Re:× ゼロから止まった異世界生活   作:這いずる蛞蝓

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第10話 『青髪メイドは鼻が利く』

 

 

 

 

目眩がする。頭が痛い。身体は怠さが支配していて、行動をしたくない気分だ。このまま二度寝してしまおうか。いや、駄目だろ。目を覚ませ

 

 

 

 

 

なにか寝る前に考えてた気がする...が、思い出せない。まぁ、思い出せないと言う事はさして重要で無いと言う事の裏付けになり得る。ってどっかで聞いたことがあるような気がするから...多分大丈夫だと思う

 

 

 

 

 

 

ただ、このまま眠り続けるのは非常によろしくない。せめて何時間寝ていたのかだけでも確認しなければ

 

 

 

 

 

俺は重い瞼をどうにかこじ開け、まだ完全に起きていないままの頭を動かし、フラフラと不安定な足取りで家の扉を開き外に出る

 

 

 

 

 

「まっ...ぶし......」

 

 

 

 

 

外は嫌になるぐらい眩しい太陽が輝いていた。どうやら今は昼間のようだ。しかし少し暑い。と、少しの時間感じたが、その感覚も数秒後には嘘のように消え去ってしまう

 

 

 

 

 

少し反抗心が刺激されて、空に浮かぶ太陽をじっと見つめてみると、少しの間目が眩んで地面に倒れ込みそうになったが、それでもじっと見つめ続ける。しばらくするとまた、その感覚は消え去り、状態は巻き戻されてしまう

 

 

 

 

 

嫌な感覚だ。気持ちが悪くて気味が悪い。だけど嫌いでは無い。矛盾だ。矛盾と言う言葉でしか表現する方法を知らない、曖昧な感情が心を漂っている

 

 

 

 

 

寝起き特有の持続する鈍い痛みに耐えながら、俺は渇いた喉を潤すために、不用心にも顔を晒したままの状態で、村に来る前に見つけた、村から少し外れた所にある湧き水を飲みに村の外へと、定まらない足取りでゆっくりと向かった。たかが水分ごとき摂取を我慢すれば良かったのに、喉が渇いた、水を飲もうと甘えた考えをした

 

 

 

 

 

「本性を現しましたね、魔女教徒」

 

 

 

 

 

その結果がこれだ。呑気に警戒もせず、死なないからと緩みきった気持ちで慢心して。疑われるような、目立つような行動をして。ただ獣のように水を飲んだ。喉は満足に満たされたが、立ち上がり、振り返るとそこには青髪の使用人が、眼光だけで人を殺せそうな目をしながら俺を睨み付けていた

 

 

 

 

 

目の前に立つ青髪の使用人の手には、その可愛らしさに似合わない凶器が握られており、その凶器は一撃でナツキ・スバルの命を一つ、簡単に奪うことが可能である事は原作において実証済みである

 

 

 

 

 

どうしよう。困った。画面は付けていないから、多分、と言うか絶対。青髪の使用人は俺をナツキ・スバルだと誤認している筈だ。そして、現時点でナツキ・スバルが青髪の使用人から得ている好感度は存在せず、魔女の残り香によりマイナスを振り切れてその数値は地獄の底。どう考えても挽回出来る方法が思い付かない

 

 

 

 

 

 

それに、ここで青髪の使用人を殺す事は出来ない。今回の周において、青髪の使用人にはナツキ・スバルを殺してもらう必要があるからだ

 

 

 

 

 

 

「俺が魔女教徒だって? 生憎俺は無信仰だ。ったく、いきなりそんな物持ち出してきてなんなんだよ」

 

 

 

 

 

誤魔化しでどうにかなる次元では無い。効果があっても、それは僅かばかりの時間を稼ぐだけ。これは積んだかもしれない。いや、確実に積んだ。あぁクソ、失敗した

 

 

 

 

 

「御託は結構。そんなに濃い魔女の匂いを漂わせておいて、無関係だなんて言わせませんよ」

 

 

 

 

 

「え? そんなに匂う? 今はちょっとは薄くなってるんじゃね? ほら! もう一回匂いを嗅いでみろよ! さんはい! 」

 

 

 

 

 

 

青髪の使用人は俺の戯れ言に微塵も耳を傾けず、冷たい怒りを宿した表情を浮かべ、白く細い腕でモーニングスターを振るう。濃密な殺意が、目に見えて視野を狭めている。選択肢を、殺人の一直線に絞ってしまっている

 

 

 

 

 

「だから、お前は俺に勝てない」

 

 

 

