Re:× ゼロから止まった異世界生活   作:這いずる蛞蝓

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第13話 『愚者と道化』

 

 

 

 

 

「──そろそろか」

 

 

 

 

 

 

 

あの日から揃えることの出来たウルガルムの数は二十八体。身体の負傷を無視して準備を行ったと言うのに、たったそれだけしか集める事が出来なかった。魔操の加護を持つ魔獣使っ......メィリィ・ポートルートなら、もっと魔獣を集められた筈だ。それも一度も死なずに

 

 

 

 

 

 

嫉ましい。その才能が羨ましい。世界から愛され、与えられて。メィリィ・ポートルートはなんて不幸(・・)な人間なのだろうかと憐れんでしまう。俺がいちいち気にする事では無いが

 

 

 

 

 

 

屋敷からナツキ・スバル、ベアトリス、ラムが屋敷から飛び出した頃を見計らい、用意したウルガルムを屋敷の近隣に解き放ち、荒いながらも包囲網を形成する

 

 

 

 

 

 

 

さて、準備を整え、来たるこの日は記念すべき覚悟の日。英雄になる少年が、逃げるのを辞めて立ち向かう為のお話

 

 

 

 

 

 

殺されたくなくて、恨まれたく無くて、ツギハギ狂った演技を続けて、ゲロ吐きながらも道化を演じ、泣いて泣いて、泣き叫んで。気が付いて。ダガを外して何度も死ぬ覚悟を決めて、自殺する

 

 

 

 

 

 

勝手にへこんで、勝手に立ち直って。ハッキリ言ってウザったい事この上ない。その恵まれた力が、幸せな環境があるにも関わらず、自分が不幸だとか喚く姿は見ていて腹が立つ。殺してやりたい、けど出来ない。ナツキ・スバルは諦める事を許されていない。だからこそ、別の方法で精神に傷を付ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前方に見えるのは数日前に押し入ったメイザース辺境泊の屋敷。早朝特有のほの暗い朝日が登り始めた頃。レムが死んだ朝だ

 

 

 

 

 

 

怯えきった弱い弱い人間、ナツキ・スバルは人工精霊ベアトリスの甘さにつけ込み契約を結んだ。ベアトリスはナツキ・スバルがその人なのではないかと淡い希望を持っていたのではなかろうか。だからまだ英雄ではないただの凡愚、ナツキ・スバルと契約を結んだ

 

 

 

 

 

 

大精霊に守られていても、ナツキ・スバルは終始怯えていた。しかしレムが呪い殺される前日の夜には、禁書庫で本を読み、時間を無駄に費やす程度には緩みきっていた

 

 

 

 

 

 

本来、ナツキ・スバルが本領を発揮すれば、全力を尽くし、最善を導き出せは。次の周回は要らなかったのだ。レムが死ぬ必要は無かったのだ。ナツキ・スバルにはそれが可能だった筈だ。何故ならば彼は英雄になるのだから。英雄になるのならば、その程度、救えない訳が無い

 

 

 

 

 

 

なのに救えなかった。無駄に死体を放棄し、その存在から目を背けるように狂った覚悟を決め、世界から逃げた

 

 

 

 

 

 

 

おっと、通りすぎてしまった。もう少し前の記憶を確認せねば

 

 

 

 

 

 

 

時はレムの死体が発見された朝。ナツキ・スバルは無事朝を迎えられた事に喜び、エミリア達はレムの死を悼んでいた。だと言うのにナツキ・スバルは持ち前の空気の読めなさを発動し軽い調子でトークを続けた

 

 

 

 

 

 

レムの部屋には屋敷の住民が集められていた。最後に部屋に入ったのは大罪人、ナツキ・スバル。ただ呆然と立ち尽くし、何かを言う訳でも無く、ただ、逃げた。ラムが怒りを露わにした事が原因? 馬鹿を言うな。そんな事関係なしに、ナツキ・スバルは逃げたはずだ。死を受け入れられずに、望む未来の為何度も死ぬような奴だ。何かと理由を付けて、死に物狂いで助けようとする

 

 

 

 

 

 

いつまで、一体いつまで、ありもしない幻影の背中を追っているつもりだろうか? 上っ面だけの表面だけを真似し続けるのだろうか? まぁ、俺の知った事ではないけど

 

 

 

 

 

 

「で、今に至ると言う訳だ。しっかし、この状況はどうしようかねぇ」

 

 

 

 

 

 

