無職転生 ~領主になったら本気だす~   作:華氏使うな

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第二十六話「痴情」

 

 

「ふわぁ……おはようございますわ、ロキシー」

 

「おはようございます…ルディ?」

 

「あっ、いや……」

 

疑問気に此方を見てくるロキシー。

 

 

ーーー

 

 

「えっ、ルディ、お嫁さんが居たんですか?!」

 

「ええ…、つい二年ほど前出来ました」

 

驚いた顔をするロキシー。

 

ーーー

 

 

「アスラ王国、ですか…遠いですね……」

 

「わたくしなら、用事も無いので着いて行っても宜しいですわよ。ああ、パウロには会いたくないですわね」

 

悩ましげな顔をするロキシー。

 

ーーー

 

 

「ルーデウス、ちょっとこっちに来てくださいまし」

 

「あっ、はい。なんでしょう?」

 

「?」

 

ぽかん、とした顔をするロキシー。

 

 

ーーー

 

 

 

 

「ルーデウス、貴方……ロキシーに惚の字ですわね?」

 

「はい?嫁が居るって言うのは、見栄でも何でも無いですよ?」

 

 

「…だって貴方、さっきからずっと、ロキシーのことをチラチラ見てるじゃありませんの」

 

 

「……?………あっ!」

 

 

エリス。謝ります。ごめんなさい。

ヒトガミに言われて、貴方が必死に探してくれているということも分かっています。

 

でも、浮気してしまいそうなんです……。

 

 

ーーー

 

 

俺が旅の目標を定めた後。

俺は、ロキシー達に、魔大陸に居る事情を話していた。

 

色々あって有耶無耶になっていたが、良く良く考えれば、意味の分からない状況の筈だ。

 

纏めてみれば、自分でも良く分からない。

寝て起きたらぶん殴られて、気づいたら魔大陸。

何らかの妄言癖を疑われても仕方ないような、被害妄想じみた物だ。

ヒトガミに説明されてなきゃ、俺だって理解してなかっただろう。

まあ、ヒトガミのことは黙ってたんだが。それを説明すると、『ロキシーと会わない方が良かった』という話もすることになってしまうからな。

 

最も、何故か俺の名前が売れてたことで、理解は得られたがね。

 

そして、事情を話した後。

ありがたいことに、ロキシーとエリナリーゼが、アスラ王国まで送ってくれることになった。

キシリカが何処に居るか分からない今、これが最善だろう。

 

ロインやロカリーにはまだ何も話せて無いが、流石に師匠の親にまで、来て欲しいとは思わない。

よって、殆んど必要なことは話し合えた状態だ。

 

 

そんなことがあり、俺はすっかり安心しきっていたのだが…

エリナリーゼが、とんでもない爆弾を放ってきた。

 

 

『俺はロキシーが好き』

 

その言葉を聞いたとき、俺は笑い飛ばそうとした。

まさか。

今の俺は女に飢えちゃいない。

そんなバカなことはない。

 

そう言おうと思い、直前の記憶を漁った。

すると、衝撃の事実が判明した。

 

 

─ロキシーの顔しか出てこない。

 

 

なんと、自分でも気付いてなかったが、俺の意識はロキシーにしか向いていなかったのだ。

部屋の内装を思い出そうとしても、靄が掛かったように、ハッキリとしたビジョンにならない。

 

なんと言うことだ。俺は驚いた。

昨日、あれだけ家族のことで心動かされた翌日に、こんな酷いことを考えているのだ。

 

 

俺は考えた。落ち着く必要があると。

そこで、誘惑と理性を別けて考えようと思った。感情がゴチャ混ぜになっているからだ。

 

俺の中で、天使と悪魔が囁いていた。

 

悪魔は『フィリップが洗脳…もとい貴族教育をしてくれている筈だ。一夫多妻制でも、なんの問題もない』と言っている。抗いがたい誘惑だ。

 

天使は、『何事も誠実にです。深く謝り、相手に誠実に接すれば、エリスだって許してくれる筈です』と言っている。厳しい道だが、俺はやってみせる。

 

 

っていや、違う!