 

「何を言って...? 」

 

 

 

 

 

そりゃ、青髪の使用人の目から見れば腕は壊死、俺の貧弱な肉体に比べ、青髪の使用人の身体能力は桁違い。逃亡はまず不可能だ。青髪の使用人の中では、俺は既に取るに足らない、いや、最初から警戒などしていなかったのか

 

 

 

 

 

これは恥ずかしい。無意識の内の自己評価が高過ぎた。意識を、考え方を正常な物に矯正しておかなければ。こんな馬鹿な考え方では、いずれ何処かで致命的な間違いを起こしてしまう。軽い自己反省を行っている間に、腕の怪我は、少女の細い首を絞め殺せるぐらいには回復した

 

 

 

 

 

 

「楽に殺して差し上げますから、抵抗しないで下さい。レムは姉様のように優秀ではないので、つい手元が狂ってしまうかもしれません」

 

 

 

 

 

「まったまたー。つい、じゃなくてわざとだろ? 過失では無く故意。あらやだレムってば俺に恋してんの!? いやぁ~気持ちは嬉しいけど、俺にはエミリアが」

 

 

 

 

 

 

どうにも策が浮かばず、ナツキ・スバルの真似をして。この場にそぐわぬ話題を、場違いな陽気な、無神経な声で話し、相手をただただ苛立たせる

 

 

 

 

 

 

どうやら青髪の使用人は感情のコントロールが余り上手くないようで、手元のモーニングスターを、怒りに任せて振り回した。足と、胴体、腕の骨は砕かれ、腹部からは贓物が溢れ落ち、右足と左腕は根元から抉り取られており、傷口からは絶えず血液が、水道の蛇口を捻ったときのようにドハドバ垂れ流されている

 

 

 

 

 

 

しかし痛みは感じない。みじんたりとも苦しくは無い。それがどうして、どうも虚しい

 

 

 

 

 

 

「おいおい嫉妬か? 嫌いだ。大嫌いだ。虫唾が走る反吐が出る。ウザったいみっともない見苦しい。何故だ? 何故嫉妬する? あぁ、またまた一つ見つけた。ありがとよ、レム」

 

 

 

 

 

 

何でもいい。誰でもいい。どんな事をしてもいい。だから、とにかくこの空白を埋めなければ。強い脅迫的な概念に追われるように、俺は目の前の青髪の使用人を、つい最近得た生まれつきらしい鋭い目つきで睨みつける

 

 

 

 

 

 

感情が、罪が、青髪の使用人の人相に浮かんでいる気がした。怒り、羨ましさ、嫌悪。そして激しい、嫉妬と罪悪感。その意味は、きっと青髪の使用人自身にしかわからない物だ。たかだか原作を傍観者の立場から読んだだけの、観ただけの人間がおいそれと語れるような、それなちっぽけな物じゃあ無い

 

 

 

 

 

 

「死ねッ! 魔女教徒! 」

 

 

 

 

 

 

純粋な怒りに染まった、モーニングスターは、容易に俺の顔面に命中し、胴体と首を引き離した。俺の首は空を舞い、ボロボロの胴体から少し離れた位置に転がる

 

 

 

 

 

 

どうするか。今身体を再生させても、青髪の使用人が鬼化してしまえば、確実にロズワール邸に居るラムに共感覚で現在の状況が伝わってしまう可能性が高い。現在の時点で既に伝わってしまっているかもしれないが、念には念をと言う奴だ

 

 

 

 

 

 

とりあえず身体の再生を止めようと意識してみると、今までは勝手に元通りになっていた身体は、まるで本当に死んでしまったかのように再生を辞め、死体のような状態で活動を停止した

 

 

 

 

 

 

活動を停止した、と言うのは揶揄表現だ。身体を動かそうと思えば、今の状態でも再生させずに動かす事も出来るっぽい。しかし、本当に俺の身体はどうなってしまったのだろう。少しの不安を抱きつつも、俺の頭は既に、どう、青髪の使用人を殺すかの一点だけを考えていた

 

 

 

 

 

 

原作第三章、大罪司教怠惰担当、ペテルギウス・ロマネコンティのように、見えざる手で、四肢を捻り生を侮辱し殺すか。いや、俺の魔手は怠惰であって怠惰ではない。目に見えない、見えざる手を扱うペテルギウスと違い、俺の魔手は常人にも認識できてしまう

 

 

 

 

 

 