レムは死亡し、ナツキ・スバルは勿論、ベアトリスにラム。エミリアとパックの所在は知らないが、パックはともかく、エミリアはまともに動ける状態では無いだろう。仮想的となる人物で、屋敷に残っているのはロズワールただ一人。警備はずさんな筈であった

 

 

 

 

 

 

「おっじゃましまーす」

 

 

 

 

 

 

屋敷には開けっ放しにされていた正面玄関から侵入した。廊下には予測通り人の気配はしない。俺が軽々とした陽気なステップで、目的の場所を探し、鼻歌交じりに屋敷を探索していると、火球が飛んできて、俺の身体は焼き尽くされた

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ロズワール。出会い頭に炎って...そんなに俺と熱い恋がしたいのかな! ヤダ、俺ってばナニされちゃうんだろ!! あっ、でも俺に男色の趣味は無いからごめんな......」

 

 

 

 

 

 

「...私の従者を殺しておいて、よくもまぁぬけぬけと帰ってこれたものだね」

 

 

 

 

 

 

全く面白みのない笑えないジョークを交えて不服の意思を示したのだが、ロズワールの表情は石像のように固まったままだ

 

 

 

 

 

王国最高峰の魔法使いの名は伊達じゃ無い。故に貧弱な俺の体で普通に戦えば、絶対にかなわない。それどころか体を切り刻まれ大瀑布の彼方に放棄される可能性だってある。そうなれば俺も蘇る事が出来るかどうか...まぁ死ぬことは無いだろうけど

 

 

 

 

 

 

「私はもうお終いのようだ。さぁ、早く、もう一度やり直すんだ」

 

 

 

 

 

 

現状、ロズワールに対抗する手段として、武力は最も適さない、馬鹿な選択肢だ。ここで三つの再確認を行おう

 

 

 

 

 

 

一つ、ロズワールは叡智の書の記述により、ナツキ・スバルの死に戻りを断片的に知っている。やり直し。トライ&エラーを繰り返し、必ず無理難題を成し遂げる事が出来ると思っている。二つ、ロズワールの目的は強欲の魔女、エキドナの復活。最後に、ロズワールの最も恐れている者、それは憂鬱の魔人

 

 

 

 

 

 

 

確か既に討伐済みであったと思うが、原作知識として読み取れる範囲外の記憶の為、確証は持てない。しかし今はそれで十分だ。実際、俺が少しそれっぽい言葉を言ってやったらロズワールは恐れていたじゃないか。人間、一度染みついた恐怖は、トラウマとして残り、一生消えてはくれない物だ

 

 

 

 

 

 

 

ヘクトールを欺くために、自らを虚飾に染め上げる。心構えの問題だ。軽く息を、溜息を吐き、鬱陶しそうな雰囲気を放出させる

 

 

 

 

 

 

「──ロズワール。随分と、偉そうな口をきくようになったーぁね」

 

 

 

 

 

 

重々しく口を開く。怠さを隠さず、怠惰を示し、何処までも憂鬱な心模様を曝け出す。気怠げに重くも軽くも無い体を、さも大岩の如き巨大を動かすかのように、大袈裟な歩みで、額に汗と恐怖を浮かべたロズワールの方へと近付く

 

 

 

 

 

 

「何? 努力したら、報われると思った? 力を持てば、もう、無くさないと思った? ──取り戻せるとでも、思ってた? 」

 

 

 

 

 

 

ロズワールの目が大きく見開かれる。顔には怒りの色が浮かんでおり、今にも魔法を放ってきそうな勢いだ。鍛錬による結果、自信が生み出した慢心と言う奴だろうか。何にせよ、まずはそれからへし折ってやろうか

 

 

 

 

 

 

ロズワールの自信の源は何か? エキドナの弟子である事だろうか? これは下手に刺激すれば一体が焼け野原になる爆弾だ。そんな事になっては折角の準備が無駄になる

 

 

 

 

 

 

では他には? 叡智の書か? いいや、違う。叡智の書は自信では無く、安心をロズワールへ供給している。自信とは違う物だ

 

 

 

 

 

 

で、あるならば、やはり魔法か。しかし困った事に俺が行使できる魔法はゴーアやシャマクなどの低位の物しか無い。それも純粋なマナを使用した魔法では無く、オドを削った魔法でさえ最低位の物しか放てないのだ

 

 

 

 

 

 

これではとてもじゃ無いがロズワールの自身をへし折る事など到底不可能

 

 

 

 

 

 

 

