爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~ 作:はめるん用
温泉。
極東は日出ずる国である大和の島に住む者であれば、その単語に心踊ること間違いなし。庶民のお財布事情にも優しいアミューズメントパークである。
新年を迎えて数日ほど経過しているが、世間がそうであるように温泉宿の雰囲気もまだまだ正月気分そのままである。
おそらく年末年始が仕事だった人々──主にサービス業、そしてライフラインに関わる仕事、あとは大井競バ場のスタッフたちなんかもターゲットなのかもしれない。
大井競バ場で行われる一年の締めくくりである東京大賞典。同じ年末の大舞台である有マ記念に比べると注目度は低いが、ここ数年はレースに加えて様々なイベントを行っているのでスタッフたちは大忙しなのだ。
賑わい始めたのがスキル持ちのウマ娘の活躍とほぼ同じ時期であるあたり、いったい誰が裏で動いたのかなんとなく想像できてしまうが。
ともかく、大晦日が仕事で潰れる人々にとっては年末の大井競バ場は癒しなのだ。これには関係者もニッコリである。
さて、そんなまだまだ目出度い空気の残るちょいと贅沢感のある温泉旅館にて、中央トレセン学園理事長・秋川やよいもまた束の間の休息を楽しんでいた。
休息といっても半分以上は仕事である。ほかのトレセン学園の理事長やURAの関係者などが集まり、今後のレースについての話し合いの予定がバリバリ入っている。
「んく……んく……ぷはぁ~。うむ……爽快ッ! にんじんジュースも良いが、やはり温泉のあとはフルーツ牛乳だな」
風呂上がり。髪の毛そのほか色々をしっかり乾かして普段の服装となったやよいが、7本目の空き瓶を片付けながらしみじみと余韻を楽しんでいた。
立場を思えばなんとも庶民的な味覚に舌鼓を、と思うかもしれない。だが、別に偉いからといって高級食材ばかりを食べているワケではない。というかむしろ、しばらくはその手の食事は遠慮したい。
それはほかのメンバーも同様である。なにせ先日もスポンサーやらマスコミやらと派手なぱーちーでワイワイ騒いだばかりで、気疲れと胃袋疲れがハンパないのだ。皆もいまごろ売店の安いお菓子やコンビニのサンドイッチなどを喜んでパクパクしているだろう。
「辟易ッ! 多少の見栄が必要とはいえ、どうにも……いっそのこと競バ場で開催とかでもよくないか? どうせ全員関係者なんだから」
「理事長、さすがにそれは……。一応、ホテル側もこういった催しの収益もバカにできないものですし、これも経済の循環に必要ですから」
現金を持つ者としての役目をたづなに諭され、渋々納得といった様子で自販機の8本目──いちご牛乳のボタンをグイッと押し込む。
あまり1度に冷たいものを飲み過ぎるのもどうかと思いつつ、まぁ今日くらいはいいかとたづなは黙る。スポンサー相手よりはいくらか気楽だとしても、これから会議なのだ。座敷に構えるまでは気を緩めるのも大目に見てもいいだろう。
◇◇◇
「えー、それではこれより“地方レースのGⅠ認定”についての会議を始めたいと思います。えー、まずは……お前たち。長老の身柄を確保しろ」
「「ハッ!!」」
「え? ちょ、オイオイオイ……こんなジジイ相手にマニアックなプレイを要求する気かい? まったく、モテる男は辛いぜぇ~いや待て待て待てエアガン向けんじゃねぇよなんだそのゴツいリボルバーはいやホントごめんワシが悪かったです黙りますハイ」