ならばいつぞやの憂鬱の魔人、ヘクトールのように、重力を操り、強い圧力を圧殺するか。それも無理だ。俺の憂鬱の権能は、これまた憂鬱であって憂鬱でない。そもそもヘクトールが扱っていたのは重力だが、俺の用いるのは重量操作。似ているようで確かに違うものだ

 

 

 

 

 

 

たとえ青髪の使用人の重量を増加させたとしても、青髪の使用人はきっと、感情に任せてツノを生やし、身体能力その他もろもろを大幅に向上させてしまう。それでは状況の改善どころか、さらに深刻な悪化を引き起こすだけだ

 

 

 

 

 

 

考えろ。考えて考えて考えて

 

 

 

 

 

 

俺は青髪の使用人が振り向いて三つを心の中で数えると、怠惰なる魔手を十本展開し、重量操作で自身の体重を何も考えず、制御を放棄して思い切り軽くする。今はとにかく速度が欲しい

 

 

 

 

 

 

風を切る速度なんて高速には到底及ばない。けれども、確かに素早さを感じる速度で魔の手は青髪の使用人の四肢に絡み付いた

 

 

 

 

 

「──ッ!? 」

 

 

 

 

 

その内の1本の魔手を強引に開いた口の中へとねじ込み、呼吸を阻害。青髪の使用人は驚いた様子で、怒りの色を濃く浮かばせている

 

 

 

 

 

「はっ。いくら亜人族とは言え、エラ呼吸なんて器用な呼吸法が出来るわけねぇよな! 」

 

 

 

 

 

 

青髪の使用人は口を動かし何かを言おうとしていたが、今も喉の奥底へとじわじわ進む魔手が発音を邪魔する。身体は動かせず、声も出せない。さぁ、後はペテルギウスのように四肢に絡めた魔手を捻るだけだ。たったそれだけで、この青髪の使用人はぼろ雑巾のように、簡単にその命を散らす事になる

 

 

 

 

 

 

それはまるで、あの時目に焼き付けた狂人が行った行為の焼き直しのようで

 

 

 

 

 

──い、きぇ

 

 

 

 

 

誰かの声が聞こえた気がした。知識の中から、俺でない俺に向けられた、愛の言葉がフラッシュバックする

 

 

 

 

 

「やめろ」

 

 

 

 

──い、きて

 

 

 

 

既視感が、懐かしさが、愛らしさが染みついたこの想いは、俺に向けられた物ではない。これはナツキ・スバルに向けられた物だ。そもそも、時系列からして違う。これは第三章での出来事のはずだ。まだ先の悲劇のはずだ

 

 

 

 

 

 

「やめろ」

 

 

 

 

 

駄目だ。聞きたくない。辞めてくれ。頭がこんがらがってくる。それは俺に向けた愛じゃない。勘違いすんな。頭では、違うとわかっているのに、ぼーっとして考えが纏まらない。夢を見ているような、そんな非現実的な感覚と共に、終わりの恐怖が差し迫る

 

 

 

 

 

 

──だい…

 

 

 

 

 

 

「黙りやがれ! うるさいうるさいうるさい! 死ね! 死ねよ! 」

 

 

 

 

 

 

恐怖に溺れ、何も考えずに振るわれた制御させていない純粋な暴力は、無遠慮に身体を捻り、その形を歪めた。俺がそっと、身体に纏わり付いた魔手を引くと、少女の身体はぐったりと地面に倒れ込む

 

 

 

 

 

 

あぁ、やっちまった。殺してしまった。貰い物のショートケーキを思いもよらず腐らせてしまった時のような、なんとも言えない微妙な悲しさが、薄らと湧き上がってきた。最初は少ししか、悲しさも苦しさも感じては居なかった筈なのだ

 

 

 

 

 

 

しかしそれは秒を刻む毎に、かの鼠の数式のように膨れ上がり、今すぐに喉を貫いてやり直したい気持ちに襲われた。しかし、それが出来るのは、彼女からの愛の祝福を受けている者のみ。ナツキ・スバルにしか扱えない、間違っても俺が使う事の出来ない力

 

 

 

 

 

 

死をトリガーとしたその力はただ一人の運命を覆す為にだけ、正しく効力を発揮する。時を巻き戻し、死の充満した袋小路から、ただ一人を逃がすためだけに作用する

 

 

 

 

 

 

今回の周回での、ナツキ・スバルの死因はレムによるモーニングスターでの撲殺。もしかしたらこのまま放置していても、上手くガルムの呪いが発動し、衰弱死を遂げてくれるかもしれない。しかしそれは不確定な要素だ。もし、買い出しに出掛けたレムが屋敷に戻らなかったら、ナツキ・スバルは。ラムは。エミリアは。パックは。ベアトリスは。ロズワールは