状況打開の為の策は思い浮かばばず、なにか無いかと思考を回すが、いくら考えてめ何も浮かばない。俺自身の力がなさ過ぎるのだ。それでも考えて、考えて。突如体が揺らぎ、視界一瞬暗転し、俺の視界は低くなる

 

 

 

 

 

 

「口だけでは成す事も成せないんだぁーよ? 弱い君では、ただやり直す事しか出来ない。さぁ、早く、早くやり直したまえ」

 

 

 

 

 

 

そうだ。ロズワールは魔法以外にも体術等の武術も高い技術を持っている。天は二物を与えぬとは何処の何奴が言ったものか。目の前に居るじゃ無いか

 

 

 

 

 

 

「やだね。俺はまだやることがあるんだ。それに次に行くのはあと数時間後だし。そうだロズワール、時間の定義ってわかるか? ......あっ、あっあっあっ! 無能な坊ちゃんには分からないか! 」

 

 

 

 

 

 

「あまり、騒ぐんじゃーぁなーぁいよ? 君は今、私に生かされている事をわかっていないのか? だとしたらよほどの馬鹿。と言う訳だーぁね」

 

 

 

 

 

煽れば煽り返される。見た所、既にロズワールは正気を取り戻しているようなので、演技にもこれ以上の意味は無いだろう

 

 

 

 

 

しかしなんだ。この男は。何故、大事な者を一度失った癖に。何故、のうのうと偽りの余裕を浮かべ、理性を装えるのだ。何故こうも明るく演じることが出来るのだ。何故、この男の演技には、後悔の影が一切見えないのだ

 

 

 

 

 

 

訳がわからない。あり得ないと思いたいが、四百年の時間が、思いを風化させた可能性も考えられる。だとすると、思い、感情にまで、消費期限は存在するという事か

 

 

 

 

 

 

悲しい。あぁ、なんと悲しき事か。気持ちが沈む。気が滅入る。しかしながら、未だ愛を感じる。一方的な愛。麻薬のように脳に浸透するそれが、いくら目を背けても、逸らしても、視界にはいつもそれがある

 

 

 

 

 

 

鬱陶しい。散々な心模様だ。視界を少し上げてみれば、奇抜なメイクの道化が一人。燃やしてやろうか。よし。そうしよう

 

 

 

 

 

 

「ネロ、ゴーア」

 

 

 

 

 

 

 

意識の改革と言えるほどの違いを生み出す物では無いが、無いよりはマシ。その程度の、ただただ詰まらない、怨嗟の込められた闇色の炎は、道化の体に命中せず、道化の眼前を掠め、遙か後方の木々に衝突する

 

 

 

 

 

 

「狙いが外れたか。おいおい宮廷魔導師殿は、俺のへっぽこ魔法にもビビっちゃう程度の、そんなちゃちな強さしか持ち合わせていないのかな!? 正直言って拍子抜けだぜ。仮にも王国最高峰の魔法使いを名乗るなら、このぐらい受け止めてくれないと」

 

 

 

 

 

 

「冗談がキツいねぇーえ。その炎、ただのゴーアじゃあ無いんだろう? そんな得体の知れない物を触るなんて、私には怖くて無理だぁーね」

 

 

 

 

 

 

 

「たかが色違い個体のゴーアってだけだよ!? っつても流石にバレるか。あぁ失敗した。まぁ、いい。次に生かそう。学習の積み重ねは大事だしな。ははっ。クソが」

 

 

 

 

 

 

 

狙い外れ、ロズワールの遙か後方の木々に着弾した俺の魔法は、その火力を大きく広げ、三つの木々を包み込んでいた。炎の威力を考えれば、他の草木に燃え移りそうな物だが、不思議な事に延焼は全く発生していない

 

 

 

 

 

 

 

「見た所、命中した対象だけを燃やすだけの炎。用途を限定したゴーアって所かぁーな? しかし、何故こんな、訳の分からない改良を、改悪を施した制限付きのゴーアなんてものを私に放ったんだい? 何故、わざわざ劣化させたゴーアを」

 

 

 

 

 

 

 

ごちゃごちゃと良く喋る道化は俺の炎を、ただのゴーアの劣化品だと思ったらしい。劣化品? 劣化と言ったな。それは彼女への侮辱ではないか? 愛の否定ではないか? あぁ気が滅入る。嫌な気分だ。リフレッシュしなければ

 

 

 

 

 

 

殺す。殺してやる。骨をガタガタに砕き、内臓をぐちゃぐちゃに掻き混ぜ、心をバキバキにへし折る

 

 

 

 

 

「そんなところで、どうーぉうだい?」

 

