文月とブラック鎮守府と新米提督   作:トマリ

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二人目、着任

 

 

 ヒトゴーマルマル。七日目の午後。

 ヤマダとの通話を切って、文月へのご飯を回収し終えると(相変わらず残されていたが、あの玉子焼きはちゃんと食べてもらえていた。うれしい)、新月はさっそくその『物置き』とやらを探して鎮守府を歩き回っていた。

 思い立ったが善は急げ。行動を起こすのは早ければ早いほど良いというのが古来からの教訓だ。

 だが、

 

「うう……妖精さ〜ん、そっちはどう?」

 

『ゼンゼン見ツカンナーイ!Gノ巣ナラ見ツケタケド?』

 

「今すぐ駆除しといて。今すぐに」

 

 床をギシギシといわせ、どこも同じような通路の鎮守府で探しものをするというのは、新月にとって中々に苦行だった。

 

「そもそもさ……頭に『ド』が付くほど方向音痴の僕に、地図を渡さないって采配が間違ってるんだよ……。こんなの自分から迷いに行っているようなもんじゃん……」

 

『新月〜。ボヤキタイノハワカルケド、(くち)ヨリ先ニ足ヲ動カシテヨ〜……』

 

「はいはい……。ていうか妖精さんは元から口も足も動いてないじゃん……」

 

『何カ言ッタ?』

 

「いえ、なにも」

 

 そんなことを言い合いながら、新月と妖精は手分けして鎮守府中の扉を開けていったり、RPGよろしく隠し通路があったりしないかと捜索している。

 だが、かれこれ一時間ほど探しているが、『物置き』らしき部屋は影も形もない。

 

「駄目だ見つからない……」

 

『モウコノ鎮守府ノ中ヲ、三週クライハシタト思ウヨ〜……』

 

 新月の腰は既に悲鳴を上げており、妖精も汗こそかいていないが疲れてるような様子だった。

 

「やっぱり、物置きなんてないのかな……」

 

『無イ気ガスルヨ〜……。ソモソモ、鎮守府ニ明確ニ「物置キ」ト呼ベル部屋ナンテ、ナインダシ』

 

「───えっ、そうなの!?」

 

 思わず目をむく新月。なんかサラッと重要な事実を言われたような気がする。

 まぁここはどうだかわからないけどね、と妖精は前置きし、

 

『「物置キ」テ明確ニ定義サレタ部屋ハ、鎮守府ニハ最初カラナイヨ。各々ノ提督ガ、空イテル部屋ヲ勝手ニ「物置キ」トシテ利用スルダケデ』

 

「えっ、それ大分大事な情報じゃない?もうちょっと早く言ってよ……」

 

 なんだか一気に疲労感が倍になった気がして、新月はガックリと座り込む。

 

『仕方ナイジャン……新月ガアンナニ自信満々ニ言ウカラ、アルカナッテ思ッタンダヨ……。デモ今思エバ、アノ二代目ガ、ワザワザ「物置キ」ナンテ部屋ヲ定義シテ使ウカナ……? ナンカ燃エルゴミト、粗大ゴミヲ一緒ニシテ出シテソウナ人ダシ』

 

「それはさすがに偏見だと思うけどね。『さすがにそんなことするわけないだろ』て言い切れないのが怖いところだけど」

 

 だが確かにそれは一理ある。

 そもそも壁についたシミやらヒビを隠しもせず放置しているような提督だ。『物置き』なんて作らず、ゴミをそのまま通路に放っていたとしてもなんら不思議はない。

 

「でも、だとしたら手詰まりだな……」

 

 新月は顎に手を当てる。

 いや、しかし考えてみれば、この手詰まりは当然の結果だ。

 

 第一『物置きがあるはず』という考え自体が、一切の根拠のない彼の想像なのだから。増してや『その物置きに日記があるはず』てのも同じく根拠なしで、さらにそれも『初代提督が日記をここに残しておいたはず』という確証無しの仮説に基づいたもの。そしてもっと言うなら、『それを「邪魔な物」だと考えて二代目が物置きに放り込んだ』というのもだ。

 

 ……こうやって改めて並べてみると、ホント杜撰にもほどがある推理だ。

 

 想像に想像を重ねただけのそれはもはや推理ではなく、妄想とすら呼べない、ただの戯言(たわごと)だ。推理小説にこんな根拠で犯人を突き止めようとする探偵がいたら、即座にミステリー界隈から永久追放をもらっているだろう。

 

