【世界観が】ジョーカーアンデッドに転生しました【迷子】   作:ウェットルver.2

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 今回はクリスちゃんオンリー回です。


死神を死神と呼ばない者

 風の轟音と共に割れた、拠点中のガラス窓。*1

 その破片を避けながら、転ばないように“はじめ”の居場所を探る。

 “おじさん”たちの助けを求めたなら、何分かすれば表から車の音が響いてくるはず。そうならずに突然「ガラス窓が割れる」なんて怖い現象が起きている。なら、きっと戦いは始まっていて、きっと“ここ”で始まった。

 建物の中で戦って、いきなり誰もいない場所でガラス窓が割れるわけがない。

 どこかの戦場で爆弾が爆発した時の風と音から、ガラス窓が割れたのを思い出す。

 じゃあ屋外なのか。ちがう、だったらこの建物も吹き飛ぶ爆弾じゃないと変だ。ガラス窓があった方向から、すごく強い爆弾の光があるはずなのに、そのまぶしさはない。

 強いて言えば、空が澄み渡っていて、晴れていて、まぶしいのは太陽くらいで。

 

「………空?」

 

 窓から空を見あげて、なにかを見つけた。

 そのなにかが、この建物のうえを通りすぎるように飛んで行っている。

 

「……ちがう。屋上なの?」

 

 なら、行ってみよう。

 階段を登り、進み、開かれたままの扉を通って。見つけた。

 屋上でなにかに向かって刃を向ける、“はじめ”の姿だ。

 

 今ほど、戦場で殺し合いを見慣れていてよかった、と思わなかった瞬間はない。さっきの爆風もそうだ。パパやママを失った頃のわたしなら、怖くてずっと座りこんで、なにもできないまま泣いていたはずだから。

 本当は、”はじめ”の姿を見て安心しただけかもしれないけれども。

 なんだっていい、助けられるなら、もうかまわない。

 

「“―――Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で、夢をなぞる)”。」

 

 咄嗟にシンフォギアを手に歌を口ずさみ、“はじめ”の力になろうとして、そうやって思ったり考えたり動こうとしている間に、“はじめ”はどこかへ連れ去られていた。

 

 それを追いかけて、追いかけて。

 街のみんなのどよめきを頼りに、闘いの場所を突き止めて、見つけた。

 

 ごろん、と転がっている、緑と黒の身体。

 それが首をめちゃくちゃな方向から、ぐり、ぐり、と嫌な音を立てながら動き、ゆっくりと頭の上から……じゃなくて、顎の先から首を縦に振るように、前を向く。

 

「………はじ、め?」

 

 見覚えのある頭。

 怒りや苦しみを浮かべたかのような、複雑な表情の貌があった。

 

「まだ、呼んでくれるんだ。うれしいなあ。」

 

 ほんのすこしだけ、その貌が柔らかなものに見えた気がする。

 怪物の姿をした“はじめ”が折れた首を治しながら、こちらを見て呟くと、ゆっくりと目をつぶり、眠り始める。

 

 一瞬、死んだのか、という錯覚が浮かぶ。

 

「はじっ、」

 

 叫びかけて、すぐ気づく。そんなわけがない。

 本当にそうであるならば、彼の肩は動いていない。

 おだやかな呼吸にあわせて、ゆるやかに蠢きなどしない。あれは、あの状態でも、本当に生きているのだ。いつもどおり、死ぬことすらできない。ゆるしてもらえない。

 

 その“はじめ”が。

 屋上で戦っていたのであろう、なにかは?