思わず、ノリツッコミをしてしまった。

楽天的な道を提示する、悪魔。辛く苦しいであろう道を提示する、天使。

俺の欲望と自制心の両方が、ロキシーを嫁にすることを前提に考えてしまっている。

 

ダメだ。この思考に陥ると、クズな俺に論破されて、あっという間に、欲望の赴くままに行動してしまうだろう。

 

確かに、俺の中に何か抵抗感がある筈なんだ。

そうだ、一夫多妻制に違和感を持つなら、日本人的な感覚だろう。

 

前世の俺を深く呼び起こす。

そう、今の俺は日本人だ。決してアスラ貴族ではない。

 

前世の俺ならなんと言っていた?

 

(デュフフコポォ オウフドプフォ フォカヌポウ)

 

うわぁ!ダメだ!

ニキビ面のデブいオッサンは、合法ロリ、ハーレムという単語に激しく興奮していた。だって俺も興奮してるんだもん。

 

 

何が俺の中で抵抗感を示してるんだ?

エリスとの関係が壊れること?

いや、なんやかんや言って、エリスは許してくれそうだ。じゃなかったら、メイドとニャンニャンしてるサウロスに懐いたりしない。

 

パウロやゼニスに軽蔑されること?

パウロを見てみろ。それ以前の問題だ。

 

 

おかしい。考えれば考える程に、自らロキシーと浮気する道に思考が逸れていく。

パッと思い付く反対意見は、自分で全部、論破出来てしまった。

 

イマジナリーエリスですら、ゴーサインを出しているのだ。これはもう、やるしかないか…?

 

 

…いや、落ち着け俺。

やっちゃいけないことはあるだろ。

 

そう、今の俺はロキシーと久々に会えて、テンションが上がっているだけだ。

このテンションをこれ以上上げないよう、ラッキースケベなどは絶対に起こしてはならない。

 

必然を持って未然に防ぐ。

 

今の俺に必要なことだ。

 

やってみせる、やってみせるぞ!

 

浮気しないために、エロいことはしない。

俺は、そんな一見不可能と思われる目標を達成するため、気合いを入れ直したのだった。

 

 

ーーー

 

 

「短い間でしたが、お世話になりました」

 

「良いのよ。ロキシーも中々、自分の話はしてくれないから…それに、こんなに貰ってしまいましたし」

 

ロキシーの実家を出ることになった。

ロキシーもそれなりに満足していたこと、そして速急に帰る必要性を認識した為だ。

 

「君は魔術師だったと思うが、持っていて損ということは無いだろう。これを持っていってくれ」

 

ロインは、そう言って古い武器を渡してくれた。

使い込まれた後があるが、それでも立派な物だった。

カトラスとか、そういう類いの剣だ。

 

「良いんですか?こんな立派な物…」

 

「良いんだ。元々貰い物だしな。アスラ金貨に替わったと思えば、儲け物だ」

 

そうは言ってるが、多分、これをアスラ王国で買おうとしたら、金貨五枚じゃ到底足りないだろう。

師匠の親というだけあって、器が大きいんだろうな。

 

「じゃあ、行きましょうか、ルディ」

 

「二十年に一度くらいは、顔を見せてくれるかしら?」

 

「ええ。次は、男性を連れて帰って来るかもしれません」

 

うぐっ、胸が痛む。

浮気しない、浮気しないと言ってる割に、軽口ですらこんなに心動かされてるのだ。

いけない兆候だ。

 

「ハッハッハッ。良い男性が見つかると良いな」

 

ロインは、俺の方をチラリと見た。

コイツ、気づいてやがる……?!

もしかすると、あの武器も将来の婿候補に対する、投資的な意味合いも含まれてるのかも知れない。

外堀からも埋められてる。

アスラ王国法では幇助は犯罪なんだぞ?!

知らんけど。

 

「それじゃあ、ありがとうございました!」

 

最後に挨拶をして、出発する。

旅の始まりだ。

 

ロインとロカリーは、最後まで手を振っていた。

 

ーーー

 

 

「じゃあ、一回リカリスの町に寄りましょうか」

 

「そうですわね」

 

「何か理由があるんですか?」

 

出発した後。

俺達は、歩いていた。

急いでいるのにだ。隣に馬が居るのだから、乗れば良いのにと思う。

 

「馬が三人乗せたら、流石にコンディションの問題があるんですわ。あと、ルーデウスはお嫁さんが居るんでしょう?わたくしとしては大歓迎なのですけど、ルーデウスは嫌なのではありませんの?」

