爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~   作:はめるん用

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会長はつらいよ・リターンズ

 無敗のジュニア王者が、中央トレセン学園の新たな生徒会長として君臨する。

 

 生徒会長という肩書きに君臨という表現を用いるのはトレセン学園くらいだろう。青春の半分以上が勝負に染まっている競走バならではの感覚である。

 しかし、彼女が──シンボリルドルフがそれだけの走りを見せたのもまた事実。先行の教科書として採用したいほどの完璧な走り方は、彼女のレースを見ていた大勢のウマ娘たちを素直に感動させるだけの迫力があった。

 

 アレに挑まなければならないのか? そう考えるウマ娘やトレーナーがいる。

 

 アレに挑まなければならないのだ! そう考えるウマ娘とトレーナーがいる。

 

 全てのウマ娘の幸福を願うシンボリルドルフにとっては非常に複雑な心境である。レースなんだから勝者と敗者が生まれるのは当たり前なのに、そんなに怖がらなくてもよくないか? 私はただ勝負に敬意を表して全力を尽くしただけなのに。

 というか、他のトレセン学園のウマ娘に怖がられるとかなら百歩譲って良しとしても、同じ学園のウマ娘からも距離を置かれるのはおかしいだろ? 

 いや、わかる。わかってる。別に嫌われたワケじゃないのはわかってる。キラキラしてるものな、私を見る目が。尊敬とか憧れとか、そういう感情で私を見ていることは伝わっている。

 

 だが、理解したところで遠巻きにされている事実は変わらない。

 

 これならホープフルステークスで競いあった例のトレセンのウマ娘のほうがよっぽどフレンドリーかもしれない。好戦的だが気持ちの良い性格をしており、レースが終わってからも「次はアタシが勝つ番なんだな、これがッ!」と笑顔で宣戦布告をされた。

 ルドルフとしては強力なライバルの存在は望むところ。レースは独りで走るものではない、お互いに競い合い高め合うからこそ意味がある。

 

 残念ながら中央ではいまのところ相手に恵まれていないが。良い勝負ができそうなウマ娘は何人もいるというのに、適性距離や時期が合わなくてなかなか勝負にありつけないのだ。ちょっと寂しい。

 

「万事都合よく、とはいかない……か」

 

「どうしたのルドルフ。なにか問題でも起きたのかしら?」

 

「トレーナーさん。いや、そうじゃない、ただ、いよいよクラシック三冠に挑むのだと思うと感慨深いものがあってね」

 

「そうね。無敗のジュニア王者の肩書きは、最速で皐月賞に挑むだけの資格アリと世に示したわ。もちろん、本当に大変なのはこれからだけど」

 

「わかっているさ。勝って兜の緒を締めよ、ホープフルステークスの勝利に浮かれてばかりはいられない。年末年始の休みはそれとして、しっかりとトレーニングはするつもりだ」

 

「ほかのチームからの出走はもちろん、ステップレースから勝ち上がってくるだろう地方のウマ娘たちも油断ならない。そっちのデータ整理は私がやっておくとして、今日のところは今後のスケジュールの打ち合わせを──」

 

 

 

 

「させませんよ」

 

 

 

 

「え……先輩?」

 

「私たちもいますよ~?」

 

「ハァーイ♪ んもぅ、ルドルフってば! 気合いブリバリになっちゃう気持ちはわかるけど、たまにはちゃ~んと息抜きもしないと!」

 

「クリークにマルゼンスキー? いや、休息なら充分にとっているが……」

 

「いいえ。第三者の視点から言わせてもらいますが、貴女たちのそれは休息と呼べる代物ではありません。クリーク、マルゼンスキー。手はず通りに」

 

「「アラホラサッサ~♪」」

 

「その気の抜ける掛け声はいったい──ちょ、ふたりとも!?」

 

 困惑するルドルフを無視して両腕をガッチリと捕まえるスーパークリークとマルゼンスキー。ステイヤーとマイル、得意な距離は違えども、どちらもパワフルな走りをするウマ娘。さすがのルドルフもこれには逆らえない。

 

「さぁ、貴女もですよ。──たづなさん、そちらを」

 

「はい♪ 今日のところは大人しく樫本チーフに従ってくださいね~♪」

 

「え、ちょ、たづなさんまで!? 先輩、いきなりなにを、というか何処へ!?」

 

「もちろん息抜きに向かうのですが? 残念ながら貴女に拒否権はありません。先輩命令です」

 

「そんな横暴な……」

 