 

 

 

 

 

 

誰が、どんな行動を取るか予想が出来ない。そもそも

 

 

 

 

 

 

「死になさい! 『エル・フーラ』ッ!」

 

 

 

 

 

 

思考に耽るといつもこうだ。何者かによって邪魔される。不幸に嘆きつつも、状況の再確認を行わなければと思い、俺は身体の様子を確認した

 

 

 

 

 

 

どうやらかまいたちのような斬撃により切り刻まれたようだ。と言ってもこの時点でこの状況。魔法を行使した張本人の目星は付いている。しかしごく僅かの可能性を考慮すると、犯人候補となる人物の数は五人。決め付けてかかることはまだ出来ない

 

 

 

 

 

 

怪我の具合は、右腕は肘から下が消失し、下半身はズタズタ。頭部に至っては原形をとどめていない程度で済んだ。身体は既に、緩やかな再生を始めている。ものの一分もせずに元の傷のない身体に戻る事だろう。悲観することは無い

 

 

 

 

 

 

しかし現時点では身体は動かず、部分的に残った俺の破片に意識を集めて動かしてみても意味がない。ならばせめて相手の顔を確認しようと眼球を動かし、誰がこの風のマナを用いた魔法を放ったのか、分かり切った事を無意味に確認する

 

 

 

 

 

 

「『フーラ』ッ! 『フーラ フーラ フーラ フーラ』ッ!! 」

 

 

 

 

 

眼に映った桃色の鬼は、泣きそうな顔で殺気を放ちながら、俺の肉骸にひたすら魔法を放ち続けていた。常人であれば何度死んだ事だがわからないほどの致命傷が、俺の身体に次々と刻み込まれる

 

 

 

 

 

 

痛みは感じなかった。代わりに感じたのは強い憎しみと憎悪、恨み、絶望。嫌な感覚が体に浸透してゆく

 

 

 

 

 

 

「ル...フー......ラ」

 

 

 

 

 

 

額から血を流し、文字通りに血反吐を吐きながら、今にも死にそうな様子になってまでも、桃色の鬼は俺に魔法を放ち続けた。桃色の鬼の行動は、世間という物の一般的なつまらない考えに基づけば、馬鹿と言われるものなのだろう

 

 

 

 

 

 

「エ...ル......」

 

 

 

 

 

 

しかしそれは、愛、故の行動であると理解できたのなら、称賛に値するものなのだろう。無論、生きて帰る事が出来ればの話なのだが

 

 

 

 

 

 

「エル...フ......ラ」

 

 

 

 

 

 

けれども、俺に対して、そんな魔法を放った所で、俺の体はすぐさま修復されてしまう。桃色の鬼が命を犯してまで伸ばした風の刃は、確かに俺を切り刻んだ。しかしながら、傷が元に戻ってしまえば、そんな努力は、無駄になる。行動は意味を持てなくなる

 

 

 

 

 

 

「フー...ラ」

 

 

 

 

 

何故だか、それがどうしてか、とても悲しい、悔しい、虚しい気持ちになってしまって。俺は今も身体に襲い掛かる魔法による攻撃を無視し、無理矢理身体を動かし立ち上がると、地面に蹲る桃色の鬼へと少しずつ、不確かな足取りで確かに近づく

 

 

 

 

 

 

腕が飛んだ。だがまぁ良い。どうせまた生えてくる

 

 

 

 

 

 

足が切断された。それもどうでも良い。また修復される

 

 

 

 

 

 

風の刃で腹部を裂かれた。が、元に戻る傷など、目の前の悲惨な地獄を味わっている。否、俺が地獄を味あわせている少女の苦しみに比べれば、そんなもの塵芥に等しい。そもそも比べる事自体が烏滸がましい

 

 

 

 

 

 

そもそも、そもそもそもそも。俺がこんなちっぽけな罪悪感情を抱くこと自体間違っている。申し訳なさを感じるぐらいなら、最初からやらなければよかったのである。それでも、やると決めた。だから最後まで。やり遂げる。成し遂げてみせる。そうだろう? 菜月昴

 

 

 

 

 

 

自分自身に自己暗示をいくらしてみても、気分が乗るような感覚は訪れない。そうやって後悔と懺悔を繰り返している間に、俺は桃色の鬼の元まで辿り着いてしまった

 

 

 

 

 

 

