【世界観が】ジョーカーアンデッドに転生しました【迷子】   作:ウェットルver.2

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 千紀絶勝と協装曲(シンフォギア)編、はじめました。


 あ、この場合の「絶勝」とは、「素晴らしい景色(世界)」って意味です。
 べつに連戦連勝とかではないのでご安心ください。(⇐なにを?)


千紀絶勝と協装曲(シンフォギア)
先史はウタう


 名前をもらってから、数日後。

 おじさんの管轄区にある電波塔の修繕・修理が終わり、ラジオから他国のラジオ番組が聞こえてくるようになった。とはいえ電波状況は悪いし、あまり音声はよくない。

 

 ニュースを聞きながら、手にしたカードを見つめる。

 

「……レイズするよ。」

「ほう?」

 

 片眉をあげて、こちらの様子をうかがう“おじさん”。

 

「俺も、こういうゲームは初めてなんだがな。

 テーブルに並んだカードを見るに、まさか、『Q』のペアか?」

「ああ、もう、だめだよ、おじさん! そういうのは!」

 

「……っと、そうだったな。

 慣れないことをすると、相手の意図を聞きすぎる。悪い癖だ」

 

 顎髭を撫でながら、自分自身の手札とテーブルのカードを見比べている。

 

「まさか、2のペア、なんてことがあるのか?

 最低でもペアをふたつ、同じ数字をみっつ、でも勝ち筋になるのか?

 ……そうか、相手がペアしかない可能性もあるのか、深いな…………」

「なー、ボス? 初心者(Newbie)なのは、わかるけどなー?

 そんなファースト・ゲームからウンウン唸らなくってもさー?」

 

「そうかもしれんが、俺だってだな……」

 

 ディーラー役を担当する兵士からリラックスするように言われながらも、やっぱり眉間に力を込めてカードを見比べ、なにやら指を折り始めている。

 

「……じゃあ、“ターン”入りまーす! 四枚目のカード、オープン!」

「あっ、おいっ、まだ俺は宣言していないぞ!?」

 

「まだ五枚のうちの三枚だけのうちから、あれこれ考えすぎなんですよー。

 最後の“リバー”の公開だってまだなんだし、そもそも、これ本当はふたりでやるゲームじゃないっすからね? ゲームはノリを読んでこそ、っすよ?」

「ぐっ……」

 

 このひと、なんか強引だな。きらいじゃないけど。

 おじさんとゲームをしないかボクが聞いて、すぐに「じゃあ、テキサスホールデムとかどうですかね? うちディーラーやりまーす!」とか外野から言えるあたり、結構すごい胆力があると思う。ほかの兵士のみんながドン引きするくらいに。

 だって、その、ほら。

 自分のとこのボスと、人間殺せる怪物がゲームしているわけで。

 その間に立ってディーラーをやるって、相当にしんどいはずなんだけどな。

 

「ノリ、か。

 またしても、ノリか。」

「あるよね、そういうの。

 クリスが御機嫌なときはボクも歌を聞いて、そういう気分になるし。レイズ。」

はじめさん(Mr.HAJIME)クリスチャン(Christian)……もとい、クリスちゃん(Chris-Chang)を抱きしめたあたりとか、そりゃーもう全員『よし、敵兵(あいつら)殺すか』って乗り気になったし? やっぱありますよって話、“リバー”公開しまーす!」

 

 けらけらと笑いながら、五枚目のカードを公開するディーラー役さん。

 

「おいっ!?」

「え、マジ? ゲーム進めるの!?」

「あー、やっぱ、お二人とも落ち着いて遊びたいタイプ?

