爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~ 作:はめるん用
レースにぽんこつ要素を持ち込み過ぎると、勝っても敗けても中央のウマ娘がイヤな印象になりそうなので。
東京優駿が決定して6月。梅雨の季節であり夏の始まりが見えてくる時期。
トロフィーを手放した悔しさもそれはそれとして、青春真っ盛りの女子校生にとって夏は自然とテンションも上がるもの。
普段は大人しい日本男児も夏の解放感で隙だらけ……もとい、ときめきと出逢いにも寛容になっているだろう。そうでなくても時代は肉食系男子なるものが流行ってしばらく、むしろ向こうから女に声をかけることもあるハズだ。
と、まぁ日本中の健全なる女性たちが気合い満タンであるように、中央トレセン学園のウマ娘もまたウキウキ気分で夏に備えている次第である。
「というワケでスズカさん! サブトレさんをお誘いして遊びに行きましょう!」
「あの、フクキタル? 話が見えないんだけど……」
「おっと、これは失礼しました。いやぁ、夏を前にして気持ちが掛かりすぎていたようです。実はですね、占いで車でのお出かけが吉とでまして。当然、私は車どころか自転車だって持ってません!」
「まぁ……ウマ娘で自転車を使う人のほうが珍しいと思うけれど……」
ウマ娘の本気の走りは、たとえ競走バでなくともかなりの速度に到達する。自転車に乗るよりもウマ娘専用レーンを走ったほうがはるかに速い。
趣味として楽しむためにバイクや車を購入することはあっても、若い世代に純粋な移動用として活用するウマ娘は珍しいほうだ。
「これはチャンスなんですよ~。サブトレさんは私の占いにもノリノリで応えてくれますからねぇ! 日ごろの行い、地道な努力、チリも積もれば山となる! シラオキ様も仰っています、彼こそが、今後のレースにおける切り札的存在になるだろうと……ッ!」
「切り札って、大げさな……。サブトレさんが練習を見てくれるお陰でターフが使いやすくなったのは嬉しいけれど。ほかのみんなも、走ることができる時間が増えて喜んでいるみたいだし」
「いや~……。ある意味喜んではいるかもしれませんが……」
サイレンススズカというウマ娘にとって、最優先となるのは“走ること”これに尽きる。いやウマ娘なら誰でもそうだろうと言われそうだが、彼女の場合はそれが飛び抜けているのだ。
だから気がつかない。というより想像すらできないだろう。ターフを走るウマ娘たちの下心……彼にスカウトされる確率を上げようと、涙ぐましい努力をしていることなど。
具体的にアレやらコレらやを求めているのではない。それに、もしも彼が見た目だけのトレーナーなら向上心のあるウマ娘からは見向きもされなかっただろう。
だが能力があるなら話は別だ。同じように面倒を見てもらえるのなら、ともにトゥインクル・シリーズを駆け抜けるのなら、同性のオバチャンよりは若いニーチャンのほうが気合いが入るというものだ。
たとえばゲームのキャラクターとか。女キャラをカッコいいカワイイと褒めたとしても、ついつい男性キャラを使ってしまう……そんな心境に近いのだろう。
ちなみにフクキタルはその辺りはあまり気にしていない。
だって、お近づきになりたいのなら、普通に声をかけて普通に交流すればいいだけですし。
いやぁ~サブトレさんが私の占いもシラオキ様のことも、当然のように信じてくれるおかげでお気楽! 楽勝! 楽して儲ける~! ってなモノですよ~♪
そのことをエアグルーヴさんにお話したときは思いっきり呆れられましたが。ですが……ムフー♪ 私はなんでもお見通しですよ~? 趣味の花壇になんどもサブトレさんをお誘いしているのをッ! フクキタルは見たッ! なんだかんだでエアグルーヴさんもフツーの女の子と同じだって、ハッキリわかりましたね!
……しかし、ブライアンさんに鼻で笑われたのはともかく、ルドルフさんからの謎の尊敬の眼差しはなんだったんでしょう?
