東方香霖記   作:超絶暇人

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 因縁と言うのは、誰にでも少なからずあるものだ。

 どんなに品行方正に過ごしたところで、要らぬ恨みや怒りは買うもの。だからこそ、無駄に関わらなくて良いものを判別し、即座にそれから逃げる上手い者が居ると、流石だなと思う。

 僕はどうにも、そこらへんが下手くそでね…………


花映塚篇
"風見向く"、"幽"かな春を、"香"る異よ


 それは、誰がどう見ても異常で、誰がどう見ても異質で、誰がどう見ても、異変だった…………

 

 

 ────季節は春。あの夜の終わらない日……後に付けられた名称は、『永夜異変』。その永夜異変を最後に今日の春まで平和な日々だったが、遂に起こってしまったか。未曾有の天変地異が……

 

「これは……何だ?」

 

 未だかつて見た事の無い光景が店の外に広がっていた。朝、目を覚まして花の香りがするので窓を見て驚き、戸を開けて困惑だ。

 花、花、花……見渡す限りの百花繚乱。いやいや、雑草等の芝以外に花など大して咲かない魔法の森辺りでさえ色とりどりの花が咲き乱れているとは、本当に驚きだ。

 

 桜を始め、椿、木蓮、桃に菫……菜の花、蒲公英、紫陽花、梔子、百合、桔梗、朝顔……秋桜、金木犀、柊、菊……水仙、福寿草、梅、山茶花……

 

 何だこれは? 四季の花を全て網羅している。春夏秋冬を一挙に体験してる気分だ。明らかにおかしいと言えば、秋の花である彼岸花が、他の花と比べて数が多い気がするくらいだ。しかも彼岸花、実は赤色だけでなく白、橙、黄、紫と、意外と色の種類が多い。

 

 それはさて置きこんな状態だ、もう既に霊夢と魔理沙は動き出してるだろう。だがここまでとなると僕も静観していられないな…………まぁ、いつも静観しようとしても出来てないのだがね。

 例の如く僕は正装に着替えてから八卦炉銃を腰にしまい、店を出た。

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 店を出て山の方へ見遣る。いつもより色鮮やかな妖怪の山を目撃した後、黒い翼の羽撃きを見た。あれは新聞屋の子か。しばらく眺めていると、今度は遠くからでも目立つ銀髪を見た。メイド長まで出張るとは、余程だな。そんな他人事の風に言ったが、実際自分も現状は彼女達と変わらん────人の事を言えた身か、バカモノめ。

 自分自身を叱責しつつ、取り敢えず歩を進めた。

 

 宛ても無く歩いておよそ5分程、僕は如実に強く発せられる気配を肌で感じて足を止めた。間違い無い、強者の気配だ……それに今足を止めたこの場所、向日葵が豊富に咲いているこの場所は────

 

「太陽の畑……憶えのある気配だと思えば、キミか」

 

 この畑を一切として埋めるのは背の高い向日葵群だが、人の通れる道が用意されている。その道には雑草一つ湧かず、しかとした通路として綺麗に十字路や丁字路が存在しているのだ。無論、その道を用意した本人は、植物の操作に長けた人物であるのは言うまでも無いだろう。

 

「久しぶりだな、風見(かざみ) 幽香(ゆうか)

 

「────久しぶりね、霖之助」

 

 そして、その人物が、僕のちょっとした知り合いであるのも、言うまでもないか……?

 

「良い日和ね、今幻想郷はたくさんの花で溢れているわ」

 

「一応訊くが、キミがこの状況を作ったワケでは無いんだな?」

 

「そんな事をしたら色んなところから叩かれてしまうじゃない、そんな愚かな事を私がすると────」

 

「思ってないよ、これは確認だ。それに、今のキミは昔とは違うのは僕だってわかってる。じゃあ、その確認が済んだので、僕はこれで……」

 

「まぁ待ちなさい。あなた、目星を付けたからこそここに来たのよね? なら、ちょっと遊んでいきましょうよ。あなたも出来るでしょ? ごっこ遊び」

 

 早々に立ち去ろうとする僕を幽香は引き止める。弾幕ごっこがしたいらしいが、僕の場合はごっこでは無く戦闘になるんだがな。

 

「キミは大変元気でよろしいのだろうが、生憎状況を見てモノを言ってくれ。何ならキミにも手伝って欲しいくらいなんだが」

 