 うーん、まあテキサスホールデムはー、みんなで遊べるゲームなのでー、容赦なく進めますねー! さあ、レイズします? コールします? それとも降参(フォールド)!?」

 

 テーブルのカードを確認する。

 

「……レイズはしません。」

「レイズだ! ……と、言いたいが、序盤から賭けるチップの枚数が高めだからな。

 このままコールだ。練習試合らしく、気楽にいかせてもらう」

「ちぇー、盛りあがると思ったのに。

 しょうがないですねー、では、おふたがた、手札をオープン!」

 

 ボクの手札は、♤8、♧6。

 おじさんの手札は、♤J、♧5。

 

 テーブルに公開されたカードは。

 

「♢2、♢8、♡Qに……♧Aと、♡J。

 はじめさんの手札は8のワンペア!

 なるほど、初手にレイズするわけですねー、超強気!

 でもって、ボスの手札はJのワンペア……って、しょっぼぉ!?」

 

「うん? しょぼいのか、これは?」

「あー、おじさん。たぶん、同じワンペア勝負だからだと思う。

 この状態って、ペアになっている数字の高いほうが勝つんですよね?」

「それもありますけどー、ポーカーでJ確保してから勝負に出る、っていうのは堅実な立ち回りなんですよねー……ボスらしいなあ、天然でそれかぁ……しょぼすご……」

 

 最後あたりに、なにかをぼそぼそと呟きながら、カードを回収しつつチップのやりとりを終わらせるディーラー役さん。昔はカジノで働いていたのだろうか、手際がいい。

 

「それにしても、さっきのラジオ番組、面白かったよね」

「ああ、ずいぶんと変わったニュースだったな。

 あまり俺達には関係のない話だが、愉快なものだ」

 

 ディーラー役さんがカードのシャッフルをし始めた。

 その間に、ボクたちは水を飲む。緊張感で喉が渇いたのは、お互い様らしい。

 

「クリスの調子はどうだ?

 よく笑うようになったとは思うが、たまに、前よりひどいだろう?」

「……そう、なんだよね。

 親御さんの知人さんから聞いたニュースが、ちょっと困ったやつみたいで」

 

「どんなニュースだ?」

「音楽界関係のことらしくって。

 ほら、親御さんって、なんか有名な音楽家だったとかで」

 

「……遺産相続か。

 子供が苛まれていい問題じゃないだろう、魔法使いの子供でもあるまいし」

「あー、イギリスの小説のです?」

 

「さすがに昔、テレビ番組で取り扱われているのを見ると、な。

 俺でも記憶に残る。ファンタジーだか現実だか分からなくなるほど世知辛い育ちの子供が、額の傷だの運命だのに振りまわされ、英雄扱いされながら期待を背負い、あげくイギリス国内を巻き込んだ戦争へと、『まだ子供なのに』身を投じる。

 どれもこれも、まったくもって、他人事ではないな。俺にとっては」

「……そうですね、そう思いますよ。ボクにとっても」

 

 何割かはウソだ。

 実際にクリスと話していたのは、雪音夫妻のことを知っているだけのひとで、音楽業界は音楽業界でも音楽兵器(シンフォギア)を取り扱っている古代人だし。

 肝心の話題が遺産相続は遺産相続でも、「音楽」という遺産がかかったものだ。

 

 でも、そういうかたちで心配されると、なんとなく照れくさい。

 

「そろそろ、ランチを食べにくると思うんですけどね」

「そうだな。朝から演奏の練習をしているとしても、さすがに気になるな……。

 悪いが、観に行ってくれないか? ゲームは……あー、そこのやつに頼む」

「うえっ、俺っすか!?」

「はいはーいプレイヤー追加でーす!

 いいじゃん後輩くん、ボスと仲良くなるチャンスだよー?」

 

 おじさんの一声がきっかけなのか、だんだんひとが集まってくる。

 このノリなら、おじさんが退屈することはなさそうだ。

 

「じゃあ、見てきますね」

「お、おう」

 

 おじさんの動揺している様子を余所に、クリスのもとへ急ぐ。

 まさかとは思っているが、フィーネ、いや、櫻井了子……もとい、リョーコさんが話を急いで、無理強いでもしちゃいないだろうか。

 そんなことをすれば、ジョーカーアンデッドと真っ向から喧嘩することになるし、ここのみんなからの印象がいいクリスに手をあげる女だと知られれば、それなりの報復は受けるだろうし。

 さすがに理知的な彼女のことだから、そうはしないと思うのだが。

 

 

 

 いやどうだろう、悪役やるひとだからなぁ……?