桃色の鬼は、もう俺に魔法を撃つ気力すら残っていないのか、地面に伏したままピクリととも動かない。もしかして死んでしまったのだろうか。それならば運が良い。自らが手を下さなければ、いくらか罪悪感も薄れてくれる

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ」

 

 

 

 

 

 

無意識に口が動いた。まるで身体が、意志を持ち、勝手に動いているかのような、現実逃避したさに生まれた、偽りの感覚が、俺の身体を支配した

 

 

 

 

 

 

「ごめんな。ラム。本当は殺すつもりなんて無かった。いや、嘘吐いたわ。最初から殺すつもりだった。だけどそれは今じゃ無かったんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

死体に向かい戯言を嘯く俺は、魔女からみればどんな風に映るのだろう。きっと、汚く醜く穢れて見えるんだろうなぁと達観し、同時に、そうであって欲しいとも願いながら、俺は廃棄された未来設計図を話して聞かせる

 

 

 

 

 

 

「本当なら第三章で、ナツキ・スバルが王城に乗り込んでいる内に、二人を殺しておく予定だったんだ。それなら邪魔も入らないし、ナツキ・スバルはまだ英雄になれて無い状態で、レムが消えれば、ナツキ・スバルは英雄にはなれなくなる。ロズワールの計画も破綻し、何もかもがその一回で崩れる。そんな、予定だったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

しかし予定はあくまでも予定。そうも簡単に上手く行く訳が無いと解っていたと思っていたが、再度認識を深く刺された。今後は予定が崩れることを前提に計画を練らなければ。でなければ到底、ナツキ・スバルを殺すなんて出来ない

 

 

 

 

 

 

「だけど、俺がヘマしちゃってさ。レムに見つかっちゃってさ。それで、追い詰められたから殺した。でも仕方ない。俺のミスだからな。だから、ラム。お前もちゃんと死ねるから、安心して良いぜ」

 

 

 

 

 

 

流れるように桃色の鬼の、小柄な身体にのしかかり、白く細い首に手を添えて、ゆっくりと力を込める。生きている肉を屍に変える感覚が。首を締め付ける手からそのまま伝わり、なんだか気が引けてきた。首から視線を逸らして、視界を上に上げると、桃色の鬼は苦しそうに目を見開き、かすれかすれの声で呟き、魔法を放つ

 

 

 

 

 

 

「そっか。生きてたのか。てっきり俺は死んだもんだと思ってたよ。だから死んでくれ」

 

 

 

 

 

 

至近距離で生み出された風の刃は、俺の全身を一撃で大きく切り付け、全身に浅い傷を負わせ、俺の首を切り落とした。なるほど。決死の攻撃とは正にこの事か。しかしそれにも意味は無い。身体は勝手に再生を始めた

 

 

 

 

 

 

それに伴い、怒り、では無く、綺麗な言い方をすれば、慈悲の心と言う物が。それから装飾を一切合切取っ払えば、ア憐れみの感情が。嫌に冷たく身体を巡る

 

 

 

 

 

 

首を絞める。少女は必死に、空気を取り入れようと、呼吸をしようと、生きようとしていた。首に触れている手の力を強める。喉仏と言うのだろうか、細い骨に当たる感覚がした。ギジギシと、さらに力を強め、骨を折る

 

 

 

 

 

 

首を、絞める。少女は目を開いていた。しかし、そこに生きている者特有の生気は全く感じられない。死者だ。死者の顔だ。少女の瞳に映る顔に、気味の悪さを感じ、さらに手の力を強め、少女を死へと近付ける

 

 

 

 

 

 

首を絞めた。殺した。少女を殺した。2人の、救われなかった。報われなかった。幸せになれなかった少女をこの手で殺した

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、そう、だ。俺が、殺した。俺が、俺が殺した」

 

 

 

 

 

 

 

 

首を絞めた手を何度も見ていると、甲高い不気味な笑い声が、何処からか聞こえてきた

 

 

 

 

 

 

「ふひ」

 

 

 

 

 

 

 

怖い

 

 

 

 

 

 

 

「ひひひひひ。ふはははははひひひひひひ! 俺が、殺し、だぁ! ひはははははは!! 」

 

 

 

 

 

 

 

笑っていたのは、俺だった。少女の亡骸の瞳に映ったのは、俺の顔だった

 

 

 

 

 

 

「ひはははははふひふひふふふふふひっ! レム、ラム! 俺が、ふひゃひひひひは! 」

 

 

 

 

 

 

 

死んだ顔をした生き物は、狂った笑みを縫い付けて、笑っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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