 

 

 

 

 

一度、完膚無きまでに散り散りに破け、剥がれ落ちた仮面(マスク)を付け直す。時間が無いんだ。周りに与える被害は気にしない。それにもうすぐ終わるこんな世界だ。少し森が業火に飲まれたぐらい、誰も気にする余裕は無いだろう

 

 

 

 

 

 

「ネロゴーア」

 

 

 

 

 

恨み妬みを言の葉に込め、有るのか無いのかも分からない命を削り、闇色の小さな火種を放つ

 

 

 

 

 

「ネロゴーア。ネロゴーアネロゴーアネロゴーア!! 」

 

 

 

 

 

 

一発で駄目なら、避けられない程の密集率で。何発も何発も、弾幕を張るように闇色の炎を撒き散らす。しかしロズワールは素早く空へと飛翔し、上空から岩を生み出し俺の体へと落下させた。おそらくドーナ、土属性最低位の魔法を使ったのだろう

 

 

 

 

 

 

しかし最低位の魔法でも、高位の魔道士が行使した最低位だ。練度の差か、込められた魔力の差か。その質量、密度は膨大で、容易に俺の身体を地面に叩き付け、骨を砕き、血肉を磨り潰す

 

 

 

 

 

 

身体を動かそうにも、持ち上げられない程に重い大岩が体にのし掛かっている為、いつぞやの路地裏での時とは違い、ビクとも身体は動かない

 

 

 

 

 

 

 

「鬱陶しい。お前、」

 

 

 

 

 

 

「魔人の真似事をいつまで続けるのかぁーな? 悪あがきもこの辺で辞めて、早くやり直しの力を使ったらどうだい? そうすれは君も──」

 

 

 

 

 

口で精神を乱そうとしても、もうこの手は通用しない。まるで口を閉じろと言わんばかりに、岩の被害をから辛うじて免れた顔を、嫌そうな顔で踏みつけてくる

 

 

 

 

 

 

あぁ、だから駄目なんだ。その余裕。その自信。その過信。それが怠惰だと言うのだ。それを理解していると思っているんだろう? 自分は慢心などしていないと思い込んでいるのだろう? だからお前は駄目なのだ

 

 

 

 

「重量操作、魔手」

 

 

 

 

 

重量操作で身体にのし掛かる大岩の重量操作を極限まで軽くし、重しを退けて立ち上がり、本家とは違い、視認されてしまう魔手でロズワールの足を絡み取る。しかしこれだけでは足りない。まだだ、最後の一ピースが足りない

 

 

 

 

 

 

何か、何でも良い。少しでも可能性のある、有効策を。どんな手段だって良いんだ。今、この場でロズワールを戦闘不能に追い込めれば

 

 

 

 

 

──熱い

 

 

 

 

 

視界が白に飲まれてゆく。ジリジリと肌の焼ける音と共に、全身に違和感が蔓延する。呼吸が出来なくなり、頭が曇る。違和感、感覚が消える。ここまで来て、愚鈍な俺の脳はようやく思考の合間に疑問を挟む事が出来た。疑問を抱ければ、答えは勝手に現れる

 

 

 

 

 

身体が焼かれている。ただそれだけの事。たったそれだけで、俺をただ火達磨にしただけで、安心している。安堵している。気を緩めている。あぁ、だから

 

 

 

 

 

「だから駄目なんだよ。お前」

 

 

 

 

 

 

ただの人間、掃いて捨てる程凡愚な、やり直しの力以外、何の利点も持ち得ていない、何も持っていない、愚かで無力な人間。そう思ったのだろう? 現にロズワールは俺の身体を炎で焼いた直後、明らかにホッとしたように表情を柔らげ、警戒を緩めた

 

 

 

 

 

 

だから駄目なのだ。例えそれが事実だからとしても、その態度は愚かとしか言えない

 

 

 

 

 

「死なねぇ人間は始めてかよ! ロズワール! 」

 

 

 

 

 

死体に警戒できる人間が、この世に何人存在するだろうか? 時代をを恐れる人間や、先祖返りを気持ち悪がる人間は多くいるかもしれないが、死体が自分を害すと考え、警戒できる人間は少ない。少なくともロズワールは前者の人間だったようだ

 

 

 

 

 

 

ロズワールとの距離は、手を伸ばせば届いてしまう程。これ程近ければ、俺の魔法でも必中距離だ。不意を突かれたロズワールを怨嗟の炎が焼き焦がす

 

 

 

 

 

