Re:× ゼロから止まった異世界生活   作:這いずる蛞蝓

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第15話 『その場所に居たかった』

 

 

 

 

愛しい人が俺を見てくれていた。俺に関心を向けてくれていた。にも関わらず俺はなんの結果も残す事が出来ず、ただへらへらと脳の無い猿のように、浅ましくも彼女に触れようとする始末

 

 

 

 

 

あぁ、怠惰、それは怠惰である。彼女の愛を受け取っておきながら、この俺の行動ときたらなんだ

 

 

 

 

 

 

たかが精霊の一匹くらい、弄びならがら惨殺できるくらいでなければならないというのに。これ程の愛を受け取っておいてどんな言い訳が通用すると思っている

 

 

 

 

 

 

「挽回しなければ」

 

 

 

 

 

 

あの夜の失敗を、失言を、愚図で愚かな過ちを

 

 

 

 

 

 

深いまどろみから這い上がり、朦朧とする意識の中、ただその事だけがハッキリと、脳に焼き付くように爛れた使命と成って不確かな意識に刻み込まれる

 

 

 

 

 

 

 

明け方。日も登らぬ暗がりには、影を身に纒い飛び去る狂人の姿があった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 

 

 

どうすれば挽回できる。どうすれば失敗を上書きできる。どうすれば、いや、それ以前に

 

 

 

 

 

 

 

とうすれば期待に応えられる

 

 

 

 

 

 

 

彼女の期待に応える為には、彼女の理想を越えなければならない。なら彼女の理想とは何だ? それもわからない。こんな不自由な脳を持った人間等という種に産まれたことを、今日ほど後悔したことはないだろう

 

 

 

 

 

 

「ペテルギウスを頼るか……? いや、今あいつは試練の準備で手が空いていない筈だ。あぁクソ、手が足りねぇ」

 

 

 

 

 

 

周りには誰も居ない。この俺は菜月昴であるというのに。隣人も、友人も、誰一人として居やしない

 

 

 

 

 

 

それに比べてナツキ・スバルはどうだ? この際大勢の仲間に囲まれているのは割り切る事にしよう。だが彼女の愛を独占している事だけはどうしても認められない

 

 

 

 

 

 

ナツキ・スバル。お前は何もかもを持っているじゃないか。俺にない何もかもを、お前は持っているじゃないか。それなのにお前は、俺に残った最後の愛までも奪っていくつもりか

 

 

 

 

 

 

なにがなんでも奪われてはならない。これだけは、この身体を生かし続ける忌々しい権能が証明する、この愛だけは失われてはならないのだ

 

 

 

 

 

 

愛しき魔女からの寵愛、それだけは守り抜かなければならない。しかし、魔女がかの英雄に関心を向けている以上、魔女が英雄に惹かれてしまう可能性は大いに存在する。既に好意を持っている可能性もある

 

 

 

 

 

 

そのような状況ではいつ寵愛を失うか、いつ魔女に捨てられてしまうかもわからない

 

 

 

 

 

 

一刻も早く最適な状況で、最適な条件で、死にも戻りの怪物、ナツキ・スバルをこの世から完全に消し去らなければならない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、それこそが。それこそが最愛の魔女への、最大の供物になる」

 

 

 

 

 

 

 

許しを乞うために、愛を願うために、不死の狂人は行動を開始した

 

 

 

 

 

 

▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もはや持病である。恋という病に犯され、愛という名の呪いに蝕まれ、その思いを独占したくて奇っ怪な策を張り巡らせる

 

 

 

 

 

 

正気の沙汰ではない。以前も気を引くために狂ったフリをしたりしていた時期もあったが、今はソレの比ではない

 

 

 

 

 

 

狂気の沙汰でもない。俺は至って正常だ。愛がほしい。愛しい魔女(ヒト)の全てを独占したい。それは至極真っ当な思考であり、そこに間違いなど生じる余地は存在しない

 

 

 

 

 

 

 

屋敷を囲うように配置したウルガルムは、原作通りの働きをしてくれる事だろう。それを行ったのが魔獣使い、メィリィ・ポートルートであるか、俺であるかの違いしかない

 

 

 

 

 

 

もしかしたら原作よりもウルガルムか多少増員されているくらいか

 