 

 

 

 あ、リョーコさんだ。

 

「―――ええ、見つけたのよ、取り返した()()の適合者を。

 でも、これが訳ありでねー? どうにも簡単にはいかなそうなのよ、保護者をやっている男の子との関係が関係だから、あの子の意思次第というか……うちに引き入れることができたとしても、遺産相続の問題とか知名度の問題とかもあるから、肝心のシンフォギアが使えても『マスクもなしに戦う』っていうのは、ちょっと、かなりマズいのよ」

「どこに電話しているんですか?」

 

 こちらに平手を向ける。もうちょっと電話を続けるらしい。

 

「ああ、ごめんなさいね? 実は、事情は説明してあるのよ。

 国家機密? そんなの、こっちじゃ信憑性なんてないも同然でしょう?

 日本はスパイ大国なんて揶揄される御国柄だけど、こっちはこっちで紛争中だから、本気にしたってどうこうできる余裕なんてないわ。じゃ、弦十郎くん、またね?」

 

 電話を切り、振り返ってくる。

 

「……()の仕事も、それなりに大変なのよ。わかってくれる?」

「二足の草鞋を履く、ってやつだね」

 

 どうやら「櫻井了子」としての仕事をこなしていたらしい。

 

「……おまえ、本当に日本語をよくもまあ、そこまで知れたものだな?」

「それ言ったら、君も大概なんじゃないの?

 クリスがどこにいるか、知らない?」

 

 わざわざ「櫻井了子」として電話をしていたくらいだ、ちょっと前くらいにクリスと話していたのであろうことは伺える。クリスが例の件についてOKを出していれば、クリスの意志表示を待っているかのような話なんてしない。

 

「え。あ、あらっ? もうランチ?

 ウソでしょう、そんなにあの子に時間を使っていたの?」

 

 不思議そうに腕時計を見ながら、リョーコさんは指をさした。

 

「ちょっと言いにくいけれども……その、あなたの部屋にいたわよ?」

「え? なんで?」

 

 さした先は、ボクだった。

 

「さ、さあ?

 ヴァイオリンの演奏のレッスン、発声練習、どれも欠かさないはずの、あの子がいきなり引きこもるみたいに……いや、そろそろ結論を出すのではないかと聞きに行っただけだぞ、私は。だから探して、なぜか自分の部屋にはいなくて……まさかと思って行ってみたら、毛布を抱き枕みたいにしていてだな…………わけがわからないのよ」

口調(キャラ)がめちゃくちゃだから、ちょっと落ち着いてから食堂行ったら?」

 

 わざわざボクの部屋に行く?

 ますます状態がよくわからないような、なんとなくわかりやすいような。

 

「………ああ、そういうことかな。

 できればクリスのぶんを確保してほしいんだけど、いい?」

「そのくらいなら、まあ。

 べつに構わないが、なにか当てはあるのか?」

 

 似たような状態なら、前世で憶えがある。

 

「ひょっとするとだから、けっこう時間かかるかも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねえ、もしも。

 “こんなふう”にならない、魔法みたいな力をもらえるなら、ほしいと思う?

 

 

 そう聞かれてすぐは、素直に答えた。

 見せられた時は、“はじめ”のカードみたいなものだろう、って受け入れた。その使い方を教わって、必要なものを知った。

 

 知った途端に、わからなくなった。

 

「なんで、歌わなきゃだめなの。」

 

 自分の音楽が、ひとを傷つける。

 そんなことが事故で起きるかもしれないし、自分の意志で実現できる。

 

「笛を吹くとか、そういうのじゃ……いっしょか………」

 

 それが、怖い。

 どうすればいいのか、なにもわからない。

 本当に使ってしまったら、なにか、大切なものを手放す気がするから。

 なにかが、なんなのかは分かる。パパと、ママの、楽しい音楽のことだ。

 