「というか、それなら私は関係ないんじゃ……」
「いえいえ! とんでもない! 実は今日の私のラッキーカラーはなんと! 緑なのですッ! スズカさんの勝負服のデザイン、とってもステキでしたねぇ~。派手さはありませんが、可愛らしくてお似合いでしたよ!」
「うん、ありがとう。私もあの勝負服は気に入ってるの。トレーナーさんにも、走るのに邪魔になりそうだから、あまりゴテッとしたのは苦手だって伝えていたんだけど……希望通りで安心したわ」
「えーと、ウイニングライブ的にその発言はどうかと……。それにしても、スズカさんのトレーナーさん! ちょっと変わったヒトですけど、お仕事は真面目というかなんというか」
「そうね。初対面でいきなり脚を触らせてほしいと言われたときは……ちょっと困ったけど」
「女性同士でもセクハラって成立するんですかね? っと、スズカさんの勝負服の完成は楽しみですがそれはそれ! というワケですからスズカさん! 一緒にサブトレさんを誘いに行きましょう!」
「そう、ね……。トレーナーさんからも息抜きのことは言われているし、たまにはいいかしら」
◇◇◇
「野郎の雑貨ショッピングに花の女学生をつきあわせるのはどうなんだろうか……と悩む俺」
「とんでもございませんよ~♪ 楽しく開運ウェルカム! ところで……本日はなにをお買い求めに?」
「服。これから着るヤツ。夏の選抜レースとか、その辺り。今後は俺も人前に出る仕事増えるから、甚平以外もちゃんと用意しろってな。裏方として生きたい人生だった……」
「あー、なるほど。それは仕方ないですね~。サブトレさんのおかげで選抜レースに出られる子はたくさんいますからね~」
「それで出番が増えるってことは、俺も少しくらいは一人前に近づいてるのかな? とか思ってみたりして」
たぶん建前だろうな……。
フクキタルはなんとなく他のトレーナーたちの気苦労を察してしまった。選抜レースの話もまるっとウソではないだろう。一般公開されるため、ファンはもちろん重役であるために気楽にレースを観戦できないお歴々がお忍びでやってくることもある。
が、おそらく本命は今年からのウマ娘たち。初等部からの進級はもちろん、中等部にも高等部にも新規入学の生徒が何人もいる。
去年は突然のことで見逃すしかなかったのかもしれない。しかし、今年は充分に検討に検討を重ねる時間があったず。となれば健やかなるウマ娘たちの成長のためにも手を打つのは道理である。
まぁ、ある意味では健やかに成長してるのかもしれないが。
彼の甚平については、ウマ娘たちのほうから『トレーナーとして相応しい立ち振舞いが必要であることは理解している。しかし、気温の変化による体調不良は決して軽んじてよいものではなく、その基準は主観によるものである以上は本人の判断がもっとも信頼できる。また、トレーナーにのみ我慢を強要させるのは相互的な信頼という観点からも好ましくない。ときには我々ウマ娘側も妥協し許容する必要がある』という意見が出ている。
早い話。アレを無くしてしまうなんてとんでもないッ!! という未成年の主張である。健全なのである。
トレーナーたちも苦笑いするしかなかっただろう。彼女たちの気持ちも理解できるのだ。何故ならトレセン学園での出会いの無さは身に沁みて知っているのだから。
そうでなくとも競走バは男性との出会いに不自由しがちだ。ウマ娘そのものが身体能力ゆえに怖がられることが多々あるのに、そこにレースで見せる闘争心が加われば……まぁ、ナンパしたところでビビられるのがオチだろう。
「甚平、動きやすそうでいいと思うんですけどね。さすがに走るのには向いてなさそうですが」
「向こうのトレセンではあまりうるさく言われなかったんだけどな。さすがに中央では通用しなかったよ。去年はまだお客さまってことで許されたんだろう」
いや、たぶん地方で許されたのは別の理由だと思いますよ? 先輩たちタイムすんばらしく良くなってますからね?
「それで、サブトレさんはどのような服装がお好みなんでしょう? 涼しいのは前提として~、やっぱり和風なヤツですかね?」
「う~ん、そこまでこだわりはないかなぁ。先輩たちから注意されてるし、あんまり浮わついた感じのは止めたほうがいいだろうし……」
「なら、あの半袖のジャージとかはどうですか? 黒一色なのでちょうどいいかと」
「おぉう……スズカさんってばトコトン機能美重視ですね」
「へぇ、いいな。いや俺正直オシャレとかあんまり興味ないんだよ。夏なんて涼しけりゃそれでいいもん。なんだったらさ、許されんなら上とかもうタンクトップひとつで過ごしたい」
「え゛ッ!? ……いやいやサブトレさん! さすがにプライベート以外でソレはアウトですよッ!?」
「え? ダメ? 自慢じゃないけど俺、人様に見られて困るほど貧相な身体してないけど」
「貧相じゃないから余計にダメなんですってば……」
「そういえばサブトレさん、脚回りもとても鍛えてありますよね。ウマ娘じゃないのがもったいないくらいです。……あの、1度私と併走してみませんか?」
「併走か……。トレーナーとして見苦しくないよう鍛えていたが、そういや並んで走るってのは未体験だな。まずは軽く1600くらいからで頼もうかな?」
「いやいやいやいや、なんで乗り気なんですか。それにスズカさんも~。ウマ娘とヒトが併走なんかして、事故が起きたら大変ですって!」
ついでに言うなら、男性とのランニングデートはウマ娘憧れのシチュエーションで常に上位5位にランクインする定番中の定番である。
それに近いものを学園のターフで再現しようものなら、きっと世の末にも負けず劣らずの恐ろしいことに……なる、かなぁ? ふーむ? スズカさんならたぶんその気は正月おみくじの大凶ほどにも無さそうですが。もちろん私は引いたことがありますよッ! がっでむ!
「そう、ですよね……。すみませんサブトレさん。少し、配慮が足りませんでした」
「気にしないでくれ。いまのは俺も悪かった。トレーナーとして軽はずみな言葉だったよ。さて、とりあえずジャージは買うとして──」
天然と天然で天然がダブった状況に予想以上の疲労を感じつつも、当初の目的どおり開運デートを達成したマチカネフクキタル。
占いの効果はバッチリだったのか、しばらく彼女には小さな幸せがたくさん訪れたという。それがシラオキ様のお導きなのか、はたまたそれ以外の何者かからのプレゼントなのかはわからない。