爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~   作:はめるん用

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芦毛伝説・黎明編

「先日のレースは強敵だったぜ……。アタシの力不足のせいで伊勢エビが足りなくて、結局ホタテで代用するハメになっちまったからな……。トレーナーが用意してくれたのも豚肉だったし」

 

「それレースじゃなくてバーベキューの感想じゃん。あ、でもあの豚肉はマジ美味しかったよね。なんだっけ? 踊り子豚? いぶりがっこだっけ? なんかそんな名前のブランドのヤツ」

 

「あぁ、まさに舌の上で脂の旨味がタップダンス踊りまくりだったな。きっと囲炉裏で炙り焼きにしてもメッチャ美味いぜ。ウイニングチケットなんかあまりの美味さに泣いてたし」

 

「ソレな。てか、さすがにチケゾーさん感動し過ぎっしょ。アレ涙腺どーなってんだろ」

 

「まぁアレだ。敗けちまったのはこの際仕方ねぇ。悔しいが、それはまた今度勝負するときまで鍛えて鍛えて鍛えまくってリベンジすりゃいい。だがその前に、アタシも領域を手に入れたことをサブトレのヤツに報告しようと思うんだ。ゴルシちゃんのセンスが輝いてたのも事実だが、アイツのおかげって部分も大きいからな」

 

「あー、あんときの走りは激ヤバだったね。あたしも敗けてらんねーって、ガラにもなく燃えたし。うん、いいんじゃない? サブトレさんに報告すんのアリじゃん。サブトレさんも領域についてはあんまり知らないんじゃねって話もしたことあるけど」

 

「だろー? だからよ、ジョーダン」

 

「なに?」

 

「報告に行くのについてきてくれお願いします!」

 

 

 それは礼というにはあまりにも直角すぎた。

 

 清く。

 

 正しく。

 

 美しく。

 

 そして理想的すぎた。

 

 それはまさに敬礼だった。

 

 

「……いや、なんで?」

 

「なんでってオマエ……そんなんオマエ……アレだぞ? サブトレに報告ってことはサブトレにアタシが報告しなきゃいけないってことなんだぞ?」

 

「いや、そりゃそうでしょ」

 

「それができるんなら最初っから頼まねーよッ! できねぇから頼んでんだよッ! いいだろ減るもんじゃないし、今度なんか……はちみーオゴっから!」

 

「えぇ~? そりゃはちみーは美味しいけどさぁ、そんなガッツリ頼み込むほどのことじゃなくね?」

 

「だったらオマエできんのかよ~? サブトレさんのトレーナールームに行くんだぞ? ふたりきりだぞ? ちょっと想像してみ?」

 

「はぁ? そんなん余裕だし。えーと──」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「いらっしゃい、トーセンジョーダン。いまお茶を用意するから、適当にくつろいでてくれ」

 

「あ、えと、その、お構いなく……アハハ」

 

 何度も足を運んでいるトレーナールーム。見慣れた光景、カップ麺の段ボールの位置も知っているし、冷蔵庫の中にあるプリンや杏仁豆腐などの配置もだいたい覚えている。

 だが今日は少しだけ違う。いつも遊びに来るときは大抵ほかのウマ娘と一緒なのに、今日に限って誰もいない。自分もそうだが、担当トレーナーが付いてからは放課後の時間が合わないことも度々あるのだ。

 

 音が違う。友人たちの賑やかな声はなく、遠くからコースを走るウマ娘たちの喧騒が聞こえるものの、部屋の中には彼がお茶を用意する食器の音。そしてヒトにしては鍛えられた、それでもウマ娘から見れば華奢な足音がゆったりと響いている。

 匂いが違う。ショップにいる女に少し媚びたような化粧品の匂いは全くせず、どちらかといえば生活感のある、だが決して不快ではない家庭的な香り。ウマ娘は嗅覚に優れているからとトレーナーたちは香水の類いを好まないが、彼はなにか……天然自然の花を乾燥させたもののような香りがする。

 

 耳が、鼻が、そして目の前で自分に背を向けてティーカップを用意するサブトレーナーの姿が。いまこの空間にふたりしかいないという事実を強く印象付けてくる。

 

「それで、今日はどうした?」

 

「いやぁ、その、ちょっとねー。アハ、ハハハ……」

 

 言えない。言いたいことは決まっているのに変に緊張して言葉が喉に引っ掛かる。

 

 ただ伝えればいいだけなのだ。スキルの上の世界、領域に自分もたどり着けたのだと伝えればいいだけなのだ。ひと言お礼を言うだけなのに、どうしてこんなに緊張するのだろうか? 

