爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~ 作:はめるん用
名前は借り物ですが、元の作品でも3vs3で走ってるので実質アオハル杯の親戚みたいなものです。
やはり違う。
例のトレセンから出てきた3人のウマ娘だけ、ほかの出走しているウマ娘たちとは決定的にナニかが違う。
クラシックロードの始まり、栄光の入り口である皐月賞ということでボルテージの高まる競バ場。ヒトも、ウマ娘たちも興奮するなか、出走者のひとりであるリバーソーサーは静かに対戦相手たちを観察していた。
もっとも、地方から出てきた3人以外は全員が中央トレセン学園のウマ娘なので、必要な情報はほとんど揃っている。真に警戒するべきは、やはりあの3人なのだ。
別にほかのメンバーを侮っているつもりはない。だが、数年前から始まった地方の下克上、そしてGⅠに敗北してこんなハズではと唖然とする先輩たちの姿を見てきたリバーソーサーには、やはり彼女たち“スキル”持ちこそが最大の脅威として見えるのだ。
あとぶっちゃけ、彼女もスキルをいくつか身に付けているので、その効果を体験として知っているというのもある。
いや、違うんだよ。別にアタシだってトレーナーさんを信頼してないワケじゃねーから。ただホラ、やっぱウマ娘としてはレース勝ちたいじゃん? 強くなれるヒントあるなら欲しいじゃん?
サブトレさんも渋ったけど、アタシにはわかっていたからね。アレは絶対
年上のお色気お兄さんを困らせる行為に、うっかり新世界の楽しみを見つけそうになりつつ。
それでも真面目に練習を重ねてスキルを使えるようになったところ、可もなく不可もなく程度の実力しかなかったのがまさかの皐月賞である。
体験として変化を知るからこそ、スキル持ちが危険だとわかるのだ。
◇◇◇
レースの展開は、良くも悪くも普通の流れ。
昨年の敗北のこともあり、中央のウマ娘たちは今年は自分たちが勝つのだと多少掛かり気味ではあるものの、特に波乱もなくレースは進んでいった。
最終コーナーに入るまでは。
「────は?」
晴天の中山競バ場を走っていたはずが、急に暗闇の海の上を走っていた。
おそらく誰に話したところで頭がイカれたとしか判断されないだろう。だがリバーソーサーの目の前には星ひとつ無い漆黒の空と、底無し沼のように暗く深い海が広がっている。
ヤバい。そう思ったところでウマ娘は急には止まれない。そのまま勢い任せに水面を走り出す。水没しなかったのは幸いだが、この状況はまったく意味がわからない。
────あら、中央のお客様なんて。貴女もスキルを使えるのね。
突然背後に現れた気配。そして静かに囁くような声。誘われるように振り返れば、そこにはゲートインの前に警戒していた地方トレセン学園のウマ娘が走る姿。
それを視認した瞬間、リバーソーサーは理解した。この異常な空間を作り出したのは彼女のスキルだと。
え、マジで?
「──うぉッ!?」
謎の空間に飲み込まれたときと同様、突然ターフに戻されレースが再開する。正直、なぜ自分が転ぶどころか一切体勢を崩すことなく走れているのかわからない。
ならばともかくレースだ。自分はいまGⅠを、皐月賞を走っているのだ。一生に1度しか走れない貴重なレースをリタイアなんて出来るワケがない。
無理やり気合いを入れ直し、スパートに向けて脚と呼吸のリズムを揃える。そうしていくらか冷静さを取り戻すと、周囲の──いや、自分より前を走っているウマ娘たちの様子がおかしいことに気づいた。
息切れ? ここにきて掛かっているような……。
いや、違う。これは、この感じは差しや追い込みのプレッシャーで消耗しているときのものだ。さっきの謎の空間のせいか? ほかの連中も取り込まれていた? なら、なんでアタシとアイツしか見えなかった?
うん、わからんッ!!