 

「………カード?」

 

 “はじめ”の手元から零れ落ちた、荘厳な意匠のカード。

 いつかに見せてもらった、ハートの2のカードと同じもの。

 それが風にめくられ、人間のシルエットとは別の絵柄をあらわにする。

 違和感に従って、そっとカードを拾ってみた。

 

 鷲にも似た絵。ホークと書かれたテキスト。

 ハートの6.『TORNADO HAWK』。

 

「………竜巻(トルネード)?」

 

 そうだ、竜巻と言えば。

 屋上で“はじめ”を連れ去ったのは、確か、竜巻だったはずだ。

 

「まさか、」

 

 “はじめ”は、『SPIRIT HUMAN』で人間の姿に変わる。

 “はじめ”は、竜巻に包まれたなにかと戦っていた。

 “はじめ”は、人間を殺して吸収し続けていた。

 そして、今。

 

 竜巻に包まれたなにかが、ここにいない。

 

「………吸い込んだの? カードに?」

 

 絵柄がわずかに動き、こちらを向いた。

 

「え、うひゃあっ!?」

 

 びっくりして手放しかけ、ふわりとカードが浮かび、あわてて掴みなおす。

 

 じっと、カードの絵柄を見つめてみる。

 鷹の絵が爪を立て、がりがりと絵をかきむしっている。

 そのたびにカードが緑色に輝くも、だんだんと光が弱くなる。

 緑色の光が静まった頃には、鷹の絵は、元の姿勢のまま動かなくなった。

 

「………すごい、」

 

 生きている。生きている?

 竜巻に包まれていたなにかの正体は、この絵の鳥だったの?

 

 それがまだ、生きている。

 たしか、“はじめ”が戦うと決めた仲間は、同じ怪物で。

 

「そっか、そうなんだっ!

 ……これが、“はじめ”の戦いなんだ。」

 

 不死身の怪物同士では、どちらも死なない。

 死なないから、こうやってカードの絵に変えるしかない。

 カードに変わった怪物は、もう人間を食べることができない。

 

 戦いは、終わっていたのだ。

 

「なんだよ、もうっ、びっくりしたぁっ……!」

 

 ひざを曲げて座りこみ、ほっと一息ついて。

 

 

 

 すっと、頭の中に、冷たいものが走る。

 

 

 

 じゃあ、もしも。

 “はじめ”が負けたなら、なにが起きるの?

 

 

「………あ、」

 

 簡単だ。

 もう、二度と話せなくなる。動けなくなる。

 このカードの絵柄に変わった、竜巻をまとう怪物みたいに。

 

「………やだ、」

 

 そうだ、なにも終わってなんかいない。

 ハートの2、6があるなら、3から5までもあるじゃないか。

 

「うそだ、うそだっ……!」

 

 ハートがあるなら、スペードだって、ダイヤだって、クラブだって。

 A(エース)からK(キング)までの計13枚のセット(スート)が四つ。

 あわせて何枚だろう。あと、どれだけの怪物がいるのだろう。

 

 “はじめ”は。

 カードの絵柄にならないために、あと何回戦って、傷つくのだろう?

 

 

 

 

 

 自分を、自分たちを。

 助けてくれた、たったひとりの家族は。

 これからも、ずっと救い続ける。すべての怪物を裏切りながら。

 

 ―――たったひとりで?

 

 それを、どうにかできると信じて、シンフォギアを使ったのに。

 わたしは、できちゃあいないじゃないか、なにも。

 

 

 街のみんなが近寄って、“はじめ”とわたしを見守る。

 みんなの視線の中心でただの女の子に戻ったわたしは、兵士のだれかに抱きあげられるまで、けっきょく、なにもできなかった。

 

*1
音速に達した物体が大気中に伝播させる衝撃波は、規模にもよるが地上のガラス窓を破壊し、鼓膜すらも破る威力がある。




 ホークアンデッドやイーグルアンデッドの機動力を前に、まだ未成熟のシンフォギア装者がどうこうできるわけないだろ落ち着けクリスちゃん。

 でも理屈で納得できるなら、原作でああはならないよねって。


 これ、前回と順番逆のほうが読みやすくない???
 そんな気がする。たぶん気のせいでもない。あとで考えよう。
 なんか剣第一話のケンジャキ(剣崎一真)みたいになったけど気のせいだ。狙ってはいないです。あくまでクリスちゃんはシンフォギア初心者です。



 みんなの応援が力になるんじゃ。ありがとう。

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