爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~ 作:はめるん用
血が滾る。
魂が、ウマ娘としての闘争本能が、早く己を解放しろと内側から唸りをあげている。
まだ。まだ、抑えろ。
わかっている。オマエが餓えているのは誰よりも私が理解している。だからこそ、まだ。もう少しだけ大人しくしていろ。
これから選抜レースが始まる。続々とコースに集まるウマ娘たちの様子を眺めるナリタブライアンは、ライバルたちの輝きに反応する野生をじっくりと楽しんでいた。
本格化が完全となったウマ娘だけが出られる選抜レースは、模擬レースよりも1段階上の緊張感がある。まして、今回出走するメンバーはいつの日か同じ舞台で戦うことになるかもしれないライバル候補。
どうしようもないほど、脚が疼いて仕方ない。
「もう少し落ち着いたらどうだブライアン。別に出走するワケでもないのに、そんなに気迫をまとっていては周囲の者たちが萎縮してしまう」
「フンッ、この程度で怯むようじゃレースなんて走れんだろうに。……それで? 姉貴は自信はあるんだろうな?」
「さてな? できることはこなしてきたが、結局まともに扱えそうなスキルはふたつくらいだ。それでもサブトレ君からは褒められたが」
メイクデビューまでに、スキルをひとつ使えるならば上等。ふたつならばかなりのもの。
練習に参加していたウマ娘たちは、最初こそ覚えられるならいくらでもとやる気に満ちていた。しかし、実際にアドバイスを受けながら走りを改良していくと、ひとつ課題をクリアするだけでもかなりの試行錯誤が必要であるとわかった。
単純にスピードやスタミナを伸ばすのとはまるで意味が違う。だが、それ故に可能性に期待する。悩むことも多いが、モチベーションは常に高い状態であった。
「試してみたいスキルは沢山あったが、無い物ねだりをしても仕方ない。現状で最適解となる走りをするだけさ」
「相変わらず頭を使うことにこだわるんだな。レースなんてものは本能の赴くままに走れば勝てるだろ」
「またそういうことを……。せっかくサブトレ君に距離や脚質のアドバイスをもらったんだ、それを活かして結果に繋げなければ勿体ないだろう」
「ほぅ? そんなことを言うからには、今回の選抜レースの走り方も考えてあるのか?」
「勿論だとも。レースの選択は芝の中距離、作戦は先行で走る。まぁ、これはサブトレ君のアドバイスそのままだな。スタート直後に好位置をとれるよう、ゲート練習を重ねて“集中力”は高めてある」
「ふむ」
「直線では基本的に仕掛けない。レースの展開を読みつつ、スタミナを余計に消耗しないよう臨機応変に順位を調整する。鍛えたコーナーの加速力で最後の直線手前からスパートをかけ、一気に前を狙う」
「なるほど」
「出走表を見た限り、逃げを得意とするウマ娘はふたり。よほどのことがなければ充分1着を取れる。そしてスキルを使いこなしつつ勝利した私の姿にサブトレ君が感動する」
「うん?」
「感極まったサブトレ君は私にこう言う。ハヤヒデ、俺の愛バになってくれ。男性に恥をかかせるのは淑女として失格なので私は喜んでそれを受ける。彼とともにメイクデビューを果たしたあとは、クラシック三冠を目指し獲得賞金額を積み重ねる。菊花賞が終わればいよいよ卒業資格を視野にいれる。その辺りのタイミングで彼を母さんに紹介するのもやぶさかでは──どうしたブライアン? 急に額に手を当ててきて」
「どうやら熱はないようだな」
「ふむ? もしかして出走前のメディカルチェックのつもりか? フフッ、私の妹には思っていたよりかわいいところがあると知れてビックリだよ」
「私は姉に思っていたよりおかしいところがあると知ってガッカリだよ」
まったく、姉貴も突然なにを言い出すのか。たしかにアイツが担当トレーナーになるのなら、さらなる高みを目指せるだろうという気持ちは私にもわかる。スキルという考え方はそれだけの効果があるのだから。
だが、残念ながらアイツが姉貴を、ビワハヤヒデを担当に選ぶ可能性は低いだろう。妹の贔屓目も多少あるが、たしかに姉貴は強いウマ娘だ。だが、それとこれとは別なのだ。
何故なら──アイツの好みは“パワーのあるウマ娘”なのだから。
ブライアンには確信があった。以前、彼と偶然にも食事をともにしたときのことだ。いつもより気持ち多めに、ガッツリと肉を喰らっていたところを見た彼が言ったのだ。
やっぱりブライアンには、そういう食事がよく似合っている……と。
肉を中心とした食事がよく似合う。肉とは即ちパワーである。パワーが似合うウマ娘とはナリタブライアンだと彼は言ったのだ。まさにストロング・イズ・ビューティフル。
強いメスというものは、必然的に優秀なオスを惹き付ける。それが自然の摂理とはいえ、私も罪深いウマに産まれてしまったものだ。だが、期待させてしまった以上は責任をとらなければウマ娘としての沽券に関わる。ならば、望み通り証明してやらねばなるまい?