 

「バッチコ……ごほん、そうですね。間違いがないとは言い切れないので」

 

エリナリーゼは、意外にそういう方面に良識があるようだ。

セクハラばっかりして来て居たが、一線は越えないのかも知れない。

 

「エリナリーゼさんの言った通りです。アスラ金貨があれば、お金に困ることは無いでしょう。なので、何か足換わりの動物を買おうと思っています」

 

この位、なんてこと無いかと思うかも知れないが、この発言もロキシーの頭の良さが出ているだろう。

パッと考えれば、この馬で行ってしまった方が、時間が短縮出来るように思えるかも知れない。

が、ロキシーは"疲労"という、ステータス化しにくい要素もキチンと勘案して、プランを立てている。

当たり前のようだが、損益分岐点的な物を見極めることは、中々難しいことだ。

 

こういうところに、エリスとは違った良さを感じる。

 

ロキシーは何かをブツブツと呟いてる。また、何か計画を立てているのだろう。

 

(ってうおっ、魔物だ)

 

魔物が、かなり近くに表れた。

それなりに知能がある種のようで、隠れて近寄って来てたらしい。

 

命の危機、という程では無いが、油断ならない距離だ。

俺は、即座に魔術を打とうとする。

 

が…

 

「ギャウッ!」

 

そんな間抜けな声と共に、魔物が跳ねた。

脳天に風穴が空いている。

 

ロキシーだ。

俺が反応した頃には、小声で詠唱を唱えていたのだ。

 

(かっけえ…)

 

無詠唱だとか、そういうアドバンテージを物ともせずに、対処してるロキシー。

俺は、嫉妬心を抱く余地すらなく、ロキシーに憧れを感じていたのだった。

 

 

ーーー

 

 

三日経った。

 

あのあとも、ロキシーは冷静な判断をもって、大活躍していた。

俺も、全く仕事をしていなかった訳ではないが、比率としては8:2位だっただろう。

勿論、俺が少ない方だ。

 

 

そして俺は、ラッキーイベントを死に物狂いで防いでいた。

 

─水浴びに近づかない。

─夜はなるべく深く眠る。

─風上に立って、髪の匂いを感じないようにする。

 

など。

痴情を抱くような余地のあることは、限りなく防いだつもりだった。

 

だからこそ、気づいてしまったのだ。

 

 

俺は、ロキシーが好きだ。

それは『美少女だから』とか、そういう劣情の類いではない。

それも過分に含まれてるが、違うのだ。

 

生き様だとか、行動の一つ一つに憧れてしまっているのだ。

こういう人が隣に居て欲しいと、思ってしまっているのだ。

 

エロい感情だけなら、まだなんとかなった。

それは、此方から行動しなければ、殆んど防げるからだ。

 

だが、それだけでは無かった。

俺は、ロキシー・ミグルディアという人物に、本気で惹かれて居るのだ。それこそ、二人目の嫁にしたい位に。

 

だからこそ、問題だ。

ロキシーは、賢いし有能だ。

そして、俺もロキシーには存分にその能力を活かして欲しい。

 

しかし、そうすればそうするだけ、ロキシーは魅力的な人物になってしまう。

そして、俺も厳しくなる。

 

 

─つまり、どうするべきか。

 

 

そう、俺は今こそ、強くならなければならないのだ。

ロキシーすらも、越えうる位に。

高い壁だ。だが、目指さなければ、どんどんロキシーは俺の中で大きくなっていってしまう。

 

 

浮気をしない。

その為に、俺は強くなる決心をしたのだった。

 

 





ルーデウスが割とガバガバな思考なのは、転移事件がスッポ抜けて結婚してしまったからです。
原作のシルフィやロキシーのように、人生経験を積み、挫折経験を経た上で、助けられて深く感情を抱いた結果の結婚ではないので、エリスとの結婚はまだ、交際の延長線くらいのノリで考えています。
なので、浮気しないようにしよう、とは思ってますが、割と浮気をしたがっているという、ダブルスタンダードな思考をさせてます。
原作者様の解釈は違うかもですが、私はこういう想像をしました。

因みに、転移事件が無かったことの影響は、アイシャとノルンにも大きく出る予定です。
それを考慮した上で、ルーデウス達の行動を見てくれると有り難いです。


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