「しかし、それでも見つけないと……。しかしぶっちゃけ極論を言うと別に見つけなくても困るわけじゃないんだけどなぁ……ただそれを見つけといた方が文月との交流は間違いなく取りやすくなるだろうし……いやしかし……」

 

 もったいないオバケならぬ、しかしオバケになりながら、あーでもないこーでもないと考え込む新月。それを見かねたか、妖精はそれまで離れていた新月の肩という定位置に戻って言った。

 

『マァマァ。今日ハトリアエズ、コノ辺リデ切リ上ゲヨウヨ。今仲間カラテレパシーガ来タケド、チョウド工廠ノ修理ガ終ワッタミタイダシ、気分転換モ兼ネテ行ッテミナイ?』

 

「……工廠?」

 

 新月の体がピクッ、と反応する。

 未だ真の意味で艦隊運用をしているわけではない新月にとっては、聞き慣れない言葉だった。

 そしてその反応を見てここぞとばかりにプレゼンする妖精。

 

『ソウ!ソコデ艦娘ヲ建造スルンダヨ!ヤッパリ「艦隊」ヲ名乗ルカラニハ頭数ガ揃ッテナイト!戦イハ数ダゼ提督!』

 

「えっ、『建造』ってなに!? 艦娘ってキャベツ畑から生まれてくるんじゃないの!?」

 

『…………』

 

 なんだか色んなバリエーションの『無知』が混ざっている新月に、妖精はどう反応していいのかわからないようだった。

 が、何回か空咳(口動いてないが)をして気を取り直すと、

 

『ホラ!早ク行コウ!道案内ハ僕ガスルカラ!』

 

「え、ちょっ、妖精さん力強っ!!」

 

 と新月の肩を後ろから押していくのだった。

 

 

 

「うーんと……鋼材がこれで? ぼーきさいととやらは……」

 

『コッチダヨ。コノ茶色ッポイヤツ』

 

「へー、こんなのあるんだ……」

 

 耳元からの妖精のレクチャーを、なんとか脳に詰め込んでいく。『ボーキサイト』という単語を、新月はここで初めて知った。

 妖精に押されて着いた工廠は、やはりコチラもいつぞやの食堂と同様に建設当初同然(同じく一度も見てないけど)に綺麗になっていた。

 ただ、さすがに資材に関しては妖精もどうにもできなかったのか、今新月が教えを受けて確認を取っている資材類は、いずれもヒドイ状態である。数はどれも40ずつしかないし(冗談抜きでこれが今の鎮守府の総資材ということになる)、所々黒ずんでたり埃を被ってるし、鋼材に至っては明らかにヒビが入ってるようなものもある。

 これが食品とかなら間違いなく『不良品』として売る前に廃棄されるヤツだ。二代目提督は資材すらもマトモに使えなかったのか。

 

「さて、建造と言われても……一体どれをどのくらい投入すればいいのか……」

 

『ンー、ソコハアンマリ深ク考エル所ジャナイト思ウケド……』

 

「いやいやこの40ずつの資材で全部なわけだし……ちゃんと考えないと……」

 

『ンーメンドクサイ!!コーイウノハ全部投入スレバイインダヨ!!』

 

「ああーーっ!?」

 

 新月がウダウダと悩んでいる間に妖精はさっさと資材すべてをぶち込んでしまった。

 

『ドノ道コノ状況ジャ30モ40モ変ワラナイヨ!』

 

「いや変わるよ!? 何してくれてんの本当に!」

 

『ンモー、新月ハ繊細スギルヨ』

 

「妖精さんは大胆すぎる!」

 

 ひとしきり言い合ったが、まぁもうぶち込んでしまった以上はどうにも出来ないし、新月はとりあえず待つことにした。

 資材がほぼ不良品だし埃も被ってたので、無事に艦娘が『建造』されるかに若干の不安はあるが、妖精によるとそこらあまり問題ないらしい。

 曰く、『クッキーをどれだけ粉々にしても味は変わらないでしょ?』とのこと。わかるようなわからないような理屈だ。

 

 そうして18分ほど待つと。

 

 

「あなたが司令官ですね」

 

 

 やがて工廠の中から、新しい声が出てきた。

 その姿を、文月以外に初めて見る艦娘に、新月は思わず「わお」と声を上げた。

 

 

「君は……?」

 

「三日月です。どうぞお手柔らかにお願いします」

 

 

 新月の問いに、黒い艦娘はそう答えながら敬礼した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の登場が、結果的にこの鎮守府に波乱をもたらすことになることを、ここにいる者達はまだ知らない。

 

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