人語を解する小動物に出会ったら注意!

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『魔法少女になって!』は全部詐欺

 返り血を浴びた。それと同時に、さっきまで談笑していた友達は、物理法則にしたがって地面に転がった。咽るほどの鉄の臭いと、体を伝う紅い雫は、私を忘我のゆらぎから引き戻すには十分だった。

 なんてことない、いつも通りの帰途だった。友達と学校のあれこれについて話して、くだらない冗談で笑って、何もかも普段と変わらなかった。あの怪物に出会うまでは。怪物は、ぬいぐるみのような外見をしていた。着ぐるみのようなサイズも相まって、何かのキャラクターが道端を歩いているものだと思った。おたおたと歩く姿はチャーミングでさえあって、私たちはまんまと近寄ってしまった。奴は私たちの接近に気が付くと、こちらに駆け寄ってきた。その時、前に踏み出したのが友達でなければ、肉塊になっていたのは私だっただろう。そうして、私の日常は壊されたのだ。

 周囲に人影はなく、助けを呼んだとしても来るかどうか。結局、私も死ぬんだ。怪物の爪は異常に鋭く、友達の首にかすっただけなのにこの有様だ。本性を表しても歩き方は変わらず、ゆっくりとこちらに近づいてくる。走れば逃げられるかもしれないけど、足に力が入らない。終わりだ。何もかも。諦めたその瞬間、視界が光に包まれた。優しく、温かい光。その中から、小動物のような何かが現れる。身構える私に、そいつは話しかけてきた。

「驚かせてすまない。魔法少女になってはくれないだろうか」

 あまりの非現実的な状況に、私は絶句してしまった。そいつは焦った様子でまくし立てる。

「このままじゃ間違いなく君は死ぬ。でも魔法少女になれば、勝機が生まれるんだ」

 圧倒されて、私は頷く。しかしそいつは苦虫を噛み潰したような顔で。

「君の口で、君の言葉で!魔法少女になることを望んでくれ!」

 そう叫んだ。だから、私も叫んだ。

「魔法少女に、なりたいっ!」

 視界を再び光が包む。今度は、私の体ごと。光は案外早く消えた。私の右手にステッキを残して。気が付けば目の前に迫っていた怪物に、私は無我夢中でステッキを振るう。

 怪物は吹き飛んだ。身体の一部を消し飛ばされながら。あまりに圧倒的な威力に、呆然としてしまう。劇的形勢逆転。

「良かった…………。申し遅れたね、僕は妖精だ。魔法少女に適性がある者を探し、導く存在」

 安堵のため息とともに、妖精はそう言った。魔法少女に妖精に、まるで創作上の世界観だ。あまりに現実味がない。実際、これはただの夢で、私はただベッドの上でうめき声を上げているだけなのかもしれない。否、そうでないことはもちろんわかっている。それがただの願望で、これがただの悲劇的な現実であることを。怪物はのっそりと起き上がり、抉れた自分の腹を見ている。こちらを警戒している様子は一切ない。今がチャンスだ。怪物に狙いを定めて、思いっきりステッキを振る。衝撃波が放たれ、また怪物の身体を消し飛ばす。怪物は雄叫びを上げて、こちらに走ってくる。ただし、相変わらず可愛らしい走り方で。私はステッキを振り続ける。そのたびに怪物は吹き飛び、体積も小さくなってゆく。身体が半分ほど失われたところで、怪物は動かなくなった。念のためにステッキを振るってみても、ただ壊れていくだけ。あっけない勝利。私が大きな息をひとつ吐くと、ステッキは消えていつの間にか纏っていた魔法少女の衣装も制服に戻った。同時に、強い疲労感が体を襲う。地面にへたりこんで、動けなくなってしまった。無理もない、こんなことがあったのだ。これですぐに日常に戻れるほうが異常だろう。

「本当に良かった。あのまま魔法少女の適性のある子が見つからなかったら、骨折り損になるところだったよ」

 妖精がそう言う。一方私は、少し遅れてやってきた睡魔に立ち向かっているところだった。さすがに、道端で眠るわけにはいかないし。

「せっかく魔獣を創り出したのに、収穫なしじゃあやってられない」

 アスファルトの温もりが、ほんのちょっぴり心地良い。それにしたって、ただごとじゃない疲労感だ。加速度的に力が抜けていく感覚。もはや顔を上げることさえままならない。

「おや、そろそろ回収が終わるかな?魂の回収、もっと早くなればいいのに」

 魂の回収?尋ねようとして、声も出せないことに気付く。代わりに、眉を少ししかめて睨んでみる。

「驚いた!まだ意識が残ってたのか!」

 妖精は驚いたあと、笑ってみせた。

「まあ、そのうち楽になるだろう。少しばかりの辛抱だ」

 言っている意味がわからない。とりあえず、睨み続ける。

「異議がありそうな顔だけど、これは取引の上で行われる取立てだ。文句を言われる筋合いはないよ」

 妖精は続ける。

「まさか、何の代償もなく魔法少女になれると思っていたのかい?」

 思っていた。というか、そこまで考える余裕はなかった。

「君は魔法少女になる。僕は代わりに魂を貰う。そういう契約だ」

 そんな話は聞いていない。私はただ魔法少女になれと言われただけだ。

「過程がどうあれ、君が同意したのは事実。変身したあとで支払えませんなんて、そうは問屋が卸さないよ」

 騙された。結局私は助からないんじゃないか。

「まあ、君がいてくれて助かったよ。危うくノルマが達成できないところだった」

 まぶたが重い。もう睨むこともままならない。

「今度こそ回収が終わりそうだね。ま、来世はせいぜいこんなのに引っかからないように頑張りなよ」

 畜生。酷いじゃないか。消えゆく意識の中叫ぶ。こんなの詐欺だ!


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