして更に六年経った頃には、父はようやく仕事に就けたものの家庭内暴力、酒やタバコに溺れていったし、母親は(こっちは後から知った話だが)あまりの収入の少なさに夜の仕事に務めるようになった。当時の僕はそんなこと知る由もなかったし、できれば一生知らないままでいたかったが。あとついでに言うなら、そんな思いまでして母が稼いだ金はほとんどが酒とタバコに化けた。

 

 もちろん当時六歳の僕にとって、そんな家庭環境は最悪と言う他なく、父に殴られて痣もたくさん付けられたし、晩御飯に母から百円硬貨二つだけを手渡されるのもしょっちゅうだった。

 ただまぁこんな家庭でも、最低よりはまだマシだというのだから世の中はわからない。下には下がいるもの、ということだろうか。

 

『吉田新月。いい名前だろ? お前が生まれた日は、一月に一回しかない、貴重な新月の日だったんだ』

 

 父は殴らない日───所謂『機嫌が良い日』には決まってそんな話をした。いかにも遠い目をして、『ああ、あんな輝いてた日もあったなぁ』みたいな風格らしきものを纏わせてだ。

 そのたびに僕は「それ三日前にも聞いたよ」という言葉を飲み込んで、さも今初めて聞いて、感動しているような様子を取り繕わなければならなかった。

 

『子供ってのは、自分が生まれた日のことはどう足掻いても記憶に留めることができない。だから母さんと話し合ってな、覚えられなくても想像はしやすいようにと、そんなシンプルな名前にしたんだよ』

 

 すごく面白くも、特別に立派なエピソードというわけでもないのに、父も母も繰り返しその話をした。本人達的にはとても良い話のように認識しているのか、それとも『人の親』としての胸を張れるエピソードがこれしかなかったのか。

 なんにせよ、これまでの彼からの暴力によって既に心が死にかけていた僕は、意識して浮かべていた笑み以外の感情を抱くことはなかったが。

 

 

 そうして毎日殴られては湿布を買い、一人で体に貼り付けるような日々を送っていると、あっという間に中学生となった。驚くべきことに、僕はこの期に及ぶまで身の回りの環境に疑問も持たずに生活していたのである。

 客観的に見れば『最低』な環境であったのだとしても、生まれた時からの『最低』は、それは当人にとって最低ではなく『標準』になるのである。

 

 

 しかし中学を卒業する直前になると、さしもの僕もおかしいと思い始めるようになった。親友のタチバナや後輩のイシカワとの会話(家族の話題や家での生活について)が次第に噛み合わなくなり始めたからだ。

 さらに一体どこから漏れたのか、近所のおばちゃん達の間で『吉田さんとこの両親は高校生でできちゃった婚した』とか『父親は酒ばっか飲んで母親はそれを見て見ぬ振りしてる』みたいに指さされるようになったのだ。そんな風に自分たちを周りの人間が評しているのを聞いて、ようやく僕はおかしいと思うようになったのだ。

 

 僕自身はピンとこなかったが、どうやら家庭の問題(こういうの)は早めに誰かに相談して処置を取ってもらった方がいいらしい。僕はすぐさま行動を起こそうとした。

 だが、当時の僕にはそんな深く重いことまで話せる友達はいなかったし、なにより()()()()()()()()()()()()()()

『普通の家庭環境』というものを知らなさすぎたせいで、自分の家庭環境のどこが問題でどこが普通と違うのかという点の説明が不可能に近かったのだ。

 わかりにくい例えとは思うが、バイクを初めて見たばかりの人間にバイクと自転車の違いを説明させようとしているようなものなのだ。

 

 そんな時に僕を助けてくれたのが、当時の先輩であり、そして今では一応の上司にあたるヤマダさんだった。その時新聞部の部長を務めており、『歩くウィキペディア』の異名を持っていたヤマダさんは、どこからか僕の家庭情報を掴んだようだった。

 

『なんか訳ありみたいだよね、新月クンとこ。しかもその感じだと本人だけじゃどうにも出来ないか、方法がわからない。違うかい?』

 

 ある日廊下でそんな風に声やかけられ、違わないので首を縦に振った。

 すると、

 

『よし。なら任せとけ』

 

 何を任せればいいのか。そもそもアナタは何をするつもりなのか。

 何一つわからなかったが、とりあえずそこでのヤマダさんのサムズアップに異常なほど頼もしさを覚えたのは覚えている。

 

 

 そうして三日後。

 僕があれほど頭を悩ませていた家庭問題は、あっさりと解決した。本当に、積み木の城を崩すようにあっさりだった。

 家族全員が家に揃っていたある日、突然家に児童相談所の役員を名乗る者たちが来て、それで終わり。僕は保護され、両親は身柄を拘束された。

 

 

 

 それから先のことはあまり覚えていない。というか、覚えることを脳が拒否した。

 見知らぬ大人達に連行されていく両親なんて、生きてる内に見たくなかったからだ。あんなのでも一応、『親』だったのだし。

 

 そうして僕は両親とは完全に縁を切り、父親側の両親によって育てられることになった。

 向こうからすれば、僕は『バカ息子が調子に乗って産ませた挙げ句その息子が虐待して責任放棄した子供』という複雑すぎる立ち位置だったのだが、幸いにも彼らはそれをおくびにも出さず僕に接してくれた。そのおかげで僕はようやく『普通』を知ることができ、人間らしくなることができた。

 

 もちろん親が逮捕されたということは近所や学校ですぐさま噂になったが、近所はともかく学校はそのあと祖父母の意向ですぐに転校させてもらえたのが不幸中の幸いか。

 そして噂になったのはヤマダさんも同じのようで、一体どんな手を使ったのか、という点が特に注目を集めていた。

 新月の家に忍び込んで現場を押さえたとか、親が児相もあっさり動かせるほどの権力者だとか様々な説が流れたが、未だ真相はわかっていないし知ろうとも思わない。

 ともかく、ヤマダさんにこの頃から大物になる素養があったというのだけは間違いない。

 

 

 そして高校卒業が迫ってきた頃、ヤマダさんを中継する形で『上』からスカウトされた、というわけだ。

 ちょうど大学に行って両親(祖父母)に金かけさせるのもなー、と思っていた僕は、『最前線じゃないなら』という条件付きで承諾することにしたのだった。

 こうして僕は高校生あがりで提督になることになり、奇しくも同じような境遇の文月がいる鎮守府へと務めることになった。

 

 そしてその状況がまた、自分を生んだばかりの両親と非常に似ているということにも気付かずに。

 

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