メイザース・L・ロズワールには魔法使いとして、ある致命的な欠陥が存在する

 

 

 

 

 

それは、あらゆるマナを用いた治癒魔法が一切行使できない事だ。ラインハルトのように精霊に好かれ、剣聖の加護により、瞬時に望んだ加護を修得する事が出来たなら、この状況を打破できたかもしれない

 

 

 

 

 

 

しかし今、この場に居るのはロズワール(人間)

 

 

 

 

 

 

少しの才能が有ったとは言え、今のロズワールを形成しているのはロズワールの努力と執念の結果。例えそれが狂った思想だとしても、その努力は称賛に値する物だ

 

 

 

 

 

 

それでも彼は人間だ。逸脱した力を持ち得ない、ルールの中での強さしか保有していない、ただの人間だ

 

 

 

 

 

 

「だからこそ殺す。ここで、確実に」

 

 

 

 

 

 

常人であれば身を焼かれた時点で死んでしまうだろう。しかも今放った炎は燃え広がりはしないが、対象を燃やし尽くすまでその炎を絶やす事はない。この魔法をくらって生きていられる筈がない

 

 

 

 

 

 

しかし今、この場に居るのはロズワール(王国最高峰の宮廷魔道師)

 

 

 

 

 

 

 

妥協は出来ない。確実に息の根を止めるその時まで。闇色の炎が鎮火するその時まで。ロズワールへの警戒は少したりとも緩める事は出来ない。踠き苦しむヒトガタから、一瞬たりとも眼を外せない

 

 

 

 

 

 

もし、この炎が通用しなかったら、俺の炎が消えた時、もしロズワールが生きていたら。その時は、万が一にもそんな事になってしまったら

 

 

 

 

 

 

 

詰みだ。俺ではロズワールを殺すことが出来なかった。そんな失敗例だけが残り、次の世界を待つだけの時間が始まる。拷問も尋問も意味がない。苦痛を感じられないのだからロズワールはさぞ困るだろう

 

 

 

 

 

 

いや、もしかしたら叡智の書により俺の、俺自身でもはっきり理解していない、最も欲する物何て物を餌に、ボロ雑巾のようにこき使われたり、なんて

 

 

 

 

 

 

 

「ナツ……キ、スバル、この先君は、君はきっと、後悔する。私をいまここで、殺してしまった事を」

 

 

 

 

 

 

しぶとく耐えていたロズワールは限界を悟ったのか、なにかを語ろうと酷く爛れた顔で地に転がったまま俺を見上げる

 

 

 

 

 

 

「後悔? 後悔と来たか! ははっ傑作! 笑えるよロズワール! テメェも似たり寄ったりな目的で動いてるじゃねぇか」

 

 

 

 

 

 

喉が既にやられてしまっているのか、ロズワールの声は聞き取りづらくぎこちない。内容も理解できない。こりゃ、脳まで炭になっちまったらしい

 

 

 

 

 

「……私の目的に気付いていた、なら、手を、取り、合える、未来、も」

 

 

 

 

 

 

失望した。まだそんな幻想を抱いていたとは。手を取り合える? 最終的な到達地点が相反している時点で俺とロズワールが協力し合える余地なんて無いじゃないか

 

 

 

 

 

ナツキ・スバルと自分が似ている、なんて勘違いをするような奴だ。英雄願望、龍を殺すだったか? それすらロズワールでは役不足

 

 

 

 

 

甘い、甘い、余りにも甘すぎする。実に滑稽。身に余る程の夢を抱きながら、ただ死んでいくしか無いのだから

 

 

 

 

 

実に──羨ましく、妬ましい

 

 

 

 

 

「死んだ…か。はは、所詮ロズワールもただの人間だったって訳だ。はははっ」

 

 

 

 

 

 

 

ロズワール・L・メイザースが死亡した。IFルート以外での死亡歴が自殺以外に存在しないような奴がだ。勿論、ナツキ・スバルもロズワールを殺すことは出来ていない

 

 

 

 

 

そのような者を殺してしまった

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、ビビってんじゃねぇぞ俺。まだ通過点だろうが……急がないと」

 

 

 

 

 

 

太陽は傾き始めている。ナツキ・スバルの死亡時刻までもう残りいくらかもない。クソ、ロズワールの相手に時間を取ら過ぎた

 

 

 

 

 

俺は辺りに潜ませておいたウルガルムを呼び寄せ、その内の一匹にまたがり目的地へと急行する

 

 

 

 

 

目指すは亡きメイザース辺境伯の屋敷。ロズワール邸だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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