 わたしが大切にしてきた、ヴァイオリンよりも前から持っていたものだから。武器を使うために、なにかを傷つけるために歌うなんてことは、怖い。

 ラップバトルがどうこうだから、とか屁理屈を言われたって、納得できない。「ひとを傷つける音楽もあるのよ?」と聞かされても、そういうのを気にしているわけじゃない。

 

 目の前にある、イチイバルという武器。

 それを手にすれば、“はじめ”だけが戦い続けることなんてなくなるのだ。

 

 きっとそれは、わたしの望んだものなのに。

 そのために歌わなきゃならないことが、怖い。こうやって足踏みをして、なにもしないことが悪いのだ、なんて自分を責めたてても、勇気だか自暴自棄だかわかんない勢いに任せて掴んだって、こうして手に持っているはずの、パパとママの音楽を手放すはずで。

 

 戦うためと、笑わせるためは別々だから、なんてリョーコに言われたけど。

 

「………そんなわけ、ない、」

 

 そっと喉に手を触れて、震わせる。

 

「よ、ね……?」

 

 割り切ればいいのか。ただの言い訳なのか。

 わからない。割り切れば前に進めるけれど、なんだか、それだと、なにかを諦めた「おとな」みたいで気持ちが悪い。そんな自分を自分だと思える気がしない。

 わからない。それこそが成長ってやつなのか。ただ自分が誰だかわからなくなるような、そんな怖い、まだ言葉としては知らないだけの危険なものなのか。

 

 まっくらだ。ちがう、まぶしい光がひとつあって、そこに向かって歩くために、大切な宝物を置いていくか、そうじゃないかって話なだけ。

 そうでもない気がする、この喉でだれかを傷つけるんだから。

 

「………わた、し、は、」

 

 しゃべるのも、なんだか、もう。

 

 

 いやだよ。

 

 

 

「クリス?」

 

 

 

 部屋の扉が開いて、そこから日差しが入ってきた。

 

「寝たの?」

 

 寝ているふりを続けるわたしに向かって、“はじめ”が近寄ってくる。

 ベッドに座りこむと、わたしの腕があるあたりに手を置いて、ゆっくりと毛布を叩く。どっちかと言えば、なでているような感じ。

 

「………ふぅん、そっか?」

 

 なにか、ちいさくつぶやいた気がする。

 

「……元気だと嬉しいけれど、元気になれ、なんて言えないしなぁ。

 ああいうのって、思いのままに弾いてくれたり、歌ってくれたりするから、聴いていて楽しいし……なんだか、いつまでも挫けていられないな、って気になれるし……」

 

 独り言を続けながら、ほんのすこし手を止める。

 

「なんだろ、『元気をもらえる』っていうのも変だなぁ。

 クリスの元気をもらった、っていうと、なんか命を奪っているみたいだし。

 元気が湧いてくる? ……うん、そんな感じと、あと、」

 

 手の位置が変わって、耳に当たる。耳?

 

「勇気も、かな」

 

 ちょっとくすぐったくて、体が震える。

 

「限界まで頑張るとか、限界を超えるって言うと、なんか聞こえはいいけど。

 やること終わってすぐに『なにか』があったら、もう次には立ち向かえないってことだし、あんまり好きじゃないし。うん、そんなときにまで勇気があると、もうちょっとだけ、ってなれるから、やっぱり勇気のあるなしは大きいかな、勇気だ。

 それを言わなきゃなぁ……起きたら言えるかな…………」

 

 起きてるよ。寝てるけど。

 

「クリスの音楽を聴いているとさ、『なにか』がきても、まだ頑張れる気がするんだ。

 負けてられないぞ、とか、くじけている場合じゃないかも、とか。でも、そうしなきゃならないから、そうするわけじゃなくて……『そうしたい』って思える。」

 