 いや、理由なんてわかっている。いま、この部屋にいるのはふたりだけ。たったそれだけのことだが、それだけのことだからこそ女だから、男だからとつい意識してしまうのだ。

 

 ダメだ。このままでは緊張でなにも話せなくなるかもしれない。

 

「と、サブトレさん! あたしも手伝うよ!」

 

「んー? いやいや、ジョーダンはお客さんなんだから、ゆっくり座って──」

 

「ま、まぁまぁ! トレーナーとウマ娘、お互いに遠慮しない関係ってことで! えっと、こっちの──ヤバッ!?」

 

「ジョーダンッ!!」

 

 普段なら起こらないだろうミス。なにもないところでうっかりつまずいて体勢を崩す。目の前には自分を受け止めようと構えるサブトレーナー、勢い余ってそのまま彼を押し倒すかのように──。

 

 

 

『ストォォォォップッ!!』

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「──ハッ!?」

 

「オマエ! ダメだろそれはッ! それ以上は完全にアウトなヤツだろうがッ! そんなオマエ、ふたりきりで押し切り体勢とかオマエ……。いいかジョーダン、ウマ娘は健全なコンテンツなんだよ。それがよりにもよってウマ娘が男のトレーナーに正面から抱き付くとか……そりゃガイドライン違反だからなッ!」

 

「はぁ、はぁ……。マジでギリだったわ……。アンタがコッチに呼び戻してくれなかったら、マジでヤバかったわ……。うん、アンタが全面的に正しいわコレ。だってマンガで読んだことあるもん。こーゆーオトコの人の近くって、ワケわかんないハプニングが起こるって」

 

「その通りだジョーダン。それは決して逃れられない“お約束”という名の呪いみてーなもんだ。迂闊にふたりきりになろうものなら、きっとラッキー……ラッキー、す、ラッキぃ~すけぇぇ~ウェイ! 的なことが起きちまう」

 

「え? ラッキーなに?」

 

「あん? オマエ知らねーのかラッキースケルトン。古代文明から伝わるオーパーツで、世界に12体あるんだぜ? そのドクロを全て集めると巨大な太古のウマ娘が現れて、炎の7日間で世界の季節をまとめて夏にしてしまうという……」

 

「マジで!? 全部夏にされるとか日焼け止めメッチャ金かかるじゃん! ……ハッ!? まさか、サブトレさんが暑がりなのって……ッ!」

 

「あぁ……サブトレの正体は大天使トコナツなのかもしれねぇ。きっとHPも1度に10万は回復できるぜ。しかしど~すっかなぁ~? まさかジョーダンも頼れねぇとは思わなかったぜぇ~」

 

「うーん。サブトレさんと普通に話できて、こーゆー相談事にのってくれそうなウマ娘……。あッ」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「「というワケで、アドバイス下さいお願いしますッ!!」」

 

 

 それは礼というにはあまりにも直角すぎた。

 

 清く。

 

 正しく。

 

 美しく。

 

 そして理想的すぎた。

 

 それはまさに敬礼だった。

 

 

「いや……いきなりなんなん? そんな、なんも説明ナシに頭下げられても困るんやけど」

 

 突然現れたゴールドシップにトーセンジョーダン、しかも指先までまっすぐ伸ばして綺麗にお辞儀。さすがのタマモクロスもこれには困惑するしかなかった。

 それでも話を聞けばなるほど納得。ゴールドシップもトーセンジョーダンも、サブトレーナーに微笑ましい苦手意識があるのは理解できた。

 

「たしかにウチは、別にサブトレそんな苦手やないけどなぁ。けどふたりきりで平気でいられる自信なんてないで? 正直な話、手ぇすら握るんムリやろ」

 

「でも、タマだしなぁ」

 

「うん、タマさんだし」

 

「??」

 

 

「「だって、なにかあってもセクハラならないし。体型的に」」

 

 

「ほっほ~! そうきたかぁ~。こらゃ一本とられたなぁ! あっはっはッ! よっしゃオマエらいますぐコース出ろや。そのケンカ言い値で買うたらぁ」

 

 

 ────。

 

 

「うん、ええやん。領域な。アレはウチもはよ踏み込みたいと思うわ。惜しかったけどええレースやったもんなぁ~。うん……」

 

 いや、普通にお礼言えやそんなもん。

 

 というか、そもそもお前らふたりで行けよ。

 

 頭を下げるくらいには本気だろうからと一応は黙っているが、そもそも自分のところに来る前に問題は解決しているのでは? それがタマモクロスの本音である。

 とはいえ、仮にも相談に来た相手を無碍に送り返すのも人情家のタマモクロスには難しい話である。ケンカを売られた落とし前はそのうち精算するとして。

 

「ほんなら、なんかこう……プレゼント的なモンと一緒にしたらええんやないの? サブトレの性格考えると、金より手間やろなぁ。簡単なお菓子とか作ってみたらどや?」

 

「タマさんや、女子厨房に入らずって言葉があるじゃろ?」

 

