本音は、意地と猫被りの応酬だ。その為だけに良からぬモノを引き連れてしまう事はザラでは無い。
今回の僕も、良くないモノを引き連れてしまうかもしれないな……
再び深夜。それが、月の姫君が寄越した条件だった──────
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「……それで、どちらへ向かえば標的はおりますでしょうか?」
「この竹林を更に奥に進んでみなさいな。そうすれば自ずと見つかる……もとい、向こうからやって来ると思うわ」
「それはまた、何故そう言えるので?」
「彼女の性分かしら、割とお人好しなのよ。困った人の助けになる、それが好き。多少迷った振りでもしとけばホイホイよ」
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……とまぁ、そんな事を言っていたので、今僕は真夜中の竹林で迷子を演じている(つもり)。
無論無理は承知だ。そりゃそうだ、あからさまな上に怪し過ぎる。こんな真夜中に人っ子一人寄り付かない竹林でどうして迷子になれようか? まるで不審者ですと看板を立てて歩いてる気分だ、実に恥ずかしい。
頭の中でぐるぐると巡る羞恥心と不審感に思わず踵を返したくなるが、それを抑えて歩みを進める。ここ、竹林の道のりは大体は把握済みだ。そもそも一度自力で来て自力で帰ったのだ、視覚での記憶は望み薄でも肌身の感覚が憶えてる。
しかし迷いの竹林……話には聞いていたが、それ以上か。昼間でも薄暗く感じるこの道を、剰え真夜中に歩く。月の光のみが頼りになるこの中で、その月光すらも密集した背の高い竹々に遮られる────何なんだ、人除けとしか言えないこの環境は。
永琳女史や輝夜姫があの屋敷で誰にも見つからずに過ごせた理由がよくわかる。後はそこに姫の力も加えれば完璧だ、誰も屋敷には辿り着けない迷いの竹林道が出来上がるワケだ。
だが生憎、こちとらも大昔の鍛錬が活きてる。五感強化と六感以上の開発。そして何より、星が良く見えるのが良い。良い道標だ。
「幻想郷の外でも星はこれくらい綺麗に見えるのだろうか……?」
ふと空を見上げて外の世界に思いを馳せるその時、僕の足音以外の足音が聞こえて来た。正面を向いて周囲を見回すと、橙色のポツンとした灯りが見える。恐らく、いや確実にあの灯りを持つのが話に聞いた"彼女"だろう。
灯りが徐々に大きくなり、次第に足音も明確になっていく。同時に灯りの奥に人の形が見え、段々と白色と赤色のカラーが見えて来た。
「……ん、どうしたあんた? そんなとこで。こんな真夜中にこの辺を彷徨くってのは珍しいね、さてはあんた妖怪かい? それとも……」
いやはや全く以て仰る通りです。もはやわかり切っていた問答に予め用意していた返答を彼女の言葉に対して被せ気味に発した。
「肝試しに来たんだが、場所はここであっているのかな?」
「なに? 肝試し? 今あんた肝試しと言ったのかい?」
白髪の少女は耳に手を当ててよく聞き入れる姿勢でそう言った。確実に馬鹿にされてるような言葉使いだが、本当にそうなのです。取り敢えず彼女の言葉に返答しよう。
「ああ、確かにそう言っ────」
「なんと肝試し! ああ全く、いつから人間はこんなに馬鹿になったんだ? こんな狂おしい満月の丑三つ時に、こんなに妖怪が沢山出る処まで来て、事もあろうか肝試し! 妖怪に殺されなかったのが不思議だよ。でもまぁその髪と目を見ると、どうにも普通の人間じゃないなぁあんた。まさか本当に妖怪なのか? それとも半分か?」
本当の本当に仰る通りだ、ぐうの音も出ない。肝試し……その一言だけでも充分煽る事が出来たが、ダメ押しのワードを僕は言わねばならない。姫曰く、"これ"を言えば彼女は間違い無く闘う……命懸けで殺しに来る────
「…………かぐや」
呟き程度に口にした姫の名前。目の前の少女の耳に入った瞬間、全身を焼くような殺意が僕を覆った。雰囲気が一気に変わった……まるで炎────いや、もっと違う何か……イメージは炎で間違い無いだろうが、何だこの、この、羽根?