 耳だけじゃなくて、ほっぺたにも指があたった。

 それに気がついたのか、指をひっこめて、髪をなでるようにし始めている。

 

 安心したような、物足りないような。別にいいのに、なんて気持ちと、やっぱりほっぺたは勘弁してほしいな、いやだな、って気持ちが混ざってくる。

 

 なんだろう、ちょっとはずかしい。

 

「きっと、たぶん、『そうしたい』が勇気で、元気なんだと思う。本当の。

 それを忘れさせないでくれるから、みんな、クリスの音楽が好きなんじゃないかな」

 

 なら、わたしにとっての、『そうしたい』は。

 パパとママの音楽で、“はじめ”を助けることで、みんなを傷つけないことで。

 

 最初から叶ってはいたのかな。

 だけど、やっぱり足りないから、わたしのせいで、“はじめ”も、おじさんたちも戦ったわけで、シンフォギアで戦えれば、人質にはならなくてよかったはずで。

 

 そうしなきゃ、ならないはずで。

 

「………ボクだって。」

 

 指先がぴくぴくと、すこしだけ動いていた。

 

「いろいろ、今、いちばんに大切にするものを。

 ……みんなが忘れるわけがないものを、忘れていたから。

 名前をくれて、『人間でいていい』って言ってくれて、クリスのこと、『特別に』大切に思えてきて……本当のところさ、」

 

 手の動きが、だんだんぎこちなくなっていく。

 

「あの日、ああやって抱きしめた時が、いちばん幸せだったんだ。」

 

 なでる手は、震えていた。

 

「………本当に、そばにいていいのか、わからないくらいで」

「いてよ。」

 

 喉が、勝手に。

 

「怖いくらいで、どっか、行ったりしないでよ!」

「クリス、」

 

 ふるえて、音を吐き出させる。

 

「行かないで。戦うから、だから、」

「戦わなくても、行かないよ。」

 

 “はじめ”は手を戻して、なでずに、そのまま肩に置いた。

 

「ボクがやることは、ボクがやりたくて、やっていて。

 おじさんたちは最初から、やるべきなやりたいことしかやってない。

 ……それでも、やっぱりしんどいから、クリスの笑った顔で落ち着いて、」

 

 ほんのすこし区切りながら、韻を踏むようにして言い終わり、ゆっくりと間をおいて、ちいさく息を吐いてから言葉を続けた。

 

「………ああ、やってよかったんだな、もうちょっと頑張りたいな、って。

 そう思える、最後の勇気になってくれる。

 そのうえで楽しそうな音楽があったら、最後の勇気がもっと強くなる」

 

 まるで、“はじめ”も怖がっているかのような。

 怖がりながら前を歩いているんだよ、とでも言いたさそうで。

 そこはおじさんたちも変わらないよ、なんて言っている気もした。

 

「クリスの笑顔が、音楽が、最後の勇気になって。

 最後の最後に、『そうしたい』って気持ちを思い出させてくれる」

 

 すとんと穴が埋まるように、その中に、わたしもいる気がした。

 そこに、いつもの風景の中で音楽を楽しみながら、みんなの前でなんとなく笑ってしまう自分と、みんなの疲れた顔との距離と、笑顔に変わる瞬間を思い浮かべる。

 

 ひょっとして、そういうことなのかな。

 

「そういう意味じゃあ、もう、いっしょに戦ってくれているんだよ」

「………ほんと?」

 

 寝転んで、“はじめ”のほうを見る。

 

「うん。そう、だから、……えっ?」

 

 なにか、変なものでも見つけたみたいな、そんな表情をしていた。

 

「……うそだろ、」

 

 その視線の先に、わたしはいない。

 

 

 

 

 

「なんで、アンデッドが“こっち”に?

