Re:× ゼロから止まった異世界生活   作:からまわり

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第8話 『宮廷魔導師の力』

何故、俺がわざわざペテルギウスと別れ、メイザース辺境伯領までやって来たのか。それにはいくつかの理由があるが、第一はナツキ・キスバルを克服する為。

 

 

 

前回ナツキスバルを見た時は、もの凄く情緒不安定な状態に陥り、川に身投げしてみたりと自殺をしようとしてしまった。死ななかったから良いものの、もし死んでしまっていたらと思うとゾッとしない。

 

 

 

現在俺が潜伏しているこの場所は、原作にてナツキスバルが屋敷を見張ってたあの崖だ。エミリアを救った報酬、食客としての身分を得て、屋敷での食っちゃ寝生活を要求するルート。

 

 

口止め料貰って屋敷を出た後、外から見張ってたら最終的にはレムに拷問されるって奴。今考えても仕方が無いが、後日、別の見張れる場所を探しておいた方が良さそうだ。

 

それから俺は、塩辛い干し肉片手に、ロズワールの屋敷をじっと観察していた。夜になっても関係ない。数日間。眠らずに観察し続けた。不思議と苦痛は無い。いや、絶対おかしいだろ。どうなってんだ俺の体? 疑問を浮かべつつも観察する。

 

しかし長年、暗いところでゲームをやり続けた弊害が、朝、ナツキスバルとエミリアがラジオ体操をしている所以外、全くと言って良いほどに何も見れなかった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ナツキスバルに最接近できたのはアーラム村に買い出しに来た時、残念ながらタイミングが合わず、メイザース家の使用人を確認することが出来なかったが、子犬に擬態したボスガルムがナツキスバルの手にガブリと一齧りし、呪いをかける光景を目撃できただけでも良しとしよう。

 

 

その日の夜。問題が発生した。

何時ものように洞穴から干し肉だけを取り出し、屋敷の観察を行っていると突如空から人が飛来してきた。俺は驚き、手に持った干し肉を地面に落としながら、大きく仰け反る。

 

「おや? スバルくぅーん? 何でこんな所にいるのかぁーな? 」

 

奇妙な道化師のような服装にピエロメイク。ふざけたように間延びした特徴的な声。間違いない。ロズワールだ。

 

ナツキ・スバル(原作主人公)は屋敷に居る筈なのに、何故、ここにお前が居るのかと問いかけているその声には、僅かながらに驚きをはらんでいた。

 

さて、どうするか。誤魔化す? 無理だ。もし屋敷に連れ戻されたら? 何故この場に居るのかを、強く聞かれたら? ほら、俺の愚図な脳でも、これだけの問題が簡単に浮かんでくる。

 

これじゃ駄目だ。黙って逃げるのも無駄。相手は六種類の属性の魔法を、高度な水準でいとも簡単に操り、近接戦闘もそこらの達人よりも上の強者だ。弱者の俺が全力を尽くしたとしても簡単に拘束されてしまう事だろう。

 

ほかに、もっと良い考えも浮かばないか、考えても考えても何も浮かばない。まるで、自分から沈んでばかりいた俺の人生を嘲笑うかの如く、何も考えは浮かばなかった。

 

「......スバルくん。私は何故、この場にいるのかと聞いているんだ」

 

ロズワールがおどけた調子を辞め、無表情で淡々とした意思を発してくる。こうなってしまったらもう、時間は無い。じきに魔法攻撃が飛んでくる事だろう

 

でも、それで良い。それでも良い。どうせこの世界は終わるんだ。巻き戻る世界の事なんて気にする必要は無い。つまり今回は捨て回って訳だ。

 

 

なら、少しぐらい馬鹿をやっても許されるだろう。

 

 

「ん? あぁ、ロズワール(・・・・・)それには海よりも深く山よりも高い理由が...」

 

「御託はいい。君はただ、私の質問に答えるだけでいい」

 

ロズワールは威嚇の為か俺に火の魔法を放つ。火の魔法は俺の頬を掠め、頬を焼き付けるが、すぐに火傷の後は消え去る。失敗した。軽いジョークで油断を誘って至近距離から確実な致命傷を与えてやろうと思ったのに。

 

「おいおい止してくれよお師匠様大好きの初恋拗らせ野郎。俺は男色の趣味は無いんだ」

 

影の魔手を10本出して、ロズワールに一斉にけしかけ、握り潰してやろうとするが、相手は変態宮廷魔導師。流石に分が悪い。ロズワールがフーラと一度呟けば、俺の影の魔手は一撃で消し飛ぶ。魔法の余波で木々は吹き飛び、地形が荒れてしまった為、足下を取られないように注意もしなければならないので、正直集中力がいくらあっても足りない。

 

俺は、転びつつも背中を向けて全力で走り、ロズワールからの逃走を図る。いや、だって無理じゃんね。あいつ魔法がバケモンレベルに強いだけじゃなく近接格闘術もそれなりに極めてるからね? 無理無理勝てっこない。

