爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~ 作:はめるん用
「それじゃあ、本当に今日で引退なの?」
「うん。もう地元の蹄鉄シューズのメーカーから内定もらってるんだ。ダート用のヤツ。最後に中央相手にGⅠ勝てたし、土産話としては上等かな」
「そっか……。せっかくライバルが見つかったと思ったのに、残念だよ」
1月。暖房がガンガンに焚かれていてもまだ寒いレース場の廊下で、本日の主役となったふたりが壁を背にして語り合っていた。
いい、戦いだった。
中央のウマ娘は前目に付ける先行策、地方のウマ娘は差しの後方。
どれだけ直線で距離を稼いでも、コーナーでダートを蹄鉄シューズで抉るかのように加速して位置取りを上げてきた。
それでも直線ならこちらが有利。中央のウマ娘はそう自分を奮い立たせたラストスパートで振り切ろうとしたが……結果はこの通りである。
ダートを好んで走るウマ娘は少なく、今日まで物足りない勝利を重ねてきた自分に、本気の叩き合いの楽しさを教えてくれたライバル。
なのに、出会ったその日が別れの日である。
「ゴメンね。その代わりってワケじゃないけど、これからはアタシの後輩たちが頑張ってくれるからさ。それでカンベン」
「それって結局私はレースできないかもじゃん。くそ~、後輩たちが羨ましいなぁ~! ……ってか、頑張るって去年のアレ? テレビでやってたヤツ」
地方トレセンが行った宣戦布告の熱は、年が明けてもまだまだ人々を賑わせている。本来ならば荒唐無稽、しかし彼女たちはすでに幾つもの結果を出している。
「そ。まぁ宣戦布告そのものは紆余曲折あっての……いや、これはちょっと説明できないヤツだわ。身内の恥すぎて。……あのクソジジイ、バッタに生まれ変わって○ねばいいのに」
「?」
「あー、っと。とりあえずケンカ売っといてなんだけど、後輩たちは純粋に中央と競い合うことを楽しみにしてるから、あまり深刻に受け取らないで勝負してほしいかなって」
「よくわかんないけど、わかったよ。でも本当に残念だな~。強いライバルとバチバチ競えば、私にもスキルってのを身に付けられたかもしれないのに」
「うーん、どうかな。あのトレーナーさん、すでに完成している走りに口出しするの、好きじゃないっぽかったからね。担当さんの仕事にケチ付ける形になるからイヤだって」
ウマ娘側としては、理解できてもむず痒い。信頼する担当トレーナーへの敬意は嬉しいが、それはそれとして目の前の成長のヒントを見逃すのはやはり勿体ないのだ。
そういう誠実な部分があるからこそ、ウマ娘たちも安心して彼のアドバイスを聞き入れることができるのだが。
「新しいモノを試すのって、どうしてもリスクあるし。アタシはトレセンでも下のほうだったからね。あの人が指導してくれる時間が長かったから身に付いた。まぁ、運がよかったってカンジ」
「運がよかった、運かぁ。そういう意味では後輩たちが本気で羨ましいんだけど」
「いろいろ教えてもらってるんだろうけど……あの人の言葉を借りるなら、使えるのと使いこなせるのでは別らしいけどね。頭でわかったつもりになっても、レースを経験しないと身に付かないって何度も言われたよ。それこそ模擬レースでもいいからって」
「実戦の経験値に勝るもの無しってこと? やっぱり簡単には強くなれないもんだねぇ~。模擬レースもなぁ~、人数が人数だから、コース待ちが長くてねぇ~」
「そこだけはアタシらのほうが気楽でよかったわ。ウマ娘が少なくて、夏合宿も合同だったし」
「いろんな学園の子たちと会えるのも面白そ──いや、チョイ待ち。あのさ、その夏合宿って、サブトレさんも?」
「……フッ。女には、人生の中で敗けられない戦いってヤツがあるのさ」
「なに言ってんの?」
地方のトレセン学園では夏合宿を合同でやることが多い。お互いに良い刺激になるし、諸々の費用をまとめて支払うことでお財布にも優しく一石二鳥なのだ。
が。とある一部の地域では事情が少し異なった。
「まぁね、言われるよね。お前らだけズルいぞーって。だってアタシが逆の立場だったら言うもん」
「練習中、険悪にならなかったの?」
「あー、うん、まぁ……。なんだかんだ、やっぱりみんなウマ娘だし? 走ることにはマジだから、練習は真面目にやってたんだけどさ」
夏合宿中は当たり前だが息抜きの時間がある。場所が海辺ということもあり、ウマ娘たちも普段よりテンションを上げて束の間のバカンスを楽しむ。
すると、普段ならば出てこないようなバカなことを提案するウマ娘もチラホラ出てくる。大抵は学生らしいお遊びの延長なのだが……。