「知らなかったのですか? 目上で権力のある人間は得てして傲慢で自分勝手なのです。抵抗しても力ずくで連れていくだけです。諦めなさい」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 連れていかれた先では、すでに何人ものウマ娘とトレーナーがお菓子や簡単な料理などを楽しんでた。特別なにかのパーティーという雰囲気ではなく、ただ単にリラックスしているのがよくわかる。

 

「会長、申し訳ありません。私から見ても休息は必要だと感じましたので」

 

「エアグルーヴ……。そうか、君がそう言うくらいならばそうなのだろう。わかった、今日のところは素直に従うとしよう」

 

「そうしてください。なんでしたら、普段からもご自身のことを気にかけていただけると助かるのですが」

 

「ふふっ、君もあまり人のことは言えないと思うんだがね?」

 

「お言葉ですが会長。私はそれなりに休日を楽しんでいますよ。休むことをサボるとカップ麺を大量に抱えてやってくる友人がいますので」

 

「なるほど、それは大変だ」

 

 

 

 

「失礼します。ほら先輩、着きましたよ」

 

「はい……ありが、とう……ございま……す……さぁ、貴女も……息抜き、お、ぉ……」

 

「うーん、ついうっかり樫本チーフの体力の無さを忘れていましたね」

 

 後輩トレーナーを休ませるためにと意気揚々と出ていった理子が、逆に後輩トレーナーとたづなに支えられながらの到着という謎の光景。クリークとマルゼンスキーがルドルフにそうしたように、自分も引っ張って連れていこうと張り切って──途中で体力が尽きてしまったのだ。

 もちろん彼女の愛バたちは『あぁ、やっぱりそうなったか』とごく自然な動作でバテバテの理子を受け取りソファーへと連れていった。優秀なトレーナーであることを疑ってはいないが、この有り様でどうやって生きてきたのか、生存能力については疑いしかない。

 

「あれでよくトレーナーの激務に耐えられるな……。よう、おつかれさん。同期の中ではGⅠトレーナー、一番乗りだな」

 

「ありがとう。エアグルーヴも阪神JFで勝ってくれたし、1年目としては出来すぎなくらい。アナタこそ……その、惜しかったわ」

 

「ゴルシ自身はそこまで気にしてないみたいだがな。敗けたことは悔しくても満足のできる勝負だったらしい。今度はブチ抜いてやるって気合いは充分だよ。さて、仕事の話はいったん置いとこう。オレンジジュースでいいか?」

 

 本当に受け取ってよいものか、ほんの少しだけレオトレーナーは迷う。だが、尊敬する先輩である理子がウマ娘たちに世話されながらも楽しそうにしているのを見て、これも一流のトレーナーに必要なことかと割りきることにした。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「カイチョーッ! おめでとうッ! 皐月賞でも、ホープフルステークスみたいなサイコーの走りができるよう、アタシもたッッッッくさん応援するからねッ!」

 

「ふふっ、ありがとうウイニングチケット。君にそこまで応援してもらえるのなら、私もとても力強いよ。皐月の舞台で君とも勝負してみたかった、という気持ちもあるけれどね」

 

「うんッ! アタシもカイチョーと勝負したいッ! ねぇねぇねぇトレーナーさぁんッ! いまからでもレースにバンバン出てなんとかならないかなぁッ!?」

 

「えぇッ!? そんな、さすがにムリですってば~! いくら本格化したウマ娘の身体でも限度がありますよぅ」

 

 ヴァルゴトレーナーの否定の言葉にガックリと肩を落とすチケット。デビューの時期はそれほど変わらないが、獲得賞金額が規程の値に達していないため皐月賞に挑めない。

 幼少期から丁寧に走るための身体を鍛えていたシンボリルドルフと違い、レースのインターバルを長くとらなければ脚を壊してしまう可能性があるのだ。本格化が終わっても、真の意味で全力を出せるようになるまではまだ時間がかかるだろう。

 逆に言えば、ウイニングチケットというウマ娘にはそれだけの能力が、才能が溢れているという証明でもある。自分の走りに自分の脚が耐えられないという、担当トレーナーとしては頭は痛いが嬉しくもある悩みだ。

 

「あッ! そうだッ! カイチョーッ!!」

 

「なにかな?」

 

 

 

 

「カイチョーのリョーイキのこと、教えてよッ! アタシも参考にしたいんだッ!」

 

 

 

 

「う゛ぇ゛ッ!?」

 

 

 

 

「リバー先輩に見せてもらったし、ゴルシにも話を聞いたけど……えへへ、ちんぷんかんぷんだった! だから、さっきもエアグルーヴにいろいろ聞いてたんだけど。カイチョーの話も聞いてみたいんだッ!」