 

 

 

 

 

かの白鯨を討伐せしめた英雄殿なら、この程度の苦難。その鮮やかな手腕で余裕綽々と乗り越えてくれる事だろう。本当に腹立たしい

 

 

 

 

 

 

ちなみに、ナツキ・スバルが白鯨を討伐したのは第三章の事であり、現時点ではまだ何も成し遂げてないのだが、それは意図的に考慮しないものとする。勿論。嫌がらせだ

 

 

 

 

 

 

 

ウルガルムの背に乗り、森を駆け回っていた俺は、ある少女に会った。遭ってしまった

 

 

 

 

 

 

「お初に御目にかかるぜ色欲の傀儡。出会い頭にこんな事を頼んでも聞いては貰えないと思うけど。まぁ、一応聞いてみようか」

 

 

 

 

 

 

 

その表情には色が存在していない。貼り付けられた笑みは魔獣使いのこれまでの人生から形成された、腸狩りの模倣である

 

 

 

 

 

 

 

「この森に潜ませているウルガルムを連れて撤退しろ。お前の出番は次だ。今じゃない」

 

 

 

 

 

 

 

恐らく通る事の無い要求だ。メィリィ・ポートルートの上司(ママ)。色欲の大罪司教、カペラ・ルグニカは失態を犯した子供には躾を行うことだろう

 

 

 

 

 

 

「出会ったばかりなのに勝手な事ばっかり言って。そんな事をしたってママが知れば、きっと大目玉になっちゃうわあ」

 

 

 

 

 

 

身体を弄くり回される感覚を味わった事は無いが、とても辛いものらしい。しかしメィリィ・ポートルートにはそれを耐えて貰うしかない

 

 

 

 

 

傲慢を育む為に、実績を作る必要があった。諦めない心を生み出す為に、半魔の娘との関係性を構築させた

 

 

 

 

 

 

死を超越し、何度も何度も世界を繰り返し、望む未来を掴み取る権能。攻略法は見当がついている。要は殺しさえしなければ良いのだ

 

 

 

 

 

ナツキ・スバルを生かしたまま、その英雄的信念を完膚なきまでに打ち砕く。傲慢な在り方を歪め、その精神を壊す

 

 

 

 

 

 

故にこれ以上の経験はかえって不都合だ。セカンドステージ、『ロズワール邸』四日目、五度目の挑戦に必要以上の魔獣の驚異は必要ない、それは後々悪影響を生じさせてしまう

 

 

 

 

 

 

「どうして会ったばかりのお兄さんの言うことを聞かないといけないのかしらあ? 」

 

 

 

 

 

「そりゃ死なない為だろ。意地でもここに居座るってんなら、俺はお前を殺さなきゃならない」

 

 

 

 

 

 

 

メィリィ・ポートルートに配慮の欠片のすら存在しないような傲慢な二択。それを押し付けるだけの力を今の俺は有している

 

 

 

 

「あぁ怠惰。油断怠慢それ即ちなんとやらってやつだぜ。メィリィ・ポートルート」

 

 

 

 

愛しい赤子を諭すように語りかける声を演出したつもりだったが、優しさが足りなかった

 

 

 

 

 

優しさを信じる事が出来ない人間のソレは、他人に分け与える事の出来る優しさを持ち得ない

 

 

 

 

 

 

「なにを言っているの? 私が魔獣さん達に一言お願いするだけで、お兄さんなんてバラバラになっちゃうわあ。それなのに、どうして私がお兄さんの言うことなんて」

 

 

 

 

 

 

メィリィ・ポートルートの言葉は続かなかった。言葉を遮るように起きた菜月昴の爆散により、メィリィポート・ルートの淡い青色のワンピースに暗い赤色の花が添えられる

 

 

 

 

「なぁ、魔獣使い(・・・・)効率良く死ぬ方法ってなんだと思う? 」

 

 

 

 

 

夥しい量の血液と肉片の飛び散った空間の、その爆心地で汚れ一つない清潔な服装(ジャージ)に身を包む男が、メィリィ・ポートルートの双眼を覗き込んだ

 

 

 

 

 

