爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~ 作:はめるん用
発見は、偶然だった。
たまたま来客用の駐車場の側を歩いていたナリタブライアンは一瞬、自分の目がおかしくなったのかと思い数秒ほど目を閉じて天を仰いだ。
きっと疲れているのだろう、やはり生徒会の仕事をサボった自分の判断は間違っていない。今日はターフを軽く流して早めに休息をとろう。
その前に、もう一度だけ確認しておくべきかもしれない。たぶん、おそらく、ほぼ確実に見間違いだとは思うが、念のために。
「ウソだろ……」
思わず自分の頬をつねる。うむ、ちゃんと痛い。つまりこれは夢ではない。
本当に──本当に、
見間違いでもなければ勘違いでもない。男が選ぶには不釣り合いな角張ったデザインの車の横で、何故か甚平姿の青年の胸元には彼がトレーナーである証がしっかりと輝いている。
一瞬、ドッキリ企画のようなナニか、あるいはトレセン学園の名物トラブルメーカー・ゴールドシップのイタズラの可能性を考える。が。
「そういえば地方からトレーナー来るとか、そんな話をしていた気がするな……。たしか、交流だか勉強のためにだったか……」
同じ生徒会のメンバーであるエアグルーヴがそんなことを話していたことを思い出す。そのときは自分には関係ないなと聞き流していたが、それが男であるならば話は別だ。
とにかく身嗜みを整えて──あぁ、クソ。姉貴に手鏡のひとつでも持ち歩けと言われたときはハナで笑って返したが、こんなことなら素直に従っておけばよかった。
まぁ、エアグルーヴやヒシアマさんから小言がなかったことだし、最低限の格好はついているだろう。
よし。
「ちょっといいか? もしかして、交流に来たというトレーナーはアンタか?」
「ん? あぁ、そのとおり……だ、が……」
「そうか。私は
驚いたような、困惑したような表情で自分を見る男性トレーナー。腕を組んで平然とした態度で応じているが、ブライアンの内心は穏やかではない。
つい、普段のノリで話しかけてしまった。もしかして気を悪くしたか、あるいは怖がらせてしまったかもしれない。
いや、きっと大丈夫だ。
「あ、あぁ、すまない。その、なんだ……ひと目見てさ、オーラというか雰囲気が……強そうだな、と思って」
「! フ、フフッ……! ま、まぁな。まだ本格化を迎えてはいないが、中距離以上ならそこいらのウマ娘には敗けない自信があるぞ!」
「うん、まぁ、中距離ね……。そりゃナリタブライアンなら適性はそうだわな……」
「なにか言ったか?」
「いやなにも?」
「そうか。あー、それで、だな。よければ……オマエさえよければ、私が学園を案内しよう。いや、なんだ、生徒会のメンバーとしての役目としてな? 決して好感度を稼ごうなんて考えていないから安心して任せてくれていいぞ?」
「……そうだな! それじゃあ、理事長のところまで道案内を頼んでもいいかな?」
◇◇◇
強いウマ娘と走りたい。そんなストイックな思いで競走バの世界に飛び込んだナリタブライアンであったが、彼女も思春期の乙女。
男性トレーナーというウマ娘ならば誰もが1度は妄そ──想像したことのある存在が実際に目の前に現れたのだ、多少浮かれたとして誰が咎められるだろうか。
というか、このトレーナーの格好もかなり問題だ。黒地になにか文字が書いてあるあたり、いわゆる“見せTシャツ”というヤツなのだろうが……甚平なので胸元が完全に見えているワケで。
しかも下はタイツすらはいていない。こんな格好、少女マンガ雑誌でたまにあるちょっとアレな写真でしか見たことがない。攻めすぎだろ。コイツの貞操観念はどうなってんだ。
「じー……」
「どうした、そんなに見つめても肉は持ってないぞ」
「そこはにんじんだろ。いや、まぁ、私は肉は好物だが……そうじゃなくて。その……なんで甚平なんだ?」
「何故と言われてもな。俺、スーツ好きじゃないんだよ。暑苦しくて。一応、用意はしておいたんだが、普段の格好でかまわないと言われたんでね。遠慮なく車に置いてきた」
涼しげでいいだろう? そう言いながら襟元を人差し指でひらりと弾く。やめろ、それは私に効く。というか、周囲でこっちの様子をチラチラ見ていた連中まで反応しているじゃないか。
その様子を眺めながら、ナリタブライアンは自分が声をかけたのは正解だったと自画自賛していた。こんな男に餓えたウマ娘だらけのところを、ひとりで歩かせようなモノならどんな不埒者が接触していたかわかったものではない。
やはりここは自分が責任をもって守護らねばならない。うむ、これもまた生徒会役員としての義務である。決して男性トレーナーと並んで歩く優越感なんかに浸ってはいない。
そう、ナリタブライアンは別に男性トレーナーに興味津々などではないのだ。
でもそれはそれとして、道案内兼、護衛のお礼として食事などに誘われたら応じるのもやぶさかではない。厚意からの申し出を簡単に断るほど、自分は礼儀知らずではないのだから。
もしそうなったらどうしたものか。肉類をガッツリ食べてパワーのあるところを見せつつ、サラダなども嗜んでバランスの良さをアピールするのも面白いかもしれない。
きっといまなら苦手な野菜でも問題なく食える気がする。フフッ、私が野菜を克服したことを知ったら姉貴はどんな反応をするだろうか? きっとメガネにヒビが入るレベルで驚くだろうな。
「しかしアレだな。さすがは中央って感じだな。ウマ娘の人数が地方とは比べ物にならない」
「あぁ、初等部から高等部まで、全部で2000人以上いるからな。私に言わせれば、少々賑やかすぎる気もするが」
「いいじゃないか、それだけ施設も充実してるんだろうし。俺んとこのトレセン学園なんか合宿のバスすら足りないくらいだったぞ? おかげで俺も車で送迎するハメになったしな」
「なるほど、そう考えればたしかに──まて、いまなんて言った? 車で送迎だと? オマエがか?」
「おう。合宿所まではもちろん、現地でなにか用事があれば、生徒たちを乗せてアチコチ走らされたよ」
「なん……だと……ッ!?」
なんだそれは。男のトレーナーとひとつ屋根の下で合宿というだけでも羨ましいのに送迎付きだと? ふざけるなよ、そんな不公平が許されていいものか。
決めたぞ、もしもメイクデビューを果たしてレースで戦うことになった暁にはギッタギタのポッコポコにしてやる。絶対にだ。
世にも珍しい男性トレーナーと連れ立つ優越感はどこへやら。青年を理事長の待つ一室に案内するまで、ナリタブライアンはまだ見ぬ怨敵相手にムダに闘志を燃やすのであった。