「じゃあこうしましょう。あなたが勝ったら私はあなたに何でも協力する。私が勝ったらあなたが私の傘を直した上で再戦よ」

 

「ちょっと待て、キミはどれだけ闘いたいんだ……バトルドランカー(戦闘狂)にも程があるぞ」

 

「答えは聞いてないわよッッッッ!!!」

 

 問答無用、その四文字を全身で体現するが如く。目前の女性は傘を放りながら流水のような動きで右に回転し、右足の後ろ回し蹴りを放ってきた。幽香の放つ後ろ回し蹴りは、皆が思う回転しながら薙ぐように蹴るものでは無く、所謂『足刀蹴り』と言う鋭い突きの蹴りを回転で威力を増強したものだ。

 

 一切の躊躇無く放たれた後方回転足刀は無防備な僕の首目掛けて飛ぶ。だが初動が見えなかったワケじゃない、回転の挙動の時点で察しがついた。後は的確な人体の弱点位置を思い出し、僕は両腕を正面でくっつけて防御の体勢を整えた。

 

 防御体勢が完成した僅か0.3秒後、両腕に重くのし掛かる蹴りの衝撃で、僕の全身は真後ろに真っ直ぐ吹き飛んだ。向日葵を掻き分け、木々を薙ぎ倒し、百数メートル程度先の地面を転がり、やっと止まった。

 

「くっ────強烈だな、さすがに」

 

 久しぶりに味わう強固な蹴りだ、体が過去の闘いをこちらの意思とは関係無しに想起する。その時、腕の筋肉が僅かに膨れ上がるような感覚に襲われる。これも肉体が思い出してる影響なのか、非常にゆっくりだが、腕を伝って徐々に全身の筋肉が隆起していくのがわかる…………

 

「ふっ、さすがにマトモにくらいはしないか。でも、そうでなきゃ面白くないわ────」

 

 直後、体の状態変化に気を取られてる隙に超高速で幽香が接近、透かさず僕は左腕を側頭部まで上げ、右手を左腕に掌の状態で持っていく。瞬間、左腕と右掌に重厚な衝撃が来る。右脚の回し蹴り、薙ぎ払うような蹴り。

 

「っ────」

 

 やや声が漏れるが、今度は吹き飛ぶ事無く耐えた。それにしても凄まじい威力だ、単純フィジカルなら鬼の方が明らかに上手だが、鬼には無い技術が彼女にはある。僕が先程から受けている打撃は全て古武術の技を用いて繰り出されてる。

 曰く、剛体術と呼ばれる代物か。打撃の瞬間に筋肉と関節を固めて威力の減退を極限まで削る技術だ。それ故に、威力の逃げ場は100%当てられた本人にのみ伝わる。ただでさえ肉体の強固な幽香だと言うのに、鬼に金棒を持たせてしまっている。

 

「ふんっ!」

 

 幽香は空中回し蹴りの体勢から着地すると、左拳を緩く握って僕の腹を打ち抜いた。切り返しの速さから防御が遅れ、一撃を許してしまった。しかもまずい事に、当たった場所が肝臓の位置だ。

 

「ゔッ────!!」

 

 さっきと同じように敢えて緩く握った拳を打撃の瞬間に強く握って固めて筋肉と関節を締め上げて強固にしてある。その威力に思わず顔を僅かに歪めた僕を見て、幽香の瞳に輝きが現れる。即座に右拳を構えて今度は顎を殴り抜いた。

 

 当たる直前でこちらも食い縛ったので、顎自体のダメージは少しだけ軽減出来た。だが、やはり顎は顎だ。まずい、視界が揺れる。

 

「ほらほら、どんどん行くわよ!!!」

 

 顎を殴られた事で眼鏡が外れ、その直ぐ後に左頬に拳が直撃した。歯は先程の要領で食い縛ったので無事だが、頬はそうもいかず、呆気なく内側が切れた。それからメチャクチャな連打が襲い掛かってきた。乱暴な暴力に技術を乗算して最悪の撲殺妖怪が誕生しているぞ、非常に難しい状況だ、どうする?

 

 

 

 

 

 ────どうする?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




 付き纏われてるワケでは無いのだが、どうにも彼女は戦闘狂が過ぎる時がある。普段店に足を運んでくれる際は、普通に良い客なのだがね……
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