「火の魔石。あれは随分と都合の良い造りだよな。一定の衝撃を加えると意図も簡単にエネルギーの暴走。つまりはヒト一人が容易に死亡できる程度の爆発を、誰でも簡単に引き起こすことが出来る」

 

 

 

 

 

火の魔石は衝撃を与えれば熱エネルギーの暴走により爆発を引き起こす。目の前で発生したこの事象は火の魔石により引き起こされたのだと、逆説的に証明するようなものだ

 

 

 

 

 

後は答え合わせだった。しかし、ママ(色欲)に狂わされ、壊されたメィリィ・ポートルートでさえ、答えを理解する事は出来ない

 

 

 

 

 

思わず吐瀉物を地面に撒き散らしたメィリィ・ポートルートの口を死により強化された『魔手』で強引に塞ぎ、嘔吐を強制的に中断させ、吐き戻そうとしたモノを無理やりの飲み込ませる

 

 

 

 

 

 

「ああ待てよ、思考を放棄するな。それは『怠惰』だぜ」

 

 

 

 

 

 

 

途端、魔獣使いは表情を歪め、金切り声をを上げたと思ったら、その場で気絶してしまった

 

 

 

 

 

それが引き金になったのだろう。魔獣使いの支配下(コントロール)から逃れた魔獣達が、一斉に四方八方に走り去ってゆく

 

 

 

 

 

その中でも数匹ウルガルムは魔獣使いを助けようとしての行動か、三匹が俺の腱、右腕、喉笛を食い千切り、その他のウルガルムが意識を失った魔獣使いを背に乗せて走り去ろうとしている

 

 

 

 

 

俺としては魔獣使いは此方で管理しておきたかったのだがウルガルムの俊敏な動きに追い付ける程、俺の肉体は強靭なものではなかった

 

 

 

 

 

その場に残った二匹のウルガルムの胴を魔手で捻り殺しながら、俺は次のステージに向かう為に、王都へと歩みを進めようと、振り返り、(英雄)の姿を見た。瞳に映してしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青鬼を背負うツノナシの赤鬼の後ろ姿を見送り、相対する魔獣を睨み付ける目つきは非常に悪く、この世界では珍しい黒髪を揺らし、瞳には覚悟の色が浮かんでいる

 

 

 

 

 

 

使用人服に身を包んだ青年は、ボロボロの身体に鞭を打ち、文字通りの死に物狂いで極少の可能性の先にある、最善の未来の為に命を張る

 

 

 

 

 

 

それは常人の成し得る行動ではない。特異性を持たないただの人間が、常識の範疇にあるただの人間にはそのよう蛮行に身を投じる事など出来る訳がない

 

 

 

 

 

 

 

ならば超人の行動か? 否、否である。卓越した剣術を扱える。加護が宿っている。高位の精霊術を行使出来る。強力な装具を所有している

 

 

 

 

 

 

そのどれもが揃っていたとしても、備わっていたとしても。超人にはソレを行う必要がない。まるで意味がない。無益の為に無意味を重ねる。結局の所、ただ、常人よりも少し優れた才能を持つだけの人間には、そのような非常識に身を滅ぼすような事は出来ない

 

 

 

 

 

 

 

それは狂人の行動だ。人としてのガタの外れた、欲にまみれた怪物の意思である

 

 

 

 

 

 

自分が頑張れば必ず全てを救うことが出来る。そのような傲慢を押し通す事が出来てしまう、大罪を背負った、彼女に愛される存在。あぁ、非常に忌まわしい男だ。今にでも殺してやりたい気持ちを捻り殺し、心の平常を保つ

 

 

 

 

 

 

 

咆哮が轟く。それはナツキ・スバルの物ではない。狂人に相対する魔獣が吠えた。ナツキ・スバルとの体格差は二倍以上

 

 

 

 

 

 

通常のウルガルム何倍も屈強な肉体を操る化け物の退治は、ものの数分の出来事だ

 

 

 

 

 

 

ウルガルムを一掃する名案は提唱者であるナツキ・スバルですら知るよしもない。それは架空のアプローチだ。誰一人として答えを知る者の居ない、虚偽の提案だ

 

 

 

 

 

 

それはナツキ・スバルの犠牲の許容を強要するような物だ。次があると知らない少女達に傷を残してしまう

 