 でも、……いや、確かアイツ、ノイズをばかすか呼び出して、それでボクも気がついて、ってことは…………」

 

 ひとつひとつ、情報を整理する。

 この前、だれがなにをやったのか。そのとき、なにが起きていたのか。

 

「くそっ。あのばかっ、本当は前のゲーム知らなかっただろっ!?」

 

 思わず元凶であろう“だれか”を罵倒する。したくなった。

 きっと観たことはあっても、実情を把握はしていなかったのかもしれない。どちらにしても研究職らしいひとだ、最前線にいる戦士ではない以上、報告された内容と現場との差異に気がつけないのも当然だろう。

 もしも狙ってやったのだとしたら、グーで殴ろうか。全力で。

 

「どうしたの?」

「ボクの仲間だ。」

 

 簡潔に伝えよう。

 クリスに対して、専門用語を“掲示板”みたいに話しても伝わらない。

 

「ボクの仲間が、人間を餌にできる怪物の仲間が。

 ノイズを殺すために、こっちの国まで来た! やばい!」

「それって、いいことじゃないの?」

 

 不思議そうに首をかしげている。

 ああ、そうか、クリスはボクしか不死生物(アンデッド)を知らないんだった!

 

「よくないよ!

 ボクは殺す、あっちはランチ(ごはん)にする、全然ちがうよ!?」

 

 意味が伝わったのか、目を見開いて唇を真一文字に引いた。

 

「………っ、“はじめ”っ、いそいで!」

「わかってる、待っててね!」

 

 部屋を飛び出て、屋上へ向かう。

 

 おじさんたちに送ってもらうとしても、車に乗りながらだと、アンデッドの本能に任せて追跡するには走行が速すぎる。道によっては、カーブした道の外側に気配が通りすぎてしまう可能性だってあるのだ。

 カーナビの目的地とかルートがズレるのと同じ感覚かもしれない。

 そうなると降りて追いかけるしかないけれど、アンデッドだって空を飛ぶ、地面を掘り進める、泳ぐ、周囲に溶け込むとかの種類は多くて、へたすると運転してくれたひとがアンデッドに襲われてしまう。今のうちに屋上から気配を探れば、飛ぶか否かは把握できる。

 

 つまり、ずいぶん久しぶりな気がするけれども。

 最終的にはチャリンコまかせに走りまわるしかないのだ。

 ああ、もう、バイクがほしいなあ! 運転できないけど!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの時代も、どんな神話も。

 たったひとりの女が禁忌を破ってから、すべてが始まる。

 

 もとより、どんな獣とて、寝顔に集られたら目が覚める。

 それが五月蠅い(ノイジー)ならば、なおのこと。

 さあ、戦え。最後のひとりになるまで。

 

 生存競争(バトル・ファイト)のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……待たない。」

 

 もう、怖いとは思わない。

 

「みんなが、なにかを思い出せるのが、わたしの音楽なら。

 みんなといっしょに戦ってきた、わたしだけの武器なら。

 ……だったら。そんなこと、しないし、させない…………!」

 

 わたしの、音楽を。武器を。

 

 シンフォギアを。

 




 ついに新しいプリキュアが始まる日がきましたね。
 どんな物語が始まるのでしょうか、楽しみです。
 ごはん焚きながら待ってます。

 今回は掲示板を挟む余裕はありませんでした。
 こういう話題をハジケで書いちゃいけないと思うの。
 ハジケで書くなら真摯にやって、おふざけの勢いで誤魔化しかねないなら自重したほうがいいと思うの。なので今回はハジケません。(ゼンカイとハジケは)ちがうのだ!

 ひさしぶりに1日で1話投稿できた気がする。(やすめ)

 題名は、
 戦士(装者)と先史(古代)
 歌う(歌唱)と謳う(賛美)の掛詞でした。

 みなさまのお気に入り登録、感想、ここすき、ブックマークありがとうございます。
 高評価も嬉しいです。励みになります。

 アンケートは2022/02/06 20:30より締め切らせていただきます。



 これまでの小説「【世界観が】ジョーカーアンデッドに転生しました【迷子】」は、

 「geardoll」 さま
 「煉獄騎士」 さま
 「オーレリア軍」さま

 の、誤字報告の提供でお送りいたします。

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