「お前その名前────なるほどわかったぞ。なら私の名前も当然知ってるよな。大方いつもの使いだろ、挨拶は無しだ、来い……私は絶対に死なないから、テメェはぶっ殺してやる」
その瞬間、燃え盛るイメージが目の前で具現化するように彼女の全身から真っ赤な炎が広がり出る。あぁ、君の言う通りだ
妹紅、君に僕は、殺せない……
「先手は譲るよ、僕は攻めよりも受けが得意でね」
「そうかい。なら先に死ね!」
激昂気味の妹紅は全力疾走からの右拳の打突で愚直に僕に攻撃して来た。この単純さは死なないが故の余裕と捉えるべきか、それとも弊害と捉えるべきか……何はともあれ、これは相手の右手側に避けて難無く躱す。
躱した事で彼女は僕の背後で拳を振り切るが、即座にまた右拳を構えて僕の背に殴り掛かる。今度は右に体を反転させて突っ込んで来る拳を右手で払っていなす。拳をいなされた妹紅はその勢いと拳の振り切りの勢いで左の後ろ回し蹴りを放つが、僕はこれを距離を取って避ける。
続け様に一歩踏み込んで右拳を腹に突き出してきたが、これも先程同様に左手で下に払い除け、右に少し移動。妹紅は払い除けられた事でややバランスを崩してよろけるが、僕を見ながら顔を上げつつ左拳を裏拳気味に振って来た。
これも距離を僅かに取って躱すが、拳を振った勢いから右拳を斜めに振り上げて来た。しかもその拳には炎を灯して……
「おっと」
今まで火炎を纏って攻めてこなかったので、さっきまで見ていた炎の光景を忘れかけていた為に思わず声が出てしまった。あぁ、やっぱり衰えてるな。考えてみれば闘わなくなってどれだけ経ったのだろうか? 10年? 100年? 1000年はさすがに無いとして、この程度の年単位体を動かさないとこうも鈍るか。
昔の鍛錬で培った感覚も宛に出来ないか。我ながら世の中の平和に感心してるよ
「ちぃッ! テメェ避けてばっかいんじゃねぇ!! かかって来いっつってんだろ!」
更に怒りの感情を加速させる妹紅は全身から火炎の弾幕をばら撒き、高く跳び上がった。ばら撒かれた弾幕はある程度の飛散の後に僕に向かって飛来してくるので、後方に細かく左右に跳ぶ事で躱せる。ついでに頭上に迫る彼女の踵落としを大きく跳ぶ事で躱した。
躱した踵落としは炎を纏い、強く地面に減り込み地割れを作ると同時に爆発を伴って更なる破壊を起こす。蹴りを落とした彼女は、何やら苛立ってる様子だ。
「ちょこまかと!」
「一応訊いておくが、僕から攻撃してしまっても良いのかい?」
「くどいんだよ! さっきからかかって来いって、言ってんだろ!!!」
妹紅は殺し合いを望んでいる。僕に向けられた殺意を他に向ける事は叶わない。何よりそうするように頼まれたのだから何も間違った事はしていない。だが何処と無く無用な遠慮をしてしまう……本当に攻撃してしまって良いのか? と。本気で攻撃してしまって大丈夫なのか? と。僕は彼女に問い、その返答をもらう事で、無用な遠慮をかなぐり捨てた。
「そうか、わかった。では遠慮無く……」
僕は眼鏡を懐にしまい、地面をしっかり踏み締め、飛び掛かる彼女、妹紅へ攻撃した。
「────ゴォォッッッ!!?」
右足を真上に振り上げ、僕の足の爪先を彼女の鳩尾に深く押し込んだ。本気で蹴り込んだ所為か、彼女の背中が蹴りの形に隆起している。更に衝撃や威力が完璧に伝わったのか、蹴り足から妹紅が吹き飛ぶ事無くそのまま落ち着いている。妹紅自身も蹴り足の上で目を思い切り見開いて口から血を滴らせていた。
「遠慮無く、今から攻めに転じよう」
僕は言葉を言い終えた直後、右足を引いて妹紅を落下させて彼女の顔面に渾身の左拳を真っ直ぐ突き出した。上半身の捻りのみだが、十分な威力は出る筈だ。
突き出した左拳は妹紅の鼻を潰し、骨を砕き、脳も壊しながら強く速く彼女を吹き飛ばした。続けて僕は吹き飛ぶ妹紅に追いつき、右足を横に振って真横に飛ばし、更に飛ばした妹紅に再び追いついて今度は左足のネリチャギで頭部を蹴り落とす。真下に激突した妹紅は全身から炎を出すが、僕は構わず空を蹴って急速に落下、彼女の鳩尾を今一度蹴り潰す。今度は爪先では無く右の膝蹴りで。
今度の蹴りは衝撃が逃げてしまい、地面が割れ砕けて弾け飛ぶ。自生する竹が倒れたり抜け落ちたりする中、僕は空いた左足で更に地面を踏み付けて、踏み付けた際に生じる地面の隆起で妹紅を浮かせ、吊り下げられた砂袋の如く、遠慮無しに連打を叩き込んだ。数えて大体1秒に500ほど打ち込んだだろうか。満遍なく打ち込んだ妹紅の全身が血と肉をばら撒きながらただの肉溜まりと化して弾け飛んだ。
「ふぅ。死なないとは言え、些かやり過ぎたかな」
