そしかい後、しばらくしてから警察を辞めて喫茶店を営みはじめた降谷の元を、元の体に戻った新一が訪ねてきました ナチュラルに元の体に戻った新一と付き合いがあります
▼ついったーで友人と盛り上がった結果、「公安に戻ったあとも組織のやり口が染みついた降谷零」というのをテーマに書かせてもらいました。取引として医者パロも書いてくれと言われたのでこのあと書きます 病院の構造全然詳しくないんだけどねェ~~~漫画とかドラマとかあと患者としての知識よ それでも構わんらしいので……
pixivより転載

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【降+新】大海の水を以てしても濯げない

 その店の内装は、どこかポアロを思い起こさせた。

「設計のときにね、僕が安心できる内装にしたかったから。少し参考にさせてもらったんだ。許可はもらったよ」

 そう言って、カウンター席に腰かけるオレにコーヒーを出してくる。カウンターの向こうには見慣れた店主がいる。見慣れた、というのは1年以上前のことだが。降谷零という男は、エプロンを纏って穏やかにほほ笑んでいた。その笑顔は、ポアロでアルバイトをしていた頃に見せたものとは種類が違った。

 これは、諦観の笑みだ。

 コーヒーを飲む。オレ好みの味だ。憶えていてくれたらしい。好みはコナンの頃から変わらないのだ。出されたケーキを啄みながら、オレはつい1週間前に新装開店したばかりのこの店を見渡した。店主の降谷の顔が良いことはそろそろ知れ渡りつつあるらしく、女性客が目立つ。ちらちらとこちらを窺ってくる彼女たちに降谷はひらひらと手を振った。色めき立つ女性陣に内心で息を吐く。ここまでは今まで通りの降谷だ。否、「安室透」だった。

 カップを傾けながら、オレはごく小さな声で尋ねた。

「なんで、警察を辞めたんですか」

 それは自分でも、薄氷の刃を喉元に突き付けるような問いかけだったと思う。詰めすぎただろうか。しかし、降谷は曖昧にほほ笑んだままだ。髪と同じ色の眉を寄せていたが。これは、苦笑だ。それにすら翳りがあって素敵、とはのちのネットでの彼の評判だ。

 降谷は言った。ごく小さく、何とか聞き取れる程度の声で。

「僕はもう、日本を守るのに相応しくないからだよ」

「組織は壊滅したのに?」

「だからなおのこと、かな」

 その間もパフェを作る手を止めないから中々にシュールな絵面だった。そう思いながらも黙っていると、彼は言った。

「最初は気付かなかったんだ。風見が、『どうかしたんですか』って度々訊いてくるから、そんなに僕は変だったかな、と思った。でもいつも通りの自分のつもりだったんだ」

 クリームを載せてアラザンを撒く。ポッキーなどを差し込んでいく降谷は、淡々と語った。

「でも、僕はもう僕じゃなかった」

 その目が遠かった。

「……ある事件でね。詳しいことは語れないけど、公安の捜査をする以上不都合な真実を知った女性がいたんだ」

「……」

「僕は、『邪魔者だから消そう』と、躊躇いなく拳銃に手を伸ばした」

「……!」

「そこで、風見に『降谷さん!』って強く呼び止められて……はっと思い至ったよ。自分が何をしようとしたか」

 降谷が、自分の手を見つめる。小刻みに震えていた。店内は静かで、そんな彼に気付く様子もない。ただ目の前に座ったオレだけが、彼の様子を見ていた。

 オレは、何も言えなかった。

 降谷は言った。自嘲というには、あまりに悲痛な微笑みを湛えて。

「硬直して血の気が引いた。僕は何をしようとした? 確かに僕ら公安は無実の人間を陥れたこともある。でもそれも捜査の都合の問題で、少なくとも殺したことはない。でも、僕は」

 彼は言った。

「殺したことがある。バーボンだった頃」

 静かな声だった。

「最初はできるだけ、殺せと言われた人のことは逃がしてきた。でも、どうしても『自分たちの目の前で殺せ』と言われたことがあって……そのとき、僕は殺した」

 オレは、何も言わない。何も、言えない。

「その日の夜は水道で何度も何度も手を洗った。死んだ友人の名前を呼びながら、赤く擦り切れるぐらいまで洗った。それでも、僕の手から拳銃の反動の感触は消えなかった。……死ななかったのは僕が『バーボン』だったからだ。意図的に人格を切り替えることで、僕は辛うじて生き延びられた」

 顔を上げる。パフェに切りつけたイチゴを盛り付ける降谷は、指先と心を切り離しているようで。

「でも、あの女性を殺そうとしたとき。僕は自分が降谷零であるという自信が持てなくなった」

 そう言われて、顔を上げる。降谷は、今まで通りの彼に見えた。尤も、それは「安室透」のときも「バーボン」のときも顔に変わりはなかったのだが。だからこそ、質が悪いのだろう。降谷は語る。

「果たして今の自分はバーボンなのか? 降谷零なのか? ――それがさっぱりわからなくなった。そして結論として、少なくとも今の自分は、日本を守るのに相応しくない。こんな不安定な自分では。……だから、辞めたんだ」

「……休職でもよかったんじゃないですか。降谷さんはそれだけの貢献をした」

「休職だと、いずれ復帰することになるだろう。それだとダメだったんだ。僕はもう、自分の人格の見分けがつかない。今後も、見通しが立たない」

 語る、彼の声音は落ち着いていた。オレは知らず俯く。なんと声を掛けたらいいかわからなかった。そんなオレに、降谷さんは穏やかに話す。

「辞めてよかったな、って思うよ。僕はもう、誰も傷付けずに済むから」

 本当に、その声が、凪いだものだったから。オレは猶更、「あなたほどの人が前線にいないなんて」と言う言葉を飲み込んでしまった。

 彼は壊れた人形だった。心と指先を切り離し続けた、これが結実だった。

 降谷が大盛りパフェを運んでいく。いずれこの店にもアルバイトがつくだろう。そして、自分はこの店には2度と来ない。そう決めた。

 降谷零の「余生」に、事件を運ぶ自分のような血腥い人間は相応しくない。そう思ったから。

 戻ってきた降谷に、オレは料金を支払い「ご馳走様」とだけ告げ、店を辞した。

 途端、秋の日差しが目を刺す。もうすぐ冬だった。

 

 

 

 

 

End.


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