爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~   作:はめるん用

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新人トレーナーたちのスカウト事情

「シンボリルドルフにエアグルーヴ……。ふたりとも素晴らしい才能だ……。これで勝てなければ私が無能と呼ばれても反論できないな。樫本先輩も新人相手に容赦がないわね」

 

 自分が任された担当ウマ娘たちの選抜レースの映像を繰り返し再生しながら、チーム・レオに所属することになった新人トレーナーは不敵に微笑んでいた。

 クラシック三冠を狙うシンボリルドルフも、トリプルティアラを狙うエアグルーヴも、今回の選抜レースに出走したウマ娘の中では群を抜いて優秀である。

 これほどのウマ娘を育てることができるのは、トレーナーとしては名誉とすら言えるだろう。

 

 だが、ここまで強いウマ娘となると敗けたときの責任も大きくなる。新人トレーナーなんかに任せるから敗けた、そんな批判が出てくるのは間違いない。

 

 

 ──だからこそ、燃える。

 

 

「失礼するよ。おや、トレーナーさん。また私の選抜レースを見ていたのかな?」

 

「ルドルフ? 打ち合わせの時間はまだだけれど」

 

「すまない、いよいよメイクデビューに向けて準備ができるのだと考えたら、自然とここへ足を運んでしまったよ。あぁ、エアグルーヴは花壇によってから来るそうだ」

 

「そう。なら貴女の今後について先に話をしましょうか」

 

 クラシック三冠を目指すにしても、出たいと言えばじゃあどうぞ……とはならない。獲得賞金額はもちろん、ステップレースとは別に実績も必要となる。

 そこでシンボリルドルフが狙うべきはなにか? 彼女たちが出した結論はジュニア王者決定戦となるホープフルステークスでの勝利である。

 

「優先出走権はもちろんだけど、世間も納得……いえ、期待をするわ。新時代の幕開けを」

 

「そして、私の夢の始まりでもある。全てのウマ娘たちの幸福を願うなら、まずは自分の夢を掴んでみせなければならない。……と、彼に言われてしまったよ」

 

「……ひとつ、いいかしら? サブトレーナーさんってどんな人なの?」

 

「えッ!? いや、うん。まぁ……ひと言で表すのは難しいかな? ハハッ……」

 

「?」

 

 

「失礼します。すまないトレーナー、世話をしている花壇のレンガに──会長? どうかなさったのですか?」

 

「私が彼について聞いたら、急に挙動不審になったのだけれど」

 

「あぁ、なるほど」

 

 たったそれだけで当然のように納得するエアグルーヴ。その質問はたしかにルドルフにとっては難しいものだろう。未だに彼に対する苦手意識……というよりも自意識過剰? は治っていないのだ。

 とりあえず適性は見てもらえたが、それだって何人ものウマ娘たちとの模擬レースに紛れての鑑定である。その後も『あれほど丁寧に“私の”適性を見極めるとは……もしかしてトレーナー君は私をスカウトするために……?』とソワソワしっぱなしであった。

 

 シンボリ家の教育が厳しいのはわかる。男の色香に惑わされるようでは競争バなど務まらぬ。その考え方を否定するつもりはないが、ものごっつ裏目に出てる現状は如何なものか? 

 その点だけはシリウスのほうが大きく一歩、前を進んでいるかもしれない。後輩のウマ娘へするのと同じく、キザな態度で頓珍漢なやり取りができる程度には話せているし。

 もっともシリウス自身はそれをやらかしたと思っているらしく、あとで物陰で樹木相手に頭部の強度検査と反省会をしているが。

 

 その様子を目撃したときは、あぁ、シンボリ家ってそういう感じの……と。エアグルーヴは妙に納得してしまったのも記憶に新しい。

 

「面白い人物だな。能力もあるし、思いの外……線引きもしっかりとしている」

 

「線引き?」

 

「私も何度か走り方のことで相談したことがあるのだが、担当トレーナーが決まったことを伝えたときにな。これからは自分ではなく貴女を頼るように、と」

 

 それはレオトレーナーにとっては朗報である。選抜レースでのウマ娘たちの仕上がりを見るに優秀な人物なのは想像できる。しかし、だからと言って自分の育成方針に口出しされて愉快なトレーナーはいない。

 

「先輩方の心境は複雑だったようだがな。強くなるためのヒントが目の前にあるのに、それを学ぶ権利を得られなかったのだから」

 

「……そう言われるとトレーナーとしても困るのだけど」

 

「なら、彼に頼らずとも勝てると証明してもらうしかないな。もっとも、適性の評価などはすでに済ませているから、そもそも頼るようなこともないのだが」

 

 ちなみにレースやトレーニングに関わらない雑談はいつでもウェルカムとのことで、担当が決まったからといって疎遠にならずにホッとするウマ娘たちもいる。

 色ボケしている阿呆も多いが、自分でも驚くほどに男性に免疫が無いことに危機感を覚えたウマ娘たちが、将来に備えてコミュニケーションの練習をしているのだ。

 

 エアグルーヴとしてはアレが練習相手として適切とはまったくこれっぽっちも思えないが。むしろ逆に男性観が壊れるんじゃないのか? 