長老が大人しくなったのを確認すると、URAの重役は静かにモデルガンを懐にしまう。
やよい含めた理事長たちやURAのベテラン職員、ついでに旅館のスタッフたちも慣れたものでノーリアクションである。混乱しているのは初めてこういった集まりに顔を出した若手だけだ。
「さて、長老。なにやらウマ娘たちのスキルの習得について独自に動いているらしいじゃないですか? 今度はなにやらかしましたか? ブッ飛ばされてからキリキリ吐くか、キリキリ吐いてからブッ飛ばされるか選びやがりなさい」
「まて、まって。違うって。ワシの独断じゃないって。いやホントにみんな黙らないで! 事情知ってるでしょ!」
「あー、今回は長老そんなに悪くないです。実は昨年の東京優駿から、私のところのウマ娘たちの中に、スキルを使える……目覚める? 生徒たちが出まして」
「私のところもですなぁ。もとより走りの研究はしていましたが、どうにも……トレーナーたちの話を聞くと、あるときを境に突然走り方が上達したらしくてねぇ」
春の日本ダービー、夏の終わりのオータムカーニバル、そして冬の始まり阪神ジュベナイルフィリーズ。これらのGⅠレースを見たウマ娘たちがまるで進化するかの如く走り方が変化したらしい。
レースの名前を聞いた時点でやよいには心当たりがあった。それらのレースは長老のトレセン学園のウマ娘と、中央のトレセン学園のウマ娘が“領域”をぶつけ合う激闘を繰り広げている。
「ワシもそれなりにレースを見てきたが、この3つに関しては鳥肌モンだったぜ。ウマ娘たちが影響受けるのも理解できる。が……スキルを使えるとなると話は別だろう? 生走法は大怪我のもと、って昔から言うしな」
「納得ッ! 私と長老とで協力して徐々に広める予定だったが、目覚めるウマ娘たちが現れたことで急ぐ必要があったのだな! それならそれで相談してくれてもよさそうなものだが」
「それについては悪かった。ただまぁ、GⅠ取った地方トレセンってのは良くも悪くも注目されっからな。下手にお嬢を巻き込むと面倒なことになりそうでなぁ~」
「むぅ……ッ! 否定はできん!」
「そーゆーワケでよ。各地にワシのとこのウマ娘を正式に派遣した。GⅠウマ娘も含めて、卒業生にも事情を説明して、地元企業にも協力してもらってな。ただ、マスコミに下衆の勘繰りされても困るから、地方レースのGⅠ認定の話を撒き餌にさせてもらった。反省はしてるがウマ娘たちの安全のためだ。広告塔として使い潰されるのだけは避けたかったんでな」
「なるほど、理解しました。ならばその状況、有効活用させてもらうとしましょう。……では予てより検討していたGⅠ認定、まずは地方優駿から順次行うということで。なにか反対意見はありますか?」
反論は出ない。地方のレースがGⅠ扱いされるとなれば、興行としても盛り上がるしウマ娘たちのやる気も出る。URA側としても、大手を振って地方への支援を行う口実になるのでなんとか推し進めたいのだ。
「ではそのように。秋川理事長、申し訳ありませんが……」
「了承ッ!
「その通りです。エリートである中央のウマ娘たちが走るからこそGⅠとしての説得力が生まれます。ただ、悪意のあるマスコミによって印象操作がされる可能性は否定できません」
「承知ッ! 実際問題、地方のウマ娘たちから見れば、我々は侵略者も同然だろうからな。日本の競バを盛り上げるためだ、私が悪役を引き受けるのも致し方無しッ! もっとも、行儀の悪いマスコミには容赦せんがな」
ぶっちゃけ、すでに手遅れ感あるけどな!
