東方香霖記   作:超絶暇人

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吸血鬼は人の血を吸い、夜を生きる。

だが、幻想郷の吸血鬼は人は襲わない。
ある協定を結んだからだ。

“人を襲わなければ、代わりに食糧(いけにえ)を捧げる”と…

結果的に毎日吸血鬼の為に死ぬ人間が居るワケだ。

僕はそれには関わってはならない。
誰にも生命が生きる事を阻む権利なんて無いのだから…


それよりも気になる事があった。
その吸血鬼の中にただ一人、おぞましい狂気を持つ吸血鬼が存在する事。

僕も気にはなっていた。
何故なら、レミリア、咲夜、パチュリー、小悪魔、美鈴以外にもう一人の強い気配を感じ取っていたからだ。

暗闇の奥深くに潜む気配が…

彼女を止める。僕のこの手で、彼女の狂気を抑える。
それしか彼女を“救う”方法は無いのだから…


“狂気”の紅魔、フランドール

鋼鉄の巨大な扉をゆっくり押した…

 

 

 

ゆっくりと扉は開き、景色が変わっていく。

 

扉が開き切った後、僕は躊躇わず中へと歩み入った。

 

目に入る光景はドス黒さを混じり合わせた紅い霧のような何かが部屋全体に充満していて、視界は限り無く“零”に近い。

 

僕はそっと眼鏡を外し、懐にしまうと、眼鏡をしまった懐から武器を取り出して起動する。

 

武器の起動直後、武器の動力部分に紅い霧が吸い込まれていく。

 

 

この武器は魔理沙に造ったミニ八卦炉のもう一つを動力とし、魔銃として改造した…魔砲銃『八卦炉』。または、“八卦炉銃(はっけろガン)

 

こんな事もあろうかと、余分に造っていたミニ八卦炉を改造しておいて良かった。

 

最近では“プラズマクラスター”とか言うのもある為、それを使ってミニ八卦炉の空気清浄効果を強化した。

しかし狂気すら浄化 出来るとは、外の世界の物は本当に素晴らしい。

 

 

暫らく八卦炉銃を起動していた為、紅い霧はスッカリ無くなっており、目の前にはこの館の主、レミリアと同じくらいに幼い少女が 俯いたまま佇んでいた。

 

と、少女はゆっくり顔を上げ、こちらを見る。

 

少女の顔は無表情だが、瞳が紅黒く、途轍もなく狂気に満ちている。

 

間違いない、彼女が狂気の元凶…

館から直接漂っていた禍々しい狂気は勿論、レミリアから感じた僅かな狂気も、全て彼女のモノか。

 

少女は無表情のまま首を傾かせながら口を開いた。

 

「おにーさん…誰?」

 

あれだけ強い狂気を放ちながらも言語能力が欠如していないとは、直接的な“闇”との関連は無い純粋な狂気か。

 

大抵、狂気は“闇”との密接な関係を持ち、強い闇に支配された後に狂気に呑み込まれる…と言った、闇の侵食の直後に現れる“二重症状”としてある。

 

ところが彼女の場合、狂気は紅くドス黒かったが、単に“狂気”だけしか認識出来なかった。

僕の気配探知はあらゆる属性を見抜く。闇は狂気に隠れる事があるが、必ず尻尾を見せてくれる一番わかりやすい属性だ。

 

もう既に9割以上わかってはいた。ただ確かめたかっただけなのだ。

 

 

「僕は森近 霖之助。君は?」

 

 

ふと彼女の質問に答えつつ、彼女の名を訊く。

 

「フ…フフッ…私はフランドール・スカーレット」

 

フランドール…スカーレット…

レミリアの姉妹か。

 

って言う事は同じ吸血鬼。だが違う気がする。

理由は“羽根”だ。

 

今まで僕が見て来た吸血鬼達は皆 蝙蝠の羽根だった。

だがしかし、フランドール。彼女に至っては羽根がダイヤのジュエリーのような物が複数個ぶら下がった形をしており、不気味な程鮮やかな色を放つ。

 

一体何をどうしたらこのような羽根を持つ吸血鬼が生まれるのか気になるところだ。

 

幻想郷にはまだまだ謎が多いのはわかるが、生態にまであるとなると何もしなくてもさすがに溜め息が出る。

身近にまで謎が潜んでるとわかると落ち着く事が出来なくなるだろう。

 