わからないものは考えても仕方ない。リバーソーサーは先ほどの現象については考えることを止め、脚に力を込めて前に出る。この際である、ライバルたちのスタミナが切れてしまったことは素直にラッキーと喜ぼう。
きっと、自分も“回復スキル”と呼ばれていた走りを覚えていなかったらほかのウマ娘と同じように垂れていたのかもしれない。備えあれば憂いなしとはよく言ったものだ。
『レースは残り400ッ! 見事なごぼう抜きをみせて先頭はリバーソーサーッ! しかしこれにアビスグレーターが追いすがるッ! リバーソーサーが中央の意地を見せるかッ! それともアビスグレーターが地方の二連覇を成し遂げるかッ! 残り200ッ! リバーソーサーとアビスグレーターの一騎討ちッ!! 激しい叩き合いだッ!! リバーソーサー、アビスグレーター、リバーソーサーわずかに前かッ!? リバーソーサーわずかに抜け出したッ!! 先頭リバーソーサー、リバーソーサーがゴールインッ!!』
◇◇◇
「皐月賞ウマ娘、おめでとうございます。さすがは中央のウマ娘、見事な走りでした」
「そりゃどーも」
ニコニコと笑顔で褒め言葉を口にするアビスグレーターに対し、リバーソーサーの返答にはいくらかのトゲが含まれていた。
たしかにレースは自分が勝った。だがそのあとが問題だった。スタミナを使い果たして地に伏す勝者と、それを余裕の表情で見下ろしていた敗者。次のレース──東京優駿、日本ダービーではおそらく……。
「それで? わざわざひとりで自販機コーナーで待っててくれたんだ、アタシがアンタに聞きたいことあんのも承知の上なんだろ?」
「えぇ、もちろん。スキルを使えるだけではなく、わたくしと同じように“領域”に踏み込めるのですから」
「領域……」
「もっとも、詳しいことはわたくしにもよくわからないのですが。あの人が言うには、自分ではわからないだけで、すべてのウマ娘が最初から持っている可能性ではないか……と」
「あの人……サブトレさんなぁ。スキルといい、その領域とかいうのといい、マジで何者なんだろうな」
「さぁ? 道理の外側で生きている人をムリに理解しようとしないほうがいいですよ」
「辛辣だなオイ」
「尊敬はしていますよ、心から。地方のウマ娘……といっても、いまのところはわたくしたちのトレセン学園だけですが、夢を与えてくれたのですから」
────。
適当な言い訳で出てきた手前、そしてレースとウイニングライブの疲労から、女同士のナイショ話は早々にお開きとなってしまった。
あれから、学園に戻るまでに同じように皐月賞を走っていたほかのメンバーにもそれとなく探りをいれてみた。しかし、案の定誰もあの不可思議な空間のことはサッパリだった。
あのウマ娘、アビスグレーターの言葉を信じるのであれば、アレは“領域”なるものに踏み込んだウマ娘にしか認識できないというワケで。
つまり、アタシにも使える……のか?
もしそうならヤバくない? アタシのレベルであんな反則みたいな……反則みたいな、えーと、ナニ? あれってスキルつーか、走り方とかにカテゴリーしていいの? 妨害行為に含まれない? いや、そもそも当事者にしか見えてないんだから訴えても信じてもらえないだろうけど。
いや、領域とやらの正体はともかく。もしそうなら試してみる価値はある。というか使えるようにならないと日本ダービーは敗けが確定だ。
皐月賞のレースを映像で見返したが、案の定地方トレセンのウマ娘たちは走りの鋭さが全然違う。後輩たちもスキルを自分よりは使いこなしているが、それと比べても完成度が違うのだ。
勝つために、そうでなくてもせめて“勝負”として成立させるためにも、壁を壊さなければならない。
どうしよう。これ、メチャクチャ燃える展開なんだけど。ライバルに実力差を見せつけられてからのパワーアップとか、かなり主人公じゃね?
中央に合格して喜んだのも束の間、周りが自分よりよっぽどメインキャラだらけで脇役ウマ娘として生きるしかないかなとか諦めていたのに。
たったひとりとの出会い……サブトレさんからスキル教わって、デカイ舞台で走って、ヤバいライバル見つけて、そっからのパワーアップとか。完全になにかの主人公じゃん。これアタシやっちゃった系なれるんじゃね?
リバーソーサーの中で新しいウマ生プランが構築され始めた。いま中央のウマ娘でスキル持ちかつ重賞の実戦に出ているのは自分だけ。後輩たちよりも先に領域を手に入れられるかもしれない。
もしそうなったら、主人公ポジションからの次世代の主役たちの師匠ポジションまで狙える。
領域を後輩たちに伝えつつ、夢を託すという最高の世代交代ムーヴが可能だ。どういうことだこれは。完全に競バ界のメインキャストなっちゃってるじゃないか。
ん? 夢を託すって、これアタシ敗けてる? いやいや、勝ったら勝ったで次もヨロシク~的なヤツもあるし。
「ヤバいな……ちょっとマジで自分を追い込んでみようかな……。でもなぁ~。皐月賞とっちゃったからチームのトレーナーたちからも注目されちゃうかもだよな~。ッれ~わ~! マジつれ~わ~ッ! 皐月賞ウマ娘とかマジつれぇわぁ~」
皐月賞の勝利に多少テンションが不安定になっているが、半分くらい本音である。なんとなくチームで二軍扱いだったから、トレーナーたちの目を盗んで彼の指導を受けることができていたのだ。
いや、違うんだよ。別にアタシだってトレーナーさんを信頼してないワケじゃねーから。ただホラ、やっぱスキル使えるウマ娘としては、領域ってのも使ってみたいじゃん?
『ウマフォースはつどう! サクリファイス!』
『ぜんたいのスタミナに 40のダメージ!』
『そくばくの こうかはつどう!』
本作のレースはだいたいこんな感じで進めていきます。