森を抜け、街を駆け。湖を照らす月下、雲に隠れ薄暗い中、跳ね橋の上を歩く怪しげな黒いローブの男が二人
一人はひどく痩せこけたそうな貧弱な体。病人と言っても不自然では無いくらいの顔色。ただ一つだけを盲信する狂人の瞳。魔女教大罪司教怠惰担当、ペテルギウス・ロマネコンティ
一人はそこそこに鍛えられた体に、まるで何処かの貴族のように傷の一つも無い綺麗な肌。この地域ではあまり見かけない黒髪に鋭い黒目。ローブの中には見慣れない、変わった服装をしている。何を考えているのかわからない、気味が悪い人間。悪名高き魔女教、一般教徒、この俺、菜月昴だ
って誰が気味悪いって!? と心の中で無駄に壮大な現状確認を行い、セルフツッコミを入れていると、目的の地に辿り着いた
堅牢な壁を見つめ、俺は声を震わせながら、なんとか言葉を絞り出す
「な、なぁ、ペテルギウス。ここってもしかして、いや、もしかしなくてもアレだよな...」
「? そう、そうデス。そうなのデス! この程度の外壁、ワタシの権能で木っ端微塵に出来るのデスが、今回は隠密行動を取らなければならないのデス。事が露見する可能性を残す等という怠惰を! 犯すわけには、許すわけには、絶対に! あってはならないの、デス! 」
俺が恐る恐る聞いてみると、ペテルギウスは大声で事の概要を話し始めた。隠密行動じゃ無かったのか
「我々がここで果たすべき目的はただ一つ! 囚われた同士から、情報を聞き出す事デス! 出来るだけ騒ぎを起こさず、勤勉に行動するように心がけましょう」
ペテルギウスはそう言うと、足早に外壁付近へと近づいて行った。正直、さっきのペテルギウスの話は全然頭に入ってきて無い。それよりも強い、予想外の事実が、俺の頭に突き付けられたからである
「いやいや、これ、アレじゃんね。リゼロスのIFストーリー....マジかよ」
マジか。いや、本当マジか。今まで原作基準のRe:ゼロ世界だと思っていたが、ゲームのお話も混じってくると俺の知識も怪しくなる
今回はこの
いやな考えが脳を埋めるばかりだ。一度思考を切り上げて、今の話を思いだそう
スマホゲーム、リゼロスにて公開されたオリジナルIFストーリー。ナツキ・スバルは王都にて、エミリアとレムと劇を見た後、あと、それから...それから......
頭にドンと、重く、酷いノイズが走る
俺は久々の痛みに耐えられず、みっともなく声を叫び散らかしてその場に倒れた
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
男が居た。男は忌々しげにこちらを見詰めると、恨みのような言葉で、首を締め付ける
「よぉ、兄弟。ってでも言えばご満足か? 」
男が小さく何かを言うと、俺の体は動かなくなる。目で見えないのだが、感触からして何やら長い手のような物が体に絡み付いているようで、うんともすんとも動かない
「わからない? ありえない? あってはならない? 存在しない? 理解できない? 無理だって? お前、巫山戯てんのか? 」
体が強く締め付けられる。肉体が圧迫され、痛みを感じる。だが死ねない
「お前が、お前が邪魔したんだろうが。お前さえ居なければ救えたんだよ」
知らない。何が救えただよ。そんな事知らねぇ。知らねぇって言ってるだろうが。そう、言おうとしたが声が出ない声帯が存在しないのだ
は? 視界が低くなった。それに驚く事は無かった。それを上回る出来事が起こったからである。俺の体は跡形もなくズタズタにされ、残るのは汚れた肉塊のみ
普通の人間なら、死んでいると言えるだろう。だが俺は、菜月昴は死ぬ事を許されていない
「権能も効力が薄いか...クソが。ざけんじゃねぇぞ」
あからさまに舌打ちしながら、男は俺を睨みつける。その数秒後には、何事も無かったかのように、まるで菜月昴の死が見間違いであったかのように、菜月昴は再構築、いや、巻き戻される
「千日手、か。仕方ない、なんて言えるかよ。俺は約束したんだ、だから──」
目覚めの時が来た。そう、自覚できた。男は俺に鋭い眼光を当てながら、睨みつけている。意識が朧気になって行く。まるで、正しくない異物を、そこから排除するかのように、形を正常に戻そうと同じ処を何回も繰り返してゆく