「それ別に女は台所に入るなって意味ちゃうらしいからな? 前ハヤヒデにクリークが言われてたわ、ものごっつドヤ顔で。そもそもアンタ料理できるやろ? いつだったか初等部のウマ娘たちとやっとったやん」

 

 トレセン学園では初等部のウマ娘たちと、普段交流の少ない中等部や高等部が一緒になって、定期的に課外活動を行っている。

 もとよりゴールドシップは下級生に人気である。それこそ教師たちが頭を悩ませるほどには憧れの的であり、初等部のウマ娘たちによく誘われて参加しているのだ。

 

 活動内容は色々あるが、人気があるのは調理実習だ。食べ盛りのウマ娘たちにとっては勉強というよりおやつタイムのようなもの。自然と選ぶ生徒も多くなる。

 あとゴルシも真面目に活動するので先生たちも積極的に推奨している。破天荒でも食べ物を粗末にするのは許さないらしい。そこだけならぜひ下級生にも見習って欲しいところだ。

 

 最近では初等部のウマ娘から出てきた『とぉ~ってもビッグでボーノな太巻きを作りたいッ!』というリクエストに応えて巨大な海苔巻きを作っていた。

 太さ30センチ、長さ4メートル。あの広さの海苔をどこから調達してきたのか、そしてどうやって綺麗に海苔巻きとして完成させたのか。謎は多いが生徒たちは大喜び、SNSでも大好評であった。

 

 そのあとすぐ学園に『この海苔巻きは注文したら買えるのか?』という問い合わせが2件ほどあったらしい。さすがに丁寧に断ったが、たしかにパーティーやイベントで皆で食べれば楽しめるだろう。

 

「えぇ~? 女のほうから手作りお菓子のプレゼントって、なんか変じゃね? バレンタインみたいなイベントならともかくさぁ~」

 

「どんだけ前時代の話しとんねん。いまは世の中女男平等、ヒシアマとかも料理しとるやろ。……それとも~? もしかして自信ないんか? ならしゃあないなぁ~! チャレンジ精神の塊やと思っとったけど、案外無難な道を選びたがるんやなぁ~?」

 

「オイオイオイ、あんまりゴールドシップ様をナメてもらっちゃ困るんだぜ? お菓子作りなんて海底神殿探すよりも余裕だろーが」

 

「ホンマかぁ~? ──えぇッ!! サブトレにプレゼントするためのお菓子をッ!?」

 

「できらぁッ!! ゴルシちゃんが本気だしゃ超楽勝だっての! 最後までチョコたっぷり、屋根より高いブッシュ・ド・ノエルを作ってやろうじゃねーかッ!!」

 

「よう言うたッ! それでこそウマ娘やッ! でも作るサイズは普通にしとき。あとメッチャ季節外れやぞ? いま9月やからな?」

 

「そうと決まれば素材集めにもこだわらねぇと……。なるべく活きのいいカカオを狩猟するために罠も用意する必要があるな……」

 

「アカンわコイツ話聞いとらん。いつものことやけど」

 

「えーと? とりま問題は解決したってことでいいの? ならトレーニングの準備を「よっしゃジョーダンッ! 行くぞッ!」はい?」

 

「こうなったらトコトン作り込むしかねぇ! デザインとかオメー得意だろ? 20メートルくらいの特大サイズを一緒に作ろうぜッ!」

 

「ちょッ!? 引っ張んなしッ!? タマさん助けえぇ~……

 

 

 ゴールドシップに連れ去られて行くトーセンジョーダン。サムズアップで見送るタマモクロス。その様子をたまたま見かけた周囲のウマ娘たちも両手を合わせて英雄の無事を祈る。

 本物の傍若無人ならばともかく、ゴルシならば取り返しのつかないことにはならないだろう。飛び火さえしてこなければ、彼女の存在は一流のエンターテイメントなのだ。飛び火さえしてこなければ。

 

 がんばれトーセンジョーダン! 負けるなトーセンジョーダン! 学園の平和を守るため、キミはみんなの希望を背負ったヒーローだッ! トレーニング欠席の連絡は必ず誰かが伝えてくれるから心配するなッ! 『ジョーダン』『欠席』『ゴルシ』これだけ報告で問題なしッ! いまごろ担当トレーナーは頭を抱えているだろう。

 

 

「行ったか……。ジョーダンおってもゴルシやからなぁ。アイツ、ホンマにやりかねんわ。20メートルのケーキとか……サブトレどころか、いくらウマ娘が大食いでも、そんなん食えるヤツおらんやろ」

 

 

 

 

 

 

 ──のちに芦毛の怪物と呼ばれるウマ娘のひとり“白いイナズマ”タマモクロス。ライバルとの運命(?)の出会いまで、あと数ヶ月。

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