「誰かがさ、言ったのよ。砂浜でレースしようって。ゴールのとこにトレーナーさんに立ってもらって、フラッグ代わりにハグしようぜって」
「完璧に下心満載だね」
「したらね? トレーナーさんも言うワケよ、ノリノリで。俺でいいなら胸に飛び込んでおいで~って」
「だよねー、言うよねサブトレさんなら」
急遽開催された夏合宿ステークス・ダート1200。優勝者にはトロフィーの代わりに鎖骨丸見えのモデル体型ゆるふわ系お兄さんとのハグが許される。
──いつ出走する? 私も挑戦しよう。
「GⅠ並みの気迫だったよ。普段、男の人と触れ合う機会なんてまずないからね。それでもゴールしたときにうっかり押し倒さないよう、みんな絶妙なブレーキングで見事だった」
「そりゃウマ娘の本気のタックル食らったらね、サブトレさんブッ壊れちゃうよね。でもそれ以前の問題があるよね?」
「じゃあアンタなら出走登録しないワケッ!?」
「するに決まってるでしょそんなのッ!?」
「……と、いった具合にまぁ次々と本気でダートを走るウマ娘たち。それを見守る我が母校のスタッフたちは苦笑い。ほかの学園の人たちはオロオロしてたけど」
「そりゃ公開セクハラ見せられたらね」
「で、そのあとはみんな意気投合して仲を深めたワケよ。独身みたいだけど彼女いるのかな~とか、ガード激甘だけど経験あるのかな~とか、あのトモに挟まれて深呼吸したいな~とか、そんなカンジのバカな話に花を咲かせてさ」
「ひとり本物のバカ混ざってんだけど」
「そしたらさ~、そのあとの夜がまた傑作でね」
同じ敷地の中で、いま。昼間に感触を味わった男の人が生活している。その状況だけでほかのトレセン学園のウマ娘たちは寝付けなくなってしまったのだ。
明るいうちは下ネタでワイワイ騒いでいたから気にならなかったが、夜になり静かな空間でさぁ眠ろうとしたそのとき──改めて意識してしまった。
1度考え出すと止まらない。いま彼はなにをしているのか。シャワーでも浴びている? 夜の散歩をしていたり? あるいはコッソリお酒を飲んでるとか?
健康で健全な学生たちである、そんな妄想を始めてしまえば眠気なんて欠片も残りはしないのである。
翌朝には揃いも揃って寝坊、当然のようにお説教開始。言い訳なんて口が裂けても言えるワケも無し。
「──とまぁ、夏合宿はなんだかんだ平和に終わったよ。エロいお兄さんが見てるからね、ハリキリまくりでかなり鍛えられたんじゃないかな」
「ふぉぉぉぉ……ッ! ますます後輩たちが羨ましいよぉぉぉぉ……ッ! はぁ。ま、私は担当してくれるトレーナーさんがいて、メイクデビューして、こうしてレース出れてんだから。贅沢言ってたらバチか当たるか。面倒見てくれてるトレーナーさんにも失礼だしね」
「そうそう。レースに出れるって幸せなことなんだよ? 走り続けるって、とくに重賞は……GⅠは、本当に……特別なんだよ……本当に、さぁ……あは、ははは」
声色の変化を聞き逃すには、ウマ娘の耳は優秀過ぎた。
せめて、何が起きているのか知らないフリをするくらいは。その程度のウソは許されるだろう。
◇◇◇
「仕事が始まったら、地元以外のトレセンにも顔を出すんだ。営業もそうだけど、スキルを教えるのに協力してほしいって」
「みんなでスキル覚えて中央包囲網でも作ろうって?」
「そこまで大げさじゃないよ。スキルはまだまだわからないことが多いから、積極的には教えないことにしてるらしいんだ。ただ、研究するぶんにはお好きにどうぞってことで、アタシは善意の協力者。もち責任は相手方のトレーナーさんが10割持つって」
「ほほ~。なら、これからは重賞どころかオープンでもスキルを使うウマ娘が増えるのか。羨ましいような、同情するような。……いやッ! やっぱ羨ましいッ!!」
「うーん、清々しいほど正直」
「そりゃそーでしょ! 魅力的な走りができるウマ娘が増えれば、ダートだってもっともっと盛り上がるかもしれないんだよ? ちくしょー、そんなに芝が偉いのかぁ~ッ!?」
「落ち着きなって。中央にだって、これからダートで活躍できるようなスターウマ娘が眠ってるかもしれないじゃん」
「そうだけどぉ~。なんか芝で勝てないからダート来るようなウマ娘が多いのぉ~。意識が低いのぉ~」
「それはどこでも一緒だって」
「そんなの知ってる~」
「しょうがないな~。だったらアタシも協力するよ。ダートでも、なんならレースに出れるならなんでも楽しめるようなウマ娘を見つけたら」
「見つけたら?」
「アタシの走りのスキル、まとめてキッチリ教えておくから。楽しみにしてな」
貴重ッ! な限定ミッションをクリアしたいので、しばらく投稿はお休みの予定です。