ハナから調べるつもりの無い僕でさえ知りたくなる…

 

と、フランドールは口元を僅かに釣り上げる。

 

「おにーさん、もしかして私と遊んでくれるの…?」

 

“遊ぶ”とは、弾幕ごっこの事か。

彼女の意思からはハッキリとそう感じ取れる。

 

まあ、少なくとも僕もそれが目的だったワケだし、少々“子供の遊び”に付き合わせてもらうとしよう。

 

「ああ、そのつもりさ」

 

「そう…ならば、徹底的にやろうよ…!」

 

僕の返事に対し口元を更に釣り上げ、眼光を鋭くする。

そして狂気を手に集束させ、先端部がトランプのスペードを模したややS字型の黒い棒を作り出して構える。

 

どうやら始めからその気だったようだ。

 

 

やれやれ、衰えた力がどこまで付いて行くかも試しモノだ。

 

 

「僕はいつでも良いよ、お手柔らかに頼む」

 

僕がそう言った直後、フランドールは強く踏み込み、僕に向かって神速で駆ける。

 

早速か…

 

僕は足を交差させ、素早く居た場所とは反対の方向に足を開いて戻す。

これは僅かな動きを素早く行う事で相手が高速で動いたかのように見せる避け技術だ。ほんの少しだけの動きの攻撃なら簡単にかわせる。

 

範囲が狭いなら尚更、フランドールは目を見開いて驚き、足を止める。

 

が、足を止めたものの、俯いた様子から黒い棒を思い切り横に振るう。

突然の行動に咄嗟に後ろに下がる。

 

だが、反応が少し遅れた為、僕の右頬が横一閃に切れた。

 

さすがにアレは驚いた。少しとは言え、油断してしまった。

 

黒い棒を振り切ったフランドールは暫らく硬直してこちらを振り向いた。

表情は先ほどの笑みより不気味になっている。

 

「おにーさん…本当は強いんでしょ?」

 

不意に訊きだすフランドール。

 

地下牢獄(ここ)に入れられる前にパチュリーから聴いた事があったの…幻想郷が出来上がる前に異変を解決していた英雄のお話。今でも生きてるって言ってたから、多分人間じゃ無いんだろうって思ったの。思った通りの人外、おにーさんの髪色は明らかにわかるよ」

 

何なんだこの娘は。例のスキマ妖怪まではいかないが、何かを見抜かれてるようで気持ちが悪い。

 

「安心した、人間だと脆くて直ぐ壊れちゃうんだもん。妖怪なら何をやってもそう簡単には壊れないよね」

 

言葉からして“殺す”と言う事に重きを置いて無い…

こう言うタイプはタチが悪い上に一番嫌いだ。

 

早く何とかすべきか。

 

僕はフランドールから距離を取り、八卦炉銃にエネルギーを溜め始めた。

それに対しフランドールも僕に向かって高速で駆け出す。

 

フランドールの行動に合わせて八卦炉銃の溜めが完了し、僕は八卦炉銃の引き金を引いた。

 

八卦炉銃の銃口の先から青白い光が発せられ、極大魔砲として放出する。

だが、フランドールは極大魔砲をかわし、僕の後ろに回った。

 

 

だが僕もそれは読んでいた。最初から真っ直ぐに当たってくれる単調な相手だとは全く思っていない。

 

寧ろ、くだらない程わかり易い行動を執ってくれる。

 

僕は溜め息を吐きながら八卦炉銃を手元で回し、左回転の後方回し蹴りをフランドールに目掛けて勢い良く放つ。

 

 

ズガァッ

 

 

僕の蹴りはフランドールの身体の中心を捉えた。

蹴りをくらったフランドールは高速で壁まで吹っ飛ぶ。

 

が、フランドールは体勢を戻し、壁を蹴って僕に向かいながら黒い棒を投げる。

 

黒い棒を八卦炉銃で弾き、フランドールに向けて八卦炉銃を構えた。

 

 

だがその瞬間、フランドールは一枚のスペルカードを取り出した。

 

 

「禁弾『過去を刻む時計』!」

 

唱えられた直後、僕が弾いた黒い棒が突然二つに分裂し、変形して四方向にレーザーを出現させ、回転しながら僕に近づく。

 