 

「粋がるなよ『ナツキ・スバル』。君程度の力では私を倒すことは出来ない。さぁ、怒っていないから、叡智の書との照らし合わせを...」

 

「は? 」

 

言葉を聞いた瞬間、自然と俺の足は止まり、無意識の内にロズワールのへ向けて、重量の増した重い回し蹴りを当てていた。ロズワールは一瞬顔をしかめたが、すぐにバックステップで俺との距離を取り、間合いを計っていた。

 

「なにもそこまで嫌がる事じゃ無いじゃ無いか。それにこれは『スバルくん』の為でもあるんだぁーよ? 」

 

「俺と......俺と『ナツキ・スバル』を同列に語るんじゃねぇよ。今すぐにその認識を改めて死ね」

 

火の魔石をロズワールの方に向けて投げて、それの重量を最大限に重くする。火の魔石は衝撃を加えられ、爆発という事象を発生させる。その爆発にもすかさず重量を最大限に重くして、被害を拡大する。

 

ロズワールは氷で盾を作り出し、被害を免れたが、氷の盾は溶けて砕けて崩壊し、いくらかのダメージは通ったようだ。それ以上に目に残ったのは、ロズワールの表情だった。たかが小規模の爆発にも関わらず、ロズワールは酷く怯えていた。何故かと思考してみるもこれと言った理由が思いつかない。なので気にせず攻撃を再開する。

 

「あぁ、ウゼぇ。邪魔だ。鬱陶しい。腹が立つ」

 

俺はロズワールに向かい、足下を気を付けながら一歩ずつロズワールに近付く。

 

「く、来るな! 来るなぁぁぁぁぁあああ!! 」

 

急に取り乱し始めたロズワールは俺に向け、無詠唱で7色の魔法を、大小構わず無作為に放った。人一人に放たれるにはあまりに膨大すぎるソレは、ただ一人のニンゲン(化け物)に向けてその威を翳す。

 

まず最初に、意識が暗黒に刈り取られ、灼熱の炎が身を焦がし、迅速の風が体を切り刻み、超高密度の大岩が半身を抉り、極光が脳を焼き、氷点下を下回る氷が全身を包み込んだ。

 

次は溶岩を幻視するような高熱度のドロドロとした液体が体を溶かし、暴風により舞い上がった木々が体の至る所に突き刺さり、雷が直撃し、突如として足下に空いた、深い穴に突き落とされる。

 

しかし、それでも俺は死なない。死ねない。死ぬことが出来ない。しかしこれでは上に上がれない。自身の重量を軽くし、飛んでみたが全く届かない。それなら...

 

「ムラク」

 

一瞬、強い不快感が表れたがそれもすぐに消えた。発動した陰属性の魔法により、質量は減り、重力の影響が少なくなった。しかし未だに届かない。まだだ、まだ足りない。

 

「ムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラクムラク」

 

ゲートが壊れて再生して、大体30回くらいの重ねがけを行ったムラク。最低効率で最低レベルの効果を発揮した魔法も、これだけ重ねれば通常の3倍程にはなる。

 

あとは真っ直ぐに跳ぶだけだ。脚に力を込め、体制を整える。これで行ける。何故かはわからないが確信が頭に弾き出される。アレだ。テスト前に勉強し忘れてあぁ、大丈夫。なんとかなる。と言った風な感じに似ていると思う。いや、そんなことはどうでも良いが。

 

はっと息を吐いたと同時に、俺の肉体は地上へと跳ね上がる。が、止まらずにそのまま上空へ。あとは自由落下に身を任せるだけだ。ロズワールは...居た。よし。少し軌道を修正してと。

 

ドンと大きな衝撃をたてながら、俺の肉体は地面に叩き付けられる。体がまだ重い。負荷を掛けすぎたからか、再生がまだ追い付いていないようだ。しかし最低限動くことは出来る。

 

「よ゛ぉ゛...ロズワ゛ール。なに...逃げでんだよ゛」

 

声帯もまだ損傷したままのようだ。しかし問題は無い。ロズワールは驚愕の表情を浮かべ、その場で腰を抜かして倒れ込んでしまっている。よし。これなら行ける。

 

俺は背中から剣を引き抜き...剣が無い。何処かで落としてしまったのだろうか? まぁいい。それならミーニャ撃てば良い。そう思いロズワールに向けて魔法を放とうとした瞬間、終わりは訪れた。

 

 

 

世界を飲み込む影の濁流は、全てを飲み込み時を戻した。

 

 

 

あぁ、次に行くのか。にしてもこの感覚にも慣れてきた。もう取り乱すことも無いし、自分でも不気味なくらい落ち着いている。でも、それは良いことじゃないか。なぁそうだろう? 菜月昴()

 

 

 

 

 

 

 

 


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