あえて言おう。最強の称号のひとつ、クラシック三冠をヤツにくれてやるのはこの──ナリタブライアンであるとッ!!
もちろん声に出して喧伝するような無粋なマネはしない。夢を見る権利は誰しもが平等なのだから。
それに、賢いハヤヒデならば自然とその結論にたどり着くだろうから。妹として姉を
「おぉ~、さすがは選抜レース。それにこのピリッとした感触! 中央の名は伊達じゃないな!」
「! サブトレ君じゃないか」
「なんだ、オマエもレースを見にきたのか?」
「いや、少し様子を見るだけだ。担当はいなくても、やらなきゃいけない仕事はいくらでもあるからな。ひとつレースを見たら全部見たくなるし、すぐに戻るつもりだよ」
「そうか。残念だが忙しいのでは仕方ないな。残念だが」
表情や声色はそのままに、耳だけペタンと垂れ下がるビワハヤヒデ。スカウトどころかレースを見てすら貰えないとなればこうもなろう。
「悪いな。自分で持ち込んでおいてなんだが、スキルにはまだまだ未知数な部分が多くてな。前のトレセンの先輩たちも、ここの先輩方もいろいろ頑張って研究してくれてるワケだろ? まさか俺がサボるのはナシだろ」
「わからんな。使えるものは使えるでいいだろう? 実際に地方のウマ娘たちはそれで勝ってるじゃないか」
「それはそうだが、使えるウマ娘だけが使えるんじゃあ困るんだよ。せめてこれくらいは、誰でも努力が実るようにしたいんだ。ま、10割俺のワガママだな」
「サブトレ君は、全てのウマ娘に可能性を与えたい。そう考えているのか?」
「まぁね。こう言うと大げさだけど、それが俺のこの世界での役目だと思ってる。一応、なかなか成果は出せてるつもりだよ。地方の子たち、スキルもひとつ上の段階までたどり着いてくれたし。さすがに領域に届いたのは数えるほどで──」
『まもなく、第1レースが始まります。出走するウマ娘の皆さんは、ゲートインの準備を──』
「おっと、そろそろ逃げないとレースに捕まっちまうな。じゃあなハヤヒデ。健闘を祈っているよ」
「なんだサブトレ。私の姉貴は健闘止まりなのか?」
「おい、ブライアン。別に私は……」
「まさか。ビワハヤヒデだぞ? きっと涼しい顔して1着になると信じてるさ」
────。
「……やれやれ。サブトレ君も言ってくれるじゃないか。涼しい顔でとは。期待してくれるのは良いが、ずいぶんハードルを上げてくれたよ」
「嬉しいのはわかるが眼鏡クイクイさせすぎだろ。フレーム歪むぞ」
「さて、最初のレースも気になるところだが、ここは入念にウォーミングアップに取り組むとしよう。私の出番もすぐだからな。ではなブライアン、一足先にトゥインクル・シリーズに挑ませてもらうよ」
「すぐに追い付いてやるさ」
彼のひと言で気合い充分となったハヤヒデを見送りつつ、ブライアンは先ほど彼が口にしたとある言葉について考えていた。
領域。
スキルではなく、確かに彼はそういった。普通に考えるのであれば、地方のウマ娘たちの能力が中央のウマ娘と同じレベルまで成長したという意味なのだろう。
だが、ブライアンの本能がそうではないと判断──いや、警鐘を鳴らしている。そんな単純なモノではない、領域とはもっと危険で……もっと、闘争本能を滾らせる素敵な出逢いになるだろうと。
きっと、ここが時代の変わり目というヤツなんだろう。競バそのものが様変わりする、なんとも面白い展開になりそうじゃないか。
そんなタイミングで本格化を果たす。
全盛期がそこにブチ当たる。
あぁ、本当に──血が滾るじゃないか……ッ!!
『レースは残り400! 先頭は変わらずビワハヤヒデ! 素晴らしい走りです! スタートからここまで1度も前を譲らないッ! 手本のようなパワフルな大逃げッ! このまま決まるかッ! 残り200ッ! 先頭ビワハヤヒデッ! 2番手との差は5バ身以上ッ! これは強いッ! ビワハヤヒデ、圧倒的な強さでいまゴールッ!!』
作戦はどこにいった?
指定されたレースがマイルと知らず一敗。
流れるようにステイヤーで育成を始めてしまい一敗。
適性を合わせたものの、ミッションのことを忘れて一敗。
日程を確認したものの、予約を忘れて一敗。
さすがは貴重な限定ミッション、なかなか手強い相手でした……ッ!