薄れゆく意識の中、男は何か、言ったような気がした
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目が覚めると俺は、ペテルギウスに担がれていた。突然倒れて意識を失っていたらしい。誰かに会った気がするが、上手く思い出せない。いや、今はそんなあやふやな、夢みたいな事を考えている場合では無いか。それよりも今は、とらわれた魔女教徒から情報を聞き出すのが重要だ
もぞもぞと体制を整えていると、ペテルギウスが声をかけてきた。どうやら最低限安全を確保できるエリアを見つけたため、少し休憩をするようだ。いきなり倒れた事に対し、何か言われるかと思ったがペテルギウスの口から飛び出してきたのは、想像とは違う言葉だった
「しかし素晴らしい。この短時間で魔女からの寵愛が明らかに濃くなっている。サテラは我々の事を見守ってくださっているのデス! あぁ! これは素晴らしい事デスよ! 我々も愛に応えなければ! あぁぁぁぁ! 脳が震えるうぅぅ! 」
ペテルギウスは興奮し、壁に頭を打ち付け自傷行為を繰り返す。どうやら俺がいきなり倒れたことに対して、怠惰だとか怒っている様子は無さそうだ
休憩時間と言う事なので、軽くコーンポタージュスナックを食べ、ペテルギウスと軽い雑談みたいなモノを始める事にした。しかし話題が無い
少し考えてみたが、思いつかなかったので、俺は気になっていた事を聞いてみる
「なぁ、ペテルギウス、俺に魔法の使い方を教えてくれないか? 」
「魔法、デスか? 今は時間が無いのデスが...少しだけなら良いデスよ」
ペテルギウスは少し悩む様子を見せた後、快く了承してくれた。これで俺の魔法適正を把握する事が出来る。ナツキ・スバルとの違いを知ることが出来るかもしれない
魔法適正は異世界に転移させられた時にランダムで決められると言う話を聞いたことがある。もし、これで陰属性以外の適正であったのならば、俺はナツキ・スバルとは違う存在だという証明になる。かもしれない
「では、まず属性の適正を調べます。良いデスか? 動かず、じっとしていてください」
ペテルギウスは俺の心臓の辺りに手を当て、目を瞑り集中している様子で動かなくなる。俺も同じく動かないように心がけ、自分でも不思議なぐらいに微動だにせずに、石のように固まった状態で、属性の適正確認の終了を待つ
何も聞こえない、ジメジメとした無の時間がしばらく過ぎた頃。ペテルギウスはおもむろに目を開き、地べたに座り直してこちらを見つめ、結果を教えてくれた
俺の魔法の属性の適正は陰属性だった
ペテルギウスが懇切丁寧に魔法についてのご講義を聴かせてくれているが、コクコクと頷くのみで内容は頭に入ってこない。けど立ち直った。俺には目的がある、あるんだ。だから、こんな所で止まれない。止まってはならない
「ペテルギウス、その辺でもう大丈夫だ。大体わかった。手間取らせて悪かったな」
早々にペテルギウスの魔法に関する解説を遮り、袋に残ったコーンポタージュスナックの残りを少しつまみ、壁にもたれかかって精神を休める
少しするとペテルギウスがそろそろ先に進もうと言い出したので、軽く体をほぐし、ラジオ体操をした後に監獄の奥へと立ち入ってゆく
道中、看守を避けながら、喧嘩が起こっている食堂をチラリと見て、ナツキ・スバルがここに居ない事を確認する。ナツキ・スバルがここにやってくる可能性があるのは....いや、ナツキ・スバルはここには来ない。あれは有り得たかもしれない可能性のお話。時系列的にもおかしな点がいくつか存在する
ナツキ・スバルがレムと和解するのは原作第二章
ナツキ・スバルがオットーと
ナツキ・スバルがリカードらとある程度の良い仲を持つのは原作第三章
レムは第三章終了後から暴食の大罪司教の一人に権能を使われ、原作第七章まで眠り姫状態になる
なんらかの要因で原作第三章が始まる前にオットー、リカードらと会い、仲を深めた? ならば第三章の結末は、少し変わったモノになるかもしれない。しかしながらそれはIFの話。今ここで論じても意味の無い、無意味な話だ