肉溜まりが僅かに痙攣を起こしている。僅かに生きているという事か。さすがに死なない者を殺す事は叶わないな……僕は。だが"こいつ"なら話は変わる。
「霧雨の剣……もとい草薙の剣。君の不死とやらの原理は生憎見当が付かないが、恐らく生と死の境界が曖昧になっているのだろう。ならその境界をこいつで作ってやれば良い……要するに無理矢理切って『区分』する。強制的に境界が形成されれば、君は直ちに死ぬ。まぁそれもこれも、この草薙の剣に出来るかどうかに掛かるがね」
僕は徐に草薙の剣を呼び出し、鞘から抜いた。このまま剣を振り下ろしても良いかもしれないが、その是非は"彼女"に訊くとしよう。
「それで、どうしましょうか? 僕の仕事はここまでです。もう十分退治出来ましたよ。このまま本当に殺しますか? 出来るかどうかは保障しませんが」
顔を真横に向けて横目で後方を見ながら問い掛けを投げ掛けると、竹林と夜の暗闇から綺麗な黒髪の少女、輝夜が現れた。姫は姿を現すと視線を僕から僕の足元に移し、複雑な表情を薄ら浮かべて僕に応答した。
「結構、ご苦労様。それにその剣は私の永遠を斬った……ならば彼女の不死を無視して殺す事は叶う。無論それは私にも当て嵌まる事。本当に恐ろしい戦闘力ですわ英雄様。しかもまだ全力でないと見える……末恐ろしい他ありません」
「遮るようで悪いが、僕は今まで全力だったよ。彼女が頑丈だっただけさ」
姫の口調は、僕に対して初めて対面した時より敬語が少々多くなっている気がする。何より今の輝夜からは焦燥のような、困惑のような、とにかく額に浮かぶ汗と僅かに見られる身体の震えから言いようの無い"恐怖"を感じてるように見えた。
「その割には息切れ一つ起こさずに相手をただの肉にしてしまう程の攻撃を放てるのはなかなかに異様ですわね。まぁ、隠したいなら構いません。約束通りこれからは良好な関係を築きましょうね、英雄様」
うむ、どうにも畏まっている。これは確定か……取り敢えず呼び方を改めさせよう。
「すまない、さっきから言うその"英雄"呼びはやめてくれ。もう今はそんな大それた輩では無いし、今まで自分を英雄と思った事は無い。この幻想郷の英雄は、博麗 霊夢と霧雨 魔理沙だよ。僕の事は霖之助で良い、それが無理なら店主でも道具屋でも、好きなように呼び給え」
「では霖之助。私見たわ、幻想郷縁起────あの書物には、あなたは確かに英雄の区分に書かれていたわ。あの面子にして異様なまでに目立つ存在……書かれる内容は至って普通、苛烈な戦闘力など微塵も感じさせない。なのにどうして不釣り合いな内容に比して英雄の枠組みにあなたは居るのか? 更に調べたら、博麗の巫女では無い幻想郷の英雄の話を聞いた。詳しい内容は無く、ただあるのは【全ての強さの頂きに立つ男】と……その、私の永遠を斬る剣、それは天下を取ると言う剣ね。あなたがそれを持ち、扱うと言う事は、紛れも無い事実────それでもあなたは"英雄"の名を否定すると言うの?」
────そうか。御阿礼の……そう言えばかなり前に妖怪に襲われそうなとこを助けて名前と色々を訊かれたような……あの当時は名前だけしか教えてない筈だが、僕の事を徹底して聞き回ったか? 執念じみた行動力だな、感服するよ。
現在の代の阿求とは確かに対面した事がある。彼女は僕の事を知らないみたいだったし、何より初対面だった。その時に話した内容は決して闘いの話はしてない。英雄の欄に僕を載せると言うのは、一体何故なのかわからない。
が、今更気にしたところで遅い。それに今の僕は古道具屋だ。ただのね。
「否定するね。何故なら今の僕はただの古道具屋、日がな一日本を読み、偶に来た客を相手に商売する……ただの古道具屋店主さ」
僕は眼鏡を取り出して掛けると、捨て台詞を吐いてその場を後にした。その後、背後から聴こえる会話を僅かに拾いながら……
「無様なものね、どうかしら? 肉塊となった感想は?」
「ふざ、けん、な!! マジでこ、ろされると思ッ……たわ! あんなバケモノど、っから連れてき、たんだ!?」
「永遠亭で偶然」
「んなワケ、あるか!! ありゃ妖怪でも無ければ、神でも無ぇ……ありゃ英、雄だ。あの膂力を浴び、て思い出した……あの人に私は、一度助けられてる」
「あら妹紅、知り合いだったの? だったら紹介してよ。私ちょっと惹かれちゃったわ」
「紹介なんて出来ねーよ! あの人には確か、心に決めた人が────」
「え!? マジで? やっぱ最高の物件ってワケね? 略奪なんて萌え、いや燃えるじゃない!」
「その前にお前を燃やしてやるよ」
続く
伝説とは嫌なものだ。いつまでも残ってしまう。それが良いものでも悪いものでも……
だからなのか、何だか嫌な予感がしてならない────