挟まれたか。でも慌てる必要は無い。

 

僕は八卦炉銃をを真下に向けて一瞬だけ魔砲レーザーを放ち、その反動で居る位置から真上に離れた。

そして体勢を空中で一回転して整え、床に着地した。

 

直後フランドールも空中で体勢を整え、目を見開いて不気味な笑みを浮かべながら別のスペルカードを取り出した。

 

「禁弾『スターボウブレイク』!」

 

瞬間フランドールの居る空中に大量の弾が出現する。

弾は七つの色を放ち、フランドールの羽根と同じ不気味さが感じられる。

 

そしてフランドールが手を高く上げ、僕に向けてゆっくり振り下ろす。その直後七色の弾幕が僕を目掛けて落下をし始める。

 

弾幕は正直避け慣れないな。だが、粒が大きく落下速度が遅い“雨”だと考えれば簡単だ。

 

“雨”のように激しい攻撃は過去に幾度となく避けてきた。

 

僕は姿勢を低くして勢い良く駆け出した。

周るように地下牢獄内の壁に沿って走りながら八卦炉銃にエネルギーを溜め、弾が近づいてきた瞬間に八卦炉銃に溜めたエネルギーを僅かに解放して、目の前の弾幕を掻き消す。

 

そしてガラ空きになった空中に向かって跳び、フランドールに向けて八卦炉銃を構え、残りのエネルギーを全解放して魔砲を撃った。

 

「無駄だよッ! 禁忌『レーヴァテイン』!」

 

僕が魔砲を撃った瞬間、フランドールはスペルカードを取り出し、唱えて手から黒い棒を作り出し、剣に変形させる。

 

すると変形させた剣の刀身から深紅の炎が伸び、恐ろしく長い炎剣と化した。フランドールはそれを思い切り縦に振り下ろす。

 

何ッ…⁈

 

驚いた僕は咄嗟に身体を捻り、なんとか横に移動して炎剣の軌道から外れた。

 

炎剣の一振りにより、八卦炉銃で撃った魔砲は いとも容易く真っ二つに断たれて消えた。

 

あの炎剣、指一本触れたら確実に触れた部分から綺麗に失くなってしまうだろう。

上手く近づいてあの炎剣をどうにかしなければ…

 

僕は再び八卦炉銃にエネルギーを溜め始める。

 

「おにーさん凄いね、私の攻撃を全てかわすし、その上私に攻撃を当てるし…さすが英雄だね」

 

突如喋りだすフランドール。

 

凄いとはまたお褒めの言葉だ。こちらは少しばかり焦っているのに。

 

 

良いだろう、僅かだが本気を見せてあげるとしよう。

 

 

と、僕は八卦炉銃の溜めが完了した事に気が付いた。

 

さて、行動開始だ。

 

 

僕はフランドールに向かって跳び上がり、八卦炉銃を構える。

 

「だから無駄だってッ!」

 

フランドールは思い切り炎剣を振り上げる。

 

 

今だ…

 

 

僕は僅かに八卦炉銃のエネルギーを解放して加速を行い、フランドールの目の前に動いた。

 

そして八卦炉銃を左手に持ち替え、右手でフランドールの両手を掴むと、八卦炉銃の銃口を炎剣に突き付け、素早くエネルギーを溜めてから引き金を引き、全力解放(フルバースト)の極大魔砲を放った。

 

 

ズォォッ

 

 

全力解放の極大魔砲を放った事により、フランドールの炎剣は刀身から消え去った。

それから僕は右手を放し、フランドール目掛けて八卦炉銃の弾を連射した。

 

弾の連射をフランドールは正面から受け、床に落下。僕は床に着地した。

 

と、フランドールはゆっくりと起き上がり、こちらを向く。

こちらを向いた直後、フランドールの口から血が流れ出した。

 

「どうだい? 楽しめてるかい?」

 

僕は八卦炉銃の銃口の煙を吹きながらそう訊いた。

 

「えぇ、楽しいわ…凄く。今までに無いくらいね…」

 

「それは良かった。だが、僕もあまり長く体力が続かないから、早めに決着と行こうか」

 

僕は皮肉気味に言葉を吐く。

 

「そうね、なら、この二つのスペルカードで終わりにしてあげる…!」

 