 

 

 

 

 

それは一種の正しさなのだろう。正しさを守れば傷付く事はない。しかし一人はそれをよしとしなかった

 

 

 

 

 

 

手は届かない。声は届かない。それでも、それでもせめて、想いだけは届くように。名前を呼ぶ

 

 

 

 

 

 

それは紛れもない恋が生じた瞬間であった。(呪い)に至る魔性の誕生である。複雑に呪われた身体に鞭を打ち、鈍い輝きを放つ剣を掲げたナツキ・スバルは、その瞬間、英雄へと足を踏み入れた

 

 

 

 

 

 

黒煙が辺りに撒き散らされる。初歩的な陰属性の魔法。実際のシャマクとは違う暴発状態。ナツキ・スバル特有の広範囲に広がる妨害魔法

 

 

 

 

 

 

黒い霧の中で無理解の世界が広がる。形も色も、匂いも感触も、何もかもが存在し、なにもかもが存在しない。認知できない

 

 

 

 

 

 

闇の世界は終わっている。無理解が支配する無意味で無機質な世界には何かが足りない。何かが欠けている

 

 

 

 

 

 

無意識のまま、意識を得る。たった一つの最優先事項を繰り返し脳に刻み、復唱を何度も繰り返す

 

 

 

 

 

 

まだ終わらない。まだ終われない。わからない。無理解を理解する。忘却と思考を繰り返し、無理解のその先を理解する

 

 

 

 

 

 

無理解の世界から脱したナツキ・スバルと未だ無理解の世界に捕らわれ、無防備に急所を晒すウルガルム。それだけの好条件が揃っても尚、ナツキ・スバルの勝利は確定しない

 

 

 

 

 

 

一撃では足りなかった。ならば二撃目をと振りかぶるナツキ・スバルはウルガルムの口内を切り裂く。睨み合いと罵りの応酬。一対一の獣同士の戦いは第三者の介入により幕を閉じた

 

 

 

 

あぁ、やはり予想通りだ。予定調和とでも言うべきか。俺が過度な介入を行わなければ世界は原典通りの道筋を辿る

 

 

 

 

 

幸福と絶望を繰り返す、地獄のような日々を駆け抜け、幸せを掴み取る。それがナツキ・スバルの人生だ

 

 

 

 

 

妬ましい。その立場は本来俺のものである筈だ。経験を知識として知っている。俺ならもっと上手くやれる。俺が偽物なんじゃない。お前が、お前が偽物なんだよナツキ・スバル

 

 

 

 

 

俺が本物だ。俺が英雄だ。俺こそが彼女からの寵愛を一心に受ける、俺こそが彼女の愛を受けるに相応しい

 

 

 

 

 

なのに、なのになのになのに。お前が居るせいで彼女が迷ってしまうではないか。気の迷いが生じてしまうではないか

 

 

 

 

 

お前のせいで。お前のせいだ。なにからなにまで、なにもかも。全て全て、お前が悪い

 

 

 

 

 

怨嗟の言葉が溢れ出す。しかし行動に移す事は出来ない。理性を捨て去り、本能のままに行動する愚行は、魔獣にも劣る無能な行為だ

 

 

 

 

 

全てはナツキ・スバルを消し去り、『ナツキ・スバル』に成り代わる為に

 

 

 

 

 

燃え広がる魔獣の森を背に、俺はメイザース辺境伯領を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『怠惰』
大罪司教怠惰担当、ペテルギウス・ロマネコンティから吸収した魔女因子を体内で培養し得た模造品の権能

オリジナルに近い性能をしているが、菜月昴の場合、通常時は使用できない。使用しても効果がない


オリジナルの『怠惰』は精神汚染効果のある黒い霧を周囲一帯に広げ、耐性のない者を強制的に発狂させ、戦意を挫かせるものであったが、これは劣化品。それほど高性能ではない


模造した『怠惰』の発動条件は直近で最低一度は死んでおく事と相手に触れている状態。見ての通りの超近距離技である
 
効果は記憶の伝達。今回の場合は菜月昴は体内に取り込んだ火の魔石に衝撃を与え砕き、体内で爆発を発生させた際の記憶を植え付けた


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