 

 そういえば。

 

「貴女は彼とは話していないのか? 彼はスキルを誰もが扱えるようになることを目指している。成長のヒントを得られると思うのだが」

 

「えッ!? いや、私は遠慮させて貰おうかな……別に日和っているワケじゃないぞ。ただ、いくら新人だろうと安易に先輩に頼るのは自身の成長のためにも控えるべきであり──」

 

 おい。この反応、なんか私見覚えあるぞ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ハヤヒデェッ! タイシンッ! メイクデビュー決定おめでとぉぉッ!!」

 

「いや、アンタもでしょ。っていうか同じくチームだし」

 

「あぁッ!! そうだったッ!!」

 

「チケットらしいと言えばそうだがな。自分のことより私たちのことが嬉しくて仕方ないのだろう」

 

 選抜レースが終わってすぐ、ウイニングチケット、ビワハヤヒデ、ナリタタイシンの3人はすぐにチーム・ヴァルゴにスカウトされていた。

 実のところ、ハヤヒデとタイシンはそれぞれ別のチームかトレーナーとの契約を考えていた。一緒に強くなりたいとチケットが誘って騒いで泣いたので仕方なく……という部分もある。

 

 

「えっと、その……皆さんがお友だちなのはわかりましたが、なんで新人の私が3人とも担当なんでしょう……? 普通、こういうのって、せめてひとりぐらいでは……」

 

「人が足りん。とにかく人が足りんのだ。ボウヤの頑張り過ぎだ。今年の選抜レースは最下位のヤツですら光るモノがある。これを放置して腐らせたらトレセン学園の恥だ。だから新人だろうと容赦できん。異論があるなら聞いてやる。担当は変わらんが」

 

「うぅ……担当が見つからないよりはずっといいですけど……いいんですけどぉ……!」

 

 

 スキルによる走りの最適化のこともあり、本格化が完了したウマ娘たちの成長速度は例年よりもかなり進んでいる。

 ほかのトレセン学園のスタッフ──理事長なりトレーナーなりが聞いたら呪詛の言葉でも出そうな状況だが、そのせいで現在の中央はトレーナー不足が加速していた。

 

 結果。チーム全体でフォローする前提だが、新人たちにも複数のウマ娘たちを担当させるしかないという結論に達した。

 

 ムチャなのは理解しているが、なにせ中等部のウマ娘たちは彼がひとりで大勢のトレーニングを監督していたことを知っている。当然の権利のように、彼女たちがトレーナーに求めるレベルも上がってしまっていた。

 気付いたときには手遅れで泣きたくなったが、弱音を吐いても仕事が減らない以上は対応するしかない。

 これも全てはウマ娘たちのため。いっぺん彼をどつきたい衝動を抑えつつ、ひとりでも多くのウマ娘がレースに出られるよう取り計らった。

 

 新人トレーナーが全員レオの彼女のようにプラスに受け止めてくれるなら理想的だったが、このヴァルゴの新人トレーナーのように涙目になっている者も大勢いる。だからと言って今回の決定は覆らないのだが。

 

 

「ねぇねぇねぇトレーナーさぁぁんッ!! アタシ、ダービーに出たいッ! 小さいころにレースを見てスゴく感動したんだッ! アタシも、あんなふうに誰かを感動させられるサイコーのレースがしたいんだッ!!」

 

「ひぃ~! とってもステキな夢ですけれど、新人の私にはハードル高いのではないかという気持ちもありましてぇ~!」

 

「トレーナーさん、落ち着きたまえ。別に貴女ひとりに全てを任せきりにするつもりはないさ」

 

「大変なことになってるのはアタシらだってわかってるし。まぁ……トレーニングもレースの作戦も、一緒に考えればいいんじゃない?」

 

「ビワハヤヒデさん……ナリタタイシンさん……!」

 

 

 ────。

 

 

「えぇと、チケットさんがステイヤーで差しが得意。タイシンさんもステイヤーで、こっちは追い込みが得意……と。ハヤヒデさんは──」

 

「あぁ、私もふたりと同じステイヤーだ。得意な走りは先行だな」

 

「なるほどステイヤーで先行……先行?」

 

 どういうことだろうか? 選抜レースは自分も見ていたが、彼女は、ビワハヤヒデの脚質は間違いなく“逃げ”のはずである。それも、かなりの才能だ。

 逃げウマはほかにも何人もいたが、スタートからゴールまで先頭を完璧に走りきったのはビワハヤヒデと、あとはサイレンススズカくらいである。

 

 それが何故、先行を──まさか! 

 

 そうか。彼女はきっと、逃げでしか走れない自分を変えようとしているのだ。選抜レースでは理想的な走りができたが、本番のレースでも同じように走れるとは限らない。

 逃げしか走れないウマ娘というのは冷静なレース運びが苦手な子が多く、競り合いになったときにペースが乱れて垂れるパターンは何度も見たことがある。

 ビワハヤヒデはそれを危惧しているのだ。勝負に勝つために、あえて苦手な先行での走りを身に付けようとしているに違いない。

 

 

 ならば、自分がやるべきことは決まっている。今日から始まるパートナーとしての関係だが、担当ウマ娘を支えるのはトレーナーの役目なのだ。

 

 

「ハヤヒデさんッ! ハヤヒデさんの覚悟はたしかに受け取りました! 私にどこまでできるかわかりませんが、必ず先行で勝てるよう支えてみせますッ! 一緒に頑張りましょうッ!」

 

「おぉ……ッ! なんとも頼もしい言葉じゃないか! ならば私もその心意気に応えなければならないなッ! 改めてよろしく頼むよ!」

 

「なんて、なんて熱いトレーナーさんなんだッ! そんな人に担当してもらえるなんて……う゛れ゛し゛い゛よ゛ぉぉぉぉ~~~~ッッ!!!!」

 

「たしかに思ったより熱血? っぽいけどさ……。なんかズレてる気がするんだけど……」

 

 

 

 

 付き添っていたヴァルゴのベテラントレーナーは知っている。ビワハヤヒデの脚質が先行であることを。そして、恐らく新人が勘違いしていることに気がついている。

 だが、弱気だった新人トレーナーが、前向きにやる気になってるならもうそれでいいかな……と、静かに目をそらした。

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