それは長老のトレセン学園から宣戦布告があってすぐのころだった。普段はウマ娘やレースのことなど扱わない、どちらかといえば芸能人や政治家の愉快な記事を扱う出版社の記者が中央にやってきた。
どんなスクープを狙っているかなど考えるまでもない。努力でGⅠを勝ち取った凡庸ウマ娘の地方を勇者に見立て、GⅠを独占していたエリートウマ娘の中央を魔王に見立て面白おかしく無責任に書き綴る。
もとよりタブレットで気楽に扱えるSNSはもちろん、掲示板形式のサイトなどでも中央をそういう扱いにして楽しんでいるファンは大勢いる。故に、その手の記事を書けば売れると踏んで、都合の良いタイミングで仕掛けてきたのだ。
まったく。バカなことを考える。そんなことをしようものなら──ウマ娘たちが大喜びで悪ノリするに決まっているのに。
世間からエリートと言われる中央のウマ娘たちだって、その実態はごく普通の女子校生なのだ。真面目一辺倒の優等生ばかりがトレセン学園に所属しているワケではない。
むしろ、そういう目で見られていることを理解して普段はいろんな感情を抑え込んでいるぶん、その実おもいっきりハジケたいという願望はかなり強い。
そんなところに中央を悪党に仕立ててやろうと画策する記者が現れたらどうなる? そんなもん、全力で悪役ムーヴをするに決まっている。
ボイスレコーダーの音声を編集するまでもない、それくらい満足のできる取材だったとホクホク顔で記者が帰ってからしばらく。しっかりと襟元を正した上司がアレは本当に世に出して大丈夫なのかと確認しに来るぐらいのレベルではっちゃけた。
だが時既に遅し。学園内のものではあるが、SNSでは雑誌が世に出回るのを明日にでも待ち望む声で溢れ返っている。いまさら無かったことにするには、情報がダダ漏れなのだ。せめてあの記者が口止めをしておけばまだ違ったかもしれないが、スクープに浮かれてそれどころではなかったのだろう。
経験則で面倒のニオイを嗅ぎ取ったらしい上司が頭を抱えているが、普段から他人の不幸を喰い物にしている輩に遠慮してやるほどやよいも聖人君子ではない。生徒たちのストレス発散に御協力大感謝と満面の笑みで応えて差し上げた。もちろんこれ以上ないほどに仕上がったイヤな顔をされたが。ざまぁ。
まぁ、こんなふうに利用してやろうかと強気に出られるのも先人たちの努力のおかげである。昔はそれなりにトラブルもあったらしく、ファンに見えないところでバチバチ睨みあっていたとかなんとか。
それもあるとき、URAの重役となった元競走バのウマ娘が対話で誠心誠意を伝えることで決着がついたという話は聞いたことがある。
交渉の席に用意されていた厚さ5センチはある大理石のテーブルを、つまんで指の形に綺麗に千切り取って見せる行為を対話と呼ぶその度胸には感心しかないが。マスコミ側も生きた心地がしなかったに違いない。
さて、母親から聞かされた重役の名前はなんといったか。自分は現役時代を知らないが、とても強い走りをしていたらしい。たしか、そのウマ娘の名はテンポイ──。
あ、そういえば。
「確認ッ! 地方レースのGⅠ認定を早めるということは、私が提案していた件も?」
「えぇ。全てのウマ娘にチャンスと栄光を。新レース“URAファイナルズ”の新設を正式に決定といたします。さっそく、より具体的な内容を話し合うとしましょう」
URAファイナルズ扱いたい。
↓
出走条件どうするべ?
↓
ウマ娘たちの目標レース確認……
↓
GⅠレースに勝利?
↓
レース足りねぇ!
↓
せや、地方にもGⅠ増やしたろッ!
秋川理事長のURAファイナルズにかけるアツゥイッ! 思いを叶えるとすれば、これぐらいのムチャクチャな設定をブチ込むくらいしないとダメだろうなと判断しました。なにせ全てのウマ娘が~みたいなこと言ってましたし。
決勝18人×準決勝18人×予選18人×レース5種類=とってもたくさん! ぜんぜんレースが足りない! よ!
一応、レースが重賞として認定される条件なども調べました。
そしていまさらリアリティについて悩んでも手遅れだなと思考放棄しました。
すでにレースでギャラクシアンウォーズしちゃってるし、多少はね?