 

「え、あ、うん、領域な。そう、領域の話だな……ん゛ん゛ッ! さて、なにから話したものか……」

 

「おいチケット。今日は会長を労うのが目的の集まりでもあるんだぞ。それなのに質問責めにしてどうするんだ」

 

「気になるのはわかるけど、今日は止めときなって。ホラ、サブトレからの差し入れ追加」

 

「そうだったぁ~ッ! カイチョー、ごめんなさぁ~いッ! リョーイキの話はまたいつか聞かせてねッ!」

 

 醤油とニンニク、それに生姜の混じった揚げ物特有の食欲を誘う香り。そんなタッパーを両手に持ったビワハヤヒデとナリタタイシンに釣られるようにチケットが離れていく。

 おやつの時間にしても遅めの放課後。ウマ娘たちはもちろん、トレーナーたちにとっても凶悪な攻撃力を持つ1品である。この場にナリタブライアンやバンブーメモリーがいたら一瞬で料理が消え去ったことだろう。

 

 皆の関心が1点に集中したことを確認し、ルドルフは密かに安堵のため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 彼女は、シンボリルドルフはGⅠでの激戦を経験してもなお──領域に踏み込めずにいた。

 

 

 

 

 

 おかしい。条件はほぼ満たしているハズだ。

 

 リバーソーサー先輩は皐月賞で初めて領域に触れたときに目覚める感覚があったと言っていた。

 ゴールドシップもまた、レース中に領域に触れることで自らの可能性を引き出したという。こちらはかなり分の悪い賭けだったらしいが。

 

 自分もまた、ホープフルステークスの大舞台で領域に触れたのだ。作戦は先行、レース中盤で前を狙い3番手。そこから最終コーナーに入るころには先頭の背中を捕捉、そのまま外めから一気に抜き去りラストスパート。我ながら理想的な先行の走り方だった。

 そして最後の直線。差しの位置からいつの間にか後方4バ身に迫っていた彼女。その存在を認識した瞬間、景色が変わり『そう簡単には逃がさないんだなッ! これがァッ!!』と大地を震わすような咆哮が耳に届いた。

 四神の一柱たる白虎を幻視するほどのプレッシャーは恐ろしくもあり嬉しくもあった。勝利の喜びと強敵とのデッドヒートは別腹なのだ。

 ウマ娘として、競走バとしての幸福を存分に楽しみながら、今か今かと領域の目覚める声を待ち望み、そのまま──気がつけばゴール板を駆け抜けていたルドルフ。

 

 え? なんで? いま完全に私も領域に踏み込む流れだったよな? だってそこそこ迫られてたんだぞ? 結果的には勝ちはしたが、影を踏まれるくらいまで迫られてたんだぞ? おかしくないか? 

 

 まさか1着を取っておいてションボリしているワケにもいかない。堂々と胸を張り、ウイニングライブも抜かりなく済ませたものの、心はイマイチ晴れないままだった。

 

 いっそのこと彼に相談してみるか? いや、それで解決できるような問題なら、そもそも彼のほうからアドバイスをしているだろう。

 なにより……まぁ、その、アレだ。安易に彼に頼るのはあまりよくないだろう。自分には担当トレーナーがすでにいるのだから。

 別に他意はない。そう、義理というか、トレーナーさんのことを信頼してないみたいな誤解を生む行動は慎むべきだから仕方ないのだ。

 決して臆しているワケではない。というか臆するとか意味がわからないからな。だってトレーナーに相談するというだけの話だ。GⅠウマ娘がトレーナーとの会話を躊躇うとか……そんなウマ娘、とんだお笑い草だろう? 

 それにホラ、未婚の男性に対して思わせ振りな態度を見せたりとかは淑女としてダメだからな。あの……こう、相談している間に変にいい感じの雰囲気になったりして勘違いさせてしまうのもよろしくないし。私まだ学生だし。意識されてしまうのは困るし。

 

 だからこれは自力で解決すべき問題なのだ。これは試練だ。全てのウマ娘の幸福という理想を求める私へ与えられた、三女神からの試練なのだ。

 

 ならば私は誓おう。シンボリルドルフは必ず領域に目覚めてみせると──ッ!! 

 

 その上でサブトレーナー君がどうしても私のことを手助けしたいというのならそれを断るようなことはしないという方向性でも許されると確信している部分もそれなりにあるような気配も感じられないこともないがなッ!! 

 

 よし。これで問題はほぼ解決したと言っても過言ではない。とりあえず私も唐揚げ食べよう。

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