そう言ってフランドールは二枚のスペルカードを取り出した。

 

まさか、二つ同時に唱えるつもりか。

そして……

 

 

「秘弾『そして誰もいなくなるか?』、QED『495年の波紋』ッ!』

 

 

思った通りに二つのスペルカードを同時に発動した。

 

先ず最初にフランドールの姿が消え、何も無い筈の周囲から青く線を引いた弾幕が青弾をばら撒きながら出現し、次に何も無い地下牢獄内の中心の空中から全体に弾幕が広がり、壁で跳ね返ってこちらに向かって飛ぶ。

 

囲まれた、か。いや…僕にはまだ手がある。

この状況を打破し、彼女…フランドールに勝つ方法が…

 

僕は懐から一枚の紙札を取り出した。

そう、これはスペルカード。

 

こんな僕でも一応“弾幕札(スペルカード)”くらいは持っている。

 

まあ、“弾幕”では無いけどね。

 

 

「雨符『時雨』…」

 

 

そっとスペルカードを唱えた直後、景色にヒビが入り、僕以外の全てが静止した。

 

“時雨”とは、時の雨 と書くが…秘められた意味は“時を切り裂く”

これにより、時を止め、通過したい時間を“時間通過(スルー)”出来る。

 

ただし、強力過ぎるスペルの為、発動には力をかなり消費する。

 

僕は八卦炉銃にエネルギーを溜めながらフランドールの真下まで歩き、時間通過した。

 

 

“攻撃終了直後”の時間までね…

 

 

そして景色は完全に割れ崩れ、止まった時間が動きだした。

 

その直後に僕はフランドールの背後まで跳ぶ。

 

フランドールは今僕の姿が無いのを 死んだ と捉えたか、消えた と捉えたかのどちらかだろう。

 

僕は八卦炉銃をフランドールの背中に構えてこう言った…

 

 

遊戯終了(ゲームオーバー)だ」

 

 

その瞬間フランドールがこちらを振り向いたが、僕は引き金を引き、魔砲全力解放(フルバースト)を放った。

 

 

 

 

 

 

 

……こうして、僕は彼女の狂気を止める事に成功した。

 

荒っぽい手段だけどね。

 

 

僕はボロボロの姿で倒れているフランドールを抱え上げ、医務室へと向かった。

 

 

 

 

 

~紅魔館 医務室

 

 

 

空いているベッドにフランドールを寝かせ、僕は医務室を出た。

と、医務室前にメイド長の咲夜が立っていた。

 

「あっ…店主さん。何故 医務室に?」

 

「フランドールとか言う少女をベッドに寝かせただけだよ」

 

「まさか、妹様を止めて下さったのですか⁈ しかも一人で…」

 

妹様…って事は、レミリアの妹か。姉より優れた妹…どこかで似たような台詞があったな。

 

「そんな大した事じゃない。それに、君達に比べて僕は死んでも誰にも支障は無い。だから動いたまでさ」

 

「そんな事は…あっ、店主さん。顔に傷が…」

 

ふと咲夜が僕の右頬を見る。

 

「なに、気にする必要は無い。ただの擦り傷だ」

 

「そうはいきません、早く手当しないと」

 

咲夜は慌てた様子で僕を医務室に押し戻し、右頬を手当てした。

 

 

ある程度消毒した後、咲夜は僕の右頬の傷に絆創膏を貼った。

 

「これで大丈夫です」

 

「ありがとう、もう大丈夫だよ。それじゃあ、僕はこの辺で…」

 

そう言って帰ろうとした時、咲夜が止めた。

 

「待って下さい店主さん。ありがとうございます、妹様を止めて下さいまして」

 

咲夜の言葉に対し、僕は小さい溜め息を吐いて返した。

 

 

「礼はいい。それより、その娘にもっと外の世界を見せてやってくれないか? 彼女には、それが必要だ。それと、僕の事は“霖之助”でいいよ」

 

 

そうして、僕は医務室を出て、紅魔館を後にした……

 

 

 

 

 

 

 

続く




紅霧異変 終了

「新しく 紅霧異変 -余談- のストーリーが追加されました」
「新しく 春雪異変 のストーリーが追加されました」

なんて…とりあえず。


次回は余談です。(何となく…)


そろそろアレが追加されるかも…なんて


また次回
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